器を清水で満たす目的を果たし、あとはグレンの王、
バグドを正気に戻すだけだ
橋上の宿から出立し、無事、グレン東領を抜ける一行。
やがて、グレンへと、到達する。
「さて、問題は、どうやって王に謁見するか、だね」
グレンの入口になる、吊り橋の前で、アルベールが難しい顔をしている。
そんな彼を、ユイナが急かした。
「アルベールさん、早く姉さんを休ませないと…」
「そうだったね、グレンの宿屋なら顔が聞くから、休ませてくれるはずだよ」
ユイナが、あたしとアルベールにフードをかぶせる。
自分も深くかぶってから、グレンへと入っていった。
◇◆◇◆◇
多少、怪しまれましたが、特に呼び止められることなく宿屋に到着できた、わたしたち。
姉さんは、宿屋の部屋につくなり、すぐに寝てしまった
アルベールさんをみるなり、
「あらアルベールちゃん!久しぶり!大変なことになったわねぇ……」
と、快く出迎えてくれた宿屋の女将さんには、感謝しないと、いけませんね。
姉さんを借りた部屋で休めたあと、
わたしとアルベールさんは、どうにかして、王に近づく方法を話し合った。
「いったん、、わざと捕まるのはどうでしょう??」
「荷物は、取り上げられるから、無理かな」
「では、お城に潜入して、ご飯に混ぜるとか……」
「城に潜入するのが、危険すぎる」
わたしの案は、ことごとく、却下されてしまった。
「やっぱり広場に出てきたところを奇襲するのが最善手だろうな」
「どんなとき、出てくるのですか?」
アルベールさんが、答えようとした瞬間、外の喧騒が聞こえてきました。
宿屋のお客さんたちも、ざわつきます。
「またか……」
「これで何人目だ……」
「この国もおしまいだな」
そんな会話が漏れ聞こえてきます。
周囲の喧騒は、わたしの不安をかきたてました。
「一体、何事でしょうか…?」
アルベールさんが、答えてくれました。
「王が人前に姿を現す時は……」
神妙な声音で、続けます。
「人を殺すときだ。」
わたしは、宿屋の扉をあけました。
すぐ前の広場、人が円を描くように、集まっています。
「ユイナ!」
その光景に既視感を覚えた、わたしは、アルベールさんの制止を振り切り、人混みへと、駆け寄りました。
そこで、人と人の間から、円の中心を見ました。
円の中心、そこには……
「…ッ!」
そこには、バグド王自身と、いつか見た、オーガの兵隊さん。
確か、グレン東領を出るとき、追ってきた、2人の兵隊さんでした。
兵隊さんのうち1人、その額の傷は、見覚えが……
そうだ。姉さんの頭突きでつけられたものでした。
「彼ら、一体どうしたんですか?」
手近な人に聞いてみます。
丸々ふとったオーガの男性に。
「反逆者を追って、負けたんだと
それで、『敗者に生きる資格はない』って王が」
「ひ、ひどい……」
古の時代、オーガは、もっと優れた戦闘民族でした。
敗者は、生きることを許されないくらい厳しい掟で、鍛えられていたそうです。
しかし、掟の緩和ともに、今のような平和で温厚な種族になったそうですが……。
「もうこの国は、おしまいだ」
教えてくれた男性が、冷めた声で言いました。
まるで、古代のグレンにいるような……
この恐ろしい本能が、わたし達の中に、まだ残ってるというのでしょうか……
あの方々が切られたら、取り返しのつかない方向に、
この国は、加速していくでしょう。
そうなれば、男性の言う通り、この国は、おしまいです
「お嬢ちゃんも、早くこの国から出た方が……」
「お気遣い、ありがとうございます」
フードをとり、男性に向き合い、お礼を言う。
わたしは、人混みをかきわけ、中央へと、向かいます。
「あれお嬢ちゃん、どこかで、見たような……
……お嬢ちゃん?どこに行くんだ!?」
男性の制止する声を振り切り、わたしは、広場の中央へと、向かう。
不思議と、震えは、ありませんでした。
王が剣を抜く。
それに合わせて、わたしは、声を張り上げた。
「……反逆者は、ここに居ます!」
王の動きが、ピタリと止まり、その場にいた全員の視線が一気に集まりました。
周囲のざわめきが、大きくなる中、バグド王は、静かに言いました。
「反逆者の、……妹か」
王が、こちらを振り向き、初めて足が震えました。
けど、注意は、こちらに逸れたようです。
彼らは、しばらく大丈夫そうです。
「余の顔を殴った……姉は、どこにいる?」
「お答え出来かねます。」
王がニヤリと笑う。
「貴様をいたぶれば、姿を現すだろう。」
そのとおり、姉さんは、必ず来てくれます。
あの身体でも、来てしまいます。
……だから
「それも、出来かねます」
わたしの持てる全力で、抵抗します。
わたしは、指を王に向けた。
躊躇は、するな。死にはしません……!
