見た目通りの怪力に1行は苦戦を強いられたが、辛くも勝利を収める。
無事、『かぜのころも』を入手するハルカ。
タケトラに献上し、キーエンブレムを授与されるのだった。
アズランに運び込まれるように戻ってきて、翌日。
あたしは、経過を看る必要があるということで、すぐには治してもらえず、今は腕を吊っている。
ので、オルセリア、ユイナと、休みがてら、アズランに滞在することになった。
「……あーもう」
約束通り、オルセリアの奢りで、酒場で舌鼓を打っているのだが、利き腕をケガしてるせいで、うまく運べない
「姉さん〜、遠慮しないでくださいよ〜」
左手で、箸とやらが、うまく使えず、悪戦苦闘する、
あたしを、ユイナが見兼ねて言った。
「やだよ、介護じゃないんだから」
妹に食べさせてもらうなど言語道断である。
「ならそこで、閉店まで苦戦しているがいい
私の奢りを無駄にするがいい」
オルセリアが、なぜか、勝ち誇った顔で笑う。
頭にきた、あたしは、ムキになる。
「……っ! ……あっ…!」
震える手で、魚の切り身を掴んだものの、こぼしてしまう。
我ながら情けない声が出た。
「そんな声が出せるのかー!愉快愉快
あー魚うまい!魚うまいなぁ!?」
こいつ……図に乗りやがって……
左手でアイアンクローしてやりたいが、テーブル越しじゃ逃げられてしまう。
「ほら、姉さん、あーん♪」
横を見やると、ユイナが自分の箸で、魚を切り身を、あたしに差し出していた。
「……んー」
逡巡する。
いい加減、腹減ったし、食べたいが、これでは、オルセリアに屈したような……
「もうっ」
ユイナは、ぐいっ、と押し付けてくる。
意外と気が短いヤツだな。
「あー」
根負けする。
ユイナは、そこに、ほいっ、と、魚を入れてくれた。
「美味しいですか?」
「んまい」
さりげに骨をしっかり取ってくれている。
「米くれ、米」
「はいはい」
1度されれば、あとは順応するだけだ。
あたしは、大口をあける。
「……エルトナのメシもうまいなー」
「ですよね!あっさりしてて、いいです♪」
ユイナは、好き嫌いがないのか、と言うほど、選り好みせず、よく食べる。
「ふん、仲がいいことだ。お前ら、もう結婚しろ」
オルセリアが、呆れたように言った。
その目には、しっかりと、あの眼帯がついている。
「確かに……男にやるくらいなら、あたしが……」
「不束者ですが……」
ユイナが、深々と頭を下げる。
けっこー、洒落が通じるんだな。
「バカ言ってないで、もっとメシ〜」
「もう、大きい赤ちゃんですね〜」
ユイナのヤツ、完全に勝ち誇ってやがる。
ユイナのくせに。
ユイナは魚を切り身をとり、あたしに、差し出し……
口を開けさせてから、手元に引いて、自分で食べてしまう。
「ん」
「ふふふ、おいしーです♪」
完全に調子に乗ってやがる。ユイナのくせに。
あたしは、左手で、ユイナの両頬を掴む。
「悪い口だな、このやろー」
「ほ、ほぇぇ〜…!」
タコみたいな口にされるユイナ。なにか言ってるが、タコ口じゃ、ちゃんと言えないようだ。
「う〜、怪我人は、おとなしくしてください!」
「じゃあ。ちゃんと看病してくれよ」
アイアンクローから逃れたユイナが、抗議の声をあげる
「だって、こうじゃないと、わたしが上になれないんですもん〜」
唇を尖らせるユイナ。
「ほう?誰が上だって??」
再び、アイアンクローをちらつかせる。
ユイナは、ささっ、と後ずさった。
躾は、しっかりしないとな。
「……ハルカ、どこ行ったんだろうな」
上下関係を教え込む、あたしたちを遮ったのは、オルセリアだ。
ハルカのヤツは、キーエンブレムを受け取るなり、さっさと、行ってしまった。
「もう、行ってしまったのだろうか……」
挨拶もなしにか。それは、ないと思うが……
「……大丈夫ですよ。」
