ディアベルが死の運命を覆そうと奮闘するようです 作:導く眼鏡
やぁ、俺の名はディアベル。職業はナイト(血盟騎士団)やってます。
突然だけど、現在の攻略は72階層まで進んでいる。
このまま順調に行けば、75階層という最後のクォーターポイントまでもうすぐたどり着ける訳だ。
当然ながら、ここまで攻略するのに大きな苦労もたくさんあった。
血盟騎士団に入団しながらも、死の原因となり得る障害を取り除くように細心の注意を払って動いた結果今の状況があると言っても過言ではない。
殺人ギルドとして猛威を奮っていた「ラフィンコフィン」の討伐、ここで誰かを逃がしてしまった場合その人物が俺を暗殺する可能性が高いから、絶対に討ち漏らし、及び捕獲逃しが出ないように念入りに作戦を練って指揮を執った。
ここまでの指揮だけれど、50層を越えてからはやはり厳しい戦いを強いられて、どうしても死者が出てしまう。死者無しで済んだ戦いもあるけど、ここまででおよそ1レイド分の人数を犠牲にしてしまったというのは心苦しいものがある。
50階層はハーフポイントなだけあって、どれだけ念入りな対策を取っても、その対策が記憶にある戦った時の情報を元に練ったものであっても多数の犠牲が出てしまった。あの場面で9人もの死者が出てしまった時は、俺の力不足と理不尽さを感じたよ。
で、今の状況だけど……非常によろしくない。
「だから、今回のフィールドボス攻略の為にはこっちの作戦の方が効率的です!」
「何をいうとんのや! そっちが考えた作戦なんかに命預けられんで! こっちの作戦で問題ないはずやろ!!」
「おい、二人ともよせ。そんな作戦じゃ犠牲者が出るぞ」
「キリト君(はん)は黙ってて(とらんかい)!!」
最近の攻略会議は、このように各自対立気味だ。
以前までならば、俺がまとめ役として最終決定を下す事で全て丸く収まっていた。
だが、50層以降で犠牲者が出るようになってから俺の指揮だと死傷者が出る、俺達に指揮をさせろという人や俺が指揮をしたら血盟騎士団が得をするような作戦がまかり通るとか、そういう事を言う人物があらわれて来た。
当然、俺としても最善は尽くしたつもりだ。それでも、ばらばらになる位ならば無理に指揮にこだわる必要はないし無理にこだわった結果どうなるかは身を以て体験している。
だから俺は、自らの地位を落として指揮官としての立場を事実上降りている。
その結果としてだが、やはり死傷者は免れる事が出来ず、ついにはここまでで45人以上もの人が死んでしまった。
以前と比べると圧倒的に低い事は理解している。だが、それでもとやり直しを繰り返した身で考えてしまう。
「ふむ、このままではキリがない。ここはいつかのようにそれぞれの代表者同士でデュエルを行い、勝った者の作戦を採用する方針で決めてはどうかね?」
ヒースクリフ君のこの一言で、この場はデュエルによって誰の作戦でフィールドボスに挑むかが決まった。
勝者はキリト君だ。やはり彼は強かった。
本当は俺が作戦を出したかったけど、他の人達に目をつけられているからね。死にたくはない。
「お疲れ様、キリト君」
「ディアベルか。お疲れ」
「君が勝ってくれてよかった。俺としても犠牲者が出る前提の作戦はさすがに許容出来なかったからね」
「俺の作戦だって、結局は犠牲者が出にくいってだけで犠牲者が出る可能性は充分あるぞ?」
「それでも、他の人の案よりはずっと素晴らしいさ」
「お褒めの言葉はありがたく受け取っておくよ、蒼の軍師さん」
「その名では呼ばないで欲しいな、今はその名にふさわしくも無い。今の俺は見る影もないからね」
「けど、ディアベルの指揮は攻略には必要だ。俺はアンタが攻略組の指揮を取るのが一番犠牲を少なくクリアできると今でも思っているぜ」
