彼女らを待ち受けていたのは、軍隊と狂王。
そして、無慈悲にも切り捨てられる善人だった。
王の凶行に、ミュスナの怒りは爆発する。
あたしは、狂王バグドと、母娘の間に割って入る。
なにも、考えない。
槍を無造作に突き出し、剣の攻撃を受けた。
周りが唖然とした。
突如、狂王を止める、女の戦士の登場に、文字通り、凍りついた。
あたしは、そんな沈黙を壊すように、怒りに拳を握った
「王が……、こんな簡単に……ッ!」
握った拳が、雷撃をまとう。
それを、ふりあげる。バグドの双眸が、見開かれる。
「こんな簡単に……ッ!!」
力の限り、殴りつける。
「人を……ッ!!殺すのかッ!!!」
雷撃と、重い拳を頬にもらい、バグドは膝をつく。
一瞬の、沈黙。
それを破ったのは、バグド王だった。
「その女を捉えよ!!!!」
反射的に、兵士が2人、あたしを挟むように、取り囲む。
同時に飛びかかる。あたしが、しゃがむだけ。2人は、額を打ち合わせ、転倒した。
「今のうちに逃げな。」
母娘に言ってから、そのまま、駆ける。
階段を飛び降り、人混みに逃げ込んだ。
「あの女を捉えよ!!抵抗するなら殺して構わん!!」
人混みで、うまく動けない。
兵士たちが、すぐに迫ってくる。
くそ、こんなところで、死ぬわけには行かない。
「姉さん……!!」
ユイナが、駆け寄ってくる。
バカ、離れてろ。他人のふりしてるんだ。
「黒髪の女は、近親者のようです!」
「その娘も捉えよ!!」
言わんこっちゃない。
人混みから、手を伸ばし、ユイナの手を引いた。
背中に、隠れさせる。
そうこうしてるうちに、兵士に追いつかれた。
「ユイナ、あんたは逃げな。」
槍を構える。幸いにも、冒険者に、敵対する者は、居なかった。
だが、数が、多い。
ユイナだけは、逃がさなくては。
「いやですっ!!」
こういうときばっかり、言う事を聞かないんだから……
少しキツイことを言わないと……
兵士が剣を抜く。
そんなことをしてる暇は、なさそうだ。
仕方ない。腹を決めた、そのとき
「こっちだ!!」
青年の声。
冒険者の人混みの中から、腕が伸ばされていた。
冒険者たちが、波のように、左右に割れた。
青年は、細い路地から、手を伸ばしてい。
「ユイナ!」
あたしは、ユイナの手を取り、青年の手をとった。
青年は、あたしたちを引き寄せ、路地の中へと、引き込む。
青年と、対峙する兵士たち。
青年は、腰に下げていた剣を抜いた。
鷹の装飾だろうか。美しい紅い鞘の剣。
刀身は、輝く銀色。
その刀身に、空いている手、右手を、軽く這わせた。
すると、剣が、神々しい光を放つ。
「……!あれは……!!」
ユイナが、なにか言いたげだ。
青年は、それを遮り、剣を奮う。
「輝剣斬!!」
剣を素早くふると、輝きが強くなり、見てるだけで、目を灼かれそうになる。
目くらましか。
「こっちだ!」
あたしは、青年に手を取られるまま、路地の奥へとユイナを手を引いて、走って行った。
◇◆◇◆◇
なんとか、グレンから脱出できた。
命からがら、グレン領西へと、逃げ延びた、あたしたちまずは、礼を言わなければ。
「ありがとう、助かったよ」
あのまま戦闘していたら、捕らえられていただろう。
ユイナもろとも。
この青年には、感謝しきれない。
「いいんだ。無事で良かった。」
さわやかに笑う青年。
ユイナが、直角に頭を下げた。
「ありがとうございます……!