不安にかられるオルセリアに、ユイナが優しく語りかける。
「彼は、必ず戻ってきます。」
不思議な説得力とは、こういうものを言うのだろう。
「……そう、だな。」
オルセリアも、なんとなくだが、落ち着いた。
そのとき、あたしの耳が、足音を捉えた。
「噂をすれば、……ってヤツだな。」
この足音は、ハルカのモノだ。
足音は、酒場に入ってきて、オルセリアの表情が、輝いた。
「おまたせしました。手続きに、意外と手こずりまして……」
役所に行ってたらしい。どこの世界でも、たらい回しにするんだよな、あそこは。
「手続き?」
オルセリアに聞かれ、ハルカは、それを、懐から、取り出した。
「これですよ。」
取り出したのは金の豪華な手帳、大陸鉄道パスだ。
それを見た、オルセリアの表情が、曇った。
「ん、そうか…」
確かに、ひどく悲しそうだが、
前の時のような、冷たさは、感じない。
「ハルカさん……っ!」
ユイナは、なにか、後押しするように、勇気づけるように、ハルカを見ていた。
その表情は、雄弁に、がんばれ!と言っている。
「……」
オルセリアを見やる。
震えながらも、すべてを受け入れようとしている。
これは、見守るしか、ない。
「……ハル」
最初に沈黙を破ったのは、オルセリアだった。
今にも泣き出しそうな顔で、必死に笑っていた。
「今まで、ありがとうな」
絞り出したか、のような、か細い……が、チカラ強い声。
「私には、これがある。
……もう…、大丈夫だ。」
そう言って、オルセリアは、自分の眼帯に触れた。
再び、訪れた、長い長い、沈黙。
呼吸をする音すら、申し訳なく思えてくる、そんな空間
それを打ち破ったのは、今度は、ハルカだ。
「……なにを言っているんだ?」
そう言って、彼は……
「これは、キミの分だぞ」
大陸鉄道パスを、オルセリアへ向かって、放り投げた。
オルセリアは、反射的に受け取り……
「……え?」
困惑してるようだった。
ハルカは、オルセリアに確信を与えてやる。
「キミも、エルトナを出るんだ。
……僕と一緒にな」
え?え?と、何度もオルセリアは、繰り返した。
ユイナも、あたしも、苦笑するばかりだ。
「わ、私か……!?」
パスを握りしめ、信じられない……!といった表情の、オルセリア。
「他に誰がいるんだ…」
まだ信じられていないオルセリアに、呆れるハルカ。
そんなハルカに、オルセリアは、食い下がった。
「私、弱いぞ……?!」
「承知の上だ」
「役に立たないぞ……!?」
「だろうな。」
だろうな、という即答に、オルセリアは、眉根を寄せた
不機嫌そうに、オルセリアは、訪ねた。
「なんで……、私なんかを連れていくんだ…?」
一瞬、沈黙。
「……決まってるだろう。」
目を、わずかに、そらして、続けた。
「……生徒を途中で放り出すのは僕の主義に反する
それだけだ。」
一瞬、かすかに動いた唇とは、違う言葉だ。
そう、俗に言う……
「仕方ないな、先生がそう言うなら、ついていくしか、ないだろう……」
オルセリアも、幸せそうに、胸を張った。
俗に言う、ツンデレというやつだ。
「全く!身勝手なヤツめ!」
「……キミもだ」
最初から、素直に言えばいいものを。
わざわざ、回りくどいことをして。
「お似合いじゃないか」
あたしは、呆れ気味に、茶を傾ける。
ユイナは、その隣で静かに微笑んでいる。
「「お似合いじゃない!」」
同時に言って、まるで曲芸士だ。
これは、笑うしかないな。
◇◆◇◆◇
あれから、からかわれ続けた2人。
参ったオルセリアが、突然、話を変えるように、温泉に行きたいと言い出した。
「あ!温泉入りたかったんですよー!」
ユイナが、即、乗った。
「この腕で入れるのか?」
「まあ、大丈夫じゃないですか?姉さんだし」
おいコラ
「背中流してあげますよ〜♪」
あー、それが目的か。
「もうここを立つのでしょう?
