オルセリアは、特殊な体質により、いじめられていた。
そのあと語られたハルカの、目的。
1人、国を出て、旅をするという。
オルセリアは、1人、酒場を出た。
そこに追い討ちをかけるように、待ち伏せた、いじめっ子たち。
間一髪のところで、彼女を救ったミュスナのはだった。
ハルカさんが、キーエンブレムをもらったあとの、目的を語ると、
オルセリアさんは、逃げるように、酒場を出ていってしまい……。
姉さんも、追いかけるように、フラリと酒場を出ていった。
「……この話をすると、いつも、どこかに行ってしまうのですよね」
ハルカさんが、複雑そうな表情で言った。
なぜ、逃げてしまうのか、分かってるようだった。
「オルセリアさんも連れて行って差し上げればいいのでは?」
それこそ、わたしのような、行きあった人間が、口を出していい話ではないけど、
2人の表情を見ると、口を出さずにはいられない。
そして、ハルカさんは意外にも、即答した。
「僕は、そのつもりなんです」
驚きを隠せないまま、「だったら!」と続ける、わたしを静かに遮り、ハルカさんが続けた。
「ですが……、こうも思うのです」
それから、ハルカさんは、自分の気持ちを整理するように、1つ1つ、語り出した。
「僕が、あの子に興味を持ったのは、あの魔力量。
エルフの範疇すを超えた、あのチカラに興味を持ちました」
つまり、知的好奇心。
それは、わたしも、旺盛だから、わかる。
「僕は、所詮……、自分で言うのは何ですが、秀才というやつです。
呪文の理解がいいだけ。」
魔力量は、至って平凡。
ですが、とハルカさんが続けた。
「あの子は、生まれついての天才です」
天才。
それは、優秀な人間ほど、わかる、才能の差。
決して埋められない、高い高い壁であり、溝だ。
「あのチカラを使いこなせれば、歴代最強の魔法使いも夢じゃない」
ハルカさんの表情は、輝いていて、言葉は、熱かった。
興味をそそるものや、自分の得意分野の知識だと、わたしたちは、こうなる。
けど……、それは、あくまで……。
「そう、僕の目的なんです」
オルセリアさんがチカラを使いこなし、自分は、それを研究し、学会に提出する。
それは、ハルカさんの、目的であり、幸せ。
「セリアのとっての、幸せが、そこにあるのでしょうか……」
やっぱり、悩ましいのは、そこなんだ。
「きっと、ありますよ」
ただの研究対象に、こんな想いはしない。
オルセリアさんの幸せは、きっと、ハルカさんのそばにいること。
「だと、いいのですが……、
ときどき、思うのです」
きっと、オルセリアさんの、幸せが、ハルカさんのそばにいる。
ただそれだけでいい、というのが、彼には分からないのかな。
「魔法など、関わらず、平穏に、あの眼帯をつけていれば、何事もなく幸せになれるのではないか、と」
あの眼帯には、魔力を感じる。
きっと、ハルカさん特製の、魔法具なんだろう。
「僕が、あの子の幸せを、邪魔しているのではないか……ってね。」
ハルカさんが誘えば、オルセリアさんは、喜んでついていくだろうけど、
ハルカさんには、それが無理をさせてるように、見える
「だから、言い出せないのですね」
ハルカさんは、小さく頷く。
きっと、ハルカさんも、オルセリアさんにたいして、知的好奇心以上の感情を持っている。
でなきゃ、その幸せを願ったりしない。
「哀しい、すれ違いですね……」
オルセリアさんも、きっと同じ気持ち。
けど、彼女は絶対素直にならない。
それは、ハルカさんも、同じ。
似てないようで、とても似ている2人。
わたしには、うまく気持ちが伝わることを祈ることしかできなかった。
◇◆◇◆◇
「ふーーん」
オルセリアの長話を、腕を組んで、そう、相槌を打った
オルセリアは、それが不服だったようだ。
「ふーーん……って、それだけか?」
唇を尖らせ、眉根を寄せる。
そんな顔するなよ、他になんと言えと言うんだ。
「悲劇的な恋!ミュージカルみたいです!
とか言えばいいのか?」
ユイナの声真似をして、言ってみた。
それをオルセリアは、鼻で笑う。
「今の、もしかしてユイナか?
