出立の前に、掲示板を見ることになり、そこに、不思議な事件の解決を求む貼り紙を見たのだった。
興味を持ったのはユイナ。
その内容は、心霊的なモノであった。
お医者様の話によると、姉さんの腕は、もう魔法で回復させても、問題ないくらいまで回復したみたい。
「トロルより回復が早いとか言われたぞ」
トロルというと、巨大な太った怪人。
巨大に見合った怪力と、強靭な体力を誇るらしいけど…
「昔からですが、相変わらず人間離れしてますね〜」
超人的な感覚といい、猟犬以上の嗅覚といい、怪物並みの代謝能力といい……
姉さんは、とにかく、すごい。
魔法は、一切使えないらしいけど!
「そーなの?まあ、なんでもいーから、早く治してよ」
と、姉さんは、包帯に包まれた右腕を、差し出してきた
「はーい」
わたしは、そこに、手をかざし、精神を集中する。
わたしの手は、淡い光を放ち、それは、姉さんの腕を照らした。
「ふむ……」
光が消えた後、姉さんは、拳を握ったり、腕を揉んだりして……
「完璧だな、ありがと」
治った腕で、頭を撫でてくれた。
「えへへ〜」
昔から、こうしてもらうのが大好きだったっけ
こんなすごい姉さんのチカラになれて、嬉しい瞬間。
怪我は、してほしくないけれど……。
「さて、出立の前に、掲示板でも見ていこ」
「はぁい」
ここに滞在するための宿代は、けっこうバカにならなかった。
出立の前に、小銭を稼ぐことに。
◇◆◇◆◇
「んー、化け物退治とか、あればいいんだけど」
姉さんと並んで、掲示板を見る。
目につくのは、宿のスタッフ募集や、店のオススメ商品
など、
カムシカせんべい、の新しい味という見出しに心惹かれた!
「……くだらない掲示ばかりだなー」
「宿で働くのは、どうです?」
と、わたしの提案。
「時間かかりすぎるし、割が悪い。」
一蹴されてしまった。
姉さんは、悪びれる様子もなく、こう続ける。
「それに、あたしに、炊事、洗濯、清掃が出来ると思う?」
やれば出来ると思う……、けど、してる姿が想像出来ない。
結局、「う〜ん…?」という曖昧な返事しか出来なかった。
「だろ? ……興味深いのは、これくらいだが……」
と、姉さんな、もっとも古ぼけた感じの掲示を指さした
貼り出されたまま、解決されず、けっこう経ってしまっているみたい。
「専門外っぽいんだよなー」
姉さんが指差す、その掲示を、見てみる。
内容は、わたしの興味を引く内容だった。
「呪い……悪霊……退治……
興味深いですね」
わたしの専門だ!
報酬も、なかなか良い!
「ユイナは、こういうの得意だったよな?
ちょっと本格的すぎるか?」
本格的すぎる、と、心配する姉さんに、少しムッ、とする。
わたしの知識は、確かに独学ですが、専門的です!
「これを解決して、わたしが、ただのオタクじゃないって、証明してみせますよ!」
わたしは、断じてオタクではない!
「んじゃあ、行ってみるか?
場所は、えーっと…」
指定の場所は、アズラン教会。
わたしたちは、そこへ向かった。
◇◆◇◆◇
教会に入ると、何だか、慌ただしい雰囲気だった。
司祭や、信徒が集まり、何かを囲んでいる。
姉さんは、聞きなれない彼らの言葉に、眉根を寄せる。
「……なんだうるさいな」
「経文ですね。悪霊には、あまり効果ありません。」
悪霊に対しての経文は、怪物に人を殺すな。罰が当たるぞ!と説教するようなものだ。
「あの、掲示を見たものですが…」
と、わたしは、一番近い、信徒の方に声をかけるけど…
「部外者は帰れ!」
一蹴されてしまう。すこし、怖気つく、わたし。
「レディに、そんな口を聞くな。」
姉さんが、ケンカ腰に、声を張り上げた人を睨む。
さりげなく、わたしの前に出て。
「どけ。」
そのまま、経文を唱える人を、無理に押しのけ、わたしをそこに放り入れた。
「う…」
信徒たちに、司祭の人に、睨まれ、かなり怖気つく。
けど、ここまできて引き下がるのも…
「掲示を見てくれた方ですか…?」
女性の声だ。
この季節に、なぜか厚着をしているのが、気になる。
「はい。物見遊山では、ありませんよ」
見学に来たのではない、と、言っておく。
「良かった…、ここに預けてもよくならなくて…
気休めになるかも。見ていただけませんか?」
と、その、女性は、わたしを招き入れた。
依頼主の意向に、周りは何も言えない。
「では、失礼して…」
わたしは、その信徒たちの中心、女性に近づく。
…と、強烈な冷気を感じた。
ここだけ、冬のようだ。
「彼が、取り憑かれているんですね?」
ベッドに寝かされたエルフの男性がいた。
女性は、頷く。
「夫です…」
それなら、なおさら、助けなきゃ。
わたしは、彼を、よく見る。
「…ところどころ、凍傷を起こしてる……
冷気の中心は、この人ですね。」
なるほど、と、わたしは、呟いた。
この案件に該当する知識は、一つある。
「ナイトゴーストですね。
深い悲しみで、宿主を憑き殺す、自殺者の悪霊です。」
わたしは、奥さんを見る。
「このままでは、旦那さんは、凍死してしまいます。」
「そんな……!どうすれば…!」
取り乱してしまいそうな奥さんに、わたしは、言い放った。
「安心してください。わたしに、任せてください。」
と、話が、まとまったところで…
司祭さんが、わたしを、怒鳴った。
「素人は、すっこんでいなさい!
