しかし、ユイナを庇って、攻撃を受け、昏倒してしまうのだった。
気がつくと、懐かしい場所にいた。
懐かしいと言うには、まだ早いかもしれないが、
それくらい愛おしい場所ということだ。
エテーネの村。
冥王に破壊し尽くされた、あたしの故郷だ。
自分の身体を見てみると、それは
「……あたし、だ」
人間の、エテーネのミュスナのものだった。
小さな手のひらを見つめる。
「どうしたんだい?やんちゃ娘」
呆然としていると、背中から、声をかけられた。
振り返ると、そこには……
アバがいた。
その後ろには、ほかの、村のみんながいた。
「寂しくて、こっちに来ちゃったのかい?」
めったに聞けない、優しい声音だった。
あたしは、寂しいわけないだろ。と言おうとした。
が、声が出なかった。
かすれた吐息すら、出ない。
「おねえちゃん?」
口をパクパクさせていると、また、背後から、声がかかる。
振り返らずとも、分かる。
おそるおそる、振り返る。そこにはやっぱり……
「どうしたの?おねえちゃん。」
エテーネの、ユイナが。
妹のユイナがいた。
名前も呼ぼうにも、声が出ない。
抱きしめようとも、身体が動かない。
「ないてるの?だいじょうぶ?」
それなのに、涙は、ぽろぽろと頬を流れる。
見上げてくる大きな瞳が、心配そうに細められる。
大丈夫。と伝えたいけど、声が出ない。
なんとか、頷くことは出来た。
「そっか。よかった!」
にんまりと、笑う。
「おねえちゃんなら、だいじょうぶだよね」
そう言うと、ユイナは、あたしの横を、通り過ぎた。
アバの隣まで、歩いていき、そこで振り返る。
「じゃあ……またね。」
手を振る、ユイナ。
あたしは、待って、行かないで。
言おうとしたけど、かすれた吐息すら出ない。
「だいじょうぶ。」
駆け寄ろうと、足を踏み出そうとしたが、鉛のように、動かない。
手を伸ばすことすら、出来なかった。
「きっとまた、あえるよ。」
村のみんなの姿が、ユイナの姿が、光となって、消えていく。
やっと、あたしの手が動いたのは、全て、消えてしまってからだっだ。
◇◆◇◆◇
目を覚ますと、見慣れない天井へ向かって手を伸ばしていた。
伸びた手は、見慣れない模様のついた、大きな手。
あたしの手ではなかった。
「目が覚めましたか?」
その手に、同じような模様のついた、柔らかそうな手が添えられた。
ユイナの手だ。
あたしは、上半身だけ、起こす。
「どのくらい寝ていたのかしら?」
「半日くらいです」
ユイナは、それと、と付け足した。
口元を指さす。
「喋り方、無理しなくていいですよ。」
オーガのミュスナのらしくいるために、慣れない女性口調を使っていたのが、バレたようだ。
「慣れないことするもんじゃないな。不自然だった?」
「……少し。」
ユイナは苦笑して、答えた。
それから、悲しげに目を伏せた。
「村王様から……聞きました。」
なにを聞いたのか、なんとなく、察しがついた。
「あなたの、本当の姿を……鏡で……。」
なんて声をかけるべきか。
「わたしの……姉さんは……もう……」
大きな瞳から、ぽろぽろ涙が、こぼれていた。
あたしは、気づいたら、ユイナを抱きしめていた。
「つらかったな……」
突然、姉死んで、その身体は、別人のモノとなってしまった。
そんなことを聞かされて、納得出来るわけがない。
「大丈夫……です」
それでも、ユイナは、気丈に振舞った。
「あなたのほうが……たくさん無くして……つらいはずです」
そして、あたしを気にかけてくれる。
優しい子だ。
「無くしたものに、大きいも、少ないも、ない。」
大切なものなら、尚更だ。
「つらいときは、泣けばいいんだ。」
「わたしは、もう充分泣きました。」
そう言って、ユイナは、あたしを見上げた。
「あなただって、つらいときは、泣いていいんですよ?」
あたしは、苦笑する。
「あたしが泣いたら、誰がユイナをなぐさめるんだ?」
ユイナは、ほんの少し、唇をとがらせた。
「……もうっ」
ユイナの涙を拭ったところで、あたしたちは、お互いのことを、話し合った。
「わたし、ずっと姉さんに守られて生きてきたんです」
ユイナが、語り始める。
「一番古い記憶は、姉さんの背中。その頃は、まだ小さくて、わたしのほうが、小さかったですけど」
なぜ、姉の背中なのか、尋ねてみると、
両親は、赤ん坊の頃に亡くしたようだ。
「パパとママの言いつけで、姉さんは、わたしを連れて、ランガーオ村へ向かっていたそうです」
子供の足で、ここまで、登るのは至難の業のだろう。
「この山の麓で、わたし、高熱を出してしまって、危ない状況だったみたいで……」
今も、よく体調崩してしまうんですよ、とユイナが弱々しく笑う。
「姉さん、少しも休まず、この山を、わたしをおぶって、登りきったんですよ」
あと少し遅かったら、危なかった。
と、村の医者は、語ったそうだ。
「この村に来てから、姉さんは修行を始めて、わたしも一緒にやろうとしたんですが……」