だとしたら女優は絶望的だな。
朝のニワトリのほうがマシな演技をする。」
オルセリアの毒に、うるせぇ、と毒づく。
「いじめっ子の前じゃ、冬のナマズみたいに大人しいのに、
あたしには、それか?大女優め」
オルセリアは、いじめっ子のくだりを見事、スルーする。
「私に不可能は、ないのだ。」
と言って、オルセリアは、腕を組んだ。
それから、神妙な声で、聞いた。
「あまりヒトに話したことないのだが……、どう思う?」
「どうって?」
オルセリアは、深くため息をついた。
「演技力だけでなく記憶力も残念なのか?
ハルの話だ」
まあ、それは分かってる。
困ったことに、あたしは、こういうのに対して、答えを持ち合わせていないのだ。
「あたしに、色恋沙汰は、わかんねーよ」
色恋沙汰、と聞いたオルセリアは、過剰に反応する。
「そんなのじゃあない!」
顔を真っ赤にするオルセリア。ハルカが聞いてるわけでもないのに、なぜそこまで
「もし聞かれたら、どうするんだっ」
あぁ、なるほど。オルセリアは、声をひそめる。
「……まあ、仮に…!恋愛感情とするだろ!?」
「仮にじゃないだろ」
「うるさい!黙って聞け!鬼女!」
オルセリアは、1つの設定を提示した。
「もし、お前の好きな人が、旅に出るとする!
お前は、ついていきたいとする!」
「好きな人、ユイナでいい?」
「なんか違う気がするな」
親愛と恋愛は、大差ないんじゃないか?
よくわからんけど。
「まあ想像しやすいほうが、いいしな…
ユイナが旅に出るとしたら、どうする?」
「問答無用で、ついていく」
即答に、オルセリアは、目を丸くした。
「だ、だめと言われたら……?」
「問答無用って言ったろ?」
オルセリアは、ため息をつく。
それから、なぜだ?と聞く。
「好きだから。心配だから。」
もう、と言いかけて、抑え込む。
詮索されるようなことは、言うもんじゃない。
「失いたくないから、だな」
もう、失いたくない。
行って、戻って、居ないのは、悲しすぎる。
「……それだけか?」
あたしは、肩を竦める。
心からの疑問だ。
「それ以外、必要か?」
オルセリアの息を呑む音が聞こえる。
それから、かすむ声で、続けた。
「自分の存在が……、その人の邪魔になるとしたら……」
それでも、ついていくか?と聞かれる。
「行きたいなら、行くべきだろう」
足手まといになりますが、ついていきたいです。
強くなりたいんです。
ユイナは、あの日、そう言った。
あの子は言えた。あたしは、答えた。
だから……
「せめて、気持ちは、ちゃんと伝えるべきだ」
言わなきゃ分からない。
簡単だけど、難しいことだ。
「そんな簡単な話じゃないっ」
特に、オルセリアにとっては。
◇◆◇◆◇
酒場に戻るなり、オルセリアは、大丈夫だったか?と心配してくれたハルカに突っかかった。
「ハルがイチャイチャしてる間に、絡まれたが、なんの問題もないぞ」
下手な嫌味だったが、ハルカは、眉根を寄せた。
「仕事の話をしていただけだ」
「そーですよ!イチャイチャなんかしてないから、ハルカさんを睨まないで姉さん!」
睨んでないよ、なんだとコラって思っただけだよ。
オルセリアは、腕を組んだまま、そっぽを向く。
「ふん、どーだかな」
「……」
2人の間に、微妙な空気が、流れる。
オルセリアが、何をしているのか、わかった気がした。
「2人とも、どうしたんですか!
