ミュスナ。
そんな彼女を救ったのは、魔法戦士のオーガの青年だった。
いつの間にか、眠っていたのか……。
暗かった空は、すっかり明るんでいた。
「目が覚めた?」
上体を起こすと、アルベールに声をかけられた。
ずっと、見張りをしてくれていたようだ。
「見張りありがとう……。君は寝たの?」
「少しね。」
と、言ってアルベールは、笑った。
目の下の隈を見ると、ウソだと分かる。
「……ウソは嫌いだ」
「う……、まあ、大丈夫だよ」
少しばつが悪そうなアルベールが、なんだか可笑しくてあたしは、少し笑った。
「あんま、無理するなよ」
「うん、ありがとう」
少し話すだけで、優しい人だと分かる。
お人好しで、巻き込まれ体質で。
「君みたいな人を勇者と言うんだろうな」
アルベールは、はにかんだ。
「たまに言われるけど、そんなんじゃないって」
よく笑う人だ。
皮肉屋で、ひねくれ者のあたしとは、正反対だな。
「さて、それより、これからどうするつもりなんだ?」
アルベールの質問に、あたしは、眉根を寄せた。
「それを困ってる。」
我ながら、取り返しのつかないことをしたもんだ。
嘆いても仕方ない。が、ため息が漏れる。
そこで、アルベールは、嬉しい提案をしてくれた。
「君さえ、良ければ一緒に行動しないか?」
向こうから、言ってくれるとは、意外だった。
願ったり叶ったりだ。
「喜んで。」
あたしの即答に、アルベールが微笑んだ。
それから、グレンに居た、理由を語ってくれた。
「俺がここに来たのは、魔法戦士の任務だからなんだ」
「まあ、バカンスをするには、少し物騒な街だしな」
だな。とアルベールが苦笑する。
「けど、げんこつアメとか、おいしいよ」
「へぇ」
好物なんだ、とアルベール。
生きてたら、ぜひ食べてみよう。
「さて、本題だけど。君たちには、俺の任務を手伝って欲しいんだ。」
「任務?」
アルベールが頷いた。
「バグド王の突然の乱心。そして、戦争。
俺が前にこの街に来た時は、こんなではなかった。」
神妙な顔で、アルベールが続けた。
「なにか、邪悪な思惑が、バグド王を操っている。」
「老害が蒙昧してるわけじゃないってことか……。」
君は、少し口が悪いな。とアルベールが苦笑する。
ほっとけ、とあたしは、唇をとがらせる。
「というのが、魔法戦士団の見解でね。
俺は、その調査、出来るなら解決を、しにきた。」
「なるほどな」
他国にまで話が伝わるほど、事態は深刻ということだ。このまま、放っておいたら、間違いなく戦争が起きる。
「戦争なんて、させるわけには、いかない。」
戦争が起きれば、もっとたくさんの人が、理不尽に死ぬ人が、簡単に、死ぬんだ。
あまりにも、あっけなく。あたしは、それをよく知ってる。
「出来る限り、協力する。」
アルベールが、微笑んだ。
「ありがとう。」
あたしたちは、対策を話し合うことになった。
◇◆◇◆◇
「魔法戦士団が見るに、首飾りが、怪しいらしい。」
確か、バグド王は、首に紫色の宝石の首飾りをつけていた。
「確かに、そんなの、つけてたな。
あたしには、そういうのは、分かんないけど」
この身体には、魔力が皆無なのかもしれない。
なんていうか、魔法を使えるようになる気がしない。
「わずかに、首飾りから邪悪な気配を感じたよ。
それが、なんなのかは、特定できないが……」
「ふむ……」
悪いが、専門外だ。魔物のニオイを辿って後を追うのとは、訳が違う。
「そのために、専門家と落ち合う予定だったんだけど、この有様ではな……」
それで、弁当が、2つあったのか。
あたしのせいで、解決が遅くなってしまうかもしれない
「ほとぼりが冷めたら、落ち合うさ。それまで、大人しくしてよう。」
手詰まりか……。
「……ごめんな。」
あたしは、また、謝ってしまう。
アルベールは、「君のせいじゃない。俺の責任だよ」と言ってくれたが……
なんとか、ならないものか
「あ、あの……」
途方に暮れた、そのとき、意外なところから、助け船が出された。
「おはよう、ユイナさん。ごめん、うるさかった?」
気遣いすぎる。さぞモテるんだろうな
ユイナは、ふるふると首を横に振る。
「わたし、けっこう呪いとかにも詳しくて、気になっていたんです」
「そんな方面にまで、オタクなんだな」
「オタクじゃないです!」
ユイナが、大きな瞳を精一杯つりあげて、睨んでくる。
「まあまあ。そのオタク知識が、活路になるかもしれないしさ。」
「ですからオタクじゃないです!!」
埒が明かない……。
ここは、いつもの、あれで行こう。
「ユイナ、詳しく聞かせてくれ。」
あたしが言うと、ユイナは、誇らしげに胸をはった。
なんとチョロい。
◇◆◇◆◇
「あれは、人の理性を狂わせる類の、呪物です。」
「ほう?」
ユイナが人差し指を立てて、説明体勢に入る。
アルベールが、興味深そうに、聞き入る。
「人は、誰しも、心に凶暴性を秘めているものです。
あれは、そういったものを、引き出すんです。」
そうして、引き出されたのが……
「闘争本能……。」