「その言葉だけでも嬉しいよ。後これ、サチ君達へのお土産だ。俺は血盟騎士団の仕事で忙しいし、持って行ってやってくれないか?」
「分かった、わざわざありがとな」
キリト君達月夜の黒猫団は、あれからしばらくして死にかけた事がある。
その時の話で、攻略組に入る事を諦めたらしい。
その代り、後方支援等でサポートをしていくと決め、それからは彼らの
サポートのお世話になるプレイヤーも少なからず存在している。
キリト君はギルドの代表として攻略組筆頭だから、彼がそのサポートを
最も受けているのは当然かもしれない。ちなみにサチ君がキリト君に
好意を持っている事を俺は知っている。頑張れサチ君、ファイトだ。
「くしゅん!」
「大丈夫かサチ、誰かが噂でもしてんのか?」
「噂でくしゃみって、迷信だろ」
「いやいや、案外キリト辺りがサチが恋しいとか言っているかもしれないぞ」
「ちょっと、ダッカー!?///」
「ディアベル君、少しいいかね?」
その日は、何時もと様子が少し違った。
あれから74階層までは無事攻略、キリト君が二刀流を手に入れていた事が公表された。
昨日はキリト君とヒースクリフ君のデュエルが行われ……ヒースクリフ君が勝った。
思う所、疑問こそあったけど……キリト君よりヒースクリフ君の方が一枚上手だったのだろう。
そのデュエルが行われた翌日、ヒースクリフ君に突然呼ばれたのだ。
彼と話をする時は事前にこの日に会議をしたい、とアポイントメントを取ってくるのだが……このようにいきなり話を、というのは数回あった程度で結構珍しい。
「はい、なんでしょう?」
「実は、気になる情報があってね。この話は機密事項の為、私から君に調査の依頼を頼みに来た」
「機密事項?」
「不確かな事柄な為に今回は情報が情報だからね。あまり公にする訳にはいかない情報なのだよ。手短に話そう、ディアベル君……第一階層に出現しているダンジョンについてはどこまで知っている?」
「ALSが独占していながら未だに攻略出来ていないあのダンジョンかい? 存在だけなら知っているけど、そのダンジョンがどうかしたのかい?」
「これはあくまで噂に過ぎないのだが……そのダンジョンの最奥に、GMコンソールに連なるものが存在していると言われている」
「何!?」
「その話が本当ならば、GMコンソールを確保する事でデスゲームを終わらせる事が出来るかもしれない。どうだろう、調査の程を引き受けてはもらえないだろうか?」
「……その調査を行うにあたって、メンバーはどのように編成するつもりだい?」
「今回に関しては同じ団員でも迂闊に他言は出来ない。そこで、ディアベル君が信用出来ると断言できる人物にのみ声をかけてほしい。私と副団長のアスナ君も共に向かう。残りのメンバーは副団長のアスナ君と相談して君がパーティを編成したまえ。もちろん、血盟騎士団以外の者に声をかけてもいい」
「驚いたね、他言無用と言っておきながら第三者に声をかける事は許されるのか」
「もちろん、噂の域を出ないGMコンソールに関しては出来る限り黙秘を貫き通してほしい。表向きは団長命令による、第一階層の隠しダンジョンの調査で通してもらって構わない。それでディアベル君、この調査依頼……引き受けてくれるかね?」
「分かった、そういう事なら俺に任せてくれ」
第一階層の隠しダンジョン、今までは最奥まで足を踏み入れた事がなかったが、GMコンソールが本当に存在するなら、何か大きく変わるかもしれない。
そこに何があるのか、直々に確かめてやろうじゃないか。
かくして、俺は第一階層の調査に赴く為の準備を始めた。
第一階層のダンジョンとはいえ、相当の難易度でALSも攻略出来ていない。
そこに赴くのであれば、やはり信頼できる実力の人物に声をかけるのがいい。
そこで、俺が声をかけたのは……