そこで、まず最初に出会ったのは、エルフの2人組だった。
ミュスナは、妙な因縁をつけられ、団子を奢ることになった。
アズランの酒場は、宿屋の向こう、橋を越えた先にある
酒場内には、座席が1つもなく、困惑していると、ハルカが、奥へと案内してくれた。
「ベランダみたいになってるんですねぇ!」
そこには、ちゃんと、座席があった。
すぐ近くには木々があり、風が運ぶ、そのニオイは、心を落ち着けた。
「イス低いな」
「座布団ですよ姉さん、こうして、足をたたんで」
ユイナが、背筋を伸ばして、キレイに座る。
なんとも窮屈そうだ。
「座布団も知らないのかヤバン人め」
ユイナと同じように、キレイに正座したオルセリアが、嘲笑する。カチンときた。
「その国の文化は、行って見なければ分からないものだ。笑ったら失礼だぞセリア」
ハルカも、同じく正座。
真似をしてみたが、早くも足がしびれる気がする。
すぐに根負けして、あぐらをかいた。
「いらっしゃいませ、ご注文は?」
そうこうしてると、店員が、注文を取りに来た。
「団子を4つ。ひとつは、とびきり辛口にしてくれ」
「それはキサマが食うんだぞ!私は食わないからな!」
察しのいいヤツだな。
「申し訳ありません、辛口は扱っていないのです」
「じゃあ、団子3つで」
「キサマァ!!」
おごられる立場のくせに、態度でかいな。
4つに、頼み直し、団子を待った。
◇◆◇◆◇
「ほう、姉妹で旅を」
団子を食べながら、他にする話もないので、お互いの、他愛のない身の上話をすることになった。
「コイツ、体力ないわ、どんくさいわ、で、大変なんだよなー」
あたしは、そう言いながらユイナを指さした。
ユイナは、頬をふくらませる。
「そーですけど……むぅ……」
むくれてしまった。
でも、大丈夫。こうやって……
「ほれ、ユイナ」
団子を差し出せば……
「!」
ほら、食いついた。
思ったより食われたけど。
幸せそうに咀嚼している。さきほど、むくれていたことなど、もう忘れてるだろう。
「ふふ、楽しそうでいいですね」
そんなユイナと、あたしを見比べて、ハルカが言った。
いったん、区切れる話。
「よひ!つひは、わたひたひのはなひだな!」
オルセリアが、団子を口に含んだまま言った。
「ちゃんと飲み込んでから喋りなさい」
ハルカが呆れた声で言う。
オルセリアが、喉を鳴らした。
「私たちは、幼なじみだ!」
なぜか、誇らしげに言うオルセリア。
「へえ、意外だ。兄妹かと思った」
「うんうん」
あたしの感想に、ユイナが頷いた。
姉妹の反応に、幼なじみたちは、不満そうだ。
「そんなに似てないだろう」
「そうですよ、心外です」
それから、お互いを指さす。
「私は、こんなに、ひねくれてなどいない。」
「僕は、こんなに、ひねくれていませんよ。」
見事に、はもっていた。
ユイナと、並んで笑った。
「そういう2人は、あまり似ていませんね」
「うむ、姉妹に見えないな」
ユイナが、「そうですか?」と聞く。
「うむ。利口な妹と傲慢で乱暴な姉だな」
口が減らないやつだ。
あたしは、団子を1つ取り、オルセリアに差し出す。
「ほう?己の愚かさを恥じ、自分より賢きものに献上し尽くすことで、教えをこうという訳か
そういうことなら、喜んでもらって……」
長い口上を終えて、団子を食べようとするオルセリア。
団子をくわえる、その瞬間、手元を引いた。
「う?」
目を丸くして、あたしの団子を目で追うオルセリア。
あたしは、見せつけるように、それを、口に運んだ。
「ハル、ペットは、ちゃんとこうやって躾しないとだぞ」
「誰がペットだ!この牛女!」
あたしは、なんとも思わないが、ユイナが「うっ、牛!?」とショックを受けたようだ。
「牛……」
「ユイナは、あたしよりは、牛っぽいかもなぁ」
と、あたしは、ユイナの腹をつまんだ。
「あぁ!何するんですかぁー!」
「ちょーっと、もちもちしてきたな〜」
ユイナが、握った手で、ポカポカと殴ってくる。
あたしは、謝りながら、おとなしく殴られてやる。
「まあ、躾不足は、分かっているんですがね」
「ハル……!お前まで……!」
オルセリアが、まさに、キーキーと言った感じで、ハルカに、食ってかかる。
ハルカは、耳を塞いで、苦笑している。
「うちのモーちゃんも運動させねーとなぁ」
「誰がモーちゃんですかぁ!もう姉さんキライー!」
叩く力が、少し強くなった。
叩かれるのも、疲れたので、そろそろ「ほれ」と団子を差し出す。
ユイナは、一瞬逡巡して、やはり食べた。
「……ここの団子おいしいですねぇ♪」
よし、機嫌がなおったようだ。
団子に舌鼓を打つ、ユイナにハルカは、満足げだ。
「アズランの団子はアストルティア1ですよ
……そういえば」
ハルカが、改めて、言い直す。
「お2人は、このアズランに、何をしに来たのですか?」
まあ方舟で来れるとは言え、外国だからな。
