だから幻想種(無数)を従える妹がいても問題ないよネ!
最強の騎兵は英雄王の妹でした
うわぁお……。
そんな気の抜けた嘆息から、私の新生は始まった。
いや、気付いたら赤ん坊になってましたとか……正味な話笑っちゃいそうでしたよ。
そんなの小説の中の設定でしか知らないし、もし仮に輪廻転生の概念があったとしても意識が継がれているこの現状は、なんとも言い難い気持ちになってくる。
記憶にある限り、前世(?)の私はごくごく普通の学生だった。
何か特別な力を持つでもなく、特殊な最期を迎えたわけでもない。
というか最期を迎えたかどうかもわからない。
まあ、今の所それは置いておいてもいいだろう。
今目を向けるべきは、私を見て嬉しそうに「お兄ちゃんですよー」とか言ってる男の子だ。
端的に言って超可愛い。
まさに紅顔の美少年だ。
赤ん坊の身でなければ、今すぐ抱き締めてうりうりしていただろう。
最初は母親らしき女の人に抱き上げられていたが、ある程度時間が経つと世話人っぽい人たちに私を預け、母親はどこかへ行ってしまった。
先ほどの美少年が「僕も抱っこしたい」と世話人にねだっているが、まだ生まれたばかりの私は首も座っていないからダメと窘められていた。
その最中に「ギルガメッシュ様」とかあり得ない単語が聞こえたけど、気のせいだよね?
◆*◇
時が経つのも早いもので、今現在私の年齢は六歳。
ピカピカの一年生である。
いやまあ、この国に学校なんてないのだがそこはそれ、気分の問題と言うやつである。
そ れ よ り も
マジで私の兄はギルガメッシュでした……。
思い返せば、あの可愛らしい美少年は子ギルそのものだった。
元とはいえ型月ファンの身で何故気付かなかったのか……不覚。
しかし、生前新しく出た世界を取り戻すアプリのギルガメッシュピックアップ、あのガチャで爆死した私にとっては鼻血ものな展開ではある。
課金厨の友達に張り合って、無課金で頑張って頑張ってギルガメッシュのみを狙って、あの虹色の金平糖を百二十個貯めたこともあった。
懐かしいなぁ……爆死したけど、爆死したけど!
今更だが、私の名前はセリュリム。
舌噛みそうな名前だと思ったのは内緒である。
実際初めて自分の名を口にした時、少し噛んだのも秘密である。
兄のギルガメッシュは私のことを「セリュー」と呼び、可愛がってくれた。
父と母は、未だに言葉を交わすことがあまり無い。
私も初めて知ったが、この時代の子育ては基本的に世話人がするのだ。
だから兄の教育も、だいたいが専属の先生だとか部隊の隊長さんみたいな人が行っている。
というか、最近『王とは何か』とか『国の繁栄のためには』とかの勉強をしている兄だが、だんだん性格がねじ曲がってきたような気がする。
あの純粋無垢な子供が、自分がどういう存在か自覚し、大人の世界や事情に巻き込まれていくのを黙って見ることしかできないのは、どうにもやるせなかった。
六歳のガキが何言ってんだとは思うが、身近な人が変わっていくというのは少し寂しいのだ。
さて、そんな私は今、簡単な護身術を学んでいる。
剣や槍といった武具を扱う才能が私には全くなく、無手での修行が行われた。
いわゆる合気道……っぽいナニカである。
それにしても退屈だ。
私はこんな熱苦しくて汗臭い鍛錬や、眠気を誘う勉学よりも獣たちと戯れているのが好きなのだ。
獣たちは変わらない。
いつまでも、己という存在を確立したまま生きていく。
私には、それがとても好ましかった。
変わっていく兄が嫌いというわけでは無い。
好きなのは変わらないし、感謝もしている。
だが、愉悦を求めるが為にいろいろやらかすのはやめて欲しい。
この前なんて結婚を控えた女性を寝取るなんて最悪なことやってたし。
なんでも自分の女を取られた男の情けない顔が見ものだったらしいが、さすがにこれには私も怒った。
思わず「
昔はそんなことする子じゃなかったのになぁ……。
◆*◇
兄様が王様になった。
これは純粋に喜ばしい。
私も素直に祝福した。
父もやっと肩の荷が下りたというか、自分の息子に継承できて良かったみたいな顔をしていた。
つい最近までストレス性胃潰瘍にでもなってそうな苦労人の顔だったので、そちらの方も密かに「良かったね」と思った。
現在私は十歳。
相も変わらず獣たちと戯れている。
最近では幻想種とも仲良くなれた。
というか、この時代はびっくりするくらい幻想種が普通に跋扈してる。
何気に昔から仲良くしてる大鷲とか灰色の毛をした狼とかもそれっぽい。
この前なんてワイバーンの背中に乗ったりした。
風を切るという意味がよくわかりました(恍惚)
いやぁ、あれはクセになるね。
ワイバーンだけじゃなく、大鷲にも乗って空を翔けた。
地上は狼に乗って駆けた。
それはもう中毒者のように飛び回って走り回った。
一度兄様が自分も乗せて欲しいと言ってきたので、みんなにお願いしたら案外あっさり了承してくれた。
幻想種は人間には絶対懐かないと言われるが、私たちは半神なので問題なかったようだ。
大鷲には『レティス』狼には『シフ』と名付け、国民に迷惑が掛からないよう少し離れた森でよく遊んだ。
遊んでばかりで怒られることも多々あったが。
◆*◇
目を潰されますた。
いや、物理的にじゃなく
素敵に咒的に潰されちゃったZE!
