ルート2 ~インフィニット・ストラトス~   作:葉月乃継

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28、ウェルカム・トウ・ザ・ブラックパレード

 

 

 IS学園中に腹の底まで響くような低い警報音が響き渡る。

 寮で寝ていた生徒たちは何事かと飛び置き、次に地面を揺らす地響きに足を取られそうになっていた。

「生徒のみなさんは、シェルターに移動をお願いします」

 廊下から教員が大声で叫んでいた。生徒たちは着の身着のままで部屋から出て、教員の元へ詰め寄る。

「先生、何があったんですか!?」

「わかりません、とりあえず緊急事態条項B3に従って、移動してください」

「B3?」

「シェルター増設に伴って新しく出来たんです。まだ教えていませんでしたか」

「と、とりあえず逃げます」

「そうしてください」

 各学年の寮で、同様のやりとりが行われていた。

 とうとう戦争が始まったのか、と生徒の一人は不安に駆られた。

 

 

 

 

 

 第六アリーナの上層部、VIP専用の観覧席が崩れ、地面へと落下していく。

 コロシアム状のアリーナの外壁に、その破壊行為を行った黒い異形のISが立っていた。

「止まりなさい! そこの未確認IS! こちらはIS学園機動風紀です!」

 三機の青紫のISが、スラスターを吹かし手に銃器を持って、乱入者に近寄ってくる。

「……何なの……あのIS……」

 銃口を向けたまま、中のパイロットが訝しげな声で呟いた。

 その異様な風貌に、取り囲んでいるISのパイロットたちは息を飲む。

 まず片腕と両脚の装甲が人体の入る太さをしていない。そして右腕の二倍はありそうな長い左腕が、得体のしれぬ恐怖を感じさせる。

「と、とにかく、止まりなさい、ここはIS学園です! ISを解除して地面に降り、両手を上げてください!」

 恐怖を振り払うように、金切り声を上げて命令をするが、その声の震えは隠し切れていない。

 彼女たちにとっては想定外の事態だった。IS学園の三年といえど実戦経験は皆無だ。いずれもつい先日まで専用機を持ったことがない一般生徒だった。

 世間では戦争だなんだと言われていても、まだ実感もない武器だけ与えられた新兵の集まりが、IS学園の機動風紀委員会だ。

「右手しかねえよ」

 ぽそりと、相手のISパイロットが呟いた言葉が耳に届く。

「え?」

「そのIS、エスツーを殺したヤツだな」

「ちょ、待って、何を言っているの! 今すぐISを解除して!」

 うろたえながらも震える銃口を向ける三人は、次の瞬間、全員地面へと叩き落とされていた。

 アリーナに振動が走る。

「っつー……何が?」

 頭を振りながら見上げれば、目の前には黒い爪が迫っていた。

 その一機は三十メートル先にある壁面に吹き飛ばされて、動かなくなる。そして光の粒子を撒き散らしながら青紫のISが消えていく。

「一撃、いや二撃で?」

 残る二機のパイロットが信じられないと戦慄いた。

「お、応援を! 早く! 第六アリーナに早く! 急いで! 一機撃墜されたわ!」

 そのうちの一人が、甲高い声で必死に通信で助けを請いながら、銃口を向ける。

「止まりなさい!」

「理事長はどこだ?」

 鋭いピックで刺し殺すような声が聞こえてきた。

「え……その声って……ひょっとして」

 聞いたことのある声だと気付いて目を見開く。声をかければ返事をしてくれる気さくな、IS学園に在籍していたことのある男子の後輩だ。

「二瀬……野クン?」

 問いかけるが返事はない。次の瞬間に装甲に包まれた彼女の頭部は、異形のISの右手に掴まれていた。

「ひっ!」

 残りの一人が目を瞑って、敵機に向け引き金を引く。だが手にあった重みは次の瞬間に衝撃とともに消えていた。恐る恐る目を開けば、長い左腕によってISの手ごと吹き飛ばされていた。

「は、早く! 誰か! 早く来て!」

 泣き叫ぶ声をBGMに、悪魔が右手に持ったISを放り投げ、落ちてきたそれの背中を蹴り上げた。推進翼を貫通し背中の装甲を砕かれ、ISは重力に従って地面に叩きつけられる。攻撃を食らったISは光の粒子となって消えていった。

 最後の一人はその様子を見て信じられない、と震えながら後ずさろうとする。

「助け」

 助けて、と言い終わるよりも早く、その顔面に向けて長い爪が迫っていた。

 

 

 

 

 

 第六アリーナの客席に辿り着いた鈴は、目を疑っていた。隣にいたセシリアも口を押さえて目を歪めている。

「……ヨウ」

 十人以上の上級生が地面に転がっており、全員がISを解除されていた。おそらく絶対防御という搭乗者保護機能が動いているようで、身動き一つなく気絶しているようだ。

「どう……しますの」

「どうって……どうすんのよ、これ」

 二人はクラスメイトからの通信を受け、専用機のない生徒たちを避難シェルターへと誘導させた後、ISの反応を追ってここまで走ってきたのだ。

 機動風紀が教員を抑え、理事長直轄という名目の元、副理事長の許可で敵機への撃退に向かったはずだった。

 今、二瀬野鷹のIS『テンペスタⅡ・ディアブロ』を取り囲んでいるのは、十五機程度。機動風紀委員会の全員が出張って来ている。

 それでも止めることが出来ない。飛びかかってくるISを葬り続けていた。

「あ……ああ」

 セシリアが自らの呻きを飲みこむように、口元に手を当てた。

「……何があったって言うのよ……アイツ」

 知り合ってからが長い鈴ですら、ここまで荒れている二瀬野鷹を見たことがない。彼女にとっては、軽口を叩き合う、何だかんだで付き合いの良い悪友のような少年だった。

 そこまで強かったの、アイツ。

 思ってもいなかった。自分と同等以下の動きしか出来なかったはずだ。一夏たちがかなり強かったとは言っていたが、彼女は自分の目で見ていない。ゆえに信じられなかった。段階が一つ上に昇っているという表現が相応しい動きだった。

 そして、その異形のISの放つ雰囲気に、機動風紀の人間たちは完全に飲まれていた。耐えられなくなり、そして暴走したように襲いかかっては自滅していく。一刻も早く、そのプレッシャーから逃れたいがゆえに飛びかかる、そんな動きだった。

 ただそれでも、

「ヨウ……アンタ」

 鈴の目には、友人が黒い仮面の下で泣いているようにしか見えなかった。

「ファンとオルコットだったか」

 アリーナを見つめていた二人の元へ、一人の中年男性が近づいてくる。がっしりとした体形で、迷彩柄のズボンにTシャツを着た軍人の雰囲気を漂わせた男だ。

「き、岸原指令?」

「すまないが、頼みがある。オルコット、お前の退学手続きは前倒しで受理済みだ」

「え?」

「……彼を頼む。タイミングはこちらで指示を出す。それまで待機していたまえ。可能なら二人ともISスーツに着替えておくこと」

「……想定済の事態でしたか」

「俺の独断だ。言うなよ。行き先は極東飛行試験部隊だ」

 そう言って、岸原は肩を鳴らしながら、二人の元から去って行った。

 

