どうも、護廷十三隊一番隊直轄財務監査室室長です   作:三角頭

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また、あの虚が登場します


爬虫類は、とにかくしつこい

「これはこれは……大当たりじゃないか」

 

  最下級大虚(ギリアン)の情報に従って洞窟の近くにきた俺たちだが、内心では大した成果は得られないだろうと踏んでいた。だが、洞窟の近くに辿り着いた段階で奇妙な霊圧を感じ、今の状況が嬉しい誤算だと分かった。

 

「室長、この霊圧は……」

 

「ああ、いつぞやのトカゲ野郎だ。しかも、前の奴より格段に強くなってやがる」

 

  ここが空気中の霊子濃度の高い虚圏で、それの恩恵を考慮しても以前の個体とは倍以上の力の開きがある。以前の個体は再生能力や姿をぼかす特殊な能力を考慮しても、総合的な評価で言えば最下級大虚(ギリアン)辺りでしかなかった。しかし、今現在捕捉できる霊圧だけでも既に最下級大虚(ギリアン)を超えている。

 

  仮にこの個体が前の奴同様に霊圧をジャミングする能力を持っているとすれば、本来の霊圧は中級大虚(アジューカス)以上。あのふざけた再生能力を考慮すれば、脅威としては最上級大虚(ヴァストローデ)に匹敵するだろう。

 

「これは……アンヘルさんの仰った通りの虚ですね。これは、単一の虚が発する種類の霊圧じゃない」

 

「手はあるのか、喜助」

 

「一応は。ただ、こんな虚の実物を観測するのは初めてなんで、理論上で考えた手段です。それにここまでの霊圧となるとトドメには使えますが、万全の状態じゃ弾かれるのはオチですね」

 

「十全だ。あれはトドメが一番厄介だからな。左陣、前のように援護と足止めを頼む」

 

「はっ!」

 

  俺たちは戦闘準備を終えると、一気に洞窟の方まで駆けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「とりあえず、あの最下級大虚(ギリアン)は嘘は言ってなかったんだな!」

 

  洞窟に入ると既にトカゲ野郎と誰かが戦っており、その誰かは人型ではあったが残念ながら死神の類ではなく、最上級大虚(ヴァストローデ)というオチだった。片手に大剣を持ったその大虚はトカゲ野郎を見事に刻んでいるが、残念ながらトカゲ野郎は切られたことも意に介さず大虚に以前より鋭くなった爪を振るう。結果、大虚の方が多く切っているが押されているという状況になっていた。

 

  ここであの大虚を見捨てるのもありなのだが、あいつにはトカゲ野郎が何処から来たかを聞かなきゃならない。

 

  というわけで、今現在俺はトカゲ野郎の爪から最上級大虚(ヴァストローデ)を庇いながら戦っている。そして、近付いて分かったのだが、最上級大虚(ヴァストローデ)の後ろに獅子、鹿、蛇の中級大虚(アジューカス)が深刻なダメージを受けて倒れているのを発見した。

 

  つまり、あの最下級大虚(ギリアン)の言っていた人型とは死神でもなんでもない最上級大虚(ヴァストローデ)で、従えている中級大虚(アジューカス)は群れのリーダーに付き従う子分のようなものだったというわけだ。……人型が中級大虚(アジューカス)を従えているというのは、内容はともかく間違えではないな。

 

最上級大虚(ヴァストローデ)、後ろの三匹を含めて助けてやるから、ここを動くなよ!」

 

「……っ、感謝する」

 

「そりゃ結構。左陣!」

 

「承知!天譴!!」

 

  左陣は俺が力任せに弾き飛ばしたトカゲ野郎を天譴の腕で掴むと、洞窟の外まで投げ飛ばした。トカゲ野郎はボールのように何度もバウンドしながらも体勢を立て直し、こちらに向けて威嚇するように牙を向ける。

 

「喜助、こいつらの応急処置を頼むぞ」

 

「了解ッス。最上級大虚(ヴァストローデ)さん、よろしいですね?」

 

「……頼む。彼女達から診てやって欲しい」

 

  大虚達を喜助に任せて、俺と左陣はトカゲ野郎の追撃を開始した。トカゲ野郎も俺たちを迎え撃つ形で、こちら目掛けて突っ込んでくる。

 

