服選びに全く縁がない彼は少し苦労したが、何とか選び抜く。
それが本当に彼女に着てもらいたかった服かどうか、その自分への疑問を捨て去って……
オシャレに関して真面目に勉強しなければと思いました。
今回は服屋を出てからのお話となります。
それではどうぞ。
「どうしたの蓮君?すっごい疲れた顔してるにゃー」
「棒読みで言うな、分かってるくせに」
服屋を離れデパートを歩く3人、その中で1人、蓮の表情はやつれていた。
体調を崩したわけではない、その理由は単純、何度も色々なものに着せ替えられたのである。
最初2人は3種類の服を持ってきた。
3種ぐらいなら、まぁ……と仕方なく試着した彼。そこまでなら疲弊する程ではなかった、問題はその後である。
試着し評価してもらって終わり、と思い3つ目の服に着替え終えた時である。
いっぱい種類あるもんだなぁ、と何となく感想を呟いた瞬間が波乱の幕開けであった。
何だか分からないが2人に火が付いたようで、色々なものを着せられることになってしまったのだ。
わざわざ数えてはいないが、何回も着せ替えさせられ疲れてしまったのである。
因みに彼は元々買う気も試着する気すらなかったのだが、試着してしまった以上は仕方ない、と全部は無理だが1着購入した。
「ご、ごめんね、疲れちゃったよね」
「あーいや、気にしないでくれ」
「態度が違うにゃ」「お前は棒読みだったからだ」
などと駄弁りながらしばらく歩く。
特に目的地はなく、強いて言えば外は暑くデパートからは出たくないので、店内をふらついているだけだ。
ふと彼が腕時計で確認した時間は12時少し前、出発してから3時間程、時間の流れは早いものである。
「次はどうするんだ」
10分ほどふらついて、ようやく出たその一言。
とは言え、正直なところ2人にとってもその質問は答え辛いもの。もう既に目的である服の買い物を終えてしまっているからである。
だからと言って解散、というのもつまらない話だ。
「んーどうする、かよちん?」
「そうだね……蓮君は何か用はない?」
「俺は別にないな」
「あ、じゃあとりあえずご飯食べよ!お腹すいたし、後の予定はそこで考えるにゃ」
「そうだね、時間もちょうどいいし」
食事をしようという事で話が纏まったので、デパート内にあるレストラン街へと足を運んだ。
しかしいざ向かってみると、
「多いな、人」
どこのレストランも満員であった。
空いている所もあったのだが、お金に余裕がない3人にとっては少々高すぎる値段が載せられており、思わず苦笑い。
「あーどうするか」
「えっと、あ!確かフードコートが1階にあったような」
「それだな、時間的に空いているか厳しいところだが…… 」
「それじゃ急ぐにゃ!」
「だ、ダレカタスケテー!」
「 あ、ちょ、おい!」
決まれば行動が早いのが星空凛。花陽の手を引っ張り、その場からダッシュでフードコートへと向かう。
運動ができないわけではないが、正直走るのは怠い。行き先は分かっているし、携帯だってある。席を確保する意味では急いだ方が良いのかもしれないが、マイペースな彼にその選択肢はない。
ゆっくり向かうか、と決めた瞬間、その判断を後悔する事がすぐに起きた。
「おー蓮じゃん!」
聞き覚えのある声が後方から聞こえた。
後ろを振り向きたくないという感情が彼の中で渦巻いたが、今後の事を考えると無視する選択肢を取るのは間違っているかもしれないと思い、結局振り向いた。
そしてやはりそこにいたのは今出会いたくない人物の1人であった。
「お前か……」
「おう、俺だ!」
なんとも不機嫌な表情を浮かべる彼とは対照的に、爽やかな笑顔と共に声をかけてきたのは、彼のクラスメイトでありおそらく1番の話し相手であろう人物、
「どったの、こんなところで。お前が外にいるなんて珍しいじゃん、しかもここ池袋」
「別に、お前には関係ない」
「はー相変わらず無愛想だな。てか普通に服買いにきたって言えばいいじゃん」
そう言いながら彼が指差す自分の手元にある袋へ、視線を動かす。
そこには店のマークが付いており、有名なメーカーであるのでパッと見れば服を買った事なんてお見通しだ。
