一見うまい話だったが、そういうものには、何かしら、条件がつくのがお約束だ。
幸いそれはミュスナが得意とする人探しの部類だった。
オルセリアの友人である少女を搜索してくれとのことで
彼女は、すぐに見つかった。
ミュスナは、少女を家に帰し、彼女の父親から、報酬を受け取るのだった。
「さすが領主サン、金出しがいいなー」
アズラン領主、タケトラ。その屋敷の帰り道、
あたしは、ニヤケ顔が抑えられなかった。
手には、ずっしりと、金色の素敵なご褒美があったからだ。
「もう、最近、姉さん、がめついんじゃないですか?」
ユイナは、少し呆れ顔だ。まあその気持ちは分かる。
「領主相手にあそこまで食い下がって報酬を釣り上げるとは、全くみっともない。」
オルセリアが言った。まあ、確かに少し無理に釣り上げた感は、あるが……
「貰えるもんは、貰わないともったいねーだろーが」
団子で使った金は、倍以上になって戻ってきた。
団子のおかげで、ありつけた依頼だ。いいことは、するものだ。
「よしユイナ、服買ってやるよ」
「! ほんとですか!?」
ユイナの表情が弾けるように輝いた。
できるだけ良いものを買って、彼女の安全を確保しなければ。
「バザー行きましょう!バザー!」
「引っ張るなよ。ハルーちょっと行ってくるなー」
あたしは、ハルカにそう言い残す。
「では、酒場で待ってます。そこで領主に言われた追加の依頼について話し合いましょう」
「……あぁ。そんな話してたっけか。」
そういえば、そんなことを言われていた。
キーエンブレムの授与も、考えていいと。
「金のことで、頭がいっぱいになって忘れてたな」
ハルカは、頭を抱えて、小さくため息をつく。
「妹想いなんですね」
いまの会話の流れからなんでそーなるんだよ。
まあ確かに、ユイナに買ってやりたいから、釣り上げたんだが……
「そんなんじゃねーーーよっ」
こういう反応をすると、かえって、そう見える。
分かっては、いるけど、つい口を出るんだよなぁ
「早く行きましょうよ〜、姉さん〜」
「ほいほい、んじゃ、あとでな」
自分でも分かるほど、ニヤついてたが、見られないように、あわてて、ユイナについていった。
◇◆◇◆◇
買い物を終えて、酒場に行ってみると、なにやら揉めるような声が聞こえた。
ユイナには、まだそれが聞こえてないようだ。
「みてくださーい!みかわしの服だそうです!
帽子が、かわいいでしょー♪
姉さんの新兵支給の鎧もぴしっ!としてて……」
新しいローブに、はしゃぐユイナが、2人が待つ客席へと、駆け寄る。
だが、彼女を迎えたのは、殺伐とした雰囲気だった。
「落ちこぼれのオルセリア!もうメラは使えるようになったのかなー?」
客席にいたのは、オルセリアとハルカ。そして、その2人を取り囲むように、3人のエルフたち。
あたしたちは、思っていたのと違う歓迎に、しばし、立ち尽くす。
「……っ」
オルセリアの性格なら、2倍の毒舌で言い返してきそうなものだが……
うつむいて、沈黙してしまっている。
「ねーえ? ハルカくーん? オルセリアは、メラくらいできるようになったのー?」
語尾を必要以上に高くした、癪に障る言い方だ。
ハルカは、冷静な声で、答えた。
「まだだ。安定には、程遠い。」
オルセリアは、魔法使い、それも卵なのか。
メラといえば、初歩中の初歩のはずだが……
「聞いたぁ!? まだメラも出ないんだってぇ!!」
3人の少女の甲高い笑い声が、響き渡る。
オルセリアは、拳を震わせて、うつむいている。
「だが、今は、の話だ。」
そんな中、ハルカは、相変わらず静かな、なのに、よく通る声で言った。
「この僕が教えているんだ。必ず、出来るようになる。セリアの潜在能力は、僕が認めている。」