やかましいわ。
なんか一部の神様たちは幻想種と仲良くしている私が気に食わなかったらしく、自分をイラつかせた罰として私を盲目にしたらしい。
何じゃそりゃ、くっだらねぇ。
兄様はそんな神様にブチ切れて、既にマルドゥクという神から授かった乖離剣でその神様をコテンパンにしてくれた。
本人は殺したかったらしいが、腐っても相手は神、しかも複数なのでそう簡単にはいかなかったらしい。
まあ、別次元の世界まで弾き飛ばしたらしいので、ひとまずは安心だ。
別次元の世界という点については敢えてツッコまないことにした。
さて、今回の一件で私は悲劇のヒロインみたいな扱いになり、それを哀れに思った他の神様から新たな光を貰った。
『新しい目玉よ!』とばかりに私の額に第三の眼を埋め込んだのだ。
そっちかい! と内心ツッコんだのは内緒である。
それにしても盲目で第三の眼を持つとか、摩多羅夜行かよ……。
だが、おかげで私の視力は元に戻った。
それどころか、相手の心を読む心眼とか先を見通す千里眼とかの浪漫能力まで開眼していた。
やったね。
そうだ、早速千里眼使ってみよう。
………あれ? なんか朧げながら兄様が誰かと青春してる姿が見えるんだが。
◆*◇
神様はしつこい(確定)
だぁーっ、もう本当に何なのさあの腐れクソ神様は。
今度は兄様を狙って泥人形を送り込んできやがった。
というか、別次元の世界からどうやって送り込んできたのやら。
あまりのウザさに口調も荒っぽくなったがどうでもいい。
見た感じあの泥人形、人間味はあるがまだ白紙だ。
だから染まりやすい。
だから魅せられやすい。
だから、兄様の黄金に輝くその姿に魅せられ、今では仲良く殴り合っている。
人間味を帯びた理由が、丸一週間ズコバコして体内にある過剰なまでの精を抜いたから、というのは少し引いたが。
いやぁ、青春だねぇ。
さて、兄様たちが友情結んでるのは良しとして、本格的に神様がウザいのでこちらも嫌がらせをすることにした。
『ありったけの幻想種と仲良くなる』
それが私なりの神様への嫌がらせ。
私が昔から遊んでいた森を、現代で言う国立公園みたいな感じにして、その中でみんなと一緒に遊ぶのだ。
幸い森は広い。
これならかなりの数が一緒に暮らせる。
争うことはなるべくしないで欲しいとお願いしたら、なんとかオーケーしてくれた。
やっぱりみんな優しい。
この前出会ったユニコーンなんて紳士そのものだったし。
あ、でも怒ったら角割れるのかな。
……まあ、ないよね、ガンダムじゃあるまいし。
そういえば、今兄様はどうしているのだろうか。
あの美女すぎる男友達、確かエルキドゥと言ったかな。
その人はどうしてるのだろうか。
シャムハトという娼婦と瓜二つの顔らしいが、男なのにその辺の貴婦人とかより綺麗だ。
まったく、勝手ながら女として少し自信なくしそうになる。
親友同士だからなのか、最近ものすごくイチャついてる……ように見える。
そう、あくまでそう見えるということにしておこう。
半裸の兄様に後ろから抱きついて頬ずりするエルキドゥなんて見てないし、それを後ろ手に撫でる兄様など見間違いに決まっているのだ。
まあ、あれだ。
お幸せに。
◆*◇
千里眼発動ッ!
