ディアベルが死の運命を覆そうと奮闘するようです   作:導く眼鏡

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前回のあらすじ

ディアベル「マイホームが欲しいから貯金しよう」
    ↓
シリカ「ピナぁあああああああああ!!」
ディアベル「大丈夫かい、君!?」


ディアベルはプネウマの花を取りに行くようです

やぁ、俺はディアベル。職業は気持ちナイトやってました。

突然だけど、俺は今隣にいる少女と共に47層にいる。何故かって? それを話すには少し時間を遡る必要がある。あれは2日前の事だ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

迷いの森でドランクエイプの群れに襲われていた少女を間一髪の所で助け出した俺は、俯いている少女に声をかけた。

 

「大丈夫かい、君?」

 

少女はゆっくりと目を開けてこちらを見るが、その目に生気は感じられない。

それに、彼女の周囲を飛んでいたはずの使い魔らしきモンスターが見当たらない。

代わりに、彼女の足元にそのモンスターの残骸らしきアイテムが転がっているだけだ。

そこから、俺は彼女の使い魔が、主人を庇って死んだ事を悟った。

 

「すまない、もう少し早く駆け付ける事が出来ていれば……」

「いえ、いいんです……あたしの不注意が招いた事ですから。その、助けてくれて……ありがとうございました」

 

こちらにお礼を言うが、やはり彼女に元気は戻らない。ずっと一緒だったであろうパートナーが死んでしまったのだから、仕方のない事なのかもしれないが。

そしてどうやら俺はお節介らしい。何故なら目の前の少女の事が放っておけず、手を差し出そうとしているのだから。

 

「失礼だけど、そのアイテムのデータを見せてくれるか?」

 

一見すると、傷口を抉るような言葉。だが、これはこれからの為に必要な事でもある。

彼女は黙ってアイテムのデータを表示する。そこには、ピナの心と書かれていた。

使い魔が死亡した時に現れる心アイテム。これと、とあるアイテムを使えば使い魔を蘇生する事が出来るという噂を聞いた事があるのだ。

そのアイテムが出るという階層のNPCがそれらしき情報を出していた事から、信憑性は高いと思われる。だが、そのアイテムを取得するには使い魔を失ったビーストテイマーがいなければならない。

 

「ピナ……ピナァ……!」

 

少女が再び涙を流して泣き出してしまう。これ以上むやみに悲しませたい訳でもないので、慌てて説明を始めた。

 

「待ってくれ、落ち着いて聞いてほしい。もしかしたら、君の使い魔を蘇生出来るかもしれないんだ」

「え……それ、本当ですか!?」

「あくまで聞いた事がある程度だから絶対、という保証は出来ない。けれど、その階層のNPCや情報屋から同じ事を聞いているから、信憑性は高い」

「教えてください、どうすればピナを生き返らせる事ができるんですか!?」

「落ち着いてくれ。順番に説明しよう。使い魔の蘇生には、君が今所持しているその心アイテムと、47層で取れるプネウマの花と言われるアイテムが必要らしい」

「47層……ですか。今は無理でも、頑張ってレベルをあげれば……」

「……ここで希望を打ち砕く事を言ってしまうようですまないが、タイムリミットは3日だ。3日経過してしまうと、心アイテムは形見アイテムに変化して蘇生が完全に不可能になる」

 

そう、これこそが残酷な事実。彼女がレベルをあげて安全マージンを確保する頃には、ピナの心は形見に変化して蘇生が出来なくなる。

3日では、どれだけ短期間でレベル上げの計画を組もうが47層の安全マージン確保には届かないだろう。

よって、彼女が単身でプネウマの花を取りに行く事は不可能だ。

 

「そん……な……たった3日じゃ、どうやっても……」

「普通ならたどり着けない。けど、手段ならある……俺を護衛として雇うつもりはないかい?」

「護衛……ですか?」

「あぁ、俺は47層の安全マージンも確保している。さすがに明日朝一で47層に二人で攻略に向かうのは少しばかり不安だから、明日一日をレベリングに費やしてその翌日にプネウマの花を取りに行く事になる。それでも、その子……ピナの蘇生には十分間に合う。どうかな?」

 

手を差し伸ばすが、少女は困惑している。いや、警戒していると言った方が正しいのかもしれない。それも当然だろう、何故なら初めて会ったばかりの男性が魅力的な提案をいきなり持ち掛けてきているのだから。裏があるのではないかと考えるのが普通だ。

