時は少し経ち、学校にいた蓮の元に一本の電話が……
更新お待たせいたしました。
今更かもしれないのですが、この小説は楽しい事もあればシリアスな事も多い作品となっております。
念の為、お知らせいたします。
それではどうぞ
幼馴染2人がスクールアイドル、μ'sのメンバーになった。
その情報を聞いてから、約2週間が経とうとしていた。
1週間前2人と再会し、その次の日はμ'sの会議に参加。それ以降はSNS上の会話に少し出てくるぐらいの交流のみであった。
というのも、彼女達は平日は朝練を除けば学校で活動しており、仮に彼が手伝えることがあったとしても参加ができないためだ。
なら朝練に行けばいいじゃないか、そう考えたが、彼は朝に弱く、正直言って行きたくないので、黙っているのである。
(もっとも、俺が手伝えることなんてないが……)
さらに暑さが増した金曜日。
そんな事を思いながら、今日も彼は授業を受けていた。
「蓮、ここ解いてみろ」
「え、あ、はい」
そんな時唐突に先生からの指名を受けた。
授業は数学。時折指名を受け黒板前に立たされ、問題を解かされる。
チョークを持って教壇上に立ってジッと問題を見つめる。だが一向に手は動かない。
「んー、えーと」
「どうした、解けないのか」
「あー、はい、ちょっと、すいません」
「ふむ、まぁいい。だがここは前にやった授業をしっかり受けていればできるはずだぞ、次は頑張れよ」
「はい」
人前で解かされ、おまけにできないとなれば戻る足取りは重い。
さらに前の授業をやっていればできるなどと言われれば、公開処刑のように感じてもおかしくはない。
周りができない自分を見て笑っているようで、少し心苦しい。
『蓮君は勉強できるから』
凛に言われた言葉をふと思い出す。
今の自分を見られたら彼女はどう思うだろう…… それは考えたくなかった。
「前回の授業やってればできるとか毎回言うけどよ、絶対無理だよな」
「ホントそれ。あの問題は無理だわ。蓮も不運だったな」
「あ、あぁ」
数学は4時間目であり、今は昼休みを迎えていた。
今日は友人2人とともに3人で昼食を取っていた。
その間に出てくる会話は先程の授業のこと、フォローしてくれているのか、それとも単に解けなくて愚痴をこぼしているのか、どちらかは分からない。
ただあの時席に戻った後、確かに前回の授業を振り返ってみれば分かる問題だと知り、自分の努力不足だと知った蓮は解けはしなかったが、彼らの言葉は支えではなく逆に少し耳障りなものとなっていた。
そんな時だった。
(電話?)
バイブレーションの振動音が微かに鞄の中から聞こえてきた。
誰からだろうかと思いながら、中を探って取り出す。
『蓮くーん、今大丈夫ー?』
「え、あ」 「「今のは女の子の……声?」」
どうやら取り出す際に通話をオンにしてしまったらしく、漏れた声を2人が聞き取ってしまったようで、しかもそれが女の子だと気付いてこちらに鋭い眼光をぶつけてきた。
所謂彼らは非リア充というやつで、特に蓮以外のこの2人は彼女欲しい組で、女の子と連絡を取ってる、なんで知られれば色々と面倒なことになるのである。
鋭い眼光で見られる中、視線をずらして電話相手を確認する。
自分にかけてくる女子、と考えれば候補はそこまで多くない。そしてやはり凛であった。
「あー……り、凛?」
『あ、蓮君!ちょっと話したいことが』
「少し待っててくれ」
分かったにゃ!と元気の良い返事を聞いた後、スピーカーを手で覆い隠す。
「凛は俺のただの幼馴染だ、別にお前らが考えてるような関係じゃない」
「幼馴染とかいたんだ、へー」
「幼馴染とか最強クラスのステータスなんですけど」
「幼馴染だからって恋に落ちるわけじゃない、漫画の見過ぎだ。ともかくちょっと電話してくる」
席を離れようとする時も2人からくる鋭い視線に変化はなかったが、とりあえず今は無視して教室を出た。
少し歩いて誰もいない、静かで、携帯で話すにはベストな場所へ移動する。
「悪い、凛。もう大丈夫」
『ごめん、いきなり電話かけて』
「別にいいよ。それで用は?」
『あ、うん。今日なんだけど、良かったら一緒に運動しよ!』
運動?