  トカゲ野郎の両腕の爪は以前より格段に速度を上げて襲ってくるが、幸いなことに知能はまだまだらしく、一々の動作に隙や無駄がある。とはいえ、それを補って余りある程の再生能力をこいつは持っている訳だがな。

 

  手足の腱を切っても一秒以内に再生、鬼道で手足を吹き飛ばしても十秒以内には完全に再生を終えて機能を取り戻している。防御能力も以前の個体より格段に上がり、虚弾程度であれば直撃してもよろける程度で大して効いた素振りも見せない。

 

  その上、こいつ自身が自分の性能をある程度は理解しているというのも厄介だ。左陣が天譴の剣で串刺しにしても、以前のように押し返すのではなく、自分を貫いている天譴の剣で自分の体を切り裂くことで脱出し、何事もなかったかのように再生しやがった。

 

「相変わらずしつこい奴だな」

 

「室長、以前と同様の手は如何でしょう」

 

  黒棺か……考えなかった訳じゃないが、無理だな。

 

「無理だ。完全詠唱でも仕留められるか分からない上に、詠唱を終える時間を稼ぐのはキツい。お前も見ただろう?」

 

  今回のトカゲ野郎は串刺しにすれば体を引き裂き、剣で抑えようとすれば半身を切り捨てて突っ込んでくる。かと言って、手加減して抑えられる相手でもない。

 

「ですが、このままでは……」

 

「分かってる。今、手を考えてるっ!?退がれ、左陣!」

 

  何度目かの首を落として蹴り飛ばしたトカゲ野郎が、首がない状態で指先から虚閃を左陣を狙って撃ってきやがった。いや、目やらがない以上、狙ったんじゃなくて指を向けた方向に左陣がいたってのが正解か。

 

  いや、今はそんなことはどうでもいい。俺は剣を左陣の正面に投げ放ち、盾のように虚閃を弾かせる。

 

  が、どうにもマズい。トカゲ野郎の狙いは俺が剣を手放す事だったらしく、間髪入れずにこっちに突っ込んできた。まだ試してはいないんだが、今の段階のこいつの爪は俺の鋼皮で防ぎきれる自信がない。

 

「痛っ!」

 

  咄嗟に腕を盾代わりに突き出し案の定、腕に血で赤い線が走ったが傷はそこまで深くはない。代わりに再生を終え切っていない顔に鬼道を叩き込み、もう一度蹴り飛ばしておいた。

 

「室長!」

 

「心配するな傷は浅い」

 

  俺は左陣の前にある剣を引き抜き、再び構え直す。

 

  さて、ここらで少し状況整理だ。自分では落ち着いているつもりでも、こうして傷を受けた以上は多少の動揺はある。一度深呼吸して、精神状態を仕切り直せ。

 

  まず、今回と前回と違いだ。トカゲ野郎の攻撃性能は俺の鋼皮を突破可能、防御性能は黒棺での完全消滅は厳しい、再生能力はそっくりそのまま、技量は幸い低い、知性は考えていたよりは幾分上がっている。

  こっちは喜助がこいつを仕留める手段を用意しているが、それを機能させる条件はトカゲ野郎が再生の速度を落とさざるを得ない程のダメージを与え、再生に費やす霊力の消費を増やして弱体化させること。正直、かなりキツい条件だ。

 

「けど、それで十全って言ったのは俺だしな……」

 

  我ながら相当甘い目算で判断したもんだ、と少し前の自分を呪ってしまう。とはいえ、そんな事をしても状況は改善しない。

 

  この際、骸骨爺にバレるリスクは無視してやるして、打てる限りの手を打つべきか。下手に手の内隠して逃げられる訳にもいかんし、バレても二、三日は大規模な攻撃は来ないだろう。強引な自己弁護だが仕方ない、少しばかり本気でいかせてもらおう。

 

「左陣、一、二秒でいい。あいつを抑えられるか?」

 

「はっ、この命に掛けても」

 

「そこまで気負うな」

 

  こんな事で命を掛けられてたまるか。

 

  俺は拳の延長上に斬魄刀の切っ先がくるように持ち手を変え、刀身に霊圧を凝縮する。すると、白い虚閃(セロ)が刀身全体を覆い、斬魄刀は虚閃と合わさりさながら突撃槍のようにな姿となった。

 