……でもわたしたちのせいで……」
そう、あたしたちの、いやあたしのせいで、この青年も追われる身となってしまった。
あたしの……責任だ。
「君たちは、正しい行動をした。そんなふうに自分を責めてはいけないよ。」
それから青年は、胸の金の輝くメダルを見せてくれた。
彼の全身を包む紅いコートによく映える、美しいメダルだ。
「俺も、この証にかけて、正しいと思う行動をしただけだ。」
まるで、中世の騎士だ。
青年は、言ってから、つば付きの紅い帽子を軽くあげて照れくさそうに笑った。
帽子から覗く少し長めの髪は、濃い蒼色で、サラサラしていそうだ。
「やっぱり、それは、魔法戦士の証ですね!」
メダルをみたユイナが、興奮気味に言った。
「そう、よく知ってるね」
青年が朗らかに笑うと、ユイナは得意げに、知識を披露する。
「魔法戦士といえば、ウェナ諸島の大国、ヴェリナードの専属で特殊部隊でエリート集団で!
魔法と卓越した剣技で戦う、容姿にも優れた、紳士の集団!
アストルティアの問題解決率も、トップクラスと聞きます!!」
「く、くわしいね」
青年が、笑みが引きつる。ユイナ、引き気味だぞ。
瞳を輝かせるユイナ、青年は、たじろぐ。
「わたし、大ファンなんですよっ!!!」
「ありがとう。嬉しいよ。」
が、まんざらでも無さそうだ。
さて、そろそろ名乗っておこうか。
「あたしは、ミュスナ。こっちは、妹のユイナ。
本当に助かったよ魔法戦士さん」
ユイナをいったん、さて、下がらせ、自己紹介をする。
青年は、襟を整えてから、胸に手を当て、仰々しく、一礼してから、名乗った。
「俺は、アルベール。こうなったのも、何かの縁。
以後、お見知りおきを。」
あ、あぁ。慣れない堅い挨拶に、変な返事をしてしまう
アルベールは、苦笑する。
「ごめん、堅かったかな。よろしく、ミュスナさん」
手を差し出してくる。
あたしは、その手を取る。
「ミュスナでいいよ。よろしくなアルベール」
と、向かい合ってみると、息を呑むほどの、美青年だ。
肌は、透けるように白いので、エルフだろうか。
だが、エルフは、小柄な種族だったはず。
アルベールの目線は、ミュスナと並ぶほどある。
その視線に気づいたのか、アルベールは、帽子を外した
「君たちと同じ、オーガだよ」
蒼い髪の間には、あたしと同じ角があった。
「父がオーガで、母がエルフなんだ。」
肌の色は、母親譲りなんだ。
ほかのオーガみたいな筋肉に憧れるなぁとアルベールは苦笑する。
「オーガのくせに、なまっちろくて、これで、角を隠しているんだ。かっこ悪いからね」
そんなことない、と言いかけるあたし。
「そんなことないです!」
ユイナに先を越される。
アルベールは、目を丸くしている。
「すっごく、かっこよかったです!えーっと、きけんざん??」
アルベールは、あぁ、と得心いってから、照れたように笑う。
「あれは、エルフの伝統なんだ。忘れて忘れて。」
技名を叫ぶ伝統があるのか。面白いな。
「それに、剣が光ったアレ!魔法戦士の奥義の『フォース』ですよね!」
「そうだよ。」
「大気中の精霊と仮契約を結んで、剣に属性を宿す!
