ドラゴンクエストX 〜ワルキューレ〜   作:リョンさん

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雲上湖にて、水竜と対峙する一行。

一行は、苦戦するが、連携の末、アルベールがフォースをまとった強烈な一撃を、お見舞いする。

大きく仰け反った水竜。勝利を確信したのも束の間、
水竜は、すぐに強力な攻撃にうつる。

プレス攻撃から、アルベールを庇ったミュスナは、水中へと引きずり込まれてしまったのだった。


第12話 家族

視線が一気に下がり、歪む。

身体を刺すような冷たさが全身を襲う。

ここは、……水中か。

 

(ヤツは水竜……、水中戦こそ、真価を発揮するはず!)

 

これは非常にマズイ。ヤツの独壇場というわけだ。

それに、視界も、悪い。

オーガは、ほかの種族より水中が苦手なのかもしれない

 

(ヤツも水中にいるはず……。どこだ、どこにいる……)

 

可能な限り、目を凝らす。

……水中に、赤い線が、あとを引いたのを見た。

 

速い……。水竜の目だ。

こっちを、見つけたようだ。

 

(……来る!水面に逃れないと……!)

 

だが鎧が、仇になった。素早く泳ぐことが出来ない。

水面に逃れようとしたのを読まれて、先回りされてしまう。

 

(水面は、ヤツの背後……)

 

これでは水面へ出ることは出来ない。

 

(ここで、やり合わないと……!)

 

あたしは、腹を決める。

泳いで突いてもダメージは、期待できない。

 

(それなら……)

 

待つ。呼吸が続く限り。

一番の不安要素は、相手が、窒息を待つ選択をした場合だったが、それは杞憂だった。

 

水竜は、ヒレを舞わせ、尾ヒレを動かす。

突進攻撃だ。

 

(体当たりか……、持ってくれよ身体!)

 

体当たりに合わせて……槍を構える。

赤い光、それは、ヤツの目だ。

 

狙いを定め……

 

(今だ……!!)

 

身体に強い衝撃、と同時に手に手応えを感じた。

赤い光、水竜の目へ、槍を突き立てた。

 

(……ぐっ…!)

 

水竜は、目を抉られているにも関わらず、さらに勢いを強めて、泳いだ。

 

あたしは、押し出される形になる。

 

(早く死ね!この魚野郎!)

 

力の限り、槍で、目を抉る。

ダメージは低くないはずだが、水竜は、泳ぐ手を一切、緩めなかった。

 

そうこうしてる間に、あたしは、湖の壁へと、叩きつけられた。

 

口いっぱいに、鉄の味が広がって、溢れ出した。

赤が、視界を染める。

 

(呼吸が……)

 

衝突の衝撃で、肺の空気を、出してしまった。

一気に、呼吸が苦しくなる。

 

(くそ、息が続くうちに……!)

 

槍をさらに動かす。あたしの血か、水竜の血か、分からないが、視界が真っ赤に染まる。

 

それに呼応するように、水竜は、あたしを壁に強く押しつけやがった。

また、口から空気が漏れた。

 

(だめだ、あたしのほうが、もたねぇ……!!)

 

こうなったら、あの手しかない。

あたしは、槍を握る手に、力を込めた。

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

その頃、氷上では……

 

「離してください!姉さんが……!!」

「だめだ!死にに行くようなものだ!!」

 

アルベールさんとが揉めていた。

水中に引きずり込まれた姉さんを、わたしが助けに行こうとしたけど、アルベールさんが止める。

 

「姉さん!姉さん!!」

 

こうしてる間にも、姉さんは、あの恐ろしい竜に、食べられてしまうかもしれない。

 

「離してください!離して!!」

 

もう姉さんを失うのは嫌だ。

たった1人の家族なんです。

わたしを妹と呼んでくれる、守ってくれる、わたしの、姉さんなんです!

 

「ユイナ、落ち着くんだ!」

 

姉さんは、姉さんの代わりなんかじゃない。

もう、わたしの家族なんです。

 

助けに行かなきゃ……、いけないんです!

