ディアベルが死の運命を覆そうと奮闘するようです   作:導く眼鏡

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前回のあらすじ

キバオウ「なんでやry」
モブ「全部ディアベルって奴が悪いんだ」
ディアベル(何でさ)


ディアベルは引き籠るようです

ディアベル「すまない、二人とも……後は……頼む」

 

 

キリト「ディアベェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエル!!!」

 

 

 

 

 

 

やぁ、俺の名はディアベル。職業は気持ちナイトやってました!

突然だけど、俺は再び死んでしまったらしい。気付いた時には再びはじまりの街に立っていたよ。

勿論、前回やられた時に気付いたらはじまりの街にいた時と同じようにね。

ちなみに今回は第2層の迷宮区をボスの行動パターン含めて、3人パーティで全部情報を仕入れて来いという物をこなそうとしてフロアボスにやられたという死因だ。

まさか2匹のボスの内バラン将軍のHPをある程度削ると真打ボスが現れるなんて思わなかった。しかも麻痺ブレスなんてしてきたものだからそれにぶち当たって無様にやられてしまったよ。

3人PTは、俺とキリト君とアスナ君だ。あのままだとβテスター狩りに発展しかねない勢いだったから僕にヘイトが向いている内に僕一人で責任を負おうとしたらあろう事か僕とパーティを組んでいて黙っていた二人も同罪だなんて言いだされて、結局巻き込む形になってしまった。巻き込んでしまった二人には本当に申し訳ないと思っているよ。

 

それから、死に戻った? 俺はステータスや所持金、装備等も人通り確認してみたけど、全部このゲームに最初にログインした時と同じ、つまり初期状態に戻っていたよ。

周囲を見渡してみると、思った通りデスゲームなんてなかったと言わんばかりに皆意気揚々と周囲を探検していたり、フィールドに出たりしている。

ここで、俺は今の状況……そして、2度の死を迎えて尚俺がここにいる現状について考えてみた。

俺のHPがボス攻略で0になり、死ぬと気付けばはじまりの街に初期状態で戻される。

最初と前回の死因を考えると、共通点はここだ。もしかしたらボス攻略以外で死ぬと二度と死に戻る事も出来ないかもしれないから、下手に検証なんて出来る訳がない。

それに、俺が死に戻れているのが本来の仕様だとするならば、死んで行った者達全員がここに死に戻らないとおかしい。

それに、何故時間まで巻き戻るのかも分からない。何が言いたいかと言うと全く分からない。

分かるのは、条件こそ不明だけど俺は奇跡的に条件を満たせているから、死に戻る事が出来ているという事位だ。何が条件なのかも全く分からないし、次も条件を満たした死に方が出来るかと言われればNoだ。奇跡はそう何度も続かないから奇跡と言うように、次は無いと思った方がいいだろう。

 

さて、そんな事があって人間の闇というか、醜さというか……そんなのを真っ向から見てしまった俺は攻略に出ようと思えず、はじまりの街に引きこもる事にした。

勿論、生活費に困らないように適度に狩りには出る。けどそれだけだ。前回も最初も、攻略に出ようとした結果死んでいる訳だからね。なら攻略に出なければ生き残れるのではないかと思ったんだ。

生活するだけの資金は狩りで稼いで、後はアインクラッドでのんびり生活しながらゲームがクリアされるのを待つだけ。

完璧だ。完璧な引きこもり作戦じゃないか! 強いて言うなら娯楽が少ない事だけが難点かな。

けれど、それは仕方のない事だと言える。攻略を諦める訳だからね。

さて、そんな僕は早速はじまりの街での生活基盤を整える為にフィールドで狩りをしてコルを稼いだりどの辺りに身を置くか物件を見て回ったりしている。ちなみにデスゲームの開始宣言はまだされていない。

はじまりの街と言っても、やはり1万人もの人数が滞在しているのだから当然広い。2層の街なんかよりもずっと広い。

だから迷わないようにしないといけないね。地理を覚える事は重要だ。βテスト時とは一部地理が違うという事もあり得るのだから。そもそもβテスト時の記憶ではじまりの街の地理を隅まで覚えているなんていう人間こそ少数だと俺は思う。

