ディアベルが死の運命を覆そうと奮闘するようです 作:導く眼鏡
モブ「ディアベルを探せ!きっと茅場の手先だ!」
ディアベル「ナイトロールしたかったけど魔女狩りよろしくディアベル狩り?が横行しててソロをよぎなくされてます」
レイドリーダー「ボス攻略をしよう!パーティを組んでくれ」
キリト「一緒に組もうぜ」
ディアベル「よろしく」(キリト君、君という人は何て素晴らしい人間なんだ!)
やぁ、俺はディアベル。職業は気持ちナイトやってます!
突然だけど、俺達は今パーティメンバーの一人、アスナ君にスイッチやPOTローテ等のパーティ内で必須な連係について教えている。
彼女もソロでここまで来ただけあって、かなりの実力を兼ね備えている。特にリニアーの速さがとんでもない。
だが、VRどころか、ゲームそのものに関して初心者らしく、色々と教えなければならなかったりする。
キリト君とアスナ君はボス攻略の時、サポートポジションながらも目覚ましい活躍を見せていた。サポートポジションなのが勿体無いと思える程だ。
最も、3人パーティだからという理由で案の定俺達は取り巻きの取りこぼし掃除、つまりサポートポジションなのだが。
「よし、ひとまずはここまでにしよう。今日はゆっくりと休んで、明日の攻略に備えよう」
「わかった。明日は全員で生き残ろう」
そうして、キリトとアスナと別れた俺は、宿に戻る事にした。
明日は、因縁のイルファング・ザ・コボルトロードとの対決だ。正確に言うと再戦だが。
あの時、俺はボスの武器がβテスト時と変わっていた事態に対応出来ずフルコンボを喰らって敗れた。
だが、今度はそうはいかない。もしかしたら再び武装が変更されていたなんて事も考えられるから、油断は出来ない。
明日は絶対に犠牲を出さずに生き残ろう。その決意を固めて、眠りについた。
翌日、一人の欠員もなくレイドメンバーは集まった。
「皆、集まってくれてありがとう。必ずボスを攻略して、第1層をクリアしよう!」
皆でボス攻略に向かう。キリトは何があったのかは知らないが、昨日宿に入ってからの記憶がないらしい。
大丈夫だろうか?
そんなこんなでボス部屋にたどり着く。
「俺が先陣を切る。皆続け!」
リーダーがボス部屋の扉を開ける。
扉の先に鎮座しているのは、イルファング・ザ・コボルトロード。
俺が殺された第1層のフロアボスだ。
正直、恐怖で足がすくみそうになるがそんな事で弱音を吐く訳にはいかない。
リーダーが突撃指示を出すと同時に俺も、キリトとアスナと一緒に駆け出した。
ボス戦はある程度順調に進んでいた。途中、危うい場面こそ何度かあったがその度に俺達がフォローした。
このまま何事もなく終わればいいが、そうはいかない事を俺は知っている。
ボスのHPゲージが最後の1段にまで削れる。
ここからが本番だ。ボスが武器を持ち換えてバーサクモードに突入する。ここで一度下がらせて体勢を整え
……
「ボスのHPも後少しだ、全員突撃! このまま削りきれ!!」
……は?
ここで突撃? いくらなんでも無謀だ!
「待て、ボスの様子がおかしい! 一度下がって体勢を整えるんだ!!」
慌てて警告するが、リーダーを筆頭に皆突撃を開始する。
不味い、あのままでは……!!
「グオァアアアアアアア!!」
次の瞬間、俺の目の前で繰り広げられたのは、ボスのソードスキルによって突撃したレイドが纏めて凪ぎ払われるという虐殺的光景だった。
そこからは悪夢の始まりだった。突然のボスの豹変によってリーダーが対応出来ずただあたふたするだけ、混乱した戦場では連携も何もない。
我先にと逃げ出そうとして、イルファングにやられてHPを0にする者。一人逃げれず取り巻きに囲まれて虐殺される者。
一人、また一人と死んでいく。このままではいけない。
このまま、皆を見殺しには出来ない。
「キリト君、アスナ君! 俺達で体勢を整える時間を稼ぐぞ!」
「ディアベル……わかった! 俺がボスの攻撃を弾く。二人ともフォロー頼む!」
「わかった!」
3人で駆け出す。まずは……
「はぁあああ!!」
ソードスキル、ホリゾンタルでメンバーを襲っていた取り巻きの一人を倒す。
「な、なんでや……あんた、一体……」
「俺は、気持ちナイトやってるソロプレイヤーだ。キリト!!」
「任せろ!」
キリト君にボスの攻撃を捌かせる。思った通り、彼はボスの攻撃を見切っている。
「アスナ君!」
「任せて!」
アスナ君に、迫る取り巻きを潰させる。
彼女のリニアーラッシュによって取り巻きがまた一匹、ポリゴンに変わる。
「皆、ここは俺達が時間を稼ぐ! その間に体勢を建て直してくれ! 戦えない者や逃げ出したい者は逃げても構わない、まだ戦える者は今の内に体勢を整えてほしい!」
レイドの1パーティ風情が何を言っていると思われるかもしれないが、肝心のリーダーがまともに指示も出さないまま混乱しているよりはずっとマシだ。
