ドラゴンクエストX 〜ワルキューレ〜   作:リョンさん

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海と欲望の町、ジュレット

そこで姉妹が出会ったのは、仮面のナイスガイ
このオレ、リョンさんだった。

次々に現れる強烈な人物たちに辟易しながらも、
姉妹は、このオレ、リョンさんの行方を追う、同じウェディの少女、
スズの頼みで、ミュスナは、オレの行方を追うことになった。


第23話 道化師と…

雷鳴のごとく現れ、そして去っていった、自称ジュレットの女王、レイナ。

 

彼女が去った方向を見上げながら、ユイナが安心したように一息ついた。

 

「すごい人でしたねぇ……」

 

感想は、この一言に尽きる。

鞭で打たれそうになったのに、なかなかの落ち着きようだ。

 

「あの人は、名実ともにこの町の女王でなぁ

町長より発言力があるらしいで」

 

町長も、あの女の前では、たじたじらしい。

 

「お山の大将って感じだな」

 

まぁ、それでも、所詮、小さな町で、女王を気取る女

それだけの話だ。

 

「……まあ、この町じゃなければ、そうやな」

 

スズの含みのある言い方。

どうやら、この町は、普通とは違うようだ。

 

「あまり関わらない方がええで」

 

興味深い人物ではあるが……、目的と無関係なら、

関わらない方がいいだろう。

 

あたしは、素直に、スズの忠告を聞き入れた。

 

「せや! 自分らは、この町に何しに来たんや?」

 

話を変えるように、突然、質問をするスズ。

目的は、もちろん、これだ。

 

「英雄を募集していると聞いてね」

 

懐からキーエンブレムを取り出し、スズに見せた。

それだけで、スズは得心いったようだ。

 

「おぉ、それじゃぁ、冒険者さんなんやね

……うんうん、よく見たら冒険慣れしてそうや」

 

スズは、商品を値踏みする商人のように、あたしを舐めまわすように、じっくり見る。

 

「……なにか困り事か?」

 

こういう反応は、けっこうされる。

決まって、悩み事や、問題を抱えている人に多い。

 

「自分鋭いなぁ!

ちょっと人を探してるんよ」

 

どの町にもパイプは、あったほうがいい。

なにより、金は、いくらあっても困らん。

 

「協力してもいいけど、まずは、これの話だな」

 

あたしは、ただ働きは、しない。

親指と人差し指をすりすり合わせた。

 

もちろん、報酬の話だ。

 

「あんまり持ち合わせがないんよ〜

代わりに、キーエンブレムの情報で、どや?!」

 

見るからに貧乏そうな娘だ。期待は、していない。

情報は、金と同じくらい重要だが、その価値は、金のそれより、分かりづらい。

 

「んー…、内容による。」

 

簡単なものなら、断る理由はない。

 

「最近、この町に居たのは分かってるんよ

それに、目立つから、簡単やと思うで」

 

それなら自分で探せばいいのに、と思うが、大事な食い扶持だ。

 

「そいつの特徴は?」

 

町の外で死体になっているパターンも考えられる。

急いで、探すべきだろう。

 

「20歳くらいのウェディの男で、仮面をつけて、マントをしていると思うで」

 

話を聞いただけで、容姿が、かなり絞り込めた。

ウェディというと、そこらにたくさんいる、生白くて、細っちょろい、あれか。

 

「あ、わたし、その人知ってますよ」

 

と、黙って話を聞いていたユイナ。

この分なら、すぐに、見つかりそうだ。

 

「おぉー幸先ええなぁ!

どこに行ったとか、分かる?」

 

スズの声が弾む。

ユイナは、町の広場1角を指差し……

 

「あの辺で、わたしがウェディの男の人に声かけられてるとき……」

 

ここで、話の腰を折る。

 

「待って、ナンパされたの?」

 

聞き捨てならない。仮面のウェディより、そいつらを探すべきだ。

 

「大丈夫ですよ

その時に、助けてくれたのが、その仮面の方です」

 

ナンパされたことを否定しない!