そう言われても何のことだか分からず疑問符を浮かべる蓮。
「運動って?」
『今日夜走ろうと思ってて、1人じゃつまらないから蓮君もって思って』
「花陽に声かければいいじゃんか」
『もちろん声かけたよ。でも練習で精一杯で、ちょっと厳しいって』
そういえばあの時作った練習メニューは、花陽のギリギリラインのものが多かった。
あれが少なくとも今日で5日続いたわけで、疲労が溜まってきているのだろう。
「あーはいはい。まぁそう言うことなら付き合うよ」
『良かったにゃ!じゃあ19時頃凛の家に来て!』
了解、そう一言言って通話を切る。
友人はいるが(一方的なものかもしれないというのは否定できないが)予定は全くない蓮。
なので予定が入ることは少し嬉しい。
「何笑ってんだよ」
「お前のそんなニヤけ顏初めて見たぜ」
「ん、別に。何でもない」
席に戻った彼、どうやら顔に出ていたらしい。
高校に入って初めてこんなこと言われたな、と思いながらも再び昼食を食べ始めるのであった。
「お待たせ」
「あ、きたきた。久しぶりだにゃ!」
「連絡は取ってただろ」
「細かい事はいいの!それより早く行こ!」
「具体的に何処まで?」
「んー、神田明神!」
「はいはい、じゃ、行くとするか」
時刻は時間通り19時00分,
凛の家の前から神田明神まで約2、30分の道のり、2人はランニングを始めた。
「で、最近どうなんだアイドルの方」
「まだダンスとかの練習はしてないけど、皆で走ったりするのすっごい楽しい!そろそろ新曲の話も進めるって言ってたにゃ」
「時間はないって話だからな、人も集まってるんだしいい機会なんじゃないか」
「凛もそう思う!あ、それとかよちんも楽しいって!」
道のりを走っている間、凛の近況報告を中心に話は盛り上がった。
上がってくる話はμ'sのことばかりだが、気になっていたし、なによりその話をしている凛は本当に楽しそうで、聞いていて飽きることなどなかった。
「蓮君はどうなの?」
話が落ち着いてきた時、唐突に話題は蓮に移り変わった。
彼は今日の事、今までの事を少し振り返る。
部活はやってなく、これと言った趣味は今は存在せず、何か委員会などをやっていて忙しいわけでもない。
振り返ってみれば、思い出せるのは怠けている自分だけ。
それが今の自分。
「これと言って話せる事はないよ。普通に授業受けて、帰っての繰り返し。変わったことと言ったら凛達と関わるようになったぐらい」
凛達と関わり始めたことを除けば、何てつまらなくて、薄っぺらい人生なんだろう。
そんな暗い気持ちに一瞬なったが、彼女の前ではそのままではいたくない。彼女の前ではできるだけ明るい自分でいたい。
今の本当の自分と会わせたくない。
だから、
「凛はどうなんだ、学校の方は」
自分の事は表に出さないようにした。
凛が話したのはμ'sのことばかりで、学校生活までは話していなかった。
「学校も楽しいよ!クラスにはかよちんに真姫ちゃんもいるし、他にもいっぱい友達がいるにゃ。先生も優しくて、本当に大好きにゃ。
ただ、勉強は難しいにゃ……」
凛は思わず苦笑いを浮かべる。
確かに楽しいのだが、上手くいかなくて苦手意識のあるものも存在する。もっとも、それは変ではなく普通によくあることである。
「でも放課後には部活もあるし、結局はすっごい楽しいにゃ!」
そう言う彼女の表情は相変わらずのとても明るい笑顔であった。
凛は楽しんでいる、それに彼女の話を聞く限り花陽も。
自分の事を考えるのは嫌だが、彼女たちが楽しんでいるのならそれで良いのだろう、そう思い笑って「楽しんでいるのならなによりだ」と言った。
だが少しして凛の表情は少し不満を持ったようなものになった。
蓮は暗くてしっかりと表情が見えたわけではないが、何か考えているのだろうというような感じは何となく悟っていた。
「んー、やっぱり蓮君もいてくれたらもっと楽しかったと思うにゃ」
「え、学校にってこと?」
「うん。女子校だから無理だけど、いてくれたらもっと面白かったと思う!皆でお昼食べて、勉強もして、あ、文化祭とかも!それに……」
凛は皆でやったら楽しそうなものを色々挙げていく。
そんな中、蓮は学校が一緒だったらという事を想像してみる。
もし一緒だったら自分はやはり距離を空けていたのだろうか?