 

「分かった、俺が行くから、キミは待っているんだ!」

 

アルベールさんに、そんな無理は、させられない。

わたしが、行かなきゃ、だめなんです…!

 

アルベールさんの制止を、振り切れそうな、その時、

氷の下、水中が、雲上湖が、光ったんです。

 

最初、なにが起きたのか、分かりませんでした。

 

光は、消えず、しばらく、わたしたちを照らしました。その光の正体に気づいたのは、アルベールさんが、先でした。

 

「……あのバカ…!」

 

わたしにも、分かりました。

あれは……雷光です。

 

姉さんの特技の、雷撃でした。

 

「まさか……水の中で……!?」

 

効果は抜群です。水竜とて、たまらないでしょう。

ですが、そこには……

 

「姉さん……!!!!」

 

姉さんもいるんです。

 

氷に、ヒビが入る。

耐えきれず、水竜が水面に逃れようとしてる。

 

アルベールさんが、わたしを離して、収めた剣の柄に手を添えた。

 

鞘の上から、フォースをかけます。

黒い黒い、怖いフォースを。

 

「飛び出す一瞬を切り伏せる。」

 

離れてて、と、アルベールさん。

 

ヒビは、いよいよ深くなり……、

水中から、水竜が飛び出しました。

 

「ピギャァァァアッッッ!!!」

 

威嚇のような、悲鳴のような雄叫びとともに、姿を現した水竜。

そこで、ようやく湖は、放電をやめたようです。

 

放電が……、終わった、ということは……

 

水竜が飛び出した、氷の穴。そこに、ぐったりとした、姉さんが浮かんでました。

 

「……許せない…!!!」

 

わたしは、今まで生きてきだ中で、もっとも激しい怒りを覚えました。

 

それと、同時に、頭をよぎったのです。

それは、僧侶にあるはずない呪文でした。

 

「……ちっ!」

 

アルベールさんが、舌打ちをする。

 

抜刀術、っていうのかな。

その構えをしているアルベールさんに、水竜は、氷塊を口から放ちました。

 

わたしは、その氷塊に向け、指を向けた。

 

「……イオラ!!!」

 

キィン、という甲高い音がしたと思うと……

 

空中で、光の塊が、輝き、

それが弾けました。

 

それは、魔法使いの、閃光爆発呪文でした。

 

閃光は、氷塊を粉々に砕き、水竜の目をくらました。

水竜の目には、槍が刺さってました。姉さんの槍です。

 

「助かったよ、ユイナ」

 

アルベールさんが、剣に力を込める。

暗くて黒い、闇の力です。

 

「あとは、任せて。」

 

刀身が、鞘の中を走る。

抜き放たれると、黒い霧が、視界いっぱいに広がる。

 

アルベールさんが、それの名称を、口にする。

……時にはもう、剣は、鞘の中でした。

 

「無明一閃」

 

ほとんど、見えませんでした。

チンッ、という甲高い音がして、水竜の胸には、黒い傷跡が、刻まれ、そこから闇が溢れ出した。

 

水竜は、喉が焼き切れるような断末魔をあげ、倒れ込み

 

「……やったか」

 

やがて、動かなくなりました。

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

水竜の活動停止を確認するより先に、わたしは、姉さんへ駆けよります。

 

「姉さん!姉さん!!!」

 

水面に、ぐったりと、浮かぶ姉さんに反応は、ありません。

水に飛び込もうとする、わたしをアルベールさんが止めました。

 

「俺がいく。」

 

アルベールさんが、水に飛び込みます。

姉さんを、かつぎ、氷上に上げました。

 

「ユイナ、引っ張りあげてくれ」

「はい!姉さん、しっかりして!」

 

反応は、やはりありません。

氷上に寝かし、急いで脈を確認します。

 

「……ウソ…」

 

絶望が、わたしの口を、ついて出ます。

手が震える。思考が止まる。

 

「……! おい!ミュスナ!ミュスナ!!」

 