「すぐギブアップしたんでしょ?」
ユイナが頬をふくらませた。
「姉さんがスパルタすぎるんですぅ!」
しかし、ミュスナは、目的があって、修行していたようだ。
詳しいことは、知らないのだと言う。
「いつか、村を出るって言ってました。わたしは、その手伝いをしたくて、勉強したんです。」
「勉強?」
なるほど、方向転換か。
ユイナは、誇らしげに答えた。
「魔法と、魔物です!」
そして、真摯な表情で言った。
「姉さんの助けに、なりたかったんです」
だが、姉さんは、もう……
その事実に、ユイナは身を震わせた。
「あたしも、手伝うよ」
この身体を使う上で、出来る限りのことをしたい。
だから、そう申し出た。
「ありがとうございます!」
ユイナは、快く、協力を受けてくれた。
「さぁ、次は、あたしの話だ」
ユイナは、元気よく返事すると、真剣な顔で、あたしの話を聞いた。
◇◆◇◆◇
だいたいの身の上を語った上で、ユイナは、聞いてきた
「これから、どうするんですか?」
ミュスナは、腕を組んだ。
あの女神は、使命を果たせ、生まれ変わった意味を探せと言っていたけど
肝心の使命が、よく分からない。
ただ、1つ、確かなことは……
「旅に出る。」
ここに居ても、意味がないということだ。
「そう言うと、思っていました。」
ユイナは、そう言うと、おもむろに、何かを取り出した
それを、あたしに渡してくる。
「……これは?」
「1人前の証です」
なにそれ?と聞くと、やはり得意気になるユイナ。
「所持してると、国王の謁見まで許される、冒険者の必需品ですっ」
「じゃあ、無くさないようにしないとな。」
あたしは、懐に雑にしまい込む。
ユイナは、もう一つ、貴重品を渡してくれた。
「それと、これです。」
「ん?豪華な……チケット?」
1目で高級と、分かるそれを、慎重な手つきで受け取る
「大陸鉄道パスです。それがないと、このオーグリード大陸から出れないので……」
「無くさないように?」
「……ですっ」
ユイナは、にっこり笑った。
それから、全く同じものを、取り出した。
「そしてこれは、わたしの分です!」
何を言いたいのか、すぐ分かった。
ユイナは、真剣な表情で、言った。
「わたしも、旅に出ます。」
あたしは、少しきつめの口調を、作る。
「きついぞ?甘い考えでは……」
「覚悟の上です。」
ユイナの即答。
その目的は、分かっている。
「目的は、同じかな?」
ユイナは、頷く。
それから、それと、と付け足した。
「わたし、強くなりたいんです。」
真っ直ぐに、見つめてくる。
「姉さんが、安心して、眠れるように。」
ベットから立つユイナ。
キレイに、模範的に、あたしに頭を下げた。
「わたしも、連れていってください」
オーガのミュスナの言った言葉が、脳裏をよぎる。
『妹を頼む。』
この身体を使う上で、もっとも大切な役割だろう。
「支度してきな」
「ありがとうございます!!」
ユイナは、はじかれるように、部屋を飛び出した。
あたしは、誰にも聞こえない声で、
オーガのミュスナに言った。
「任せな。」
◇◆◇◆◇
支度をすぐに済ませたユイナと、玄関前で、落ち合う。
「お、早かったな。女は、準備に時間かかるものなのに」
「ここで置いていかれるのは、よく聞く話なので。
それに、ミュスナさんも女ですよ?」
「あんま言われないんだよ、それ。」
身体は、女性的だけどな。
背は高いけど。
「あ、ミュスナさん」
「んー?」
また、近衛のおっちゃんから槍を奪わなきゃな。
なんて考えてたら、呼ばれる。
「あの時、ジーガンフさんに、襲われた時の、ことですが」
「……あぁ。」
あの時、激情に駆られて、言ったことがあったな。
『妹に手を出すな』
あの状況で、打算的に言えるほど、頭は良くない。
「わたしを庇って、妹と呼んでくれました。」
「……嫌だった?」
ユイナは、首を横に、勢いよく、振った。
「あれは、心から、叫んだことですか?」
「当たり前でしょ」
あたしの即答に、ユイナは、にんまりと笑った。
それは、あたしの妹、エテーネのユイナと同じ笑い方。
「あなたも、わたしの姉さんですね。」
あたしは、そんなユイナの頭をぽんぽんする。
「あんたも、あたしのユイナよ。」
えへへ、とユイナが、はにかんだ。
たぶん、あたしも、はにかんでた。
「姉さんって、呼んでいいですか?」
あたしは、即答する。
「それ以外で呼んだら、怒る。」
歯を見せて、ニヒヒと笑う。
「はーい!……あ、それ姉さんの笑い方です!」
「どっちの?」
ユイナは、にんまり笑う。
「両方です♪」
ここに来て、大切なものを得た。
「ミュスナなんだから、当たり前でしょ。」
さあ、旅に出よう。
今度は、手放さない。
ユイナの手をとって、引いた。
長々とお付き合いありがとうございますm(*_ _)m
次は、いよいよグレンです!
これからもミュスナを応援してやってください!