どうも、護廷十三隊一番隊直轄財務監査室室長です   作:三角頭

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私の知識不足で時系列、設定などに間違いがあるかもしれませんのでご指摘のほどよろしくお願いします


徹夜明けは碌な事がない

 尸魂界(ソウルソサエティ)での生活もなんだかんだとちょうど百年目の朝を迎えようとしていた。寝ぼけた頭をどうにか動かして、俺はぼんやりと目を覚ました。

 

  天窓から微かに差し込む光を見ながら、薄暗い部屋をぐるりと見回す。光の具合から、現在の時刻は早朝の6時辺りをだろうか。昨晩意識を失ったのはおよそ深夜1時だったので、5時間ほど眠っていたようだ。

 

「……ねむ」

 

  一人呟いて、俺は事務机に突っ伏していた上半身を起こす。

 

  壁一面の本棚、机の上には署名用の万年筆と隅に退けられた書類。部屋の大きさはおおよそ70畳ほどの広さなのだが、壁一面の本棚のせいで牢獄のような圧迫感があり、なんというか囚人のような気分にさせられる。いや、実際立場は似たようなものなので、意外にもこれはこれで正しいのだろう。

 

  しかし確かに、ここは牢獄のようなものであれ、少なくとも寝室ではないのだ。この俺の寝室はもう少しマトモで、ちゃんとベッドもあるし洒落た調度もある。ただ、ここ数日戻れていないだけだ。隣の部屋に数日戻れていないだけなのだ。いやはや、自分の勤勉さに微笑みたくなる話だ。

 

「いや、自分の勤勉さに苦笑したくなる話か」

 

  俺は思考を囚人から一般人モードに切り替える。

 

  とりあえず現在の正確な時刻を知るために腕時計に目をやるが、3時を示したまま針が止まっていた。時計が止まっている原因は電池切れか故障か、どちらにせよ今日1日の幸先は悪しだな。

 

  俺はうんざりした気分を払うために、囚人服のような白い死覇装を脱いで、寝室とは逆隣の部屋でシャワーを浴びる。熱い湯を浴びて、汗と陰鬱な気分を流しながら、今日中には仕事を終わらせようと決意を改める。

  シャワーから出て、新しい死覇装(しはくしょう)を羽織り、執務室の隅に備え付けられた冷蔵庫のミネラルウォーターを飲む。死覇装の前を開けたままのだらしの無い格好だが、少なくともこんな時間にこんな場所まで来る死神はいないだろう。正確な時間は未だ不明だが、少なくとも見廻りの隊士以外の殆どは、ようやく起きたばかりか未だ夢の中だろう。

 

「室長、今期の隊費の明細書です」

 

「あー……君は夜一さんのところの」

 

「砕蜂です。それでは失礼致します」

 

「砕蜂、今度入る時はノックを……、って、もういないよ……」

 

  砕蜂、確か何処かの貴族の家の娘で、隠密機動の隊員をやりながら二番隊隊長、隠密機動総司令兼刑軍総括軍団長である四楓院夜一の側仕えみたいな事をやっている娘だ。

 

  砕蜂は見た感じ、十代前半から半ばくらいの見た目なんだが、その辺りは死神なので年齢と外見はさして意味は無いか。しかし、あの身長と外見は色々と残念だな。具体的には公共機関を半額で利用できそうなタイプだ。職業上、あの手の体つきがいいんだろうけれど、俺個人の意見としてはもう少し背を伸ばしてもいいんじゃ無いだろうか?そんな極めて個人的かつ、意味の無い事を考えながら手渡された書類に目を通す。

 

「どれどれ……相変わらずの飲食費だな、おい」

 

  率直な感想を口にしつつ本棚の中から帳簿を取り出して、手渡された書類の数字と帳簿の数字を照らし合わせる。とりあえず隊費の明細が今期の隊費の予算内に収まっている事を確認し、明細書の隅に俺の署名と認印を押す。

 

  これしかやれる事がないとはいえ、こうして帳簿やらと睨めっこを続けてばかりいると、本当に悲しくなってくる。たまには日の当たるところで、文字以外のものと戦いたくなるのだ。