 

 

 

 

 残り十機になったときに、上空から一機のISが降りてくる。他の機体と同様の青紫のISだったが、銃器を持つ他機とは違い手には大きな鎌を携えていた。

「全機、一端引いてください。それから武装を中距離型へ、私が相手をします」

 指示を出しながらも、中にいる少女は舌舐めずりをしていた。

 彼女はこの相手を待っていた。専用機を手に入れる前からずっと戦いたいと思っていたのだ。

「では衆人環視の中で少し気恥ずかしいですが、一つ私とまぐわっていただきましょう、これが乙女の花を散らす戦いになりますように」

 平たい調子で前口上を述べながら、だらりと腕を垂れて前傾姿勢になっているディアブロと対峙する。長い左腕が地面に触れていた。

「お前」

「このルカ早乙女がなんでしょうか」

 威嚇するように巨大な死神の鎌を回転させ、切っ先を相手へ向けた。

「……その声、エスツーを殺したヤツか」

「はて、何のことでしょう」

 トボける仕草にすら感情を込めず、推進翼を立てて、ルカ早乙女は相手の動きを察知するために視線を固定する。彼女の視界では、事前入力型無軌道瞬時加速を動かすウィンドウが立ち上がっていた。

 ずっとストーキングしてきた相手だ。癖はわかっている。機体が変わろうとも、中身が変わらなければ対応は出来ると彼女は踏んでいた。何せ模擬戦とはいえども経験数が違う。

「今までは百合の花を散らすばかりでしたが、これでようやく未通女(おぼこ)から脱却出来るというものです。織斑一夏とは前戯で終わりましたから」

 唇を舐めて、入力してたコースに飛び立とうと推進翼に意識を集中する。

 だが、目の前にはすでに長い左腕の爪が迫っていた。

 その瞬間、予定していた全ての行動をキャンセルし、彼女は咄嗟に鎌を立てて後退した。それでも攻撃を防ぎ切れずに吹き飛ばされ、たたらを踏むように体勢を立て直す。

「……前戯すらなくては、花は濡れませんよ」

 珍しく余裕ぶって言葉を紡ぐが、ルカの頬に冷や汗が垂れている。全く見えなかったことに驚いていた。センサーの感知すら飛び超えて、左腕の一撃を食らったのだ。

 相手が何のためにここに来たのか、彼女は知っている。

 理事長から直接命令を下され、一人の少女の暗殺を実行したのは、機動風紀の委員長たる彼女だった。元々、彼女は人殺しについての罪悪感が少ないタイプだ。そういうところを見込んで頼まれたのだろうと彼女は認識している。

 そして彼女は、戦争を待ち望んでいる。新しく世に出た超兵器ISによる戦争。なんと胸が躍る出来事か。

「睦言を交わしますか、ピロートークは事後が相応しきかと」

「うるせえよ」

 ルカは危機を察知した直感に従い、今度は見苦しいほどに体勢を後ろへと崩して避けた。

 下から無造作に振り上げられた左腕が、彼女の体を抉ろうとしたのだ。

 ダメだ、相手の攻撃が見えない。ISに保存された映像記録ですら、その左腕の軌道を把握できていなかった。

 機体性能の差は今の二回の攻防で思い知った。彼女たちが新理事長より渡された青紫のISマルアハは、IS学園の汎用機の中で最高性能を誇る教員用のラファール・リヴァイヴよりも速く強いはずだった。

 さらに機動風紀のパイロットたちは、いずれも腕に自信があった。自分達にないのはコネクションや運だけだと思っていた。

 だが、そんなものさえ飲み込んでもなお届かない黒い渦のような悪魔が目の前にいる。

 ルカは通信回線を開き、同僚たちに文字だけのメッセージを送り始めた。

 自分が取りついた瞬間に、遠距離攻撃を一斉に撃て、自分は何とか逃げる、と。手はそれしかない。どうせ絶対防御があるのだ。死ななければ問題はない。

 そんな打算を思いついたのは、彼女が一世紀前より続く傭兵一家の出身だったからだろう。

「行きますよ、いざ、アルペンローゼの花を散らすとき」

 母国の花を名乗り上げ、鎌を上段へ振り上げて瞬時加速をかけようとした。

 ここから武器を投げ捨て、相手の懐に潜り込み後ろから敵の推進翼を抑える。

 そういう予定で動くはずだった。

「おせえよセンパイ」

 だが加速する瞬間を叩き落とされ、地面にひれ伏した。やはり敵の左腕の攻撃が全く見えない。

「撃ちなさい!」

 それでも何とか足を掴み、しがみつくようにして相手の動きを止めながら、仲間たちに命令を飛ばした。

「早く!」

 戸惑っていた仲間たちが、その声に押され引き金を一斉に引こうとする。

 だが、ルカのしがみついていた脚部装甲が光の粒子になって消え、四枚羽根のISは空へと舞い上がる。

「足が……ない!?」

 パイロットの事情を知らない機動風紀たちは、引き金を引くタイミングを失い、茫然と空を見上げた。

 脚部装甲を再び展開し、黒い悪魔のごときISは、青紫のISの一団へと音速を超えて襲いかかる。

 巨大な砲弾のごとき一撃が地面を揺らし、巻き込まれた二機のISが装甲を粒子に変えながら地面に叩きつけられた。

 咄嗟に身を捻って回避したルカの機体は、推進翼と四肢の装甲のほとんどが破壊され、かろうじてISが展開されているだけの状態となった。

 その状態まで追い込まれてようやく、相手の攻撃が見えない理由を理解した。そんな使い方があったのか、と驚愕していた。

 相手は消しているのだ。左腕を。

 彼には左腕がない。ゆえに部分展開と解除を人体の動きに縛られずに行えるのだ。手をだらりと垂らしているのも、相手の意識を引きつけるためのトリックに過ぎない。あのISは腕部を一度消し、瞬時に前方へと突き出しながら展開しているのだ。

 だから防げない。相手はその武器である左腕を、範囲こそ小さく限られてはいるものの、どこにでも出現させることが出来る。そして、その効果範囲を無限に広げる圧倒的な推進装置との組み合わせに、彼女の仲間たちでは勝てるわけがない。

「……美しい」

 それを可能にした努力を、ルカ早乙女は知っていた。ストーカーを自負する彼女は、彼の練習をずっと遠目に見ていたのだ。ISを展開しては解除し、そのスピードを上げていくだけの無駄な努力をずっと見ていた。