なんて町だ、ユイナを1人にするんじゃなかった!

 

「触られたりしなかったか!?」

 

肩をつかんで、詰め寄る。ユイナも、たじたじだ。

 

「大丈夫ですってばぁ〜」

「おねーちゃん落ち着きな、話が進まないやないか」

「これが落ち着いていられるか!」

 

魔物にでも襲われていたほうが、まだ安心できるというものだ。

 

「姉さん、うるさいっ

話、続けますよ?」

 

ユイナに、びしっ、と言われ、あたしは、とりあえず、退く。

まぁ、これから1人にしなければいいだけの話だ。

 

まずは、ユイナを助けた仮面の男とやらを探そう。

あたしは、ユイナの話をよく聞く。

 

「それで、いくつか手品を披露して、警備員の方が、現れて、鉄の鳥のモンスターに乗って、逃げていきました」

 

……ん?

 

「……んん?」

 

スズと同じ反応をしてしまった。

スズが、人差し指を立てた。

 

「もっかい、頼める?」

 

ユイナが、いまの説明と、全く同じ説明をした。

 

「……聞けば聞くほど、意味が分からないな」

「それで、どこに行ったんや?」

 

とりあえずは、受け入れ、それから質問だ。

ユイナは、南口のほうを指差した。

 

「あちらの方ですね」

 

あっちは、確か、ミューズ海岸に続く道だ。

 

「じゃあ、探してみるか」

 

1人で充分だろう。

あたしは、町にスズとユイナを待たせて、ミューズ海岸へと向かった。

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

ミューズ海岸、打ち付ける波や、ヤシの木。

海辺の洞窟が、冒険心をかき立てる、美しい海岸だ。

 

多く魔物が群生しているが、強敵は、いない。

 

魔物は、力の差を理解できるものが多い。

ここの魔物は、あたしより、格下なようだった。

 

おかげで、邪魔されることなく、目的へと、近づけた。

 

海岸にぽつぽつと落ちているそれを拾う。

 

「鉄製の羽……?

驚いた、ユイナの話は、本当か」

 

鉄で出来た、鳥の羽のようなものが、一定の方向に向かって、落ちている。

 

本当に、仮面のウェディは、鉄の鳥で飛んで逃げたようだ。

 

「羽は……あっちのほうか」

 

それを辿ると、すぐに、バカ暑い海岸で、バカな格好をした、男へと、行き着いた。

 

「おーい!助けてくれー!!」

 

向こうも、こちらを見つける。

戦闘中のようだ。近くには竹のやりを持った兵士のような魔物。

確か、アズランのほうに生息する、たけやりへい、だ。

 

「いま助ける!」

 

背中の槍を取り出して、地面を蹴る。

すると弾丸のように、あたしの身体は、宙をかける。

 

狼牙突き、と呼ばれる、槍の奥義だ。

 

彼を取り囲む、魔物たちを、一瞬で、蹴散らした。

あとは、たけやりへい、だけだ。

 

たけやりへい、に、槍を向けた、あたしを、ウェディは慌てて止めた。

 

「待て待て!たけぼーは、仲間だ!」

「たけぼー?」

 

言われてみれば、戦意がない。

魔物を仲間にできる職業があると聞いたが、それだろうか

 

「着地したら、魔物の巣でさー

いやいや、死ぬかと思ったよ」

「それは災難だったな」

 

ウェディは、魔物の死体の中、倒れる例の鋼鉄の鳥を、抱き起こした。

 

「メタピー、オレを庇って……バカ野郎がっ!」

 

妙に熱が入ってるな。魔物とはいえ、大切な仲間だったのだろう……。

 

「……死んだのか?」

「いや、修理すりゃヘーキヘーキ」

 

軽く言い放った彼の言葉に、ずっこけそうになる。

 

