ディアベルが死の運命を覆そうと奮闘するようです 作:導く眼鏡
油断した。
偵察を行い、途中までβテスト版と変わりがなかったからと、ボスの行動パターンが最後までβテストと同じだとたかを括っていた。
様々な根回しを行い、LA(ラストアタック)ボーナスを獲得しようと皆を下がらせて一人で前に出たのが仇となった。
1階層目のフロアボス「イルファング・ザ・コボルトロード」の連続攻撃を喰らった俺のHPはあっという間に0になる。
意識が朦朧としてくる中、見覚えのある人物がポーションを飲ませようとするがもう手遅れだ。
意識を絞り、ポーションの無駄遣いを止めて目の前の人物に遺言をつぶやく。
欲をかいた結果が死というのも、当然の結末だ。だが、このままではボスに皆が蹂躙される未来しか存在しない事は分かっている。
ならば責めて、この少年に託そう。
間もなく、俺のアバターは消滅する。HPは0になっており、自然と自分が死ぬという事実だけが何故か分かる。
「頼む……ボスを倒してくれ……皆の、為に……」
そこまでの言葉を絞り出して、俺……ディアベルの生涯は潰えた。
「……ここは?」
気が付けば、見覚えのある町に立っていた。
見覚えのある……というのは語弊がある、正確に言えば1ヵ月前に滞在していた、この世界に来て最初に訪れた場所だ。
どういう事だ? 俺は確かに、1層のボスにやられて死んだはず……
「どういう事だ……俺は、死に戻ったのか?」
辺りを見渡してみるがやはり始まりの街の主街区だ。そこで、俺はデスゲームというのはドッキリで、普通に死に戻ったのではないかと考えた。
だが、それでは現在俺が立っている地点が不自然だ。ゲームで死亡して蘇生する場合、
蘇生者の間と呼ばれる場所で蘇生されるのだ。
だが、俺が立っているのはゲームにログインして最初に訪れる広間だ。蘇生したのであれば蘇生者の間にいなければおかしい。
念のためと自分のステータスを確認してみる。レベルは1に戻っており、所持金やアイテムも初期のものになっていた。
これは一体どういう事なのだろうか? 死ぬと初期の状態にリセットされるのだろうか?
しかし周囲を見渡してみると、ほとんどの者が初めてこのゲームに訪れたかのように周囲を見渡している。
これも、デスゲームがドッキリで普通に死に戻ったという説を懐疑的にさせる。
では、今の自分の状況はなんなのか? それを考えようにも、分からない事だらけだ。
「一体どうなっているんだ?」
分かるのは、自分が今始まりの街にいるという事だけ。それ以外は全くといっていいほどわからない。
情報が必要だ。そこで、俺は現在の状況の確認と情報収集を兼ねて始まりの街周辺を探索する事にした。
……結論から言うと、このゲームがデスゲームだという事自体認知されていないようだ。
周囲のプレイヤーに話を聞けば、このゲームが普通のゲームだと思っている事がすぐにわかった。
デスゲーム化するという話もしてみたが、当然信じて貰えなかった。
やはり俺がおかしいのだろうか? それともデスゲームなんて本当は存在しなかったのか?
とは言ったものの、このまま途方に暮れるならばせっかくのゲームだし楽しもう。
そんなこんなで時間が過ぎていった時だった。
リーンゴーンリーンゴーン
あぁ、あの鐘だ。あの鐘と共に、確か俺達は始まりの街に転送されてデスゲームの宣言をされたっけ。
等と感慨深く思っていると、案の定始まりの街に転送された。
そして上空にはフードに身を包んだGMの姿。
俺がずっと懸念していた事項、頭の隅で考えてこそいたものの、確証がどうしても得られなかったが故にそむけていた仮設。
それがこれからGMから宣言される言葉次第で、仮設から確信に変わる。
「プレイヤーの諸君、私の世界へようこそ」
そして俺は、彼の言葉から仮設が確信になる一言をしっかりと聞く。
「この世界でHPが0になったプレイヤーのアバターは消滅し、現実世界からも永久に退場する事になる」
あぁ、そうか……やはり俺は
あの時、初めてログインした時に巻き戻っていたのか。