何かあったら、どうするつもりですか!」
「それは、こちらも、同じことを言えます!」
下手な経文で、悪霊は、挑発されたと思い、怒っている
わたしは、彼を無視して、カバンをあさる。
「結果をみてから、素人かどうか、判断してください」
わたしが、取り出したのは、人形。
人の形であれば、なんでもいい。
「旦那さんのお名前は?」
「ハンスです」
人形の、お腹に、ハンスと、書き、ハンスさんの髪の毛を1本抜いて、それを人形に埋め込む。
それを、ハンスさんの隣に置いた、ら
「これで、ひとまず、安心です。」
思惑通り、ハンスさんの容態は、みるみる回復し……
代わりに人形は、凍りつき、砕けた。
「こ、これは……?」
「人形は、本来、災厄と呪いを引き受けるモノですから。供養が必要になりますが」
それは、あとで。
今は、まだ油断できる状況じゃない。
「それより今は、呪いの元凶を絶たなければ。
呪いの心当たりは、ありますか?」
理由なく、呪われる人は、いない。
奥さんは、あごに手を当てて、考えるけど、浮かばないみたい。
ハンスさんに聞いた方がいいか。そう、判断したとき、
「うぅ…」
ハンスさんが、うめいた。
目を覚ました…、わけじゃない。
うなされてるようだ。
「ハンスっ!」
「静かにっ!」
何かを言おうとしている。わたしは、耳を傾ける。
「か、カンナ……やめてくれ…、おまえは、もう…」
女の名前。これは、重要な手掛かりだ。
「カンナ、聞き覚えありますか?」
「え、えぇ。確か、夫の幼なじみで…
もう、亡くなったはずです。」
なるほど、話が、見えてきた。
「カンナさんの死因は…自殺ですね?」
奥さんは、ためらいがちに、こくん、と頷いた。
「キリカ草原の…廃村の、古井戸で…」
「ご遺体は…?」
おそらく、そのまま…。
あとは、そこを、調べて…
「行きましょう、姉さん」
信徒たちをかきわけ、教会を出ようとする、と
司祭さんに、呼び止められた。
「待ちなさい!部外者が勝手に…!」
「一刻を争うんです!」
また、呪いがきたら、次は耐えられないかもしれない。一刻の猶予すら、なかった。
「だが……問題だ!」
もう!なんでこう、頭が堅いかなぁ!
そこで、痺れを切らしたのは、姉さんだ。
「うるせーなタコ。部外者じゃなきゃ、いいんだろ」
と、姉さんは、信徒たちを押し退け、教会の奥に、
なにか、衣服を持って、戻ってきた。
姉さんの手には、白と赤の、着物。
俗に言う、巫女服。
「それは、我が教団の…!」
「あぁ!なにするんですか姉さん!」
司祭さんと、わたしの悲鳴が、響く。
姉さんは、わたしの服を強引に脱がした!