「なら、さっさと引き上げるぞ……」

 

心配して、損した。

 

「助かったよ、オレは、リョン。キミは?」

 

仮面の下で、微笑むリョン。

あたしは、簡単に、名乗る。

 

「ミュスナちゃんかー

いやーこんな美人に助けられるとはツイてるなぁ」

「よく言われる」

 

あたしの性格は、とにかく、この身体は美人だからな。

 

「お前を探してくれと、頼まれてな

感謝なら、依頼主にしてやれ」

「オレを? 誰だれ?」

「会ってからのお楽しみだ」

 

あたしは、リョンをつれて、ジュレットの町へ戻った。

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

「リョンちゃーん!

もう会えないかと思ったでー!」

 

酒場につれていくと、そこで、待たせていたスズが、目ざとく、こちらを見つけた。

 

「おー誰かと思ったらお前かスズ!」

 

酒場で顔を合わせるなり、旧知の友に会ったように、喜んだ2人。

 

「とーっくに死んだかと思ったで〜」

「死ぬ思いはしたけどな!あっはっはっ!」

 

スズの向かいの席に座るリョン。

あたしも、その隣に腰をかけ、足を組む。

 

「お2人は、どういう関係ですか?」

 

リョンが来るまで、スズと談笑していたユイナが、訪ねた。

その手にあるジョッキの中は、きっと、牛乳だろう。

 

「幼なじみだよー」

「下の毛も生えてない頃から知ってるで〜」

 

スズの言葉に、ユイナが苦笑する。

そうしてると、注文を取りに店員がきた。

 

「ミュミュちゃん何飲む?おごるよ」

「なんでもいーよ。あと、なんだその呼び方」

 

任すと、リョンは、強めの酒を2つ、注文した。

 

「なんや、万年ビンボーのくせして。

相変わらず、美人の前だとカッコつけるなぁ」

「万年ビンボーは、お前もだろーが」

 

うちは、計画的にビンボーなんよ!とスズ。

結局ビンボーじゃないか。

 

「テキトーに酒頼んだけど、ミュミュちゃん、イケる口だった?」

「まあ、大丈夫だろ」

 

これだけ力強い身体が、酒に弱いとは、思えない。

と、思ってたが、ユイナは心配そうだ。

 

「大丈夫ですかぁ…?

姉さん、あまり強くないはずですが…」

 

そうだったのか。

でも、今更、頼み直すのもなぁ

 

「2人は、姉妹なん?」

「はいっ!」

 

リョンの質問に、なぜか、誇らしげに胸をはるユイナ。

店員が、あたしの前にジョッキを置いた。

 

「おぉー妹さん、かわいいねーミュミュちゃん」

「ちょっとアホだけどな」

 

アホと言われたユイナが唇を尖らせた。

 

「そーいや、リョンちゃん、せっかく村を出たんや

彼女の1つでも出来た?」

 

この2人、会うのは久しぶりなようだ。

つもる話もあるだろう。

 

「んー、ぜんぜんだねー」

「あのオーガの子は?くせっ毛の子や」

 

リョンが、思い出したように、語る。

 

「あぁ。花瓶を投げつけられて、ベランダから突き落とされたよ」

「相変わらずやなぁ」

 

けたけたと笑うスズ。あたしも、これは笑う。

 

「スズさんは、商売をやりに、この町に来たんですよね」

「そそ、脱、ビンボーや」

「あはは、無理無理」

 

笑うリョンをスズが睨んだ。

そこで、スズが、思い出したように言った。

 

「あ、そーや

キーエンブレムのことやけど」

 

報酬の件だ。無償で、こんなバカを助けたんじゃない。

 

「この町のキーエンブレムを管理してるのは、あの女王なんよ」

 

元は町長が管理してたらしいが、あの女王が強引に権利を奪ったらしい。

 

「結局、関わるしかないようだな」

「う〜ん、あの人、苦手です…」

 