少し恥ずかしいが、やっぱり楽しい。
心眼は相手の内心が丸わかりになるのだが、それゆえに黒い部分までもが見えてしまう。
だから最近は千里眼しか使っていない。
嗚呼、森の最奥、そこに
そこで座禅を組んで第三の眼をパッチリと開く。
そして周りには幻想種たちが悠々と歩いたり、スヤスヤと寝ていたりしている。
なんかめちゃくちゃかっこいい絵面になってるぞコレ。
悟りなんざ開くつもりはないが、暫くこうしていたい。
だって落ち着くんだもの。
やっぱ人間より獣たちだよね。
腹黒さなんて一切無いし、悪巧みなんてしないし、いっぱい遊んでくれるし。
普通の学生として生き続けていたら、まずこんな幻想的な体験は出来なかった。
転生を司る神のミスとかはもうどうでもいい。
この子達に巡り合わせてくれたことだけは感謝します。
あ、膝の上に仔ライオンが乗ってきた。
ヤバいナニコレ超可愛い。
すぐ横に母親ライオンがいるけど、少しモフるくらいなら大丈夫だよね。
私はまず、自分の指先を軽く曲げて、仔ライオンの鼻先に持っていく。
私は無害だよー安全だよーと、相手の気の済むまで確かめさせる。
すると、ついにペロペロと指を舐めてくれた。
か、かわええ……かわええ……ッ!
まだ未発達の歯でガジガジと甘噛みしてくれるとか至福だじぇ(ウットリ)
っは、イカンイカン。
ゆっくりと両前脚の付け根を持ち、抱き上げる。
その時に顔もペロペロと舐めてきた。
お母様、私にこの子をください!
え、ダメ? そんなぁ。
◆*◇
なんか、朝一番に兄様とエルキドゥが「ちょっと神を殺してくる」とか言って出て行ったんだけど。
最近私とみんなの森を荒らしてるヤツがいるけど、関係あるのかな。
みんなが危ないから暫く近寄るなって私に言ったきり私も森へは行ってない。
まあ、みんな強いし、心配無いとは思うけど。
無事でありますように。
「王がご帰還なされたぞー! 宴の準備を始めよ!!」
え、もう帰ってきたの?
早くね?
朝出かけて夕方に帰ってこれるって、どんだけ弱っちい神様だったのさ……。
フンババって言ったっけ?
そんな日帰り感覚で狩られる神様なんて威厳ゼロじゃん。
兄様とエルキドゥに「どうしてこんなに早く終わったの?」と聞くと「お前(君)の獣(友達)のおかげ」だそうだ。
あのプライドの高い兄様でさえ素直に認めてるなんて、やっぱりみんな凄いな。
なんでもレティスはカミナリを降らしたり、兄様たちを乗せてくれたりしたらしく、シフは相手が速く動けば動くほど自分も加速して、最終的には壁並みに密集した攻撃の隙間を縫うとか生物を超えた動きをしていたらしい。
他にも、数え切れないほどのワイバーンの群れや、赤や黒といった強そうな色をしたドラゴンズも協力してくれたんだとか。
もうね、パワーインフレが起きかけてんだけど……。
まあいいや、落ち着いたらみんなを目一杯労ってあげよう。
非力な私にできることなんて精々その程度だしね。
そろそろ魔術とか学ぼうかなぁ…。
せめて援護射撃くらい出来るようになりたい。
足手纏いとかお荷物になるのは絶対嫌だ。
この半神ボディーなら魔力量も豊富だろうし、言葉話せるドラゴンにでも教えてもらおう。
そうと決まれば即行動だ。
◆*◇
「ねえ、ドラゴンさん。 私に魔術を教えてください」
『ほう、半神の身とはいえ、仮にも人間であるお前が龍である私に教えを請うと?』
「うん。 もう、見てるだけで何も出来ないお荷物でいたくない。 私は、みんなの役に立ちたい。 兄様たちの役に立ちたいの」
『フン、殊勝なことだ。 だがな、セリュリムよ。 足手纏いがどれほど努力したところで、周りはそれ以上に成長していく。 結局のところ、お前は常に周りから一歩遅れる立場なのだぞ。 それでもやるのか?』
「構わない。 常に一歩遅れるなら追いつけるまで走り続ければいい」
『クク、フハハハッ。 そうかそうか、走り続けるか。 なるほど、いいぞ面白い。 ならば私も全霊をもってお前に魔の技を叩き込んでやろう。 折れてくれるなよ?』
「安心して。 私は絶対に折れないし朽ちない。 だって私は兄様の、ギルガメッシュの妹だもん!」
こうして、私の魔術修行が始まった。
地獄の番人も真っ青なスパルタ修行を経て、とうとう私は戦力となり得る程度まで成長するのだが、ちょっとだけ天狗になってたことは否めない。