中でも光属性の『ライトフォース』は、高位の魔法戦士でないと習得できないって……」
「くわしいね……」
ユイナは、胸をはって、言う。
「大ファンですから!」
アルベールは、照れ隠しに、帽子を深くかぶった。
これが、俗に言うオタクというやつか。
さっき、あんなことが、あったのに、ユイナは、だいぶ元気だ。
オタクパワーか、無理をしているだけか。
なんとなくだけど、後者なような気がする。
「1日置けば、変装すれば入れるようになると思う。
でも、箱舟は使えないかな
どうするかは、おいおい考えよう。」
そう言うと、アルベールは、バッグから、なにかを取り出した。
香ばしい、長方形の箱だ。
「ご飯でも食べて落ち着こう。
俺は、薪を集めてくるから、2人は食べてて」
アルベールは、あたしたちに、弁当箱を押し付けるように渡してから、自分は、さっさと、行ってしまった。
「……どうする?」
街には戻れないし、何かをやろうにも、街で聞かねば始まらない。前途多難すぎる開幕だ。
悩んでると、ユイナの腹が鳴った。
「あぅ……」
「とりあえず、食うか」
悩んでいても仕方ない。
あたしは、正しいことをしたんだ。
アルベールの言葉が、自分でも意外なほどに、あたしを勇気づけていた。
◇◆◇◆◇
わたしは、焚き火の光にあたりながら、空になった、お弁当箱を見つめる。
すぐそばで、アルベールさんが、焚き火に薪をくべていて、わたしの傍らで、姉さんが眠っている。
アルベールさんは、何も食べていない。お弁当は、2つしか、なかったのかな。
「眠らないのかい?ユイナさん。」
気まずい沈黙を、アルベールさんの優しい声が、破ってくれる。
「アルベールさんこそ。火は、わたしが見てますよ。」
「野宿は、けっこう慣れてるんだ。俺は大丈夫。」
眠らないんじゃない。
眠れないんだ。
一つのことが、胸にひっかかり、引っかき回し、
お腹が痛くなる。
「……眠れないの?」
「……はい。」
鋭い人だ。わたしは、素直に頷いた。
わたしの胸中を責めるのは、昼間の件。
「姉さんは、正しい行動をしました。……アルベールさんも。」
「うん」
2人は、正しい行動をして、生き延びた。
だけど、わたしは?
「あのオーガの方が斬られたとき、すぐに駆け寄って回復してあげてたら……」
そう、ここだ。
わたしが、してたら、助かったかもしれない。
そのことが、ひどく、わたしを責めていた。
「そうかもしれないね。けど、それをしたら、君は、殺されていた。」
反逆者を、王の目の前で、助けようとしたら。
そんなの、わかってる。
「自分を守る行動が、もっとも正しい行動だよ。」
「だけどッ!!」
わたしは、拳を握りしめる。
人を殴ったことなんか一度もない、弱い弱い拳を。
「姉さんは……動きました」
「彼女は、君を危険に晒した。」
それは、姉として、正しくない。
わたしが動いていたら、姉さんも、危険に晒されていた
なにが、正解だったのか、分からなくなる。
「本当は、正しいことなんて、ないのかもしれないね」
だったら、とアルベールさんが続けた。
「自分が正しいと、信じるしかない。信じたことを、するしかないよ。」
アルベールさんは、薪を火へ、投げ込む。
「そして、自分らしさを貫くには、強さが必要なんだと思う。」
俺は、そうした。
そうして、色々あったけど、後悔してない。
弱々しかったけど、笑っていった。
「悔しいこと。つらいこと。かなしいこと。胸にしまって、憧れの背中を追いかけるんだ」
俺は、そうしたよ。とアルベールさんが言った。
わたしの、憧れの背中。
ずっと、守ってきてくれた、姉さんの背中。
姉さんは、わたしを、置いて逝ってしまったけど、
今も側で守ってくれる。
守られてるだけは嫌です。
わたしが、守ってあげたいんです。
もう2度と、失いたくないんです。
わたしは、姉さんの横に寝転がった。
「お言葉に甘えて、寝ますね」
「うん、おやすみ」
わたしは、寝転がったまま、アルベールさんを見上げる
「ありがとうございます、アルベールさん。」
アルベールさんは、さわやかに笑った。
寝返りをうった、寝てるはずの姉さんが、頭をなでてくれた。
もう、聞いてたんですか
その言葉を、飲み込んで、わたしも、少し眠った。
最長です( ̄▽ ̄;)
ユイナは完全なるヘタレちゃんです。
見ててイライラするかもしれませんが、暖かく見守ってあげてください。