戦意の無い者に残られても邪魔になるだけだし、戦う意志のあるメンバーが集まるにしても、体勢を立て直さなければ話にならない。
だからこそ、今俺達が何とか時間を稼がなければいけない訳だが……はっきりと言ってしまうと、キリト君とアスナ君がすごすぎる。
キリト君が悉くボスのソードスキルを弾いては、アスナ君がすかさずリニアーを刺していく。
このボス戦のキーマンは彼等二人だと、俺はこの時確信した。
俺もパーティメンバーとして、二人に負けちゃいられない。
キリト君もさすがに全てのソードスキルを見切れるかと言われるとやはりそうでもないようで、敵の攻撃を読み違えて攻撃を喰らってしまう。
「がっ……!」
攻撃を当てたボスがすかさず追撃のソードスキルを放とうとするが、ここで彼をやらせる訳にはいかない。
「キリト君!」
咄嗟に盾を構えて、ボスのソードスキルを防御する。ソードスキルなだけあって、盾で防御してもHPがかなり削られてしまったが追撃を阻止する事は出来た。
「すまない、ディアベル」
「俺達はパーティメンバーなんだ、お互い助け合うのは当然じゃないか」
「あいつらに続けぇえええええええええ!!」
「おぉおおおおおおおおおおお!!」
そうこうしている間に体勢を整えた仲間達が、ボスを止めようと前に出る。
「1パーティだけに何時までも前線を任せていちゃ、壁戦士の立場がねぇからな。今だ!」
「皆……ありがとう! いくぞ、ここでボスを倒して皆にこのゲームを攻略出来るって事を知らせてやるんだ!!」
激しい攻防を再び繰り広げ、ボスのHPを削っていく。
やはり危うい場面も訪れてはいるが、自分でも驚く程冷静な指揮とキリト君とアスナ君の奮闘のおかげで戦線は保つ事が出来た。
そして……
「決めるんだ、キリト君! アスナ君!!」
「うおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
「はぁあああああああああああああああ!!」
ボスの攻撃を俺が受け止め、その隙にアスナ君とキリト君がソードスキルを撃ち込み、ボスのHPを削り切る。
「グオァアアアアア……」
唸るようなボスの断末魔と共にボスがポリゴンとなって砕け散り、ボス部屋にクリアを示す文字が浮かび上がった。
「……勝った、のか?」
「俺達、生きてるよな?」
「勝った! ボスを倒したんだ!」
「よっしゃあああああああああああ!!」
ボスを倒した事によって、次々と歓喜の声があがる。
俺達全員が力を合わせた事で、ボスを倒せたんだ。
「お疲れ、ディアベル。お前の指揮は凄く助かったよ。リーダーとか向いているんじゃないのか?」
キリト君がこちらにやってきて労いの言葉をかけてくれる。
「よしてくれ、俺みたいな人間にはリーダーをやる資格なんてないさ」
「そんな事ないわ、少なくとも私は、貴方が指揮を取ってからの方が戦いやすかったと思う」
「俺もそう思うぜ。あの状況で冷静な指示ができるってのは相当なもんだ。あんたの冷静な指示のおかげで戦線崩壊を免れる事が出来たんだ。あんただって、この戦いの立派なMVPだ」
「アスナ君……エギル君……」
「なんでや!!」
祝勝ムード真っ只中だった空気は、その一言によってしんと静まり帰った、
「なんで……なんでモトはん達を見殺しにしおったんや!」
「見殺し……?」
「そうやろ! だって、あんたら、ボスの使うスキルを知っておったやないか!! あんたらがボスの使うスキルを教えとってくれたら、モトはん達は死なずに済んだやないか!!」
サボテン頭の人物、キバオウの言いたい事も分からないでもない。
彼は俺達が、ボスの使うスキルを知っていて黙っていたと思っているようだ。
その俺達が、皆にあらかじめボスの使うスキルを伝えていれば死人が何人も出ずに済んだのではないか、そういうものだ。
確かに、俺はボスの武器が変更されている事を知っていた。ボスのソードスキルを全て知っていたかと言われればノーだが、それでもボスが妙な武器を使って来る事は分かっていた。
それを伝えていれば、この戦いで犠牲者がこんなにも出なかった。全ては、俺の責任でもある。
だが、事態はそれだけに収まらなかった。
「そういえば、あいつディアベルって呼ばれていたぞ!」
「俺知ってる! ディアベルは茅場とグルだって!! あいつ、自分達がこの状況を楽しむ為にわざと黙っていたんだ!」
一度火が付けばあっという間に燃え広がるように、辺りの空気は一瞬にして俺を断罪するものへと変わっていく。
「おいお前達、いい加減に……」
「いいんだ、キリト君。俺に任せてくれ」
これは、俺の責任だ。君達にまで責任を背負わせる訳にはいかない。
「皆、聞いてくれ。俺は……」
余談ですがモトさんはその場限りのオリモブです。