ユイナも憂鬱そうだ。そらそうだ。鞭で殴られそうになったんだから。

 

あの女王のことだ。また巨乳は死ねとかで、取り合って貰えないかもしれない。

 

「ミュミュちゃん、あの女王に用があるの?」

 

なにか、パイプが必要か。

考えていると、リョンが助け舟を出してくれた。

 

「オレ、あの人と知り合いだけど、あんまりオススメできないなー」

 

どんだけ嫌われてるんだ、ここの女王は。

だが、取り持ってくれそうなら、頼らない手はない。

 

「なんや、リョンちゃん、女王さまにまで手ぇ出してたんか」

 

スズがニヤニヤ笑う。リョンは、苦笑いする。

 

「冗談だろ?命がいくらあっても足りねーよー」

「でも、美人やんか」

 

そのまま、2人の会話に花が咲く。

あたしは、ジョッキを飲んで待つ。

 

「あの女王さまは、なんていうか、上等なワインって感じじゃん?」

 

と、言ってから、リョンは、あたしを見る。

 

「オレは、気が強いウォッカのほうが好みなのさ」

 

酒が入って、ぼーっとした頭に、酒扱いされたことが、理解できたのは、しばらく経ってから。

 

まあ、と話を区切るリョン。

 

「1番は、甘いイチゴミルクだけどな!」

 

言ってからユイナを見る。

大人しく牛乳を飲んでいたユイナは、突然、話をふられ……

 

「ほぇ?」

 

素っ頓狂な声をあげる。

それから、笑って、言った。

 

「わたしも、イチゴミルク大好きですよ〜」

 

話の流れが理解できず、少しアホっぽい。

リョンは、そんなユイナを微笑ましく見ていた。

 

「わ、姉さん、顔真っ赤! 大丈夫ですかー?」

 

ユイナが、こちらを見る。

気づいたら、視界は、ぼやけていた。

 

「あらら、半分しか飲んでないのに」

「意外と、お酒弱いんやね〜」

 

身体は熱いし頭は、ぼーっとするし……

参ったな、寝てしまいそうだ。

 

と、頭を抱えた、その時。

 

しん、と周りが静まりかえった。

酒でぼやけた頭でも、理解できる。

 

向かいのスズの顔も、「うわぁ……」って感じだ。

 

あたしは、振り返る。

 

ぼやけた視界が、少し安定する。

そこには、桃色の髪のウェディの女と、デコボココンビ……

 

件の、女王様だ。

 

酒場の中央、女王様の登場に気付かず、バカ騒ぎをする男たち。

 

「ん。」

 

女王レイナは、そう言って、あごで、指示をした。

オーガの男が、動き出す。

 

「んん…?なんだおめぇ……うわぁっ!」

 

オーガの男が動き出し、男たちを席ごと投げ飛ばした!

これはヒドイ!

 

空いた席にエルフの男が、椅子を用意し、レイナは、そこに腰をかける。

 

そして、テーブルに足を乗っけた。

 

「なにすんだ、てめっ…」

 

席を強引に取られた男が、怒鳴る。

それを、レイナが睨んだ。

 

「こ、これは女王様……」

 

へへ、と愛想笑いし、彼は、逃げていってしまう。

おかげで、いい酔い覚ましになった。

 

エルフが、カウンターからワインを持って、それをグラスに注ぐ。

 

レイナは、それを受け取り、優雅に飲む。

 

容姿の美しさもあって、本当に女王のようだ。

 

「探したわよ、狼さん」

 

桃色の唇か静かに動いた。

バニラ色の瞳は、あたしに向けられていた。

 

「奇遇だな、あたしもだ。」

 

女王と、道化師と、狼と。

 

「役者は、揃ったわね」

 

レイナは薄く笑った。

 

 

 

 




お久しぶりです!

相変わらず、女王が全部持っていくジュレット編。
彼女はギャグキャラですよ。

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