 

「その……護衛の代金は、どれくらいかかるんですか?」

「護衛の代金に関しては、プネウマの花を手に入れた後にこれ位出してくれればいい」

 

そう言って、俺が提示したのは47層の攻略を護衛として雇われるには破格の金額だ。

破格というのは、勿論安い意味でだ。当然、そんな金額を提示されては目の前の少女も驚きのあまり目が点になる。

 

「こ……こんな値段で、いいんですか?」

「あぁ、これ位の金額があれば今まで貯めた貯金も合わせてマイホームと家具一式を揃えられるからね」

「そ、それでも安すぎます……その、どうしてあたしにここまでしてくれるんですか?」

 

彼女に問われる。何故見ず知らずの人にそこまで手を貸してくれるのか、と。

そこで思い浮かべるのは、教会で保護されている子供達の姿。

 

「はじまりの街の教会に、君とほとんど変わらない位の子供達がいるんだ。君を見ていると、その子達を思い出してしまってね。言ってしまうと感情移入という奴さ。それで、君はどうしたい? 勿論俺が信用出来ないなら断ってもいい」

 

ここまで言った上で彼女の意見を問う。自分の手助けを必要とするか否かを。

すると、彼女は立ち上がって俺の前に向き直り、こう宣言した。

 

「そ、その……差し出がましいかもしれませんが……お願いします!!」

「改めてよろしく。俺はディアベル、職業は気持ちナイトやってました!」

「ナイトって、SAOに職業はなかったはずですよ?」

「こだわりだからいいの。何事も気持ち、形からって言うだろ?」

「あはは、変わった人ですね。あたしはシリカって言います。短い間ですが、よろしくお願いします!」

 

これが、俺とビーストテイマーの少女、シリカの出会いだった。

森を抜けた俺達は(先程撃破したドランクエイプが目的のアイテムをドロップしていたので、クエストクリア報告も怠らなかった)シリカのお願いでこの階層の宿を隣同士で取る事にした。途中ロザリアさんという人物が嫌味らしい毒舌を吐いていたがナイトらしく紳士な対応で追い払っておいた。

そこで翌日のレべリングの話、その次の日にプネウマの花を取りに行く47階層の思い出の丘の話等を相談し合い、明日に備える為にと眠った。ちなみに一人だと不安で眠れないとの事で、同じ部屋で眠る事になった。同じベッドで眠る訳にもいかないから床で寝たけど、堅くて全然眠れなかった!

 

その日は、シリカにとっての安全マージン目標値の47階層に出来るだけ近い階層でレべリングを行った。彼女も筋がよく、教えた分だけ伸びてくれるのは教える側としても嬉しかったりする。

ちなみに、何故か出てくる攻撃力の低いモンスターが事あるごとにシリカを襲っていたように感じたのは気のせいだと思いたい。

レべリングを終えた後は、宿に戻って明日に備えた話をしていた。勿論、部屋の扉は閉めているから外部から会話の内容を聞く事は出来ないから安心だ。

 

「明日はいよいよ思い出の丘に向かう事になる。今日のレべリングでシリカちゃんも大分強くなったけど、安全マージンには全然満たない。何が起こるかは分からないから、気を付けてくれ」

「分かりました。そういえばディアベルさんはマイホームを買う為に貯金をしているんですよね? どこの家を買う予定なんですか?」

「22層にある湖の近くに一軒のログハウスがあってね、そこから見える景色も絶景だし、何より周囲が自然に囲まれているから落ち着いて暮らせそうな家だよ。明日プネウマの花を取ってピナを生き返らせた後は、念願のマイホームを購入する予定だ」

「22層ですか……確かに、あそこはモンスターも迷宮区に行かない限りは出ないですし、ゆっくり出来そうですね」

「マイホームを購入したら、教会にいる子供達も我が家で軍のしがらみから解放されてのんびりとした自由な生活を送らせる事が出来る。それが一番の楽しみだ。よかったらシリカちゃんも、マイホームを購入した後でよければ気が向いた時にでも遊びに来てくれ。何時でも歓迎するよ」

「い、いいんですか!?」

「勿論。場所のマップも今の内に送っておくよ」

「あ……ありがとうございます。家を購入した際には、是非遊びにいかせていただきますね!」

 