「イオラ!!」
爆発が、王を吹き飛ばしました。
わたしは、捉えられた、兵士さんの元へ走ります。
まずは、回復してあげないと
「き、君……、俺たちは、君を捕らえようと……」
「お仕事だったんでしょう?」
それなら、仕方ない。
どちらも、軽傷だから、すぐに回復が終わる。
わたしは、縄を外しにかかる。
「なんて礼を言ったらいいか……」
「きっと、この国は、いい国になります。
そしたら、立派な兵隊さんとして、守ってください」
それだけで、充分です。
……なかなか縄が外れない。
力がなさすぎるんです……。
「お、お嬢ちゃん……!」
兵士さんが、怯えた声をあげました。
「小娘……」
王が、もう起き上がってきたのです。
手加減は、しなかったのに。
攻撃呪文は、確実に、わたしの自信となりました。
この力なら、姉さんの足を引っ張らない。
誰かを、守ることが出来る。
「この人たちは、殺させません」
「そんな奴らは、どうでもいい……!」
王は、左頬の、火傷と、先ほどの爆発の火傷を、指さします。
「姉妹そろって、舐めた真似を……!許さんぞ!」
恐ろしい剣幕に、一瞬怯んでしまう。
その一瞬で、王は、一気に切迫してきます。
「イ、イオ!」
あわてて、初級呪文を、打ち込む。
当たったけど、吹き飛ばすには、及ばない。
王の拳が、わたしのお腹に入ります。
胃液が逆流して、わたしは、お腹をおさえて、うずくまりました。
だめだ、殺される。せめて……
「に、にげてくださ……っ」
顔を蹴られる。
わたしは、地面を転がります。
苦しい、痛い、怖い
姉さんは、いつも、こんな思いを……
でも姉さんは、少し怒りながら、わたしに言うんです
『バカ!早く逃げろ!』
いつも、かっこいい。
だから、わたしも、言うんです。
「は、やく……にげて……」
誰かが、この混乱に乗じて、兵士さんの戒めを解いてくれたみたいです。
優しい、いい国です。
魔族なんかに、好きにさせてはいけません。
「このまま、じわじわと、なぶり殺してやろう…!」
その言葉に、わたしは、震えた。
あんな痛いのを、何度も……?
逃げたい、隠れたい。
けど、逃げたら、あの人たちが……
「それも……出来かねます……!」
精一杯、虚栄をはって、自分を保つしか、ありませんでした。
指を、王に向ける。
だめだ。蹴りを腹に入れられる。
また、お腹から、なにかを吐いた。
「立たせろ」
王が、連れてる兵士さんに、言いつけます。
「しかし……もう……」
とまどう兵士さん。
「貴様から死にたいのか……」
それで、2人の兵士さんは、わたしの両脇を持って、無理に立たせました。
「……すまない……」
振り絞ったような小声で、聞こえた。
姉さんなら、振りほどいて、全員、ぶん殴ってしまうんだろうなぁ
「まだ、負けません」
気持ちで負けたら、終わりです。
どうせなら、最期まで、睨んでやる。
「まずは、顔から壊してやろう……」
王が、拳をふりかぶり……
わたしが、目を閉じ、
かわいた音がなった。
その拳が、わたしに、届くことは、ありませんでした。
目を、開けると。
「姉さん……?」
では、ありません。
紅い、背中。この背中は……
「アルベールさん……?」
王の拳を止めたアルベールさん。
王を思い切り殴りつけます。
地面に転がる王、アルベールさんは、振り返り
「彼女を離せ」
普段の穏やかさ、からは、想像出来ない、剣幕で言いました。
わたしの拘束は、ゆっくりと解かれます。
アルベールさんは、わたしの蹴られた顔を、そっ、と撫でてくれました。
痛みが引いていくような、不思議な感覚。
ずっと、こうして欲しいくらいでした。
ですが、わたしは、声を張り上げます。
「後ろッ!!」
剣を抜いた王が、アルベールさんを襲います。
アルベールさんは、振り向かず、それを、かわし
また、同じところを殴りつけます。
「女の顔を傷つけたんだ」
自分の剣を抜く、アルベールさん。
手で招いて、挑発します。
「この程度で、済むと思うな」
剣に、風の力が高まるのを感じました。
アルベールさんは、それを逆手に持ち……
「貴様ァーッ!!」
起き上がった王に向かって、振り抜きました。
剣の間合いの外だったのに、
鋭い風が、王の剣を両断しました。
「真空斬り」
王の折れた刃が、音を立てて、地面に落ちます。
王は、風に当てられ、転倒しています。
そこに、すかさず、マウントをとる形に、のしかかり、その首筋のすぐ横に剣を突き立てました。