最初から素直にそう言えばもっと楽に事が進んだのかもしれないのに、と再び後悔する。というのも、
「それで、一体何を隠しているのかね、蓮くん」
本城藤也という人物はキレ者でかつ追求してくるタイプの人間だからである。
もっともそんな意地悪な顔をして追求を行うのは蓮ぐらいであるが、やられた方としては、ウザいというのが本心である。しかもまるで名推理をした、と言わんばかりにドヤ顔混じりで言ってくるのがさらにウザいという気持ちを後押しするのである。
ただ服屋に行った証拠を掴んだだけで、何かを隠している証拠はないというのに、ドヤ顔なのが妙に嫌なのである。
「服買いにきただけだ」
「学校か家にしかいないお前がか……」
「待て、お前の中での俺はどういう人物なんだ」
「ただの引きこもり」
少しイラっとする即答。
しかしあながち間違っていないのが、なんとも言えないところである。
「ただの引きこもりが、服屋に用なんてあるか?いや、ないね」
「お前のその言葉はいくらでも論破可能なんだが」
「でも君の性格を考えれば、服を一々買いに行くなんて手間はかけないと思うけどね。そもそも僕が疑うのは、1つの前提がある。僕は君を見つけた瞬間、昨日の電話の事を思い出したんだが、電話相手の女の子と約束してたとか……違うかな?」
面倒なものを取り上げてきたな、と目を細めた。
昨日の昼食の時、凛からの電話をとった。その時にいた人物の1人が彼である。
色々と変なことを覚えている人物で、昨日の電話の事を覚えていたらしい。その事があったので、電話相手と会う約束をしていたという前提があった、なので先程の隠している、という質問が出てきたのだ。
やれやれ面倒なことになったと、ため息をつく蓮。しかしこちらも彼の性格はよく知っている、何せ彼とは中学からの付き合いだからである。
どう対応するか、それは嘘をつくのではなくて、自分が冷静に答えられるように本当のことを言うだけだと彼は考えた。
「……約束なんてしてないぞ」
もっとも、隠したいことは隠しつつであるが。
「え、あれ、そうなの?」
「あぁ約束なんてしてない」
「あーそりゃ、なんか、んー、その、はずっ!俺、はずっ!なんかドヤ顔で推理してて馬鹿みたいじゃん!」
いや、大体当たってはいたぞ、と言ってあげたい所だが、ここで言ってしまっては意味がない。
藤也という人物は追求癖があるが、割と素直な人間。少し真面目な風を装って語れば、その言葉を信じやすい。
彼女たちと会っているという事が知られると後々面倒なことになるのは予想できるので、少し可哀想だが、このまま勘違いしといてもらおうと思った。
「それよりお前こそなんで1人でここにいる」
「俺?これからクラスの奴らと遊ぶんだよ。飯食う時間に集まるって話なんだけど、それまで暇だなって思ってふらついてたってわけ」
「なんで渋谷に……」
「遊ぶ場所なんて、なんとなくだろ。強いて言えば近場じゃ面白くないって話になったことぐらいか」
「なるほど、そういう事か」
「……お前もくるか?楽しいぜ、あいつら」
少しの間の後、笑って彼を誘う藤也。
しかし彼の返答はNo。そうか、と言って無理強いはせず、すぐに諦める。それが彼にとってベターな選択である、という事を藤也は知っていた。
「もし気が向いたら何時でも言えよ、な」
「あぁ、そうする。とりあえず今日はこの辺でじゃあな」
おう、藤也はそう言ってその場から姿を消した。
ため息をつくと、少し話し込んでしまったので駆け足でフードコートへ向かった。
クラスのことが脳裏に引っかかっていたが、気にせずに前を向いて歩く。
あいつらと遊びたい、そんなんじゃない。
もっと根本的に……
頭を横に振った。
どうでも良くて、そんなことを思考する自分に少し腹が立っていた。
新キャラとして本城藤也君です。
そこまで活躍するかどうかは今後のお楽しみに。ただもちろん、主役は蓮君と凛ちゃんと花陽ちゃんです。
名前の由来はありますが、まだ出てきたばかりなのでまたの機会に。
それではまた来月の1日に。