マイホームの話で盛り上がり、シリカちゃんに家の場所を教える。

傍から見たら青年が少女を家に招こうとしている不審者の図になってしまうが、そもそもここは部屋の中なので人の目を気にする必要はない。これが酒場等だった場合周囲からは犯罪者予備軍を見るような目で見られていたかもしれない。

 

「それじゃあ、そろそろ寝ようか。明日は朝早いからね」

「分かりました。おやすみなさい、ディアベルさん」

「おやすみ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして翌日、47層フローリアに転移して現在に至る。

 

「わぁ、綺麗ですね!」

「この階層は一面が花に包まれたフロアだからね。特定の層には莫大な人気を誇っているらしい」

「へぇー……」

 

と、感心した所で周囲を見渡してシリカは気付く。

周囲にいる人達はほとんどが男女、つまりカップルというやつだ。

傍から見たら、自分達もそう見えるのではないか? そこまで考えた所で彼女の顔は真っ赤になった。

 

「シリカ、大丈夫かい?」

「な、なななんでもないです! それより早く思い出の丘に行きましょう!!」

「そうだね、それじゃあ出発しようか。観光はプネウマの花を取った後にでもゆっくりと出来るからね」

 

周囲の観光もゆっくりとしたかったが、今は彼女の目的の品であるプネウマの花を獲得する事が優先だ。

観光はその後にでもゆっくりとすればいい。

俺達は当初の目的であるプウマネの花を獲得する為に、思い出の丘へと向かった。

 

 

 

「いやぁああああああああ!? ディアベルさん、助けてくださぁあああい!!」

 

突然だが、道中には当然モンスターが現れる。この階層のモンスターは攻撃力こそ低いのだが、周囲に擬態している為に索敵がある程度あっても気付きにくい。

その為、勇み足になりがちだったシリカが植物型のモンスターに狙われて、逆さ宙吊りにされるという図式が出来上がってしまった。

彼女は必死にスカートを抑えており、俺としては顔を咄嗟に背ける事位しか出来なかった。

 

「見ないで、助けて、みないでくださぁあああい!」

「すまない、どっちかにしてくれないか!? 前を見ずに助けるのは無理だ!!」

「きゃあああああああ!?」

 

結局、仕方なしとモンスターを倒して彼女を助けた。

 

「そ、その……見ましたか?」

「俺は何も見ていないよ」

 

顔を背けながら答える。実際はその、察して欲しい。

そんなこんなで、シリカが奇襲にあったりモンスターを倒したりシリカがレベルアップしたりシリカが奇襲にあったり挙句の果てに俺が絡みつかれるという誰得な図式が完成したりと、色々なパプニングがあったが、なんとか思い出の丘の頂にたどり着く事が出来た。

 

「ぜぇ、ぜぇ……ようやく見えて来た。情報屋によると、あの岩にプネウマの花が咲くらしい」

「本当ですか!?」

 

先程まで彼女も息絶え絶えだったのが嘘かのように急に走り出す。フィールドで一人先走りするのは危険なのだが、この周辺にモンスターは現れないので無粋な事は言わないでおく。

 

「あれ、ない……ディアベルさん、無いです!」

 

岩の元までたどり着いたシリカがプネウマの花を探すが、見つからない事に焦りを感じて振り返って叫んだ。

 

「そんな事はない、岩をしばらく観察してみてはどうだい?」

「観察ですか? わかりまし……あっ!」

 

しばらくすると、唐突に一本の植物が岩から生えて急成長を始めた。

それはさながら植物の成長を超早送りで見物しているようであり、あっという間にプネウマの花が咲いた。

 

「これがプネウマの花……ありました! ありましたよディアベルさん!!」

「それがあれば、ピナを生き返らせる事が出来る。早速、ピナを生き返らせよう」

「はい、本当にありがとうございました!」

「お礼を言われる程の事ではないよ。それより、今度はピナを死なせないようにね」

「はい!!」

 

彼女がそわそわとプウマネの花を取り出し、ピナを生き返らせようとする。

 

 

 

 

「ちょっと待ってもらおうか」

 

 

 

 

その時だった。後ろから急に声をかけられて遮られたのは。

 

「おらぁ!」

「なっ!?」

 

振り向いた瞬間、突然男性のプレイヤーが斬りかかって来たので慌てて剣で受け止めた。

襲ってきたプレイヤーのカーソルはオレンジ。つまり、犯罪者プレイヤーだ。

 