アルベールさんの呼ぶ声が、遠のくのを感じました。

 

姉さんにすでに、脈は、ありませんでした。

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

目を覚ますと、あたしは、見覚えのある空間にいた。

 

そこは確か、あたしが初めて死んだ時、転生するために訪れた場所。

 

ここに来たということは……

 

「……また死んだのか」

 

死ぬ前のことは、なんとなく覚えてる。

他に手がないと思い、水中で放電したのだ。

けっこう、長く放電してたような気がする。

 

「まあ、あれは死ぬよな」

 

今頃、現世では大騒ぎだろう。

ユイナは、泣いているだろうな。

 

『ミュスナ』

 

だが、安心していい。

この声の主、女神様が、復活してくださるだろう。

 

あたしには、使命があるらしいからな。

 

「早く戻してくれ、心配されちまう。」

 

我ながら復活させてもらう人間の態度とは思えないが、

あたしは、急いでいるんだ。

 

『いいでしょう。ですが、その前に……』

 

女神の声は、悲しみに沈んでいた。

お小言かな

 

『私の力で甦れる回数には、限度があります。』

 

残機があるということか……。

それに……と女神が続けた。

 

『貴女のために、涙を流す人がいるのです。

もう決して、このような無茶をしないように』

 

涙を流す、ね。

ユイナのことだろうけど、どうせ復活するんだしな……

別にいいだろう。

 

『さあ、お生きなさい……。行って、貴女の使命を

果たすのです。』

 

最後に、そう聞こえて、あたしの視界は、光に包まれた

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

現世で、目を覚ます。

視界いっぱいに、ユイナの顔があった。

 

目が合うなり、胸に抱きついてきた。

 

「姉さん……!」

 

い、痛い痛い……

あの突撃で、骨が折れてたか……

あの女神め、怪我は、治してくれないのか。

 

「ゆ、ユイナ、痛い痛い……」

「あ、ごめんなさい!」

 

ユイナが、パッと離れる。

アルベールが、心配そうにのぞき込む。

 

「大丈夫なのか?脈が止まってたのに」

「身体中が痛いくらいだ」

「鎧、脱がしますね」

 

鎧が重くて、痛むのか。ユイナが、慎重に脱がしてくれた。

 

「まるで生き返ったみたいでしたねー」

「そうだな」

 

アルベールが、上着を脱いで、かぶせてくれる。

彼は、この強烈な寒さの中、シャツ1枚になってしまったが。

 

「ルーラストーンで戻ろう。ミュスナの腰に確かついてたよね」

「見てみますね」

 

ユイナが、あたしの腰をあさる。くすぐったいな。

 

「……あれ?ありませんよ?」

 

ユイナが、怪訝な声をあげた。

おかしいな、確かに、あったはずなんだが。

 

思い当たる節はある。

 

「水中で突進されたときに落としたか……」

 

参ったな……、今頃、暗い水の底だ。

取りに行くには、危険すぎる。湖の深さが、分からない

相当深かったかもしれない。

 

それに自分では行けないしな。

 

「……よし、歩いて下山しよう」

 

そう言って、アルベールは、腰を降ろしてあたしに背中を向けた。

 

「ん?」

「おんぶ、だよ。早くしないと、傷口から冷えてしまう」

 

……世話になるしか、なさそうだ。

あたしは、痛みに耐えながら、上体を起こす。

ユイナが、手伝ってくれた。

 

アルベールの背中に、体重を預ける。

白くて華奢だと思ってたけど……

 

「よし、立つから、揺れるよ」

「お、おう」

 

背中は、意外と大きく、そして暖かった。

アルベールは、しっかりとした足取りで、歩いた。

 

見た目よりずっと力があるんだな…

 

「魔物に気をつけて、行こう」

「はい!わたしが、やっつけちゃいますよ!」

 

ユイナが頼もしいことを言うが、不安しかない。

 

「変に力むと、身体に良くない。楽にしててミュスナ」

「お、おうっ」

 