 

「昔は、こう、もうちょっとぶいぶい言わせてたんだけどな、俺」

 

  こうして俺は過去の栄光を振り返り、現在の凋落を嘆きながら、再び事務机に座って書類との格闘に戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  天窓からの光が暑苦しくなってきた頃、外の騒々しさと自分の腹の虫の鳴き声に俺は半ば自動署名機となっていた腕を止めて、背もたれに体重をかけてぐっと背びをする。

 

「そろそろ昼飯の時間か」

 

  一旦作業を中断し、英気を養うためにも俺は食事に行くことにした。ここ最近は即席の物ばかりで食事を済ませていたので、仕事を終わりの見えてきた今日くらいは前祝いとして、少しばかりの贅沢をさせてもらうとしよう。

 

  死覇装(しはくしょう)のポケットに財布をいれ、行きつけの居酒屋で昼食をとることにする。この時間ならば、大抵の死神は隊舎の食堂あたりいるだろうし、あの居酒屋に関してはこの時間は待ち時間なしで食事にありつけるな。

 

  あの居酒屋は料理も旨いのだが、俺としては個室という点が非常に有難い。個室が有難い理由は色々あるのだけれど一番大きな理由は、俺の外見がそもそも面倒ごとしか呼ばないことだろう。面倒ごと自体はどうとでもできるんだが、その後に総隊長から確実にエライ目にあわされる。具体的には火に炙られながらのやたら長い説教と、あの馬鹿力による鉄拳制裁のコンボだ。

 

  トラウマの一つである過去を思い返しながら俺は専用の鉄笠を被り、執務室に鍵を掛けて、ダラダラとした歩調で居酒屋へと向かう。道中、何人かの死神とすれ違ったが、大して気にする風もなく俺の事を見ていた。

 

「いやはや結構結構、いずれはこの鉄笠無しで出歩けるようになるのかね~」

 

「それはないじゃろ、室長?」

 

  人の儚い希望を打ち砕く言葉を後ろから吐く女が一人、本当に勘弁してください。俺自身分かってはいるものの、夢くらい見たっていいじゃないか。

 

「これはこれは、大飯喰らいのやたら肩書きの長い人じゃないですか。食費で隊費を消し飛ばす気ですか、夜一さん?」

 

「やめい、おぬしにさん付けされるなぞ鳥肌ものじゃ」

 

  俺の背後に音も無しに現れた褐色の女性、四楓院夜一は心底嫌そうな表情を浮かべた。

 

「仕方ないでしょ、貴女の方が立場は上なんだから。俺は社会的弱者なんですから、変な因縁をつけられると一生牢屋行きなんですよ」

 

「おぬしなら並みの牢屋程度、容易く抜けれるじゃろうに」

 

「その段階で俺より先に来てボコられた人と同じ末路じゃないですか、ヤダー」

 

  まぁ、その先にここに来た人のお陰で幾分マトモな対応をしてもらえたので、それなりの感謝はしていたりもする。その人がいなければ、俺は総隊長あたりに問答無用で焼かれていた可能性があるからな。

 

「で、一体全体何のようですか?今期の隊費関係の書類は砕蜂から受け取りましたし、俺はこれから昼飯に行くんですけど」

 

「なに、少しばかりのおぬしに会わせたい男がおっての」

 

「会わせたい?一応、聞きますけど、総隊長の許可は?」

 

「固いことをいうな、おぬしが思っておるほどにはおぬしは危険人物扱いされておらぬぞ?」

 

「危険人物がどうのというよりは、規則違反での説教が嫌なんですけど?」

 

「ええい、男ならその程度でガタガタ抜かすでない。いいからついてこい」

 

「だから、俺はこれから昼飯に……だから、話聞けよ。そして、ついてこいというのなら瞬歩で移動するなよ」

 

  彼女を無視して昼食にするという魅力的な選択もあるのだが、それを選べば砕蜂あたりが確実に俺に毒を盛ってくるので却下。必然的に彼女に従って、会わせたい男の下に行かざるをえない。念のために自分の腰のあたりに目をやり、斬魄刀の有無を確認する。