オルセリアの震えが、止まった。
「君ら程度は足元にも及ばない大魔導師になるだろう、今のうちに、いじめておくといい。」
いじめておくといい、って……
助けてるんだか助けてないんだか……
「ちっ……行くわよ」
が、効果は、あったようだ。
いじめっ子たちは、舌打ちして、去っていった。
ヤツらを追い払ったところで、ハルカが、あたしたちに気づいた。
「……ミュスナさん、お見苦しいとこを見せてしまいましたね」
微妙な空気が流れる。
オルセリアは、うつむき、ハルカは、困ったように、微笑んでいる。
「い、いえ!いま来たところですよ!?なにも見てません!なにも!」
ユイナの言葉に、場は余計凍りつく。
ユイナの、優しさは、時として裏目に出るな。
こういう時は、うまく流すか……
あたしは、オルセリアのとなりに座る。
「お前、えらそーにしてるくせに、いじめられてんのか?」
茶化してやるのが、1番だろう。
しかし、効果は、薄いようだ。
「……黙れ」
オルセリアは、うつむいたまま、言った。
普段なら、それはヤツらに言ってやれと、言いたいが、少しかわいそうだ。
あたしは、オルセリアの二の腕をつかむ。
「しゃべれねーなら殴ってやりゃあいい。
こんな細い腕じゃ、難しいけどな」
むにむに、と揉む。
「離せ!」
オルセリアは、あたしを睨んで、ふりほどいた。
軽い力だったが、離してやり、「おー怖っ」と、大げさに言ってから、
頭に、ぽんっ、と手を置いた。
「その意気だ。」
オルセリアは、慰められたのが、分かったのか。
それが悔しかったのか、頬を、赤く染めて……
「黙れ!」
と、力強く、目を合わせて言った。
怒らせたが、いい気付けになったようだ。
「もういい!ハル!仕事の話をするぞ!この話は禁止だ!」
「はいはい」
強引にまとめられ、ハルカも、苦笑している。
ユイナが、あたしの袖を引いた。
「姉さん姉さん」
「ん?」
抱きしめたくなる優しい微笑みで、こう続けた。
「優しいですね」
あたしは、指先で、頬をかいた。
「湿気たツラが嫌いなだけだ」
ユイナは、「はいはい♪」と分かってますよ、と言いたげだ。
頬をぶにぶにしてやろうと思ったが、仕事前だ。許してやろう。
あたしは、オルセリアに目をやる。
「フウラのためだ!ぜったい!やりきるぞ!」
「当然だ。」
気分は、変えられたようで、何よりだ。
◇◆◇◆◇
領主、タケトラの追加の依頼は、あたしにとって、都合のいいものだった。
風乗りになる領主の娘、フウラ。その手伝いをしてほしいとのことだった。
風乗りというのは、この町の守護者のようなもので、
この町に良い風を吹かせる者らしい。
風乗り不在の現在のままでは、悪い風が、吹き続け、
町をあっという間に、衰退させてしまうらしい。
エルフというのは、つくづく、難儀な種族だな。
「フウラは、やっと、風乗りになる決意をしたんだ!
友人の、この私が、その背中を押してやらねば!」
オルセリアは、かなり燃えているようだ。
「友人、ですか? 使い魔、じゃなくて? 」
ユイナが、茶化す。オルセリアは「うっ!」と言葉に、詰まる。いや、いいじゃん友人で。
「報酬にキーエンブレムを頂けるとは、幸先いいですね」
ハルカも、満足そうだ。
キーエンブレムなんて、役に立たなそうなもの、どうするんだろうな。
「ハルカさん、キーエンブレムなんてもの、どうするんですか?」
あたしの疑問を代わりに聞いてくれたのはユイナ。
ユイナは、こういったことを、ずかずか聞いてしまう。
時として嫌がられるのだが、ハルカは、快く教えてくれた。
「僕は、この町、いえ、国を出るんです」
それとキーエンブレムと、どう関係するんだ?