「みんないるのにぃ!」
「嫌なら早く着ろ。時間ないんだろ?」
と、差し出したのは、巫女服。
わたしの、着てた服は、姉さんの手の中。
仕方なく、わたしは、巫女服を着た。
「これで、部外者じゃないですね?行きましょう!」
わたしは、軽い準備を済ませ、すぐにアズランを出た。
◇◆◇◆◇
「悪霊退治ってのは、どーやるんだ?」
キリカ草原へ向かう途中、姉さんが聞いてきた。
公衆の面前で、裸にされた恨みは、まだ消えないけど、無下にはできない。
「怪物退治と同じです。武器で、撃退できます」
「成仏(物理)って、やつか」
少しコツが要りますが…、そのコツの一つが、これ。
さっき、町で用意した、袋を姉さんに見せる。
「なんだそれ?」
「これには、『銀の粉』が、詰まっています。」
銀には、あらゆる不浄、悪意を遠ざけるチカラを持つ、
この、世界で、もっとも清い鉱物。
「霊、と、言うと実体のない物理攻撃完全無効みたいなイメージありますが、それは間違いです」
「ほお?」
わたしは、人差し指を立てる。
「説明しましょう
霊の身体は、エクトプラズム…霊媒物質と言われる物質で構成されており…」
「え、エンコーズブズブ…?」
難聴にも、ほどがある!耳良いくせに、ふざけてますね!?
「エクトプラズム!
その多くは霧のような物質で、霊は、…意志を持った霧と思ってくれていいです。」
「霧を攻撃できるのか?」
そこで、これです。と、姉さんに例の袋を見せる。
「霧の…濃度の問題ですね
霊とて、攻撃するときには、霧の濃度をあげないと、危害を加えられません。」
「つまり、殴られる時に殴れ、と。」
それでもいけるけど、危険すぎです。
「銀は、その霧の濃度を引き上げるというか……
早い話、変身を解く、というか」
「まあ、攻撃可能にできるんか」
これを当てることができれば、物理攻撃で、撃退可能だ
「まずは、調べて、彼女をおびき出さないと……
姉さんの出番ですよ」
「殺す以外に、あたしの仕事があるんか?」
霊をおびき出す手順。
それを説明しましょうっ
◇◆◇◆◇
キリカ草原の廃村、その中心に、件の井戸は、あった。
「さて、と。じゃあ、調査をお願いします」
「お、おう。しかし、なんで夜なん…?」
村に入ってからというもの、姉さんの、元気がない。
まさか、怖いってこと、ないだろうけど。
「ナイトゴーストですから…」
「…まあ、そうか…。分かった、調べるよ」
と、渋々と言った感じで、姉さんは、井戸の周辺を調べた。
「…古い足跡が、いくつもあるな。
井戸の周りを、ずっと回っている。」
「自殺する前に、何度も逡巡したのでしょう」
「…みたいだな、あの家から、来たみたいだ」
と、姉さんは、廃墟を指さした。
その顔は、うへぇ、って感じ。
「…調べないとダメか?」
「思い出の品とかが必要ですから…」
がんばって♪としか、言えない。
まさか、本当に怖がってる…?
「はぁ…マジかよ…」
ブツブツ言いながら、廃墟の中へ。
姉さんが、足を踏み入れた、その時!
ガタン!と半開きだったドアが、外れて倒れた!
ひとりでに…
「……いまの風だよな?」
「いえ、警告のようですね、近くにいます」
「…怖くないん?」
「まあ…姉さんが怪物を恐れないのと同じと言いますか…」
じゃあ、お前が調査しろよ…、とブツブツ言いながら、姉さんは廃墟へと、進んだ。
ポルターガイストが起きる度に悲鳴が聞こえたけど、
がんばって!姉さん!
廃墟から、一際大きな物音、すぐに、姉さんが…
「ひぃやぁぁぁ!ユイナぁー!」
廃墟から、飛び出してきた。その手には、なにやら…、日記かな?
「どうしました?」
「こ、これ取ったら棚が倒れて……机の引き出しが、ガタンガタン!って!」
「なるほど、貸してみてください」
日記のようだ。タイトルは……
『カンナの夢☆日記』
「……これは、読んでいいのか?」
「読みましょう」
開く。物音が強くなる。
周りのあらゆる物が、音を立てた。
「お、怒ってないか…!?」
「怒ってますねぇ」
まだ、出てこない。
朗読とか、すればいいのかな。
「えーと、なになに?」
けっこう古い日付けだ。
内容は、こうだ。
『今日、ついに幼なじみのハンスと付き合えちゃった♪はぁ。。。ほんと、しあわせ。。。
今日から、だーりんって、よんじゃおっと♪』
次をめくる。
『だーりんがプレゼントくれた♪
彼の名前が掘られた、ブレスレット♪
お前は、俺のモノだって♪♪
ぅちは、ずっと、だぁ、のモノだょ♪』
「だぁ、って、なんだ?」
「ダーリンと同じ意味です。」
次のページをめくる。
しばらく順風満帆だったようだけど…、それは唐突に終わりを迎えた。
『好きな人が出来たから別れてほしいって言われた。』
この、一言だけ。なんか怖い。
『新しい女と結婚するんだって。』
誰に向かって話しているんだろう…
『もぅまぢむり。。。井戸の底に、優しかった、だぁ、がいる。
ぅちも、そこにいく。』
…日記は、ここで終わってる。
彼女は、今も、そこにいるんだろうか。
「……井戸、そしてブレスレットですね」
井戸をのぞき込むけど、暗くて何も見えない。
姉さんが、覗きみると……
「……白骨死体が、ぶら下がってる」
と、言った。なんて夜目!