 何も出来なくなったルカは、地べたに這い蹲ったまま、アリーナの中央にゆっくりと降り立つISを仰ぎ見た。

「あれがIS……」

 自分もああなりたい。兵器として一体化した姿に。だから彼に憧れた。ISになろうとしているとしか思えない練習を見て、彼が素晴らしいと思った。

「……次は」

 黒いISは周囲を見渡す。装甲を鳴らし一歩、また一歩と踏み出しながら、残り十機のISたちに近寄っていく。

 機動風紀たちは完全に相手の雰囲気に飲まれ、戦意を失っていた。銃口が定まらずカタカタと震えている。

 あと十メートルという距離でディアブロが立ち止まり、ゆっくりと顔を上げた。

「呼んだか、ルート2」

 空からゆっくりと、一体のISが降りてくる。

 その姿は手足と推進翼のみを展開した篠ノ之束に見えるが、実際が逆であることをディアブロのパイロットは知っている。

「まだ人真似してんのか」

「便利だからな」

 全てを吸い込む穴のような瞳を見開いて、仮面のような笑みを浮かべ、ゆっくりと地面に降り立った。

「ここで終わりにしようぜ、未来から来た同士」

「キサマらには辛酸を舐めさせられた。ここでも、あちらでも」

「記憶にゃねえがな」

 前傾姿勢になり、長い左腕を地面へとだらりと垂らして、ディアブロが推進翼を広げる。

「ここで終わりとしよう」

 篠ノ之束の姿をしたISは、両手に日本刀を呼び出した。

「そういやテメエは紅椿だったっけか」

「我がマスターの神技、見せてくれる」

「この忠義者が!」

 ディアブロが左腕を真っ直ぐ伸ばして、亜音速の突進をかける。

 赤い腕から伸びた日本刀が、その切っ先に合わせて突きを放った。

 黒い腕はぶつかる寸前で粒子となって消え去り、急制動をかけながら、右足のハイキックを放つ。

 それを右の刀で受け止めながら回転し、無防備になった軸足を左の刀で叩き切ろうとするが、そこにあった装甲が消え、ディアブロが空中に舞い上がりながら、再び展開した左腕を振り下ろす。

 剣が如く頭上から迫る長い左腕部装甲を軽々と左の刀で受け止め、右の刃が振り上げられる。

 黒い翼が横に寝かされ、弾き返された勢いをそのままに、その場でコマのように回りながら消えていた脚部装甲を具現化し、振り上げるような蹴りを下から放った。

 その鋭い一撃をスウェーで回避して、二本の刀が左右から挟みこむように迫る。

 確実に当たるかと思われた攻撃を、ディアブロは横回転から急激な縦回転へと移行し、空中に舞い上がって回避した。そのまま二体は距離を取って、空と地面で視線を交わす。

「な……すごっ……」

 機動風紀の一人がうわ言のように呟いた。

 完全に二体の動きに見惚れていた。自分たちがやらなければならないことがあるにも関わらず、わずか数秒のやり取りを見たIS乗りとしての本能が、彼女たちから論理的な思考を奪っていた。

「……二瀬野君の動きが人間じゃない……ていうか、足と腕が……ないの?」

 自由に動く翼の動きで自在に回転し、腕部と脚部の装甲を展開と解除の繰り返し攻撃を仕掛けてくる。

「でも、さすが理事長……」

 そのトリッキーな動きに対して、正統派の二刀流剣術のみで全てを受け切っては切り返し、終始優位に立って攻め続けていた。

「やるじゃねえかよ。篠ノ之流知らなかったら避けられなかったのが何個かあった。でもまあ」

 再び展開された日本刀のような左腕を、推進装置の加速しながら捩じりこむようにして突き出した。

「オレよりは遅えな!」

 その一撃は、右腕で無造作に薙ぎ払われた剣閃で弾き飛ばされる。続いて体勢を崩されたディアブロに、一歩踏み込みながら、左の一撃を振り下ろした。

「速く動くことだけが素晴らしいことではない、とマスターはおっしゃった」

 鮮やかに決まった一撃が、黒い装甲を断ち切る。

「……んな」

「シールドバリアを突破する術なんて、いくらでもある」

「チッ」

 鷹は舌打ちしながら、後ろへと後退して距離を取った。その胸からは赤い血が流れている。皮一枚とその下の肉を少しばかり分断されたと気付いたのは、十メートルばかりの距離を取って一呼吸してからだった。

「貫(つらぬき)

 紅の機体の肩に新しく装甲が現れ、その後ろから長い砲台のようなパーツが前に倒れてくる。

 その口径にの大きさに戦慄を感じた鷹は、空中へと飛び立ち、全力で旋回を始めた。

 だが、発射された光は弧を描き螺旋を描いて黒いISへと迫る。

「偏光レーザーかよ! 当たらねえよ、んなもん!」

 最高速を出そうと翼に意識を集中させた瞬間、自分の進む方向に大きさ一メートルもない四角形の物体が二つ、待ち構えていることに気付いた。

 その間を通り過ぎる瞬間に、甲高い共鳴音が周囲に響き、ディアブロの周囲の空気が歪む。

「AICビット……!」

 口に出したときはすでに遅く、完全に慣性を殺された彼は身動き一つ出来なくなっていた。誘導レーザーによって、ここに追い込まれていたことにようやく気付く。

 そこへ、赤い光が着弾し、ISの各部が爆発を起こす。

 攻撃を食らった黒い機体が各部を損傷した状態で、ゆっくりときりもみ回転しながら落ちていく。

 赤い手足を生やした機体の背中から、新しい武装が空中へと生み出される。現れたのは、十六連装ミサイルポッドだ。

 発射された弾頭の全てがディアブロへ炸裂し、爆発音を連続で響かせる。

 すでに脚部と左腕部を破壊され、四枚の推進翼のうち小型の二枚を失った鷹の機体に突然、横殴りの衝撃が襲いかかった。食らった後でセンサーから甲龍の龍砲と同様の兵器だと判断できたが、ミサイルに紛れた不可視の弾丸を咄嗟に回避することなど不可能だった。

 まるで投げ捨てられた空き缶のように放物線を描いて、アリーナの客席へと落ちていく。

 その衝撃がアリーナ全体を揺らした。

 赤い機体が空中へと飛び上がる。手には長い棒状の兵器を持っていた。その先端には空中からかき集めた水分が槍状の形を無している。

 そして無造作に投げられた水の槍がディアブロの落下した場所へと突き刺さり、周囲の客席を完全に瓦礫の山へと変え、その破片が空中に舞い上がって至る場所に降り注ぐ。

 そして最後に両刃の短刀を取り出して、諸手で振り上げた。

「八重垣」

 その短刀から吹き出した粒子が光を帯び、まるで輝く巨大な剣のような形を作る。その長さは十メートルを超えていた。

「黎烙闢弥(れいらくびゃくや)

 振り下ろされたエネルギー光が轟音とともに、周囲を灰塵と化す。

 最新の合金と建築資材を組み合わせ、IS学園の象徴とも呼べる会場は、その光剣の一撃で高価な瓦礫の山へと変わった。衝撃によって空中へ舞った土くれが周囲にパラパラと舞い落ちる。