もし一緒だったら自分は今と比べて怠けていない生活を送れていたのだろうか?
もし一緒だったら……
そう考えると凛と同じように蓮も色んな事が浮かんだ。
けれどその殆どが凛のように楽しいものばかりではなかった。
「一緒に食べるとかだったら、できなくはないだろ」
「学校で食べるのと話が違うにゃ」
「それはそうかもな」
とりあえず彼女の前では話したくない、その気持ちはしっかりと残っており自分の想像した事は自分の中で止めた。
「あ、階段についたにゃ」
話をしているうちに神田明神前の階段についていた。
しばし神田明神には行ってなかったので、久々に見たその長い階段は圧倒されるものがあった。
だが一方で凛は何回か練習で使っており、もう見慣れているレベルになっていた。
「よーし、上まで競争にゃ!」
「は?「行っくにゃー!」あ、おい!ずる!」
唐突に始まった競争。
凛が先に走り出し、その後を蓮が追う。
凛は元々運動神経がよく、今も運動をしているので1回駆け上がるぐらいなら問題ない。
だがだからと言って素直に負ける蓮ではない。最近は運動量が減ったとはいえ、元陸上部。少しスタートが遅れた程度で……
「勝ったにゃ」
勝てる事はなかった。
差はそこまでなかったが、やはりスタートが悪いのが大きく影響した。さらには凛は少し息切れしている程度だが、蓮は彼女より大きく息切れをしていた。
「大丈夫?」
「あぁ、平気。てかいきなり走るなよ」
「ごめんごめん。でも良い汗かけたでしょ?」
「まぁ、否定はしない」
ふふっと笑う凛は境内の広い空間に開放感を覚え、大きく伸びをしながらふと空を見上げた。
そんな彼女の視界に映ったのは、
「うわ〜!蓮君、見て!星が綺麗だよ!」
夜空に光る星達だった。
おそらく周りの光に消されてしまった星の光がいくつかあるだろう。それでも今日は曇り1つなく、比較的光量が少ないこの場所は普段より多くの星が綺麗に映る。
凛に言われて彼も空を見上げ……ただただ圧倒された。
「本当に、綺麗だな」
「うん、昔見た時と変わらないにゃ」
そう言われて思い出す彼女との思い出。
そういえば昔はここに限らず多くの場所で、星を一緒に見たことがあった。
星空という名前を彼女が持っていたから、自分が誘ったんだっけ?それとも誘われたんだっけ?理由は今一覚えていなかったが、しっかりと彼女と見た星空を覚えている。
それが自分の人生を大きく変えたものでもあったから……
「蓮君、実はね」
ハッと我に帰り考え事をやめ、凛の方を見た。
「練習をしようと思ったのも何もかも本当のことなんだけど、もう1つ、蓮君と一緒に星を見たかったんだにゃ」
「星を?」
「うん。
本当は何だか蓮君元気ないような気が、会った時くらいから少しずつ感じてて、何か悩んでるんじゃないかって思ってて。
それでどうにかしてあげたいって思って。でも凛、頭良くないからよく浮かばなくて、それでパッと浮かんだのが星を見ることだったにゃ」
彼女には何となく分かってたのか。
それを知って、じゃあ彼女に今の悩みを打ち明けようかという気にはならない。
彼女にばれたくない、自分の内に潜めておけば良い、悟らせるな、明るく振るまえ。