  両手、両肩、両膝、両足、頭部、心臓。その十箇所を刺し穿つ。

 

  狙いは定まり、意思は定まり、結果は定まった。

 

虚突(ルプトゥラ)

 

  以前、流魂街で男に放ったものとは違う、本来の形で放たれた俺の虚突(ルプトゥラ)。その速度、精度、威力は以前のものとは桁が違う。

 

  トカゲ野郎は尻尾の一部が残骸として消え損ねた……いや、あいつにとってはその消え損ねの残骸でも充分だったらしい。

 

  まるで時間を巻き戻しているかのように、トカゲ野郎はその一欠片からみるみるその姿を取り戻していく。虚閃が突きである以上、どう足掻いても欠片程度の撃ち漏らしは必然的に発生する。そして、トカゲ野郎は完全再生までは二十秒もかからず、動くだけならば十秒程度だろう……が、遅い。

 

「一、二秒あればこっちは撃てるんだよ」

 

  今の俺の虚突(ルプトゥラ)は構えさえ終えれば、音を置き去りにして敵を刺し穿つ。その速度故に俺自身、しっかりと狙わなければ外しかねない。そして、その構えと狙いを定める時間が一秒程度。トカゲ野郎が再生するより速く再生箇所を消し飛ばしての釣りがでる。

 

「さて、あと何回再生できる?何百、何千回でも消し飛ばしてやる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アンヘルさん、やり過ぎッス」

 

  攻撃回数が百を越えた辺りで治療を終えた喜助が、目玉と口の付いた気持ちの悪い風呂敷のようなものでトカゲ野郎の破片を包んで漸く終わった。どうやらこの風呂敷は内部の霊圧をひたすらに食い続ける人造生物らしく、いずれは眼帯程度のサイズに小さくし、霊力の強大な罪人などの枷とするらしい。

 

「まぁ、自覚はあるよ」

 

  そして、俺の眼前には数km先まで続くガラスの塊がある。理由は単純だ。俺の斬魄刀で放つ虚突(ルプトゥラ)は、ガラス片を発生させる結晶虚閃(セロ・クリスタリシオン)よりも更に速い速度で放たれるからだ。結果、痕跡が遠目からでも俺がやったと分かるくらいに目立つようになってしまう。

 

「しかし、二、三日はバレないと踏んだんだが、それもこんだけやっちまったんじゃそれも怪しいか。で、喜助、大虚達の方はどうなった?」

 

「それが……ちょっと困った事になってるんッスよ」

 

「困った事?」

 

「傷自体の処置は問題がなかったんです。しかし、あの虚の特殊能力なのか、偶発的な物なのかは判別できませんが、傷口からあの虚の魂の一部が入り込んでいるんですよ」

 

  魂が入り込む?

 

「すると、どうなる?」

 

「あの方達が万全の状態であれば大した問題にはなりませんが、消耗の激しい今の状態ですと下手をすれば侵入した魂に弱っている魂を喰われる可能性があります」

 

「……つまり、あいつら全員がトカゲ野郎になり得るってことか?」

 

「どころか元の大虚の性質を取り込んだあの虚になりますので、脅威は先程の個体と同等かそれ以上かと」

 

  ……考えたくもないな。中級大虚(アジューカス)三匹に最上級大虚(ヴァストローデ)一匹、しかもトカゲ野郎の再生能力付きなんて心底御免被る。トカゲ野郎になっていない今の段階で消すのもありだが、それじゃあ何の為にここまで来てトカゲ野郎を倒したのかって事のなる。

 

「どうにかする事は出来ないのか?」

 

「……僕と狛村さんじゃ無理ッス」

 

「つまり、俺ならなんとかできるんだな」

 

「はい、アンヘルさんの霊圧でしたら起動させる事が可能かもしれません」

 

  喜助は懐から小箱を取り出し、その中身を俺に見せた。

 

「なんだこれ?」

 

  それは水晶のような結晶の中心に青い炎のようなものが揺らめいている物で、宝石として美しいとは感じるが、何というか本能的に嫌な感じがするな。底の見えない真っ黒な穴を見ているかのような、得体の知れない不気味さがこいつにはある。可能ならば触れたくも近付きたくもないな。

 

「虚と死神との境界を取り払う物質、崩玉です」




次回はようやくヒロインとまともな会話ができます

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