「今プウマネの花を使われると困るのよねぇ。それって今すごく旬だからさ。シリカちゃーん、プネウマの花ゲットおめでとう。早速だけどそれを渡してもらおうか」

 

俺達が通ってきた道の方から複数人のプレイヤーを引き連れていつぞやの女性……確か、ロザリアだったか。が現れる。

 

「ロザリアさん!? 一体、どうして……」

「パーティのお金がたんまり溜まった所で一網打尽にして丸儲けしようと思っていたら、一番のお目当てだったあんたが抜けたもんだからどうしようかと思ってたけど、プネウマの花なんてレアアイテムを取りに行くなんて聞いたからさ。こうしてつけてきたって訳」

「ばかな!? その話は宿屋の部屋の中でしかしていない! 漏れる要素なんてどこにも……」

「世の中には聞き耳って言う便利なスキルがあってねぇ。あんた達の会話は丸ごと聞き取らせてもらったのさ」

「なん……だと!?」

 

気付けば、周囲はオレンジカーソルのプレイヤーが俺達を包囲するように陣取っていた。この状態から無傷で逃げ切るのは不可能だろう。シリカの持つプネウマの花を差し出せば見逃してくれる可能性もあるが、それで見逃してくれる可能性はほぼないだろう。恐らく、プネウマの花を奪った時点で俺達は用済み。そのままPKされてしまう。

ならば……

 

「シリカ、今すぐ転移結晶で離脱するんだ」

 

奴等に気付かれないように、小声ですぐ傍にいるシリカに伝える。

 

「で、でも! それだとディアベルさんが!!」

「俺は君よりもレベルが高い。君が脱出したのを確認した後、俺も隙を見て脱出するさ」

「でも……」

「頼むシリカ、ここで二人で戦っても脱出のタイミングはどんどんなくなる。今すぐ脱出してくれないと俺も逃げる事が出来ない!」

「ディアベル……さん……」

「安心してくれ、俺だって伊達にレべリングはしていない。そう簡単にはやられないさ。無事逃げ切れたら、一緒にまたチーズケーキを食べに行こう」

 

シリカを心配させまいと、笑ってみせる。

 

「ディアベルさん……必ず、必ず生きて帰ってくださいね」

 

そんな俺を見て決心したシリカが転移結晶を取り出す。

 

「させるかぁ!」

「おっと、彼女に手は出させないよ!」

 

シリカの逃亡を阻止しようとした男の攻撃を俺が弾く。そこから、一斉に奴等が襲って来た。

いくらレベルが高くても、相当レベルに差がない限りたった一人のプレイヤーが十人以上もの相手と一度に戦って勝てる訳がない。

そんな事は、俺でも分かっている。だけど、ここで諦めるつもりはない。

転移結晶を取り出す隙を作り出そうと奮闘する。だが、数の暴力の前ではそんな隙も出来ない。

やがて敵の攻撃が俺の身体を切り刻み、徐々に紅いエフェクトが刻まれる。

減っていくHP、いなしても次々と襲いかかって来る敵。

やがて俺のHPがイエローゾーンを振りきり、レッドゾーンにまで到達する。

 

「はぁ……はぁ……」

「チッ、本命を逃がしちまったよ。あたしらの御馳走を目の前で台無しにしてくれたんだ、覚悟は出来てんだろうね? あぁ、今からシリカを連れ戻してプネウマの花を差し出してくれるってんなら見逃してやらない事もないけど?」

「断る……ナイトは、悪党に屈したりなんかしないからね」

「そうかい。ならあんたのドロップするアイテムで我慢するとしようか。あの娘はまた今度だ……お前達、やっちまいな!」

「へい!!」

 

俺が我が身可愛さに一人離脱せず、シリカを先に離脱させたのには理由がある。

俺は既に、2度死んでいる……もしかしたら3度目があるかもしれない。そういう淡い期待に賭けていたのだ。

勿論、何かあった時の為に最善の事はした。その為に彼女を逃がしたのだ。

もしかしたら死に戻れないかもしれないけど、その時はその時だ。元々俺は死んでいたようなものだから。

 

 

 

 

そうして、俺は目の前で振り下ろされる武器を見つめたまま……0になるHPを最期まで眺めていた。




死の運命とは理不尽である。
何の前触れも無く、死はやってくる。
抗えない死というものがある。
死は、常に隣にある。
死と生は表裏一体である。




・追記:5:26日3:52分、プネウマの花がプウマネの花になっていた誤字を修正しました。

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