そのせいで私は兄様を含め、ウルクの民たちやエルキドゥもレティスもシフもみんなも、全員を悲しませてしまったのだから。
ホント、私ってバカだなぁ。
◆*◇
神様はしつこい(二回目)
最近兄様がイシュタルとかいう美の女神に言い寄られてる。
兄様も最初はそれとなく躱していたが、今となっては「寄るな触るな」といった感じで、取りつく島もない状態。
もうさ、諦めてくんないかなイシュタルさん。
兄様にはエルキドゥっていうお嫁さんが既にいるんだからさ。
もう絶対交わったことあるよねあの二人。
二人のやりとりを側で見てると口から砂糖が出そうになるのだから。
別に兄様がエルキドゥにloveでも私は別に構わない。
本人がそれで幸せならそれでいい。
ガチムチゴリモリのおっさんが相手なら殴り飛ばしてでも反対していただろうが、エルキドゥなら許せる。
むしろ愉悦が趣味でハッチャケ癖のある兄様をもらってあげてほしい。
なんだかんだで兄様と同等に渡り合えるのはエルキドゥだけだからね。
原初の
当然兄様が夫でエルキドゥが婦だ。
エルキドゥにウエディングドレス着せてみたい(願望)
まあ、それはさておき。
先ほどイシュタルが、堪忍袋の緒が切れた兄様にフラれました。
ハハッ、ザマァ。
しつこ過ぎる自意識過剰女はいつの時代でも嫌われるんだよ。
そして、私は思わずフラれたイシュタルを見て鼻で笑ってしまった。
超睨まれました。
ヤベェなこれ、なんか逆ギレして攻めてきそうな予感がするぞ。
ああいう手の女は面倒くさいんだよなぁ……似たような人見たことあるし。
そうと決まれば千里眼発動ッ!
………………………。
…………………。
……………。
……アカン。
これはアカン、アカンどぉ。
イシュタルが牡牛をウルクに放って兄様とエルキドゥが戦って勝つ。
でもエルキドゥは神々の呪いで死んでしまう。
そんなこと絶対させない。
エルキドゥは兄様の嫁だ。
兄様がエルキドゥ以外とくっつくとか私が認めない。
つーか、千里眼の未来に私映ってなかったけど、またお荷物なの?
また私は何も出来ないの?
いいや、確かに昔の私は弱かった。
でも今は違う。
幻想種のドラゴンに魔術を教えてもらったし、文字どおり血が滲む努力もした。
絶対使いたくないけど奥の手だってちゃんとある。
私は強くなったんだ。
無敵だなんて言わないけど、もう足手纏いなんかじゃない。
こんな未来は絶対認めない。
今までの私は救われてばかりだった。
だから今度は、私が兄様を、エルキドゥを、みんなを救ってみせる。
一度くらい大好きな存在を全身全霊をかけて護っても良いよね。
◆*◇
その日、ウルクに激震が走った。
イシュタルがギルガメッシュに侮辱された腹いせに、天の牡牛をウルクに放ったのだ。
それを聞いたギルガメッシュは、すぐさま軍隊に防備を固めるように言い伝え、自分とエルキドゥが先陣を切ると言い放った。
しかし、そこにある報せが入ってきた。
「報告します! 現在天の牡牛は進行を止めております!」
「なんだと……」
「それ、本当なのかい?」
「はい。 しかし……」
そこで何故か、伝令係は言い淀む。
まるで認めたくない何かから、必死に逃げた答えを探しているかのように。
「どうした、続けて報告せよ。 あの牛が歩みを止めた原因はなんなのだ」
「恐れながら……御身の妹君セリュリム様が、戦っておられるからかと」
「なんだと……ッ!?」
「こうしちゃいられない。 ギル、早く僕たちも向かわないと!」
ギルガメッシュは困惑していた。
何故だ、何故、何故なのだ。
何故セリューが戦っているのだ。
いつも獣たちと仲良くしていて、争いごとなどから一番縁遠いセリューが、何故。
「ギル! 急がないと手遅れになってしまう!」
「わかっておるわ! 我は認めん、認めんぞ。 貴様に死ぬことを赦した覚えなぞ無い。 貴様の死など、誰よりもこの我が認めんぞおおおおおおォォッ!!」
ギルガメッシュとエルキドゥは城門を蹴り飛ばすように開け放ち、遥か彼方に見える黄金に輝く光の粒が舞う場所へ駆けた。
間に合え、間に合えと心底願いながら。
◆*◇
「はあああああああッ!」
「◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎ッ!」
