「アイドルねぇ」
家に帰った蓮。
手洗いなどをした後、自分の部屋の布団に寝転がる。
アイドルを始めた、それを聞いた後あまりにも突然の情報で何て言えば良いかすぐに浮かばず、ただ困惑していた。
そんな彼に構わず、凛はこの後13時00分から行われる練習を見学しに来ないかと、誘ってきたのだ。
どうやらもう1人、同学年の西木野真姫という子と自主練習を行う。そういった内容だったらしいのだが、あまりにも突然すぎて色々飲み込めず、咄嗟にこの後実は予定がある、とありもしない嘘を無意識の内に作ってしまい、その誘いを断った。
誘いを断る理由は明確には存在しない。ただ凛の話す勢いが強く返答を焦った事、すぐに色々情報を整理する時間がほしいと思った事、この2つが混ざり、咄嗟に断りの言葉がでてしまったのだ。
「悪い事したな」
凛が寂しそうな顔を見せたのをはっきり覚えている。
すぐにでも訂正しようと考えたが、凛がすぐに予定が入ってるなら仕方ないと受け取ってしまい中々嘘だとは言えない状況になってしまったので、訂正ができなかった。
結局、凛の誘いを断る事になってしまったのだが、その後昼ご飯は共にする時間があるという事で、食べながらその2人が始めたアイドルについての情報を聞いた。
「確か、グループ名は『μ's』」
蓮は布団から降りて椅子に座って、パソコンを起動させ、『μ's』について調べ始める。
一応彼女達から聞いたのは、
・最近有名なスクールアイドルであること
・まだ1ヶ月程のグループであること
・特に凛達1年生は1週間前に入ったばかりで、動画はまだない事
1ヶ月前に噂で聞いた程度だったので、すっかり忘れていたのだが……
凛達の通う高校『音ノ木坂学院』が廃校の危機に瀕しており、それを防ぐ為、活動を始めたとの事。
大のアイドル好きの花陽、彼女が感動を受け、入ったアイドルと聞き、気にはなっていた。
そもそも幼馴染がアイドルを始めたと聞いて、気にならない人がいるだろうか。
「お、これか」
スクールアイドルのサイトから発見できた『μ's』の文字。
確かにまだまだランクは低いが、注目の一覧に入っていた。
早速動画を見てみよう、そう思った時に電話がなった。
電話を掛けてきたのは意外な事に、そろそろ練習を始めているはずの花陽からであった。
「はい、もしもし」
『あ、蓮君?今、いいかな?』
「うん、大丈夫だけど」
『良かった。実は少し話したい事があって……』
話したい事?
さっき会った時に話せば良かったんじゃ、と考えた彼の頭の中で2つの仮説が立つ。
1つは、別れた後で思い出した、あるいは思いついた話題であること。
もう1つは、凛の前では言えない話題であること。
もし後者であれば、周りには凛がいないという事になるだろう。
などと、推理を立て約5秒。
蓮は花陽に一体何のようなのか質問した。
『何か考えてた?』
「え?何故?」
『少し間があったから。蓮君、昔からちょっとのことでも色々と考える癖あったよね』
「そうだったっけ?まぁ、今考えこんでたってのは、合ってるよ」
『ふふ、昔から変わってないね』
少し思い出に浸っていたが、話は本題に変わる。
「で、話って?」
『あ、うん。えっと、蓮君、さっき嘘ついたよね?』
「え」
『あ、もし間違ってたらごめんね。別に責めてるわけじゃなくて、ただそう感じたってだけなの。
久しぶりに会って、いきなりアイドルになったって言われて、色々戸惑って、嘘言っちゃったんじゃないかなと思って』
ご名答である。
心が読まれてるんじゃないか?という、非現実的な発想は不思議と出てこない。
花陽なら分かっちゃうか、と何故か嘘がバレても不思議じゃない、と彼は思った。
「当たってるよ。ごめん、嘘ついて。焦って答えちゃって、その後嘘だって言いにくくって」
『ううん、大丈夫だよ。なんとなく分かってたから。
でも今度は見にきてくれたら嬉しいな』
「次はもちろん行くよ。俺も見てみたいし」
久しぶりに会って思う事はたくさんある。
遠ざかったのは自分、会って良いのだろうかという思いが無いわけではない。
しかし断るのは悪いし、何より見てみたい気持ちは確かにあった。
「あ、悪いんだけど、この事は……」
『分かってる、凛ちゃんには言わないよ』
「ありがとう。凛の事だからきっと俺の嘘を素直に受け止めてくれてるんだろう?」
『蓮君の言う通り、凛ちゃんは何も疑問を持たずに予定があるなら仕方ないって受け止めてくれてたよ』
「そうか。やっぱ、悪い事しちゃったな」
『悪い事って思うなら、今後は嘘つかないようにね。私達には素直に本当の事言ってくれて良いんだよ』
昔からこんな感じだった。
凛は嘘に敏感ではないが、素直に言った事を受け入れてくれる。
花陽は嘘に敏感で、でも怒らず、本当の事を言ってくれて良い、と優しく言ってくれる。
少し違えど、優しい事に変わりはない。それは昔から変わらない事であった。
「……ありがとう。改めてこれからもよろしく」
『うん、よろしくね、蓮君』
そう言った後、電話越しに『かーよちん、いつまで電話してるのー?』と凛の声が僅かに聞こえた。
花陽は、またね、と一言だけ言って通話を切った。
通話が終わって、蓮は2人の事を少し考えた。
再び関係がスタートした、その事実に変わりはない。
色々思う事はあって、進んで遊びに誘ったりするのはまだ彼にとってハードルが高い。
けれど仲良くして欲しいと言われ、断る事はない。寧ろ嬉しい。
そもそも、あんなにも可愛い女の子2人と仲良くなる……
「って、何考えてんだか」
年が経って、彼女達への見方が僅かに変わっていた事に気付き、少し自分の頰を引っぱった。
頭の中を切り替える為、元の目的へと戻る。
イヤホンを付け、パソコンに表示されていた再生ボタンをクリックした。その題名は【START:DASH!!】。
そして流れ始めた音楽、3人の綺麗な女の子の踊り。
彼は黙ってその映像を見続けた。
アイドルというものに対し、正直言って興味はそこまでない。花陽がアイドルのファンであったため、何度か見た事はあるが強い興味を持つ事はなかった。
だが今回は何故か不思議と惹かれた。
「すごいな、これ俺と同じぐらいの年の人達が作ったのか」
素人目でも分かるが、僅かにダンスがずれていたりする。
けれどそれが気にならない程、歌やダンスの素晴らしさ、そして彼女達の一生懸命さが強く伝わってくる。
何より凄いのは、これが自分と同じぐらいの年齢の子達が作っている事実。
「スクールアイドル、か」
『アイドル』という存在よりも、2人がこれから活動しようとしている『スクールアイドル』という存在に強い興味が湧いていた。
主人公はスクールアイドルをあまり知ってはいません。
引き続き3話も見ていただけると幸いです。
それではまた次回。