胸が彼に当たるのが恥ずかしくて、微妙に浮かせてた。

アルベールに下心なんてないと思うが……

 

ていうか、あたしにそんな女みたいな感情があったとはな……

 

言われたとおりにしたら、アルベールの心音が早くなった気がした。

あたしは、耳がいいから、間違いないだろう

 

「……ごめんな、重いだろ」

 

なんだか照れくさくて、自分から言ってみた。

 

「あぁ、重いよ。」

「お前なぁ……」

 

正直すぎるのも、考えものだ。

 

「けど、生きてる重さだ」

 

アルベールが静かな声で言った。

 

「死んでたら嫌だったけど、生きてるから、

……この重さが嬉しいんだ」

 

生きてて、嬉しい。

当たり前のことだが、だからこそ、嬉しかった。

 

「ユイナが泣いてた。もう無理は、いけないよ」

 

優しいが、ハッキリとした、口調だ。反論を許さない、そんな強さを感じた。

 

「……うん」

 

あたしは、素直に、了承した。

なぜ、おう、ではなく、

うん、と言ったのか

 

そんな女らしい返事をしたのか、分からなかった。

けど、そうしないと、行けない気がした。

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

橋上の宿に、ついた。

 

途中、モコモコした三つ目の化け物の集団に襲われたが、ユイナが呪文で一掃したのは驚いた。

 

大して危機に陥ることなく、宿についた。

 

宿屋の主人は、あたしを見るなり、「うちは病院じゃないからほかを当たれ」と言った。

死人が出るような面倒ごとを避けたいからだろうな。

 

けど、アルベールが、懐から取り出した大量のゴールドを主人に押し付けた。

 

「全部やるから黙って部屋を貸せ。」

 

穏やかなアルベールだが、初めて強い口調で言った。

主人は、金を受け取ると、快く部屋を貸してくれた。

 

あたしは、ベッドの上で、大人しくしてるように言われた。

また「うん」と返事をすると彼は満足そうに頷いた。

そして部屋を出ていった。

 

「アルベールさんには、ずいぶん素直なんですね〜」

 

暇そうなユイナが絡んでくる。

 

「うるせぇ」

 

苦手な絡み方だ。普段なら、頬のひとつでも、ぶにぶにして黙らせるが

 

「いまの姉さんは、怖くないで〜す」

 

いい度胸だ。覚えてろよ。

まだ、ユイナは、アルベールの話を仕切りに振ってくる

 

それが、なんだか照れくさくて、不自然に話題を変えた

 

「それより、怒ってるだろ?」

「うん?」

 

ユイナが、聞き返す。

 

「『姉さんの身体』を、傷物にして」

「あぁ……。」

 

ユイナの表情が、陰る。

それから、眉をつりあげて。

 

「そうですね、怒ってます。」

 

こんなにハッキリ、ユイナが言うとは。

あたしには、立つ瀬がなかった。

 

「……ごめんな」

 

謝ることしか、できなかった。

ユイナが、首を横に振る。

 

「そうじゃないです…

わたしが怒ったのは……」

 

ユイナは、あたしの手を握った。

 

「わたしが、まるで、身体だけを心配してるみたいに、言うからですよ」

「違うのか?」

 

ユイナが唇をとがらせた。

 

「当たり前じゃないですか!」

 

あたしの手を握るユイナの手に、力がこもる。

 

「わたしは、『姉さんの身体』じゃなくて『姉さん』の心配をしてるんです」

 

いたわるように、手をなでられる。

その優しさは、『あたしの身体』ではなく、『あたし』に、向けられるのが、分かった。

 

「わたしたちは、もう、家族なんですから」

 

優しい、本当に優しい、いい子だ。

 

「心配させてごめんな」

 

もう無理は、できない。

優しい妹を、泣かせるなんてことは出来ない。

 

「そして、ありがとうな。」

 

生まれ変わって、あたしは、本当に大切なものを手に入れたのだった。

 

再び、家族を。

 

 

 

 

 




皆さんも、家族のために、あまり無理しすぎないで、くださいね!
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