「引き上げられますか?」
「やってみる。」
と、姉さんは、備え付けの、桶のぶら下がった縄をひいた。
どうやら、カンナさんは、これで首を吊ったらしい。
引き上げて、姉さんが、井戸のそばに、それを寝かした
「薄くて細い骨格、小さいアゴ、広い骨盤」
「カンナさんで、間違いないでしょう」
エルフ、そして、女性の特徴だ。
「……と、すると、ブレスレットは、井戸の底か…」
「お願いします」
姉さんは、深くため息をついてから、井戸に、足をかけて……
「足を折らなきゃいいけど…」
飛び込んだ。
すぐに着水する音が聞こえて、一安心。
「なにかありましたかー!」
すぐに呼びかける。泳ぐ音が聞こえる。
しばらくして、声が帰ってくる。
「ブレスレットがあった!ハンスって彫られてる!」
間違いない。
「それを持って、上がってきてくださいー!」
「待ってろー!出口をみっける!」
しばらくして、姉さんが、別の方向から、上がってきた
◇◆◇◆◇
「遺体と、ブレスレットを並べて…焼いてしまいましょう」
姉さんから受け取ったブレスレットを、遺体のそばに置く。
「よし、離れてろ」
姉さんの手が、光る。
雷撃で、着火させるつもりのらしい。
姉さんの手から、光線のように雷撃が放たれて、遺体とブレスレットをそろって、燃やした。
「すぐに、来ると思います」
「…おう」
すぐに、強烈な冷気を感じた。
皮膚を突き刺すような、それは、異常っぷりを語る。
「…来ました…!」
ぼんやり、と、姿を表した。
霊の多くは、亡くなった時の姿をとっている。
それは、彼女とて、例外ではない。
首に縄をかけた、エルフの、女性が浮いていた。
目が飛び出て…、舌が、ちぎれそうなくらい、飛びてて…
ひどく、悲しい、首吊り遺体の、姿だった。
先手必勝、わたしは、銀の粉が詰まった袋を投げて…
指をむけ、呪文を唱えた。
「イオラ!!」
即席、銀の粉爆弾だ。
閃光とともに、銀を散らし、霧の変身を解除し、
その実体が、あらわになる。
「姉さん!」
さっきまで、怖がりまくっていた姉さんだけど、出てきてからは、もう、
戦士の顔だ。
槍を鋭く突き出し、亡霊の腹を突き刺し…
乱暴に切り上げた。
勝負は、ついたようだ。
霧のように、消えていくナイトゴースト。
すすり泣いている。
「苦しかったでしょう?
手荒に、ごめんなさい」
わたしは、カバンから、経文が書かれた巻物を取り出す
自分で写したものだけど、
「でも、もう大丈夫ですよ。こっちへ…」
それで、輪を作る。
ナイトゴースト、カンナさんは、そこに、吸い込まれるように入っていく。
『ありがとう』
通り過ぎるときに、そう聞こえた。
「…生まれ変わって、素敵な恋をしてね」
聞こえたか、どうか、分からない、わたしの呟きは、
夜の闇にとけた。
◇◆◇◆◇
戻ってみたら、ハンスさんが起きていた。
憑き物が落ちたようだ、と話していた。実際、そのとおりだけど。
わたしは、何度もお礼を言われ、多額の報酬を受け取った。
こんなにいらないって言ったんだけどな…
わたしの功績は、教会のモノとされたらしいけど、細かいこと。
正式に、この巫女服をまとう権利を与えられたとか、なんとか…
「つまり、正式に専門家になったんだな」
と、姉さんが、言った。
「つまり……?」
認められたということ!
脱!オタク!
「オタクは偉大だな」
姉さんの皮肉に、
わたしは、胸をはって、言った。
「オタクじゃないですー!」
わたしは、この日から、心霊探偵を名乗ることとなる!
(探偵っぽいことをするのは姉さんだけどね)
オタクは偉大ですね!