 足元を揺らす衝撃に、仲間を担いで逃げようとしていた機動風紀たちは立ち竦んだ。

 あまりにも自分達の見知っている景色とかけ離れた姿に、生徒たちは声が出なかった。

 彼女たちが慣れ親しんだアリーナの南側は完全に破壊され、その下は深さ数メートルほど抉り取られたように凹んでおり、元の面影は全くない。

 そして、自分たちが従う理事長の姿を見た。

 無慈悲なまでに強力な攻撃を撃ち放った姿に、戦慄を覚えざるを得ない。先ほどまで黒いISに覚えていた恐怖は、完全に理事長への畏怖へと変わっていた。

 瓦礫を押し退けて、攻撃を食らったISが姿を現す。

「専用機必殺技フルコースなんて、やるじゃねえか」

 相手もいたるところを損傷してはいるが、まだISは展開されたままだ。そしてパイロットの言葉ぶりからして、戦意は失われていない。

「しぶとい。キサマの仲間を全滅させてもまだ戦うのか」

「仲間?」

「忘れているんだったな。私たちの元いた時代はもうすでにないことを」

「……覚えてねえなら問題ねえ」

「私が食らい尽したからな」

 何一つ表情を浮かべずに、指をパチリと鳴らす。

 それまで騒いでいた機動風紀たちが一斉に静かになる。全員がゆらりと一瞬倒れ込みそうになったあと、急に空中へと飛び上がった。

「死ね」

 残っていた十機の機動風紀用ISマルアハが、先ほどまでの様子と打って変わり無言でディアブロへと襲いかかる。

「くそっ、やっぱその機能はあんのかよ!」

 後ろへと飛び退ろうとしたディアブロの胴体へ、瞬時加速をかけた一体が飛びかかる。そこへ次の一体が槍を構えて突進し、をさらに続いて一機、また一機とまるで獲物に群がるハイエナのように襲いかかる。

 しかしディアブロは急上昇し、追いすがるマルアハたちと距離を開け始める。機体のあちこちから煙を上げていてもなお、スピードには歴然とした差があった。

 テンペスタⅡ・ディアブロのパイロットは舌打ちをしつつも空へ空へと駆け上がっていく。

 彼の狙いは一つだけだ。

 充分な距離を狙い澄まし、残った二枚の翼を立て、一つの的に向けて神経を研ぎ澄ませる。

 相打ちで充分だ。いや、相打ちこそ相応しい結末。

 目を閉じて自分に言い聞かせ、彼は眼下に迫りくる十機の天使の向こう、光る巨大な刃を持ち天を見上げる一機のISを見据える。

 限界まで推進翼の中にエネルギーを溜める。それでも漏れる光の粒子が彼の体を包んで輝いていた。

「ヨウ! やめるんだ! 逃げろ!」

 彼の耳に、友人の声が届く。

 遠くからこちらに向かって、一直線に飛んでくる少年の顔を横目で見て、未来から来た悪魔が自嘲めいた笑みを浮かべた。

 それ以上は振り向かない。

 脚部と左腕の装甲を解除し、右手一本を伸ばして下を向いた。

「さあ、行くぜディアブロ!」

 そして一瞬で音の壁を超え、侵入者にたかる蜂のごとく這い寄る集団へと突っ込んでいく。

 他機が吹き飛ばされる中、一体のマルアハだけが細長い棒の一撃を食らわせる。だがディアブロの勢いは止まらない。絡みついた機体を吹き飛ばし、それでも加速を続ける。

 赤い装甲を生やした女が両手で持った巨大な光刃を構え、黒い機体が落ちてくるコースへと、加速しながら突き上げる。

 さあ、ここが命の賭けどころだ。

 己の意識に鞭を打ち、刃と右手が交差する寸前に翼を右へと寝かせる。

 彼が唯一の得意技として覚えた、IS史上最高の速度で軌道を変えて迫る加速方法、無軌道瞬時加速。

 自分の努力で培ったわけではない借り物の力で、彼は敵機の横をかすめ、地面すれすれでさらにコースを変更、そして目標の背中から抱き締めた。

「なんだ?」

 その行為に何の意味があるかはわからないが、振り落とすに越したことはない。そう思って背中に張り付いた悪魔に視線を向けた。その瞬間、有り得ない力で空へと押し出され始める。

「さあ行こうぜ、空の彼方へ」

 空気を破壊しながら、赤い花を抱いて悪魔が空へ空へと昇る。

「どこへ行く気だ」

 尋ねながらも、推進装置のスラスター口を逆方向へ向けて相手の動きを制動しようとした。しかしその瞬間を狙い澄ましたように、赤い翼が黒い物で貫かれる。その攻撃は、先ほどまで消していた刃のような左腕だ。

「無限の成層圏を超えるんだよ」

 そして最後の力を振り絞り、テンペスタⅡ・ディアブロは第二宇宙速度を超えて、地球の外へと向かっていった。

 

 

 

 一夏たちの手は届かなかった。

「まさか……宇宙に押し出すつもり……なの?」

 ようやく一夏に追いついたシャルロットが信じられないと震えながら空へ伸びて行く光の線を見上げた。

「え?」

「だ、第一宇宙速度を超えてる……ウソ……」

「そ、そんなことが可能なのか!?」

「わかんないよ……でも、相手の抵抗が弱い……」

 一夏は慌てて超望遠レンズで空を見上げる。

 先ほどまで展開していなかった黒い左腕が、赤い機体の推進翼を貫いていた。これでは機体を浮遊させるPICしか使うことが出来ず、大した推力を得ることが出来ない。

「……だ、第二宇宙速度を突破しました!」

 簪が信じられないと呟く。

 だが、その姿もすぐにセンサーの射程外へと消えていった。

「ヨウ……」

 アリーナには先ほどまで動いていた青紫の機体が、ピクリともせずに転がっていた。

「なんだあれは……」

 箒とラウラが貫かれた雲の向こうを見上げていた。

「これがケジメ……?」

 茫然とした顔で少年がポツリと漏らした。

「一夏!」

 そこへISを展開した赤と青の機体が近寄ってくる。

「鈴、セシリア……」

「諦めたような顔してんじゃないわよ。あのオッサンから聞いた情報が正しければ、落ちてくる」

「え?」

「それを拾うわ。そしてセシリアはそのままIS学園を離脱、極東IS部隊の基地へ逃げ込む」

「ちょ、ちょっと待て、どういうことだ」

 セシリアがライフルを消し、腰に配置したビットを推進装置モードへ以降させ、その調子を見るように軽くスラスターを吹かす。

「……メテオブレイカー」

「セシリア? 待てよ、どうなってんだ、これは」

「一夏さん、これから行われるのは、メテオブレイカーの続きですわ。まだ、あの作戦は終わってませんわ」

「落ちてくる……ヨウが?」

「助けることが出来るのは、わたくしたちだけ。全員、気を引き締めてくださいまし!」

 

 

 

 

 

 大気圏の外を超えても、まだ加速が止まらない。

「離せ」

 『彼女』は珍しく感情の込められた声で必死に足掻く。

 腕を回して突き刺し無理やり剥ぎ取ろうとしても、背中に張り付いて加速し続ける機体はビクともしない。首を切り取ろうにも、現れては消える左腕が的確に致命傷だけを防いでくる。

 人間の力を舐めないことだ、とは、彼女のマスターが教えてくれた言葉だった。それを思考の外へと追いやってしまったのが、自分の失敗だと省みる。

 彼女が自立思考型として完成したがゆえに、意識を持った。それは同時に他の誰にも為し得なかった無意識も付属してきた。無意識は死角を作り、論理的な思考を阻害するときがある。