という訳で現在進行形で道に迷っている訳ではない俺は道端で偶然助けた女性と共に街巡りをしている。ちなみに前回みたいにデスゲーム等の失言はしていないはずだ。

 

「しかしあんたも物好きよね。はじまりの街でずっと暮らすつもりで物件探しなんて」

「それだけこの世界が凄かったからね。はじまりの街だけでも想像を絶する作りこまれ具合だよ」

「それは同感ね。世界観こそ現実と違うけど、あたしもここがゲームの世界じゃなくて現実だなんて言われたら半分信じるわよ」

「それだけスタッフ達のこの世界への思い入れが強かったんだろう。全く恐れ入るよ」

 

ちなみに、彼女はリズベット。この世界でのアバターが勇者顔でありふれているのに対して珍しく悪役ロールなのか悪人顔の人物達に囲まれて恐喝を受けていた所を助け出した。

最も、圏内だからダメージは無くノックバックが発生するだけなので、不意打ちよろしく辻斬りを行って一人を吹き飛ばした後、彼女の手を掴んで一目散に逃げ出した。

サービスが始まったばかりでまだレベル差も全然開いていない上に多対一を正面から受ける程の腕前はないからね、誰だってこうする。俺だってこうする。

無事逃げ切った後にお互い自己紹介をして現在に至る、という訳だ。

 

「ゲームの楽しみ方は人それぞれだからね。他の人達は競って最前線でゲームの攻略を目指したりするのかもしれないけど、俺はのんびりと暮らしたい。リズベット君は?」

「あたしも最前線で攻略だー! なんて血の気の多い事はしないわよ。中堅位でのんびり狩りでもするか、あんたみたいにどこかの町に落ち着いたりするかも。鍛冶屋とかあるらしいから、それを目指してみようかなって」

「鍛冶屋か、それはいいね。店を持ったら是非俺も通わせてもらうよ」

「その時はお客様第一号として丁重に歓迎してあげるわ……っと、ごめん。そろそろログアウトしないといけないから、あたしはここで落ちるわ」

「分かった。せっかくだからフレンド登録だけでもどうかな?」

「んー、助けてもらったお礼もあるし鍛冶屋になった時にあんたに連絡する手段も欲しいから……いいわ、フレンド登録しましょう」

 

リズベットとフレンド登録を済ませる。しかし俺は知っている。彼女がログアウトする事は出来ないであろう事を。

前回、前々回を考えればそろそろ全員がはじまりの街に強制転移されてGMからデスゲーム宣言が行われるのだから。

 

「あれ、ログアウトボタンがない?」

「そんなはずはない、ログアウトボタンは……本当だ、ログアウトボタンがない」

「この後用事があるのに、バグ? 勘弁してほしいわ」

「ははは……GMコールとか試してみたらどうだい?」

「試してみたけど、反応なし。どうなって……」

 

リーンゴーンリーンゴーン

 

鐘の音が鳴り響く。さて、3度目の転移だ。

 

「え、何これ? ってちょっと何で光って……」

 

リズベットの身体が光って転移される。そして俺も転移される。

気付けば、皆はじまりの街の広場に転移されていた。GMが恒例のデスゲーム開始宣言を行うとやはりというか、周囲は混乱に陥った。

 

周囲の人物もアバターから現実の顔に戻された影響か、男女比が物凄い事になっている。先程まで一緒だったリズベットも……いや、余計な考えはよそう。

さて、ここで以前の俺だったら必死に自分の強化の為に駆け抜けるか颯爽とナイトらしく皆を扇動して纏め上げようとしたりするのだが……人間の闇の部分を垣間見たばかりの俺としてはどうしても人と関わったり命がけの攻略に身を投げ出そうとする気にもなれない為、予定通りはじまりの街に引き籠る事にした。