それはまさに、天地揺るがす大激戦だった。
セリュリムは、とにかく魔弾を放って牡牛をウルクに寄せ付けないようにしていた。
しかし、仮にも牡牛は神獣だ。
いくら魔弾をばら撒いたところでどうにかなる相手ではない。
牡牛はその巨体で突進したり、大きな角を振り回したりして、少しずつだが確実にセリュリムにダメージを与えていた。
牡牛に魔弾は効かない。
そんなことはセリュリムだって百も承知だ。
だが、牡牛が命じられているのはウルクの破滅。
少しでも間をおけば、この牡牛はまっしぐらにウルクへ突っ込んでいくだろう。
そんなことになれば、民はもちろんのこと、兄やエルキドゥも無事では済まない。
何より自分がこいつを倒さねば、エルキドゥが死んでしまうのだ。
そんなことは認めない。
その一心で、セリュリムはありったけの魔弾を放っていた。
そして一瞬、牡牛が眼を瞑った。
セリュリムはチャンスとばかりに、地面へ魔力で編んだ刃を叩き込み、大地を割った。
地割れを起こした場所に牡牛は片足を突っ込んだ。
今だ、今しか無い。
そう思って、セリュリムは魔力刃を牡牛に向ける……が。
そこで牡牛は、全力で吼えた。
それは嵐となり、天災をもたらす。
セリュリムは凄まじい突風に巻き込まれ、気流の変化によって出来た竜巻に引きずり込まれた。
風は地を削り、岩を飛ばし、木々を薙ぎ倒す。
セリュリムは竜巻内に高速で舞う岩にぶつかったり、砂を含んだ鋭い鎌鼬に肌を斬り裂かれた。
竜巻が収まる頃には、セリュリムは満身創痍だった。
立場は一気に逆転し、ボロ雑巾のようになったセリュリムに牡牛は突進していく。
あわやここまでかと思われたその時。
大量の金の粒が飛び散った。
「これだけは、絶対使いたくなかったけど。 でも、出し惜しみして後悔するくらいなら……私は今、ここでその責務を果たす!!」
「私の大切な国を守るために!」
「大切なみんなを守るために!」
「大好きなあの二人を守るために!」
「ここで、この命をもって! お前という存在を討ち果たす!!」
第三の眼が限界まで見開かれ、金糸のような髪は優雅にたなびく。
全身から光の粒を出しながら、セリュリムは自分の目の前にいる牡牛に向かって———
「おおおおおおあああああああああああああァァアッッ!!!」
己そのものを黄金の矢と化し、
今ここに、戦いは決着した。
勝者はセリュリム。
だが、その命はもはや消え行くのみとなってしまった。
ボロボロの大地に向かう影は二つ。
空に投げ出されたセリュリムを拾ったのはレティス。
そして、シフはその背にギルガメッシュとエルキドゥを乗せていた。
レティスはゆっくりとセリュリムを降ろし、ギルガメッシュとエルキドゥはその姿を見て唖然とした。
全身にあらゆる傷を負い、天眼も閉じていた。
「セリュー………セリュー! 目を、目を開けろセリュー! 王の、兄の命令だ! 応えろセリュー!!」
「……………ぁ……」
「セリュリム、聞こえるかい。 ねえ、目を開けておくれよ……っ」
「…ぁ、に……さま………える…き、どぅ……」
ようやく気がついたセリュリム。
そして、開いた目は、かつて神によって潰されたはずの本来の両目だった。
しかし、既にその目に光は無く、もうその命が長くないことを如実に示していた。
「何故こんな無茶をしたのだ……! この愚か者が!」
「……どうして、どうして、君なんだ……っ。 怒りの矛先は僕たちだろうが…ッ」
「ねえ、兄様……わたし……役に、たてたかなぁ……」
「馬鹿者がッ、この大馬鹿者がァ! 役に立つかどうかなどどうでもいいのだ! 我は、我はお前に生きてさえいてくれれば、それで……ッ」
「あはは……兄様、泣かないで。 エルキドゥも……ね」
「これが……これが涙を流さずにいられるものか……! 君は、僕にとって何より大切な存在だった!」
「ふふっ……あり、がと……二人とも————
手の力が抜け、目も閉じられていく。
一つの命が……
————大好き」
終わった。
◆*◇
ここはカルデア。
世界の最終防衛ライン。
最後のマスターと、後輩のデミサーヴァントが向かったのは特異点オルレアン。
そこで二人は、召喚の儀を行った。
「サーヴァント、ライダー。
気分次第で続きます。
受験に向けてリアルも頑張るぞい!