「王よ、魔族の手により、暴虐の限りを尽くすのは、貴方の本意ではないでしょう」
アルベールさんは、そのままの体勢で、懐から、レムルの聖杯を取り出します。
それを見た、王の表情が、変わります。
「やめろ!それを近づけるな!」
暴れる王。剣が、地面をギャリッ!と引っかきます。
王は、仕方なしに、大人しくなりました。
アルベールさんは、それをふりかけるように、王の顔のとこで、振りました。
「やめろおおおおおお!!!」
断末魔のような王の悲鳴。
それは、王のものだったのか、悪魔のものだったのか。
とにかく、王は、眠るように、瞳を閉じました。
全てが終わったあと、わたしは、アルベールさんの胸で泣きました。
アルベールさんは、髪を撫でてくれました。
「怖かった……怖かったです……」
アルベールさんは、何も言わずに、ただ、撫で続けてくれました。
そうこうしてると、王が、起き上がりました。
思わず、身構えてしまいます。
「余は……一体……?」
なんだか、間の抜けたセリフに、一気に肩の荷が、降りた気分です。
彼の側近が、事の顛末を、説明します。
「なんと……それは真か……!?」
「はい、こちらの魔法戦士と、こちらの地味な女性が、王を戻すのに、力を貸してくれました。」
地味って言わないでください。
「魔法戦士殿、世話をかけたようだな
そこの君も……ひどい怪我ではないか」
「王がやったんですよ」
側近の言葉に、王は、地面に額を打ち付けました。
地面が割れ、血が吹き出すので、びっくりです。
「……すまない!!
操られていたとは言え……」
なんだか、恐縮です。
「い、いえ、大丈夫ですよ」
まだいろいろ痛いけど。
アルベールさんに抱っこしてもらったので……
フフフ♪
わたしは、王の額に、ホイミをかけます。
「より良い政治を、行ってくださいね」
王は、真摯な目で答えてくれました。
「約束する」
◇◆◇◆◇
あたしは、目を覚まして、見慣れない天井を見た。
どこだ、ここは……橋上の宿じゃなさそーだけど。
だいぶ、良くなってきた。
どれくらい寝てたか分からないが、素晴らしい回復力だ
なにか、こう、仕掛けたいな無性に。
部屋を見渡す。
……ん、バケツがあるな。
たぶん、ユイナが入ってくるかな、……よーし。
あたしは、扉を少しあけ、そこに、バケツを設置する。
入ったらバケツをかぶるという、悪魔の罠だ。
この手で、何度ババアをはめたことか……
ククク、あたしも、悪よのぅ
「そろそろお姉さんも、回復する頃合だろう……
って、うわっ!」
しかし、かかったのは、違う相手だった。
バケツをかぶったユイナが尻餅をつくのを期待したのに
かかったのは、アルベールだ。
彼は、ちょっと、動揺したが、それを外さず、言った。
「……元気そうだな」
「おかげさまで」
バケツの向こう側で、呆れ顔をしていることだろう。
バケツマンの向こうから、愛しい妹が、顔を出した。
「姉さん!大丈夫ですか?」
「あたしは、無敵だ」
胸を張って言う。ユイナに近づき、ニオイをかぐ。
香ばしい我が妹よ。
しかし、そのニオイに、異変があるのを、見逃さない。
「……血、吐瀉物、涙のニオイがする。」
「え……?」
パッと見、無傷だ。自分で回復したのだろう。
「誰にやられたの?言え。姉ちゃんが殺してやる」
「ね、姉さん、落ち着いて……」
あたしの、こんな可愛い妹をよくも……
絶対殺す。100回殺す。
「落ち着けミュスナ。……ユイナは、しっかり強くなってるぞ」
「ほう?」
興味深い話だけど、詳しく聞かないようにしよう。
聞いたら最後、殺しに行きそう。
アルベールは、バケツをとって、あたしに渡す。
その中をよく、見てみると……
「……! ルーラストーン!」
無くしたと思ったのに。
「アルベールさんが、雲上湖を泳いで、とってきてくれたんですよ!」
「湖が凍る前に行けて良かったよ」
またそんな危険なことを……
「キミが、俺を庇って、落としたようなものだからね
キミたちが居なければ、俺は死んでいただろう」
キミ『たち』の言葉にユイナが嬉しそうに笑う。
わざわざ、あたしのために、あの寒い湖を泳いでくれたのか
それが、ただただ嬉しかった。
「ありがとう」
言ってと、ルーラストーンの袋を手に取ると、もう一つ何かが入ってるのが分かる。
開けてみると……
「なにこれ?」
豪華な鍵型の勲章のようなもの。
「キーエンブレム?!」
ユイナが、すっとんきょうな声をあげた。
あたしは、それを手に取る。
「その国の、英雄の証です!」