 人間と同等以上があるゆえに持ってしまった自分の弱点だった。

「お前はオレより遅い。さっきのAICビットで止めようとしても、ここまで加速すればビットごと置き去りだ。本体よりスピードが出るはずないからな、ビットが。さっき罠のように設置してたのも、そのせいだろ」

 黒い機体のパイロットが嘲笑うように事実を突きつけてくる。

 相手の推進力に反しようにも、彼女の翼は、日本刀を束ねたような長い左腕に破壊されて機能を失っていた。そして次の武装を出す間もなく、一気に加速し宇宙まで持っていかれていた。

 自分が万全でないことを、これほど迂闊だったと思ったことはない。

 自立思考を持つに至り、人間を超える知力を持った彼女でも、超えられない物がある。

 それはISであるという事実だ。

 様々な機能を持とうとも、推進力を得るには翼に頼るしかない。PICしか使えない状態では、ここからでも単機では帰還に時間がかかる。

 そして、どれだけ効率良く増幅しようともエネルギーそのものが無くなれば、彼女にとっては死も同然である。それでなくとも、先ほどは現時点での全力で挑んでしまった。そして時間を超えるという大機能を使ってしまったがゆえにエネルギーの大半を失い、色々と小細工を弄する必要があったのだ。その小細工をしている、という事実を逆手に取られ、本来の機能が無いと推測されたのかもしれないと思い当たる。

 このまま宇宙の彼方に押し出されたなら、自己修復を待ち、それからゆっくりと戻るしかない。その間にどれだけ遠くに追いやられるか。

 時間を超えてきたがゆえに、時の流れの重要さは知っている。時が経てば、人間はさらなる力を得る。

 加えて彼女には気にかかることがある。

 この時代に存在しないはずの機体がすでに完成している。自分の知っている記録では、あと数か月は完成しないはずの、ディアブロから生まれた個体たちだ。彼女が元いた時代において、もっとも彼女を苦しめた集団がディアブロを中心にした個体たちだった。

 その設計において中心的な役割を果たすはずだった、エスツーという篠ノ之束の劣化コピーは始末した。

 しかし開発完了よりも前に完成しているのは何故だ。

 因果が逆転している。

「どこまで行くつもりだ」

「どこまでもさ。オレのエネルギーが続く限り。こいつの推進効率も捨てたもんじゃねえぜ」

 だが、焦る必要はない。大気圏外へ連れていかれようとも、優位は揺るがない。ゆえに大した抵抗もしていないのだ。

「お前も死ぬ」

「それが狙いだ」

「理解しがたい」

 彼女のセンサー内に映し出された月が、どんどん近づいてくる。

「未来から来て、宇宙へと消える。ステキじゃねえかよ」

 何もかもを諦めたような笑みに、自立思考型ISは作り物の顔を崩して唇の両端を釣りあげた。

 彼女が元いた時代でも、積極的な自殺を試みたのは人間だけであった。

「メテオブレイカー、そう呼ばれていたな、ルート2」

 彼女は奥の手の一つを起動させる。

「そんな呼ばれ方もしてるらしいな」

「その隕石、どうしてディアブロが置かれた場所へと落ちていったのか、疑問に思ったことがないのか」

 二瀬野鷹は思い出す。六月の終わり、隕石の破片を掃討する作戦で、本来なら落ちてくるはずのない大きな岩が、コースを変えて四十院研究所の海上ラボへ狙い澄ましたように落ちてきたことがあった。

 十五メートルを超える隕石の成分の95%は岩石で、残り5%は最後まで不明のまま見つからなかった。

「……てめえ」

「お前がもう少し速ければ、私を帰還不能な場所まで送り出せたかもしれないな」

「まさか……」

「私が最初にこの時代に来たとき、現れたのは宇宙だった」

 鷹の視界に浮いた警戒センサーに、一機のISの影を見つける。

「……こんなところに隠してやがったのか」

 それが二つに増えた。

 クソッタレが。

 鷹がそう悪態を吐こうとした瞬間に、三つへと増えた。

 絶望を感じる間もなく、四つ五つ六つと増えていき、総勢五十機の軍団をなしていた。

 鷹は声を出すことも忘れ、ただ視界に現れたIS反応の数に愕然とし動くことが出来なくなっていた。

 迫ってくる影は、市街地のとある研究施設を破壊した可変型無人機だ。

「やっとここで終わる、因縁が」

 彼女が見せた感情は、安堵のため息だった。

 

 

 

 

 

 日本の近海で、側面を破壊された巡洋艦が漂っている。

 破壊された場所から浸水し、船が傾きかかっていた。二瀬野鷹がISを展開し、船を破壊して逃げ出したせいであった。

「あの坊主め!」

 老人が濡れた体を震わせながら、浮き輪に捕まって浮かんでいる。ディアブロが出て行くとき、近くにいた老人は、破壊された弾みで海に転落したのだ。近くにいた彼の護衛たちが咄嗟に浮き輪を投げ入れたおかげで、まだ命は失っていない。だが歳八十以上の彼には着衣のまま泳ぐ体力などもちろんなく、必死に浮き輪に捕まっているのが精いっぱいだった。

「早く誰か助けんか!」

 夜の海で叫ぶが、巡洋艦側から救難ボートが降りてくる気配がない。船員たちも予想外の損傷で上手く対応できず、まだ助けに来ることが出来そうになかった。

「くそっ、こんなところで死んでたまるか、あの坊主め、こうなったら四十院の女どもを無理やり人質にしてくれる! あのクソ生意気な御曹司さえいなければ、どうとでも出来るわ!」

 悪態を吐く元気だけは残っているようで、恨みごとを大声で叫んでは自らを鼓舞していた。

 彼は古くから日本の軍事に関わっている派閥の長であり、白騎士事件までは己が栄華を極めていた。

 それが最近はずっと不運続きだ。どれもこれもISのせいだと思い込み、頭をゆでダコのように真っ赤にしていた。

「大丈夫ですか!」

 そこへようやく一艘のボートが近寄ってくる。

「遅いわい! 早く助けんか!」

 彼は今からの行動予定を考えて始めた。命が助かったら、次は復讐だ。

 女どもがISに乗れるぐらいで我が物顔をしている、そんな世界を変える。そのためには何をしなければいけないのか。まずは手駒であるはずの男性操縦者を手元に再び納めなければならない。

 そういう算段をしているがゆえに気付けなかった。

 そのボートが巡洋艦とは全く反対の方向から来たことを。

 投げられた新しい浮き輪に捕まり、そこから繋がれたロープに引っ張られ、船へと近寄っていく。

 そして船体へあと一メートル、手を伸ばせば引き上げてもらえる距離にきたとき、老人を見下ろす女性がいた。

「覚えていらっしゃらないでしょうが、以前は大変お世話になりました」

 その女性が、自分の探していた一人だと気付いたときはすでに遅かった。

 手に持っていた拳銃から弾丸が放たれ、寸分の狂いもなく彼の頭を貫いていた。

 力を失ったしわだらけの体が、海中へと沈んでいく。

「おつかれさまです、国津所長代理」

 近づいてきたスーツの男に、女性は拳銃を渡す。

「ありがとう。これで後方の憂いは断てたわ」

「おつかれさまでした。巡洋艦に乗り込まなくて済んだのは助かりました」

「スコールは?」

「彼女はIS学園の方で忙しいみたいです」

「そう。では帰りましょう、巡洋艦に追いつかれないうちに」

 船が反転し、海域から静かに去って行く。

 破損して傾いた巡洋艦を遠目に見つめ、ママ博士と呼ばれている女性はホッとため息を吐いた。

 そして、空から落ちてくる流れ星を見つけ、悲しそうに目を伏せた。

「ここからまた、始まるのね」

 ぽそりと呟いた言葉は、誰にも聞こえることなく海を撫でる風に流されて消えて行った。

 