物件もある程度目星は付けている為、そうと決まれば話は早い。他の人に物件を取られる前に目を付けていた物件を抑える事に成功した(とは言っても部屋を借りただけだが)俺は当面の生活基盤を安定させる為に物資を買い揃えたりフィールドで狩りをしてコルを稼いだりしていた。ちなみにお小遣い稼ぎとしてちょっとしたクエストをこなしたりもしている。

ある日サーシャさんと出会って、彼女が子供達を集めて保護している事を知った。半人間不信に陥りかけていた俺だが、その献身に心打たれて彼女へのささやかな資金援助を開始した。

 

そんな事があって1ヶ月後、犠牲こそ出たものの第1層のボスが倒された知らせが届いた。攻略組様様だ。

フレンド登録していたリズベットが第2層で露店を開いたとの連絡をくれた為、早速行ってみた。

ネカマをしていたという訳でもなく、彼女は彼女だった。その事に少しだけ俺は安心した。

彼女作の剣を買って武器を新調し、第2層のモンスターを狩ってレべリングも忘れない。攻略組には入らないが、レべリングをしておいて損はないからね。というよりレべリングでもしていないと娯楽がまだまだ少ないから暇だというのが本音だが。

第2層、第3層も攻略されていく。第3層ではいくつかのギルドが結成されたらしい。攻略には一切顔を出さない俺には関係ない事だけど。

そんな風に、攻略が少しずつ進んで行く中俺ははじまりの街を始めとした主街区でのんびりと生活していた。

 

 

 

 

 

「やぁサーシャさん、子供達は元気かな?」

「ディアベルさん、来てくださっていたんですね! えぇ、子供達もディアベルさんが来るのを楽しみにしていました。よければ、あの子達にも顔を見せてあげてください」

 

デスゲーム開始からおよそ一年。今日はサーシャさんが子供達を保護している教会に支援金を渡しに行く日だ。

彼女の活動も善意から来るものとはいえ、そのままではコルが尽きていくばかりだ。だからこそ俺みたいなプレイヤーが支援金を送る事で、彼女は子供達の世話を続ける事が出来る。

人の闇を垣間見た俺だが、長い間その活動を見てきた彼女の事は信用出来る。だからこそ支援金を送っている訳だ。

しかし、心なしか彼女の笑顔には最近曇りが見られる。どこかの層のボス攻略で攻略ギルドの一つ、ALS(アインクラッド解放軍)が大打撃を受けて攻略組を離脱し、はじまりの街をはじめとする下層の治安維持に回った辺りからだ。

軍内のいざこざに関しては俺も知らないけど、最近は下層プレイヤーから税を徴収したり、更には攻略の為の徴兵を行ったりしているらしい。命がけの最前線に望まぬプレイヤーを無理やり送り込んだ所で死んでしまうだけなのに、ALSは余程攻略組への復帰を急いでいるのかやっきになっている。

話を聞けば、最近はサーシャさんの所にも税金の徴収が頻繁に現れるらしい。しかも、戦えない子供達の分まで理由を付けて巻き上げようとする始末だ。

 

「そうか……軍もなりふり構っていられないんだろうけど、だからといってこんな事をしていては、本末転倒じゃないか」

「最近は徴税も激しくなるだけじゃなく、徴兵にもやっきになっています。ディアベルさんの事を軍が嗅ぎ付けるのも時間の問題です……どうして、軍はこんな横暴をするんですか?」

「それは俺にも分からない。けど、このままにしておいていい問題でもない。だから……」

 

 

バンッ!!

 

 

「オラオラァ、軍の徴税の時間だ! お前達の安全が保障されてるのは軍のおかげだって事を忘れるなよ」

 

突然開かれた扉から軍隊らしき人物が押し入って来る。彼等が、徴税を行っている軍の連中なのだろう。

 

「また貴方達ですか……税金は先日払ったばかりだと記憶していますが」

「うるせぇ、誰がお前達を守って、解放の為に頑張ってやってると思ってるんだ!」

 

この短い間のやりとりだけでも、色々と察する事が出来る。とりあえず俺は我慢の限界だ。

 

 

 

「少し待ってもらおうか、軍の方達」

「なんだお前は?」

「俺はディアベル、職業は気持ちナイトやっていた」


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