アルベールが、静かに言った。
ユイナが頷く。
戦闘民族オーガの、本能だ。
「理性を狂わせた人に罪を犯させ、汚れた魂を死後に、自分のモノとする。
悪魔の呪物です。」
悪魔は、汚れた魂を集めるほど、チカラを増すという。理にかなった、アイテムだな。
「つまりは……魔族のしわざと。」
ユイナが頷いた。
つまり呪いを解けば、王は正気になり、あたしも、無罪放免となるわけか。
と、そこで重要なのは……
「対策は?」
呪いの解き方だ。
ユイナは、人差し指を立てる。
「説明しましょう!」
生き生きしてるな。アルベールも、苦笑している。
「悪魔の呪いを解くには、限りなく清い水を聖なる器に注いで、振り掛ける。が有効ですね」
「面倒くさいな」
手っとり早く、悪魔を倒すんじゃだめなの?と聞く。
「姉さんが悪魔だったら、安全なとこにいて、魂がとれるのに、わざわざ戦闘しに、出てきますか?」
「なるほど、おびき出さなきゃいけないんだな」
「ですっ。方法が無いわけではないですが、いずれにせよ、王に近づかなければなりません。」
それはだめだ。
「近づいたら最後、首と胴体がサヨナラだ」
「それに、手がつけられないレベルの悪魔が、出てくるかもしれませんしね。」
それは、少しワクワクするのは、オーガの本能だろうか
「つまり、器と、水を探す。ということでいいね?」
アルベールが、あたしたちの話をうまくまとめた。
ユイナが頷く。
「それらの場所は、分かるのかい?」
ユイナは、胸をはった。
「もちろんです。」
それから、文献によると、とか語り出した。
あたしが、静止する。
「待てユイナ。要点だけでいい。」
ユイナは、少し不満げに、唇をとがらせたが、要点だけをかいつまんで、言った。
「器である、『レムルの聖杯』は、この先です。」
行き先を、指で、指し示す。かなり、かいつまんだな。
「そして、水は、雲上湖と呼ばれる場所にあります。
こことは、正反対の場所ですね。」
器から、取りに行くんで、良さそうだ。
「よし、案内してくれ。ユイナさん。」
アルベールが立ち上がる。
行き先が決まったようだ。
「はい!」
頼りにされて嬉しいのか、ユイナは、元気よく返事して誇らしげに、先頭を歩き始めた。
◇◆◇◆◇
「聖杯は、この先、べコン渓谷の、妖剣士の塚と呼ばれる場所にあります。 」
グレン領西を、ユイナを先頭に、歩く。
魔物がいない方へ、うまく先導しながら。
「確実なのか?」
あたしの疑問に、ユイナは、自信満々に頷いた。
「レムルの聖杯は、もともと、ガートラントの宝物で、ある将軍の失踪を堺に、紛失してしまったんですよ」
「あぁ。それは、聞いたことがある。」
話の腰を折ったのは、アルベール。
そのまま、彼が続ける。
「べコン渓谷の奥には、骸骨の王がいて、聖杯を守っている、って話だよね?」
「ですです!」
「なんか御伽話っぽいなー」
胡散臭い、と、あたしが、言うと、アルベールが、補足する。
「将軍の失踪と、宝の紛失は、事実だし、レムルの聖杯の実物をみた、冒険者も、いるよ。」
頼もしい証言だが、1つ疑問が浮かぶ。
「なんで、そいつは盗らなかったんだ?」
ユイナが、納得の理由を述べた。
「骸骨剣士さんが強いってこと、ですかねぇ」
「一筋縄じゃ、いかないってことだね。」
それは、それでワクワクするな。
あたしは、すっかり、オーガ脳だ。
◇◆◇◆◇
べコン渓谷は、さらに過酷な環境の、谷間だ。
モンスターたちも、それに合わせて強力なものとなっている。
少し歩くと、洞窟がある、とユイナが言った。
「そういえば、アルベールさん」
「ん?」
先頭を歩くユイナが、歩きながら、振り返る。
転ぶぞ。
「お弁当、ごちそうさまでした!」
「あぁ。お粗末さまでした。」
お口にあったかな?とアルベール。
「すごく美味しかったです!!」
「ユイナに見習って欲しいくらいだな」
ユイナの料理は、豪快すぎる。
あれを、料理と呼んでいいのだろうか。
あれは、焼いた。煮た。というやつだろう。
に、比べて、アルベールの弁当は、家庭の味、という感じだった。
アバの料理を思い出す。少し、切なくなる。
「姉さんうるさいー。
……どこのお弁当なんですか?」
「俺が手作りだよ」
趣味の範囲で、だけど、料理職人をしている。とアルベール。
「料理できるんですか!?」
「かじった程度だよ」
食いつきがいい。そういえば、ユイナは、よく腹を鳴らしているな。
「わたしも習ってみようかな〜
……あっ」
ほら。鳴った。ユイナのお腹。
「舐めるかい?」
アルベールが、懐から、げんこつの形のアメを取り出した。
ユイナは、うつむきがちに、受け取る。
「……いただきます。」
それから、あたしに、向き直る。
「お姉さんも。」
げんこつアメをくれる。
「お、ありがとな」
ちょーど腹がすいてた。ありがたくいただこう。
妖剣士の塚まで、もうすぐだ。
それから、何度か戦闘があったけど、無事、あたしたちは、たどり着くことができた。
げんこつアメって、なんとなく醤油の味がしそうですよね。