その疑問は、もっともだ。
目的は、妹を探すことだが、ややこしい。
かいつまんで、当面の目的を言う。
「キーエンブレムを貰いに来たんさ」
「ほう、英雄の証を?」
頷く。ハルカは、アゴに手を当てて、「ふむ……」と、なにかを考えているようだ
「奇遇ですね。僕たちも、同じ目的です。」
「へぇ、つまりは、ライバルか?」
挑戦的な、あたしに対して、ハルカは、静かに首を横に振った。
「いえ、協力をお願いしたいのです」
「ほう?」
土地勘のある者の協力は、ありがたい。
「それは助かるな。こちらとしても、ぜひお願いしたい」
断る手は、ないだろう。
「契約成立ですね。細かい取り決めは、後ほど、するとして……」
ハルカは、切れ長な瞳をつりあげた。
「頼みごとがあるのです」
あたしは、嘆息する。
「やっぱりか……」
そうそう、ただで、うまい話は転がっていない。
「何して欲しいんだ?」
「人探しを手伝って欲しいんです」
物事は、単直に聞くに限る。ハルカも、すぐに、本題を話してくれた。
「どんなヤツだ?」
「僕たちと同じエルフで、小柄で、あぁ、あなた方から見れば、僕らも小柄ですが……」
話が逸れましたね、とハルカは咳払いをし、オルセリアの方を見やる。
「僕らの、正確には、彼女、オルセリアの友人の少女です」
あたしも、オルセリアを見る。
こんな気難しそうなヤツに、ハルカ以外の友人が居たんだな。
「お腹……出てますかね……」
「き、気にするな!このくらいのほうが男は、好きだと本で読んだことがあるぞ!」
今は、新しい友人のフォローに必死なようだ。
「名前をフウラと言います
ここの領主の娘で」
領主の娘か。うまくいけば、それだけで、キーエンブレムをくれるだろうな。
「そうだ!早くフウラを探しに行かないと……!」
思い出したように、突然、オルセリアが叫んだ。
「団子に夢中で、忘れられるとは……。フウラとやらは、いい友人に恵まれたみてぇだな。」
嫌みを聞いたオルセリアは、あたしを睨む。
「安心してください!姉さんは人探し得意なんです!」
ユイナが自分のことのように誇らしげに言った。
人探しは得意だ。この身体のおかげで。
足跡を辿るか、ニオイを追うか。
「なにか、その…フウラ?の持ち物は、あるか?」
「ないですね。たぶん屋敷を訪ねても、彼女の部屋は、施錠されているでしょう」
オルセリアに聞いても、なにもないようだ。
「なんだ?持ち物なんか、何に使うのだ?」
「ニオイを覚えて追うんだよ」
あたしの答えに、オルセリアは嘲笑した。
「犬か!」
腹を抱えて笑ってる。なんとでも言え、この……
「うるせー餅娘。食うぞ。」
牙を見せると、静かになった。
ニオイがないとすると、足跡を追うしかないな
「なにか情報は、ねーのか?」
「この町を歩いて出ていく姿を見たとしたか……」
町には、居ないのか。
と、すると、目撃情報は、期待出来ないな。
「急いで探そう。魔物に襲われてるかもしれない。」
あたしは、3人を連れて、勘定を済まし、アズランを出た。
◇◆◇◆◇
アズラン地方は、木々に囲まれた美しい森だ。
鉄道をかけられた以外は、残してある、そのままの自然が、心を落ち着ける。
「ミュスナさん、なにか、分かりましたか?」
っと、落ち着いてる場合じゃないな。
あたしは、意識を集中しながら、地面を凝視する。
そうすると、なにか、薄く見えてくる。
しゃがみ込んで、さらに、集中する。
「……あった。」
小さな、足跡だ。人の子供か、小柄なエルフの。
「本当ですか?なにも見えませんが……」
「浅く、小さい足跡。たぶん、フウラのだ。」
少し進んで、僅かな異変を、感じ取る。
「極めて視力がいいのか…?それだと動体視力も、ずば抜けてるはずだが…興味深いな」
「ハル、うるさい」
気が散る。
ハルカを黙らせてから、よく見る。
「足跡が深くなった。強く地面を蹴ったということだな。んで、不規則。何かに追われていたのか、慌てようを感じる」
「お、追われて……!?すぐに追いかけないと……!!」
オルセリアが焦り出す。友人の安否が、心配になったのだろう。
「急ぎましょう!オルセリアさん!」
ユイナが、どたどたと走り出す。それに、オルセリアが続いた。
「おいこら、足跡を乱すな!」
せっかくの証拠が荒らされてしまう。
あたしは、声を張り上げて、叱責し、2人を追った。
◇◆◇◆◇
風泣き峠、と呼ばれる絶壁の崖に、足跡は続いていた。
追い詰められた、と見ていいだろう。
手遅れになってないことを祈りつつ、
あたしたちは、急いで、そこに駆け込んだ。
「あ、あれを!」
ユイナが指さした。その先には……
崖を背に、追い詰められた少女がいた。
巨大なナスのモンスターたちに。あれは、確か……
「ナスビナーラです!」
「そこを動くなよ!いま助ける!」
あたしは、声を張り上げて、背中の槍に手をかけた、
その時!