思い出になりますよ」
ハルカも、お勧めしてくれる。
確かに、温泉とやらがある場所は、そうないだろうな。
「ねーさーんー」
「わかった、わかったよ」
あたしたちは、アズランの宿へ向かう。
◇◆◇◆◇
「あ゛〜、しみるな〜」
全身に染み渡る、湯!
古傷も癒してくれるような…、自然と身体も軽くなる!
「姉さん、右腕、つけないようにしてくださいね?」
「やー、これすぐ腕、治るんじゃないか?」
だめですってば、と心配症な看護師みたいなユイナ。
「悪化するような繊細な作りしてないだろうミュスナは」
少なめの湯に座り、胸までつかる、オルセリア。
あたしたちの、ガタイでは、まるで足湯だ。
「私たちは骨格に至るまで、繊細だからな!
毎日、温泉で癒さないと……」
「胸元も繊細で、謙虚だな」
オルセリアは、胸を腕で隠した。
「大きければいいってものじゃない……!」
「まあなー肩こるし」
「ですよね〜」
オーガは、生まれつきスタイルがいい。
あたしは、背もでかいが、ほかも例外ではない。
それに比べてユイナは、高バランスというか……
でも少し……
「ユイナ太ったか?」
腹が出てるような気がする。
「ひゃっ!」
ほら、つまめた。
「あたしの分まで食うからだぞー」
「姉さんがくれるって言うから……」
ぷにぷにと、腹を揉むあたしの手から、よたよたと逃れる。
「オルセリアは、腹もつるんってしてるんな」
「腹も!ってなんだ!腹も!って!!」
公共の場で声を張り上げるオルセリア。
ユイナが、くすくす、と笑う。
「まな板って感じですよね♪白いし!」
正直ゆえに、たまにキツイよな、こいつ……
まな板……そう言われたオルセリアが、一瞬固まり……
「黙れ!デブ!」
オルセリアが怒った。
「デブではないはずです!」
キャーキャーケンカをはじめた。
しばらく見てたら、ユイナが、こちらを振り返り……
「姉さんー、背中流しますよ〜」
「お、デブ訂正してもらったか?」
ユイナが、じろり、と睨む。
あたしは、苦笑しながら、湯をでる。
木の腰掛けに、腰を落とす。
「髪から洗いますねー」
ユイナは、髪を洗ってくれる。
「やっぱり銀ってキレイ…」
泡立てながら、感慨深そうに言う。
「そーか?黒のがいいぞ」
汚れは目立つし、人目に付くし。
まあ地味さを気にしてるからなユイナは。
「ずっと、見てましたからね
キラキラと、流れる、銀の髪を。」
後ろをついてくる、ユイナ。
その目を引くのは、やはり、この銀髪か。
「そうか」
長いとは思うが、切ろうとは思わない。
ランガーオのミュスナが、大事にした髪だろうから。
でも、黒髪も、憧れるな
「でも、黒も、あたしは、好きだぞ」
お世辞や、フォローなんかじゃなく、そう思う。
「何者にも、染まらない強い色だからな」
自分を変えないのは、難しいことだ。
「わたしも、黒、好きですよ」
安心した。
「なら良い。」
自分が嫌いということほど、悲しいことはそうない。
ユイナが、桶で、慎重に、泡を流してくれる。
先程より輝く銀の髪が、誇らしい。
「次、身体です〜」
「えー、くすぐったいからイヤだ」
あたしの抗議をよそに、ユイナは、タオルをしぼる。
「できるだけ強くしますから!」
「あと、早くしてな」
妹にされるがままなんて屈辱的すぎる。
「お痒いとこは、ございませんか〜?」
「◎X※かな」
「えっ…」
「うそうそ♪」
ユイナの、労っているのが分かる優しい手つきに、身を任す。
ユイナは、あたしのNGワードを文字通り流して、続けた。
「あ、このお腹のキズ…」
「ん?」
脇腹に、痕がある。
細かいのも、ちょくちょく多い。
「カッコイイだろ?」
ユイナは、また、謝るんだろう、と思った。
けど、違った。
「はい♪とってもとっても、カッコイイですっ」
なかなか、ユニークな娘だったんだな。
「でも、あまり増やさないで欲しいです…っ」
そして、優しい子だ。
「気をつけるさ」