 

 

 

 

『国立天文台TMTからの観測情報、接続完了、ディアブロの位置確認。地球の引力に引かれて落ちてきます!』

 簪が珍しく声を荒げながら、専用機同士を繋いだ通信回線で情報伝達を行っていた。

「シュネル! シュネル! 落下コース予測を! ヨウ、聞こえるか、ヨウ!」

 視界で次々と送られてくる情報を必死に目で追い始める。

「ドイツ語で叫んでカッコつけてんじゃないわよ一夏!」

 鈴が一夏の後ろを、箒に引っ張られている形で飛んでいる。甲龍では白式と紅椿の加速に追いつけないからだ。すでに他の機体は置いてきており、セシリアは一夏達のやや後方をゆっくりとエネルギーを節約しながら追いかけて来ている。彼女は最後に極東まで逃げ込まなければならない大事な役目を負っているがゆえに、無駄なエネルギーを使うことが出来ない。

『簪、位置情報の観測データ、引き続き連続で送って! まとめるのはこっちで』

『は、はい、シャルロットさん、お願いします!』

『ラウラ! お願い!』

『了解だ、こちらでもデータ連結完了、落下予測コース、すぐに出る』

 後方で待機していたISパイロットたちが、機体の演算機能をフルで動かし、必死に落下予測コースの演算を開始する。

「一夏、ヨウに呼びかけろ! 本人にもコースを変えさせるんだ」

 箒の助言に、我へ帰った一夏は視界のウィンドウを変更して、通信回線のコマンドを開く。

「そ、そうだ、ヨウ! 聞こえるか!」

 コアネットワークを繋ぎ、必死で相手に呼びかける。

『んだ、うっせえな……こっちゃ余裕が、くそったれえええええ!!!』

「おいヨウ! 聞こえてるなら、そ、そうだ、メテオブレイカーのときと同じコースを取れ! 頼む、それだけ頑張ってくれ!!」

『このままで終わるかよ! くそ、くそ、クソッ!! 誰でも良いから、力を寄こせ、アイツをぶっ飛ばしてぶっ殺してやる!!!』

「冷静になれ! おい、聞こえてるか!」

『うるせえ、聞こえてるよ、クソがあああ!!!』

 直接繋いだ回線の向こうから、戦闘を行っていると思しき音が連続で聞こえてくる。二瀬野鷹が地球に落下しながらも、何者かと戦っているのだ。

 聞き慣れたはずの効果音が、一夏の焦りを募らせる。

「おい、頼む、頼むから、一度で良いから、俺の言うことを聞いてくれ、頼む!」

『離せ、くそ、離せ、ここで死んでたまるか、まだ、アイツを、アイツの仇を取ってねえんだよ、チクショウが!』

「ヨウ、頼む、頼むから、俺に助けさせろ!」

 そこでブツリと回線が切れ、何の声も聞こえなくなる。

「おいヨウ!」

「どうした、一夏!」

「直通が切れた、いよいよやばい!」

「くっ……」

 演算を苦手とし、状況の把握が出来ない前衛組の三人が黙り込む。

 奇しくも三人ともが、落下してくるディアブロのパイロットと幼馴染だという共通点を持っていた。

「……あのバカ」

 箒が唇を噛み、鈴が悔しそうに呟く。

「今は良い。言いたいことは沢山ある。だが、せめて俺たちの声が届いたことを祈ろうぜ……メテオブレイカー作戦の隕石と同じコースを取ってくれると信じて、急ごう」

「ったく、しょうがないヤツよね! ほら箒、急いで!」

「ぶら下がってるヤツが文句言うな、振り落とされるぞ!」

 三人は見覚えのあるコースに従い、四十院の洋上ラボの近くの海域まで辿り着く。白式の視界が夜の海に灯台のような光を放つ巨大な人工物を二キロ先下方に捕えた。

『来たぞ、落下コース予測……アイツめ!」

「どうしたラウラ!」

『ドンピシャだ! メテオブレイカー作戦の隕石と同じコース、その座標の上空だ!』

「驚かせるなよ! よし鈴!」

「どうなっても知らないわよ!」

 一夏が甲龍の上に立ち、推進翼を立てる。

「上手く行くのか……」

「行かせる」

「鈴、カウント!」

「待ちなさい、落下時間に合わせないと意味ないわよ! ランデブー出来るのは一瞬なんだし!」

「わかってる!」

「少しでも上昇するわ。演算結果の測定位置の修正をお願い」

 瞬時加速とは、推進装置からエネルギーのみを放出した後、それを再度内部に取り込んで圧縮し、爆発的な推進力に変える加速方法だ。ただしそのエネルギーは外部から供給されていても同様のことが行える。

 そして鈴のIS『甲龍』が放つ龍砲は、肩部にある発射口からISのエネルギーで空間自体に圧力をかけ、余剰エネルギーを見えない弾丸として打ち出す兵器である。

 つまり、龍砲を瞬時加速に利用し、カタパルト代わりに白式を射出しようとするアイディアだった。

 そのためにスピードの劣る鈴の機体を箒の紅椿が引っ張ってきたのだ。

 もちろん、タイミングが合わなければただ白式を破壊するだけで終わる、という危険な方法でもある。

『来るよ、構えて一夏!』

 シャルロットの声を受けて、鈴が龍砲の射出口を斜め上方へと向ける。その斜線上へと割り込んだ白式が背中を向けた。

「龍砲、最大チャージ行くわよ」

「おう!」

 その赤い肩部装甲の隙間から、光る粒子が漏れる。

 丁度、そのタイミングで警告アラートが三機の視界を赤く染める。超望遠レンズで捕えたのは、IS学園の機動風紀が操る青紫の機影だ。残っていた十機が向かってきている。

「くそっ、機動風紀め! 追いかけてきたのか」

 刀を取り出し、箒がそちらへ向かおうとする。

「箒!」

「ここは抑える、任せろ!」

「だ、だけど今、ここでIS学園の機体と戦うわけには!」

「言っている場合か、今はタカを助けなければ!」

 箒の機体が背中を一夏たちに向け、飛び出していった。

「……すまねえ、頼む、箒」

「アタシも一夏を飛ばしたら、すぐ向かうわ」

 鈴が強気の顔で断言するが、一夏の目には近寄ってくる機体がかなりの速度を出しているように見える。落ちてくる鷹とランデブーするための射出タイミングには、あと数十秒ほどの時間があった。それまでに機動風紀によって邪魔されてしまうかもしれない。