だがそんな気持ちと裏腹にある、分かってくれてたんだ、と嬉しく思う気持ち。
「凛の勘違い、それとも余計なお世話……だったかにゃ?」
そう言って苦笑いを浮かべる凛。
自分の気持ちは、正直よく分からない。
でも多分、嬉しかったんだと思う。
「いや、ありがとう」
だから今彼女に言えたのはありがとうの一言。
その言葉を聞いた凛は「なら良かったにゃ」と一言だけ言った。
そして再び訪れる静寂の中、ただ2人は星空を眺めていた。
しばらく見た後、2人は帰り道を歩き始めた。
「次はかよちんも呼ぶにゃ〜」
「そうだな、あいつにも見せてやりたい」
「あ、じゃあ次はもっと凄いところ行こう!」
「凄いところって?」
「うーん、わ、分からないにゃ。で、でも、もっと光ってるとことか、あ!プラネタリウムなんかいいかも」
「なるほどね、まぁ悪くはないんじゃないか」
「と言うより、色んなところ行こう!お買い物とか、遊園地とか!高校生活を満喫するにゃ!」
「高校じゃなくてもいいじゃないか」
「そうだけど、したい時にしないと、だにゃ!」
そんな楽しい話ばかりが飛び交う。
いつも以上に楽しいのは多分彼女がいるからだろうか、いや、今その事はとりあえず良い。
嫌なことを忘れて心の底から楽しいと思える今の時間が、とにかく嬉しい、それで良いのだろう。
「あ、家が見えてきたにゃ」
だが楽しい時間はあっという間に過ぎてしまう。
気が付けば彼女の家の前であった。
「それじゃあ今度は遊びに行こう!かよちんも連れて!」
「あぁ、それじゃ」
「うん!今日はありがとにゃ!バイバーイ!」
それはこっちのセリフだ、なんて思いながら手を振ってその場を離れていく。
普段はマイナスの事ばかり考えてしまう彼だが、珍しく帰りまでの道のり彼は凛との話のことばかり考えていた。
だが家に帰ると同時に、夢から現実へ引き戻されたかのように卑屈な考えが彼の頭の中をよぎった。
それはやはり自分の中に隠している自分のこと。今の本当の自分のこと。
「ただいま」
その言葉と同時に自分はまた戻ってしまう。また彼女達に見せられない自分になる。
それが嫌と言うのなら、どうすれば良いか。その答えは1つしかない。
自分を変える、それだけである。
しかしそのシンプルな答えを可能にするのは相当な努力と時間、何より気持ちが大事であった。
けれど今日家に戻った彼の心は、僅かに変化が起きていた。
「勉強少しするかな」
食事などまだ終わっていないが、今の気持ちが変化しない内にアクションを起こさないと、一歩を踏み出さないとダメだと思い、彼は真っ先に部屋に向かった。
急に自分を変える事は無理だ、しかし少しずつならできるかもしれない。その実行力を今日得る事ができた。
蓮は凛に改めて心中でお礼を言った後、椅子に座った。
凛ちゃんと蓮の思い出、その1つとして星空がありました。
自分に不満がある彼にとって、彼女の行動はとても良い効果をもたらしたでしょう。今後、彼がどうなっていくのかお楽しみに。
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それではまた次回。