ユイナは、にんまり、と、笑った。
「よろしい♪」
ちょうど、話が終わったところに、オルセリアが、声をかける。
「おーいー、のぼせそうだー」
白い肌が、すっかり薄ピンクになっている。
「おーおー、まるで桜餅だな」
「かわいいー♪」
ぐてっ、と、している、桜餅を、起こす。
「餅って言うな……」
「はいはい、もう出ましょう」
ユイナの手を借り、オルセリアは、立ち上がり、
あたしたちは、温泉を出た。
◇◆◇◆◇
宿から出ると、既にハルカが待っていた。
「いい湯でしたか?」
待たされただろうに、嫌な顔1つせず、聞いてくれた。
「おかげさまで。もう腕が動かせそうだ。」
「また来たいですね〜」
あたしたちの返事に、満足した様子のハルカ。
そうして、ハルカは、オルセリアを呼んだ。
「では、そろそろ行きますね」
オルセリアが駆け寄り、ハルカの隣に立つ。
最初に会ったときと、逆の立ち位置だな。
「あぁ、じゃあな。」
別れは簡潔に限る。
すぐに、立ち去る。
「あ、姉さん……!もう行くんですかー?」
ユイナが、なんか言ってるが、無視。
「じゃあ!またですー!」
ユイナの足音が、近づいてくる。
「うむ!達者でな!」
オルセリアの声だ。
最後まで、ブレなかったなー。
「ミュスナー!」
別れを告げた、その口で、あたしを呼んだ。
あたしは、振り返り、
オルセリアは、何かを投げた。
左手で、それを取った。
それは……ここのキーエンブレムだった。
「……ありがとう!」
今までの、全てがつまってそうな、ありがとう。
あたしは、それに、親指を立てて、答えた。
あいつの精一杯の正直に、精一杯で、答えた。
◇◆◇◆◇
それから、ユイナと、2人の背中を見送った。
「行ってしまいましたね……」
寂しげな横顔。
今生の別れって、わけじゃないのに。
「ま、すぐに会えるだろ」
世界は広いようで、狭いもんだ。
そうとわかってても、この気持ちは、簡単には拭えないが。
「とても、お似合いな2人でしたね」
というより、めんどくさい2人だったけどな。
「……まあ、お似合いか」
お似合い、とか、愛してる、とか
あたしには、縁のない、言葉だなぁ
少し羨ましい……かな
「姉さんも、そう思ったりするんですね!」
「へ?」
突然、声を張り上げたユイナ。
なんのことか、分からず、変な声を出してしまう。
「羨ましいって!」
声に出してたのか……
「いや、別に男が欲しいってわけじゃ……」
「またまたー、姉さんったら、ませちゃってー♪」
年上だぞレディだぞ、ませたって何だ!
「それに周りに男なんて……」
言いかけて、1人、瞼に浮かぶ。
紅い服に、蒼い髪の、魔法戦士。
「アルベールさん?」
「なんでアイツの名前が出てくんだよッ!!」
つい、声を張り上げる。図星をつかれた気がして。
「姉さんって、どういう人が好みなんです?」
「え?そりゃあ、優しくて、誠実で、よく笑うヤツ…」
「それ、アルベールさんですよね……」
あわてて、付け足す。
「あたしより強いヤツ!!!!」
「そ、それは、難しいですね……っ」
ユイナは、そっから、ニヤニヤし始める。
「ふふーん、姉さんでも、そんな風になったりするんですねぇ」
「お前、あたしを何だと思ってんだよ」
珍しく興奮してしまい、顔を手で仰ぐ。
「手紙とか、書いてみます?」
「手紙ー?柄じゃないな」
「近況報告くらい、しましょうよ〜
ほら、相手のも、気になりませんか?」
そりゃあ、まあ。それなりにな。
「んじゃ。てきとーに便箋買って……」
「写真撮りましょ!写真!それを絵葉書して……」
「やだよ!恥ずかしい!」
「一緒に写りますから!!」
こういうときは、なかなか強引。
結局、写真を撮られ、下手な文章を書かされ……
アルベールに発信させられたとさ……。
???「次は、なんと!わたしが主役です!」
???「刮目してごらんくださいねっ!」
???「来週もまた見てくださいね♪じゃんけんぽん!ウフフフフフフ♪」