「ラウラ、機動風紀たちが近寄ってきてる、助けに来れるか!」

『こっちでも確認済だが、間に合わん!』

「クソッ」

 舌打ちをしながらも、少しでもランデブーポイントに近づくために二機で上昇を続ける。

 ここでマルアハと戦うべきか、それとも箒たちを置いて二瀬野鷹を助けるべきか。

 悩む一夏たちの機体へ、通信回線が開く。

『……テンペスタ・ホークから?』

 それはかつて二瀬野鷹が騎乗していた、四十院研究所製カスタムの第二世代機だ。

『あ、良かった、まだこのチャンネル使ってるんだ』

「国津さん!」

『状況は? 大体は岸原のおじさんから聞いてるけど』

「とりあえず近寄ってくる十機が邪魔だ!」

『……了解。ヨウ君をお願い』

 それだけの会話で回線が切れる。

 おそらく近くにいるのか、と二キロ先にある四十院の海上ラボへと超望遠レンズで映そうとする。

 その瞬間、巨大な光の線が、海上ラボの上からマルアハの方へと放たれた。

「んな!?」

 ISから送られてくる観測データから、それが大出力のパワーを撃ち出す巨大なレーザー砲の攻撃だとわかる。

 白式のウィンドウに映ったのは、通常のISより二周りは大きな装甲を持った重装型タイプだった。まともに動くことすら難しそうな大きさの機体は、眩いばかりに光る金色のコーティングが施されており、その巨大な肩部装甲の上から、八メートル近くある砲身が伸びている。今の一撃は、その兵装から放たれたようだ。

「……なんて威力だ」

 慌てて反応を確認すれば、ISの反応が残り二機になっていた。つまり今の一撃で八機のISを落としたのだ。驚愕すべき事態だが、残り二機であればテンペスタ・ホークと箒の紅椿で抑え込める。

 金色の重装備型ISの横にはテンペスタ・ホークが浮かんでおり、そのパイロットが一夏たちに向けて親指を立てていた。ただし、その可愛らしい顔は真剣な表情で真っ直ぐマルアハのいる方向を見据えていた。

「一夏、そろそろ!」

「ヤー!」

 鈴に急かされて、慌てて上空を仰ぎ見る。

 視界の端に浮かぶ観測データには、デジャビュを覚える落下コースが映っていた。それは六月の末、メテオブレイカー作戦という短いIS史上でも最大の事件だ。その結末はこの上空で爆発するはずの巨大隕石を二瀬野鷹という少年の決死の一撃が砕いて終わった。今、それと同じコースを黒い機体が墜ちてきている。

 織斑一夏は、そのときの自分が単なる盾にしかなれず、結局は役に立てなかったと自覚している。

「チャージ限界、行くわよ一夏!」

 甲龍の肩部装甲にある発射口が開いた。

「来い!」

 白式のスラスターが噴出孔を開ける。

 辿りつけなかった音速の域に、一夏はようやく踏み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オレこと二瀬野鷹が目を覚ましたとき、最初に目に入ったのは見慣れない金属の壁だった。

「ヨウ君!」

 誰かが震える声でオレを抱き締める。

 すげえ安心する声だった。

「こ……ここは?」

「アメリカへ向かう輸送機の中だよ。もう出るから」

「体が……」

 動かそうと思っても、指一つ動かない。

 仕方なしに目玉だけを回して、周囲を確認する。こちらを心配げに覗き込んでる女の子たちがいた。

 抱きついてるのは玲美か。んで理子と神楽、あれは……ママ博士か。

「ごめんね、ヨウ君。キミの意思も確認しないで」

 すすり泣く玲美の後ろから、優しい声がかけられた。

「ナターシャさん……?」

 相変わらずの美人だ。結局、銀の福音の暴走のときは、まともに会話できなかったし。

「久しぶりね」

「はい……。あのオレはどうなったんですか?」

「この輸送機でいったんハワイまで行って、そこで手続きをしてから、本土に行くわ。詳しくは常夏のビーチでね」

 冗談めかして優しく笑いながら、ナターシャさんがピンと指を立てて、オレの鼻先を突く。

「手続き……って」

「アメリカ合衆国に国籍を移す形になるわ。一応、亡命になるのかしら」

「そうですか……」

「勝手に決めちゃってごめんね。でも一応、今の保護者は国津所長代理になってるから」

「……わかりました。すんません、ちょっと事情がわからなくて」

「いいわよ、着いたらちゃんと説明してあげる。キミが無茶をした後から。ほら、玲美ちゃん、ヨウ君が苦しいわよ、離れて離れて」

 ナターシャさんがオレを抱き締めたまま動かない玲美の肩に手を置く。しかし玲美は涙声で、

「嫌です!」

 とさっきよりも力強く抱きしめた。

「おい苦しいって……」

「ダメ! 離さないから!」

「待て待て、ちょっと事情がわからん。そもそもオレの体、どうなってんだ?」

 少しずつ感覚が戻ってきたおかげで、首が動かせるようになった。体は輸送機に固定された担架に横たわっているようだ。みんなが覗き込んでるのは、そのせいか。

「ヨウ君は一週間ほど寝てたのよ」

「一週間……って、そうだ、宇宙から……」

「そう、海上ラボの近くに落下してきたディアブロを、IS学園の一年生たちが回収し、イギリスの代表候補生が極東基地に連れてきたわけ。キミは基地についたとき、おぼろげに意識はあったんだけど、すぐに絶対防御を発動して、昏睡したまま動かなかった。とりあえず日本を離れようってことで、申し訳ないけどそのままアメリカ人になってもらうことになるけど」

 ……そうか、未来から来た紅椿を宇宙に押し出そうとして、五十機の無人機に囲まれて、逃げ回ってる途中で地球の引力に捕まって……一夏たちに助けられたのか。

 なんて無様な死に損ないだ。反吐が出る。

 ナターシャさんが担架の横にあったボタンを押すと、上半身がゆっくりと起き上る。玲美は少しコケそうになりながらも離れる気はないらしく、担架の端に座ってしっかりとオレの体を掴んでいた。

「それでアイツ、紅椿は?」

「IS学園の理事長なら、ときどき姿を見せてるわよ。詳しい世情はまたゆっくり話すとして、副理事長が頑張って戦争回避に持っていこうとしてるみたいだけどね」

「戦争……」

「ISコアの無断徴用、それに市街地への攻撃、これが引き金になってIS学園は今、孤立し全ての交通・通信を封鎖されてるわ。生徒たちも一緒にね」

「……なるほど」

「学園側もアラスカ条約機構側をネットなんかを介して糾弾しようとしてるけどね。ISを戦争に使う気か、襲撃はISの暴走であって意図したものではないって。それにすでに報復が行われて、アリーナを破壊されたとか」

「無駄でしょうね」

「ええ、無駄ね。何せ市街地襲撃の件は、人的被害が出てるわ。それに加えて武装解除の拒否。どっちか戦争したいんだって話になってるわ。ま、こっから先は向こうに着いたらゆっくりとね。ハワイは良いところよ」