「へー、英雄ねぇ」
だとすれば、トドメをさしたアルベールが、相応しそうなものだが。
「いや、殴られた狂王が、怒りで出兵を遅らせていたからね」
「姉さんのおかげで、戦争にならなくて、すんだのですよ!」
これを、受け取った、ということは……
「この国は、もう、平和です!」
「……そっか」
良かった。
戦争にならなくて。
あの母娘のように、もう悲しむ人が、出てこなくて。
そのことが、思い浮かんだのか、少し空気が沈む。
「そろそろ、俺は、ヴェリナードに報告にいかないと」
その空気を変えるように、アルベールが言った。
ユイナが、寂しそうに、眉尻を下げた。
「もう、行っちゃうんですか?」
アルベールが、申し訳なさそうに、頷いた。
「あぁ。任務をしながら、やりたいことがあってね」
それから、思いついたように、教えてくれた。
「妹を探しているんだ。背の高い、桃色の髪のエルフの、女の子」
珍しい、1度みたら、忘れなさそうな外見だ。
妹を探す境遇まで、同じとは
「あたしもだ。もう一人の妹を探してる。」
「へぇ、2人いたのか」
あたしが、頷くと、ユイナが嬉しそうに、はにかんだ。
「じゃあ、キミの旅の無事と、成功を祈ってるよ」
そう言って、帽子を外して、一礼。
あたしたちも、真似て、一礼する。
「うまいうまい。」
笑って、褒めてくれた。
「ふふっ」
「えへへ♪」
あたしたちは、そろって、はにかんだ。
「じゃあ、また会おう」
アルベールが、手を振る。
「おう!」
「はい!」
彼の背中を見送ってから、あたしたちも、出立した。
◇◆◇◆◇
「次は、どこに行きますか?」
ユイナは、いつも、あたしに決めさせてくるなー。
別にいいけど。
「んー涼しいとこがいいな」
「じゃあ、エルトナ大陸ですかね〜」
ここは、とにかく暑かったり寒かったり。
散々な目にあったし。
「駅は、こっちです!いきましょー!」
「走るとあぶねーぞー」
ユイナの中で、もう決定したらしい。
駅に向かって、階段を降りていくと……
あの母娘をみかけた。
そして、切られたあの男も。
「あれ?あの方は……」
ユイナも、気づいたようだ。
あっちも、こちらに気づく。
「あぁ!探しましたよ、英雄さん!」
母親が、声をかけてくれた。
英雄なんて言われたら、こそばゆい。
「よぉ。旦那さん、生きてたのな」
「こんにちわ、旦那さま、ご無事で何よりです!」
同時に似たような挨拶をして、苦笑される。
「えぇ。もうだめかと思ったんですが……」
「まじょさまにたすけてもらったの!」
母親の言葉を、娘が続けた。
「魔女さま?」
「うんっ!ぴんくの、かみのけでぇ、せがたかいの!」
これは、驚いた。
先ほど言ってた、アルベールの探し人と一致した。
「さっきの魔法戦士さんにも話したら、すっとんでいってしまって……」
「なんと名乗っていたんだ?」
母親が、口に手を当てる。
「魔女ルティアナ様、だったかしら」
「気になることを言い残してたらしいけどなぁ」
と、旦那。
詳しく聞いてみると。
「『命が芽生えし最初の満月の夜に宝を頂戴しに行く』とか。なんのことでしょう?」
「あとで金を払えばいいんじゃないか?」
なんか楽観的な気がするが、とにかく無事でよかった。
「あのね!」
娘が、あたしに、声をかけてくる。
「なんだ?」
1枚の紙切れを見せてくれた。
それは、あたしの指名手配書。
「あたしね!おねーさんみたいに、つよくなりたいの!」
キラキラと光る瞳に、既視感を覚えた。
その姿は、エテーネのユイナと、重なった。
「そうか!」
しゃがんで、頭をなでてやる。
「でも、こっちの、おねーちゃんみたいな、優しさも、忘れちゃだめだぞ?」
「そーなの?」
首をかしげる娘。
あたしは、指を立てて、持論を展開した。
「優しさが、本当の強さなんだ」
「ふぅん?」
よく、わからなそうだ。
まあ、今は分からなくていい。
「次は、どこに向かうのですか?」
父親の質問。答えたのはユイナだ。
「エルトナ大陸です」
あっちにも、邪悪な気配は、あるそうだ。
「気をつけて、旅の無事と成功を祈っています」
あたしたちは、息ぴったりに、礼を言う。
「ありがと」
「ありがとです!」
さあ、新天地へ。
新たな大地で、あたしたちは、新しい出会いを果たす。
長くなりましたが、グレン編は、これにて終わりです!
ご愛読ありがとうです!
次は、エルトナ編、新キャラ2人出てきます
(*´ω`*)
これからも精進していきまーす!!