 

「よし、ちゃんと預けてる」

 

  斬魄刀を持ち出した上で総隊長の許可無しに行動したのであれば、隊長格が側にいて監視していたという言い訳も通用しないだろう。何よりあんな物を腰に下げて彷徨っていたのでは、確実にバレた挙句に問答無用で総隊長に消し炭にされる。

 

「さてと……追いつけるのかね、あれ」

 

  夜一さんは既に目視できる距離にはおらず、霊圧でのみ感知できるところまで移動している。もっとも、その霊圧も俺が見失わないようにワザと発しているだけで、彼女がその気になれば感知できないレベルまでに隠せる。

 

「流石は二番隊隊長、隠密機動……やっぱ長すぎるだろ、あの肩書き。それだけ一人で兼任するってのは人材不足なのかね、隠密機動」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マジかよ……」

 

  彼女を追って男がいるらしい場所に到着したのだが、そこはよりにもよって 天賜兵装番である四楓院家の屋敷。つまりは四楓院夜一の実家であり、俺の行動がバレると非常に困るお偉いさんのいる場所だ。

 

「あの、夜一さん?一応、俺、偉い人に目をつけられてるんだけど?下手な行動をすれば一生牢屋行きって言いましたよね?」

 

「そんなことも言っておったかのう?」

 

「本っ当に最悪だな、あんた」

 

  思わず出てしまった俺の素の悪態を笑い飛ばしながら、夜一さんは自分の屋敷の塀を飛び越えて、敷地の隅の庵のような建物に入っていった。

 

  はてさて、どうしたものか。

 

  屋敷の主である彼女が塀を飛び越えて中に侵入するのは問題ないが、俺がそれをやってしまえば間違いなく総隊長どころか殆どの隊長格に囲まれて、査問という名の処刑が執行される。

  一方、このまま踵を返して執務室に帰ったならばどうなるか。少なくとも直接的被害はそれ程でもない。部屋の食料やらに毒は盛られるが、その程度では死ぬことはないだろう。少々腹痛には悩まされるだろうけれど、隊長格からの処刑よりは遥かにマシだ。

 

「よし、帰るか」

 

  うん、何事も命あっての物種だ。

 

「逃すとおもったか?」

 

  屋敷に背を向けた瞬間、俺は庵に入った筈の夜一さんに首を掴まれ、抵抗する間もなく屋敷の中に投げ入れた。瞬神夜一の渾名は伊達ではないな……そもそも、彼女に目をつけられた段階で逃げるという選択肢などなかったのだと悟りつつ、何とか体勢を立て直して着地する。

 

「総隊長に呼び出しくらったら、夜一さんに強制連行されたって言い訳させて貰いますよ」

 

「勝手にせい。それよりさっさと入らんか」

 

  夜一さんに背中をゲシゲシと蹴られつつ、俺は渋々ながら庵の中に入る。庵の中は質素ではあるものの風情のある内装で、名のある職人がこの設計を手掛けたのだろう。

  で、そんな中にボサボサの髪に眠そうな目の男が座っていた。死覇装から察するに夜一さんの部下、重心の置き方からは中々の手練れ……二番隊の席官か?

 

「夜一さん、こいつが会わせたい男なんですか?」

 

「うむ」

 

「わざわざスミマセン。それから、初めまして、二番隊第三席浦原喜助ッス」

 

「あー俺は……「まず、部屋の中でくらいその鬱陶しい笠を脱げ」……はいはい」

 

  夜一さんに遮られる形で命令され、この状況と彼女がこうも強引な手段に出たのかを察した。

 

「俺は護廷十三隊一番隊直轄財務監査室室長アンヘル ジベルナウ」

 

 そこで一旦言葉を切って、笠を脱いで額の辺りを覆う一本角の仮面のついた素顔をさらす。

 

「ご覧の通り死神ではなく、破面だ」

 

 




プロフィール
名前 アンヘル ジベルナウ
身長 185cm
体重 85kg
容姿 ブロンドの短髪、額に一本角の仮面の名残

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