本当に、なにもないですから!ね!?ハルカさん!」
ユイナは、必死に下手なフォローを入れる。
そう言うと、なんかあったように聞こえるぞ。
「なにを怒っているんだ?」
ハルカが、オルセリアに尋ねる。
オルセリアは、そっぽを向いたまま、言った。
「別に。」
冷めきった声から、小さな悲鳴を感じた気がした。
……わかった。こいつ、ハルカに嫌われようとしている。
それは、もっとも愚かで、悲しい選択だ。
「早く仕事を終わらせて、旅に出たいのだろう?」
その言葉の裏には、「1人で。」と潜んでいるのだろう。
ハルカは、頷いた。
「あぁ。急ごう。」
微妙な空気のまま、あたしたちは、アズランを出た。
◇◆◇◆◇
「どーしちゃったんでしょぉ……?」
まず、歩いてイナミノ街道の山間の関所に向かう、あたしたち一行。
その道中、ユイナが、小声で訪ねてきた。
「子供の痴話喧嘩だろ、口出さないほうがいい」
あれは、オルセリアが考えて、決めた、自分の意志だ。
どんなに愚かな選択でも、尊重するべきだろう。
「ユイナさんは、呪術や霊関係に詳しいそうですね?」
ハルカは、さっきからユイナに話しかけている。
「はい!専門家!です!」
「僕も興味がありまして、少し教授、願えますか?」
「……! はい!専門家!ですからね!教授します!」
専門家、を、やたら言い張る。オタク呼ばわりを、まだ気にしていたようだ。
お互いの知識で、盛り上がる2人。
なかなか気が合うようだ。
「……ふん」
その様子を見て、オルセリアが不機嫌そうに言った。
さっきのは、演技だったが、今回のは、本音っぽいな。
「どーした?嫉妬か?」
ニヤニヤしながら、小声で聞いてやる。
オルセリアは、そっぽを向くが、小さく頷いた。
「我ながら、めんどうくさい女だと思う」
「それ、めんどうくさい女の常套句だな」
オルセリアが睨んでくる。
まあ度を過ぎなければ多少の嫉妬は必要だ。
「仕方ないだろ。……言葉と違って、気持ちはウソをつけないのだから……」
オルセリアは、寂しげに、言った。
「……それに、好都合だ。」
そう、静かに続けた。
無理をしているのが、手に取るように分かった。
「ユイナさんは、本当に物覚えが、いいですね」
「オーガが全員、姉さんタイプだと思わないでください♪」
少し話すだけで、ハルカの魔法理論をすっかり覚えてしまったユイナ。
……って、誰が姉さんタイプだ。
「物覚えが悪くて、悪かったな。」
会話に割り込むように、オルセリアが言う。これは、なかなかウザイ。
「……そんなこと、言ってないだろう」
水を差されたハルカが、不機嫌そうに言う。
ユイナは、少しオロオロしてから、あたしのところに、逃げてくる。
「ど、どど、どうしましょう姉さん……」
「さあな、あたしタイプのオーガには、難しい問題だ」
う、聞こえてたんですか……と、ユイナ。
あたしは、物理的に数理先の悪口をも聞き取る。結構、つらい。
オルセリアとハルカは、にらみ合い、互いに、そっぽを向いてしまう。
「さ、さあ!もうすぐイナミノ街道ですよぉ!」
ユイナが無理に盛り上げる。その努力は、虚しく効果なく終わるが、あたしだけは、頭をなでてやった。
◇◆◇◆◇
今日は、山間の関所で、泊まることに。
小さなテント張りの宿屋で、もうハルカさんと姉さんは、眠ったみたい。
あとで気付いた、姉さんの手の怪我には驚いたけど。
また無理して……。
「アツアツのバカップルをムカついて、ぶん殴ったら
本当に熱かったんだ」
とか、訳の分からないことを聞きながら、治療してあげる。
キレイに治って、良かった。
「ありがとな」
姉さんは、そう言って、頭をなでてくれる。
わたしは、それが昔から大好きで……
「……おや?」
なんて思案にくれながら、テントの宿屋を夜空を見に出ると、
明かりがついていた。
テントのすぐそばにある、机。
そこのランプが、ついていた。
そこに、居たのは……
「オルセリアさん!」
背後から、突然名を呼ばれたオルセリアは、ビクンっと跳ね上がる。
おそるおそる、振り返る。
「……ユイナか。」
安堵したように、一息つく。
手には、羽ペンを持っている。
「何してるんですか?」
「ん、午後の授業の復習だ」
オルセリアさんが、なにかを書き込んでいるノートを見てみると、そこには……
「これは、わたしが、ハルカさんとのおしゃべりの時に聞いた、魔法理論ですね」
「うん、一応、メモ取ったから」
それを、まとめてるみたい。
どうして、こんなことをしてるのだろう?
「こうして、自習して、覚えると、褒めてくれるんだ」
なんとも幸せそうな表情で、わたしの疑問を満たしたくれた。
「それが、嬉しくて、こうしてメモと、まとめ、が、クセになったのさ」
「なるほど〜」
よくよくみると、少し間違いに気づく。
そこを指差し、訂正する。
「……聞いただけで私より理解してるとは……」
複雑そうなオルセリアさん。
わたしは、弱々しく笑う。
「まあ、いい。せっかくだから、教えてくれ」
「喜んで♪」
寝るの、遅くなったけど、星空の勉強会は、わたしの、大切な思い出です。
暖かく、見守ってあげてくださいm(*_ _)m