森の中から、影が飛び出した!
新手だと思い、そいつに槍を向けた。
「待ってください、ミュスナさん!」
ハルカに呼び止められる。
森の中から、飛び出したのは……
「ありゃあ確か町の入口にいた……」
「カムシカです!」
巨大なシカ。モンスターではない。
カムシカは、ナスビナーラに瞬く間に近づくと、立派な角で、弾き飛ばした。
ナスビナーラたちは、宙へと舞い上がり、そのまま海へと落下していった。
「頼もしいナイトがついてたみてーだな。」
ほっ、と一息。あたしは、背中に槍を納めた。
しかし、ナイトの働きは、報われなかった。
「なんで余計なことをするの!?」
エルフの、少女、フウラは、助けてくれたはずのカムシカを怒鳴りつけたのだ。
「大ッキライ!」
あろうことか、手にした、変なぬいぐるみを投げつけた
「あ……っ」
ぬいぐるみは、カムシカに当たり、跳ね返り、海へと、落ちる……
寸前を、見事な動きで、カムシカが、道無き道を飛び跳ね、落ちるぬいぐるみをキャッチし
「う……」
フウラの前に、持ってきて、頭をたれた。
フウラは、目の前に置かれたぬいぐるみを拾い上げ、そっぽを向いてしまう。
カムシカは、少し寂しげに俯いてから、その場を離れた
「あ……オルセリアに、ハルカさま!」
それから、こちらに気づいた。
「大丈夫か!?フウラ!!怪我はないか!?」
駆け寄るオルセリア。そのあとを、落ち着いた足取りでハルカが続く。
「無事でなによりです、フウラさん」
お前は、どんくさいんだから!とオルセリア。
オルセリアほどじゃないもん!とフウラ。
蚊帳の外のあたしたち姉妹だが……
「あの、そちらの方は?」
気づいてもらえたようだ。
「ランガーオのミュスナだ」
「同じく、ユイナです」
自分の腿くらいの身長しかない、フウラを見下ろす。
フウラは、なんだか、居づらそうと言うか、気まずそうだ。
「……助けてくれたカムシカに、あんな態度をとって、ひどいヤツって思ったでしょう?」
なるほどな。
ユイナは、あわてて、両手をふった。
「いあいあ!そんなことないですよ!?」
「恩知らずは、お前のためにあるような言葉だな」
全く正反対なことを言う姉妹に、フウラは、複雑そうな表情を浮かべた。
「正直なんですね、えっとランガーオのミュスナさん?」
「オーガは気を使えるほど繊細な種族じゃないからな」
「もう!姉さん!」
気に入らないと悪態をつく悪癖を、ユイナが、たしなめる。
「ごめんなさいね、悪気はないんですよ……たぶん…」
最後の、消え入りそうなたぶん、が、なんとも頼りなくしている。
「大丈夫です、事実ですから」
フウラは、影のある表情で、うつむく。
これは、何かあるな……。
だとしたら、少し悪いことをしちゃったな。
「さあ、町に戻りましょう、フウラさん」
気まずい空気を、ハルカがうまくまとめた。
オルセリアは、フウラのとなりに並び、なにやら説教をはじめた。
風泣き峠にある、墓石が気になった。
わざわざここまで来たんだ、墓参りしたかったのかもしれない。
「……せっかくここまで来たんだ、墓参り、していこーぜ」
あたしが、提案すると、フウラが、嬉しそうに了承した
あたしたちは、それぞれ、墓の前で、手を合わせてから風泣き峠を後にした。
アズランの団子は、3色味、醤油味、ナスビナーラ味が選べます