あたしの疑問とは、裏腹に、ユイナは、得心いったようだ。
「なるほど!大陸鉄道パスをもらうためですね!」
確かに。英雄の証なんて持っていたら、少し貴重なパスくらい、発行したくなるだろうな。
「物欲的な英雄も、居たもんだな」
「いつの時代も、英雄とは欲深いものですよ」
あたしの皮肉も、ハルカは、うまくかわす。
皮肉に気持ちいい反応をしてくれるオルセリアは……
「そうだな…、早く、キーエンブレム、もらわないと…だな。」
ハルカが、この国を、出る、と言ってから、目に見えて落ち込んでしまっている。
今知った、というより、思い出した、と言った感じだ。
「……私、ちょっと外の空気、吸ってくる」
オルセリアは、落ち込んだまま、席を立ってしまう。
ハルカは、眉根を寄せる。
「……? 彼女、僕がこの話をすると、あんな感じなんですよ。いつも。なんででしょう?」
「え?お前それマジで言ってんの?」
ハルカは、きょとん、とした表情で、「おかしいところでも?」と聞き返してくる。
「姉さん、これって、もしかして……!?」
ユイナが、耳打ちしてくる。もしかしなくても、そーだろ。
「まあ、だろーな」
「きゃー!」
なにアゲアゲになってんだ。
あたしは、><な顔になってるユイナに軽くデコピンする。
「余計なことすんなよ、ガキの惚れた腫れたに付き合ってるほど、暇じゃないんだからな」
「えぇー」
他人の色恋に首突っ込むほど、愚かで無駄なことはない
決して自分に縁がないから、ひがんでるわけじゃないぞ
「では、仕事の話の続きですが……」
「あ、はい!」
ハルカが、話を戻し、ユイナが聞き入る。
あたしは、オルセリアが気になった。
たぶん、まだ、いじめっ子が、そのへんにいるはずだ。
何もなきゃいいが……
一応、あたしは、そっと、酒場を出て、オルセリアのニオイを追った。
◇◆◇◆◇
私は、魔法が大の苦手だ。
勘違いするなよ?使うことは出来る。
メラでもイオでもヒャドでも、すぐ出来た。
普通は、呪文書を読み込み、真理を理解し、初めて使うことが出来るようになるという。
しかし私が、すぐに出来た。本当に、すぐにだ。
昔、家で、親の真似をしたんだ
呪文書を読むまでもなく、見様見真似で、言った。
「メラ」
私が、2歳のときだ。
そうすると、どうだろう。驚くべきことが起きた。
私の初めて放ったメラは、私の家を焼き尽くした。
巨大すぎたのだ。
今も廃墟だ。
ヒャドは、周りを真冬みたいにした。
イオは、友達すべてを吹き飛ばした。
大人たちは、私を神童と呼んだ。
そして、友達は、私を化け物と呼んだ。
子供にはありえない魔力量なんだそうだ。
生まれていきなり戦闘力1万とか、そんな感じ。
今も、増え続けている。大人たちも、次第に化け物と、呼ぶようになった。
寂しかった。化け物と呼ばれ、いじめられた。
私は、化け物なんだから、周りは全部、使い魔。
使い魔は、友達には、できない。
それでいい。私は、悪魔の姫だ。
そんな私に、本物の神童が、声をかけたのだ。
「キミの魔力量に興味があります。研究させてください」
そいつは、学び舎1番の秀才だった。
私は、そいつに、こう言った
「近づくな、殺すぞ」
すると、そいつは、こう言った。
「キミごときに、やられません。」
だから、私は、こう言った。
「化け物だぞ、私は」
そいつは、こう言った。
「僕は天才です」
自分で言うかそれを。
私は、久しぶりに、笑った。
すると、そいつは、言ったんだ。
「笑った顔は、化け物じゃないんですね」
この時、微笑んだ顔は、忘れられない。
「かわいらしい、ただの問題児だ」
そいつは、それから、ハルカと名乗った。
女みたいな名前だ、と言うと、こう怒ったけど。
「ハルカが男の名前で何で悪いんですか、僕は男ですよ」
けっこう、本気で、怒っていたので、禁句になった。