 そう言って、オレの頬に軽くキスをし、それから手を振って進行方向にある扉へ向かって行った。

「ほれ、玲美、喉乾いたから離せって」

「……うん」

「悪かったな、心配させて」

「ううん……ごめんなさい」

「ハワイか。結局、水着姿見れてないし、向こうでスゴイの買って見せてくれ」

「……わかった」

「なんか聞き分けが良くて気持ち悪いぞ。ブラジル水着って知ってるか」

 そんなやりとりをしてると神楽が近寄ってきて、オレにストローのついたカップを差し出してくれた。それを咥えて、喉を潤す。

「神楽たちは?」

「ええ、私たちも一緒にハワイへ一時退避を。うちの別荘もありますので」

「さすが財閥令嬢だな。さんきゅ、飲み物はもう良いよ」

 なんとか笑顔を作ってお礼を言うと、目尻を落として神楽が悲しそうな顔を浮かべた。

「一度、ISを離れてごゆっくりしてはどうですか」

「……それは」

「とりあえずは、休暇といたしましょう。よろしければ、私の手料理でも召しあがって、元気を出してください」

「ゾッとしない提案だな。ありがたくて涙が出る」

 軽い笑いを浮かべると、神楽も小さく微笑みを返してくれる。

「で、ヨウ君はどうしたいのー?」

 あっけらかんとした声で尋ねてきたのは理子だ。

「どうしたって……」

「いや、うちらは訓練校を無期限休暇ってことで休み取ってるし、夏合宿楽しめなかったし」

 こういうことをズバズバ言ってくれるのも、理子の良いところだ。

「……そだな。それも良いかも」

「んじゃ向こうについたら、最初は水着だね水着。外国だし、ちょっと派手なのにしようかなー」

 理子が鼻歌交りの上機嫌な調子で、予定を指折り数えながら、輸送機の壁に固定された座席に座る。

「そうね、理子の言うとおり、少しゆっくりしましょう」

 優しい笑みで近づいてきたのは玲美の母親で、優秀な研究者でもあるママ博士だ。

「……すみませんでした」

「二瀬野君に説教したいことは沢山あるけれどね」

 パチリとウインクを飛ばして笑うが、オレは空笑いを浮かべるぐらいしか出来ない。迷惑かけてんだろうな、きっと。

「……け、研究所の方は良いんですか?」

「とりあえずは、いったん閉鎖。私はちょっと羽根を伸ばしたら戻るけれど。スタッフは臨時休暇よ」

「ISは?」

「極東の基地に預けてるわ。ホークもラファールも」

「そっスか……あの、ママ博士、先に日本に戻るんでしたら、一つ、お願いが」

「なにかしら」

「オレの親の墓に、花を」

 ママ博士がオレの言葉に一瞬目を丸くしたあと、

「わかったわ」

 と頬を緩ませた。

「ありがとうございます。ほら玲美、くっついてても良いけど、担架倒してくれ。着くまで時間がかかるだろうから、寝るわ」

 動くようになった右腕でポンと背中を軽く叩くと、ようやく顔を上げた。瞳が真っ赤でいたるところが腫れぼったい。

「どこにも行かない?」

 縋るような目つきで、玲美がオレの顔を覗き込む。

「行かねえよ。なんか体が動かねえし」

「……わかった」

 納得してなさそうな声で了解してから、ようやくオレから離れてくれる。

 輸送機内に居合わせた人間たちの顔を見回してから、ゆっくりと瞼を閉じた。

 ケジメをつけるのさえ失敗し、未来から来た紅椿もまだピンピンしてやがる。オレ自身は一夏たちに助けられたという様だ。

 情けなくて反吐が出そうだ。今すぐ死にてえ。

 そんなことを思ってため息を零そうとしたとき、脳内にISからのアラームが鳴り響く。

 接近警報……!

 慌てて外を見ようと首を伸ばす。四角い輸送機の窓の向こうを並走する機体があった。

 あの遺伝子強化試験体研究所を襲った可変型無人機だ。

 そいつは戦闘機型から人型へと変形し、その右腕をこちらに向けた。掌には光が見えたと思った瞬間、輸送機がまばゆい光に包まれた。

 この機体には、ISすら装備してない人間が沢山乗っている。

 いくら銀の福音を装着しているナターシャさんがいるとしても、輸送機ごと破壊されれば、中にいる玲美たちが無事なはずがない。そしてコイツらはISを装着していない。

「紅椿ィィィィィ!!!!!」 

 オレはありったけの後悔と恨みを込めて、怨敵の名前を叫んだ。

 

 

 

 

 

『番組の途中ですが、緊急ニュースです。本日午前、米軍横須賀基地より飛び立った輸送機が何者かに攻撃を受け撃墜されました。おそらくISによる攻撃とのことです。操縦者・搭乗者ともに行方不明……いえ、死者が……え? これは死者一名、死者は世界的にも有名な男性のISパイロット二瀬野鷹さんとのことです! 繰り返します。死者は」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その葬式は、二瀬野鷹のものだった。

 輸送機に居合わせた人員は、ナターシャと輸送機の操縦者を除いて全員行方不明だった。そのナターシャも、突然の襲撃で助けることが出来たのは、近くにいたパイロットだけだった。そして同乗していた四十院研究所の面々は行方不明のまま四日が経った。

 そして晴天の元、極東飛行試験IS部隊の基地内で、しめやかに葬儀が執り行われていた。

 悠美やリア、グレイスと言った第一小隊の面々が、着陸したヘリから棺桶を運び出す。その中には、二瀬野鷹の亡骸が収められていた。たった今、横須賀の米軍基地から輸送されてきたところだ。

 彼女たちにも何が起きたのかわからない。ただ、発見されたのは間違いなく二瀬野鷹の死体であり、装着していたISが見つからないということだけは確定している。

 二瀬野鷹が死んだ。そのニュースは世界中を駆け巡った。世界で二人しかいない男性ISパイロットのうち、一人が死んだのだ。

 基地に勤める軍人たちが敬礼をして、彼女たちに担がれた彼の行き先を見送る。

 この後、二瀬野鷹の死体は基地内で数日補完され、研究施設に送られることになった。

 輸送機を襲った機体もまた、IS学園製の機体だと確認されていた。

 沙良色悠美は、重い足で棺桶を運ぶ。

「……このバカ」

 彼女の隣で、同じように棺桶を持って歩いていたリアが呟いた。

 悠美も泣きたかった。落ちる涙を拭く手は、棺桶で塞がっている。仕方なしに空を見上げた。

 遥か上空を、雲を切り裂いて一つの物体が飛んでいる。

 慌ててISのセンサーを起動させ、視界内で超望遠モードを動かした。そこには、黒いISらしい機影が映っている。

 悠美は目を疑った。

 そのISは、左腕と脚部こそ普通のISと変わらない大きさに戻っているが、確かに二瀬野鷹の専用機テンペスタⅡ・ディアブロと同じ形をしていた。

 だが、それもすぐに見えなくなる。

 

 

 

 

 

 世界が動き出す。

 短いIS史の中でも初めての、IS同士による大規模戦までのカウントダウンが始まっていた。

 

 

 

 

 

 

 









次週は一旦お休みをいただいて、その翌週の週末に再度更新します。

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