私は、初めて、自分から名乗った。
「オルセリア」
ハルカは、最初から、こう呼ぶんだ。
「長いですね。セリアと呼びます。」
私をセリアと呼ぶのはハルだけだ。
それが、なんとなく嬉しいんだ。
「ハルって、呼んでください。よろしくセリア」
差し出された手は、華奢すぎて、私のそれと、あまり、変わらない。
「う、うむ。よきにはらかえ」
覚えたての言葉を、適当に言った。
ハルは、苦笑して、訂正した。
「良きにはからえ、ですよ」
私が、彼に依存するようになるまで、そう時間は、かからなかった。
……だが、ハルは、もうすぐ旅に出る。
そうなれば、滅多に会えない。
フウラは、風乗りの仕事があるし、ユイナだって、あのいけすかない姉と、旅に戻るだろう。
この旅が、終われば、また1人になってしまう。
だから、強くならなきゃいけない。
1人でも大丈夫って、ハルを送り出したい。
こんな、いじめなんかに、屈してる場合じゃない。
◇◆◇◆◇
オルセリアを見つけた。案の定、絡まれている。
「ほら!メラやってみなよ!落ちこぼれ!」
囲まれて、肩を押されたり、蹴られたり、
けど、オルセリアは、膝を折っていない。
「なんかいいなよー?ねえねえ?」
本当に、危険になるまで、見守ろう。
彼女にだって、プライドがある。
「ハルカくんも、バカだよねー、こんなのに付き合って、人生無駄にしてさー」
それが、地雷だったようだ。
オルセリアの周りに、緊迫した空気が、はりつめた。
あたしに、魔力は、分からない。
「私が、ハルの、無駄……?」
そんなあたしにすら、分かるほど、強大だった。
強大な力が、オルセリアの周りで、渦巻いている。
「そうだ、わかってる、私は、ハルの無駄で、邪魔なんだ」
すべて、吹き飛ばす。
はりつめた空気が、はじけ飛びそうな、その刹那。
オルセリアの眼帯が、光った。
眼帯に浮かび上がった紋章は、あとで、ユイナに聞いたら『マホトーン』呪文を封じる印らしい。
彼女の魔力が暴発しないように、誰かが、つけた呪具なのだろう。
強引に、力を押さえ込まれたオルセリアは、たちまち、膝から崩れ落ちる。
それで、さっきまで、怯えていたいじめっ子は、逆上した。
「びびらせやがって……!おい!」
友人たちに指示し、オルセリアの脇を持ち強引に立たせる。
「メラを教えてあげる。身体に直接ね!」
加減すれば死にはしない!いじめっ子は、そう叫んで、呪文を唱えた。
「メラ!」
あたしは、オルセリアの前に、躍り出て、
その小さな火球を、素手で、捉え、
握りつぶした。
「あちちっ」
手をぶんぶん振る。場の空気が、凍りつく。
突然、現れたデカイ鎧のオーガの女。
立ち尽くすエルフたち。
「誰よ……あんた……?」
あたしは、後ろにいるオルセリアを、振り向かず、親指で指さす。
「こいつの使い魔。」
それから、指を鳴らす。
「……失せろ羽虫ども。」
いじめっ子たちは、蜘蛛の子を散らすように、逃げていった。
◇◆◇◆◇
こいつ、なんで、私を助けたんだ?
「おい、餅娘」
しゃがんで、目線があう。
ひぃ、顔こわい
「た、たすけ、なんか……」
額に、軽い衝撃が走った。
「びゃぁ!」
こ、こいつ!デコピンしやがった!
「めそめそしてんなよ、ったく……。あーいてぇな」
手を軽く火傷している。こいつ、いつも、こんな助け方をしているのか……。
「1つ借りな。今度団子奢れよ、餅」
今度……、あんな近くにいた、ということは、私のあの力を見ただろうに……
「お前は、私が怖くないのか?」
その問に、ミュスナは、にひひ、と笑った。
「餅が怖い鬼がいるかよ」
あたしのが、つえーしな。と付け足す。
「強い弱いの基準しかないのか?ヤバン人め」
「ないねー、頭ワリーから」
私は、思ってることと、逆のことが口に出る。
気持ちだけは、思っておこう
……ありがとう、ミュスナ。
いじめっ子ムカつく!