IS学園の言霊少女(本編終了・外伝スタート) 作:ひきがやもとまち
なんでもそうですが、解決に向かって真相が明かされ始める後半の展開って重くなりがちなんですよね。困ったものです。
新約は絶対ギャグオンリーで行こうと心に誓った回でした。
「価値観が狂っていることは気付いていたけど・・・・・・さっきのでもう一つ分かったことがあるわ。
セレニア。あなた頭良さそうに見えるだけで、本当はかなりのおバカさんでしょ?」
「・・・・・・・・・・・・自覚は最近、スゴくしてます・・・・・・」
そっぽを向いたまま答える私にナターシャさんは溜息を一つ。
救急箱の蓋を閉じると棚に戻し、おでこを真っ赤に染めた私の元に戻ってきて更にデコピンを一発。
「あだっ! ・・・うぅ~、篠ノ之さんには説明途中でデコピンされて、ナターシャさんには手当の終わった後にデコピンされる・・・。
今日は散々すぎる厄日ですー・・・」
「自業自得よ。なにもあんな言い方しなくたって良かったじゃないの。
忘れてるかもしれないから教えてあげるけど、彼女篠ノ之箒さんは実の姉、篠ノ之束博士によって人生を壊されてるの。その後から彼女の人格には大きな欠落を抱えたまま。
多感な少女時代である思春期に受けた心の傷が、その後の成長にどう影響するか、貴女ならそれぐらい知っているでしょうに・・・」
呆れたような、それでいて責めているような口調と表情で私を指弾するナターシャ先生。
いい歳して(前世分も加算してですが)先生にお説教される転生者の異住・セレニア・ショート、十六歳。女子高生ですが何か?
「あの後にはちゃんと『そう言う見方も成立だけはするんですよね』って続けるつもりだったんですよ~・・・。最後の結びまで言わせてもらえなかったんだから、誤解されたって仕方ないじゃないですかー・・・。
・・・それに、そう言う貴女だって見るからに心に傷を負ってるじゃないですか。
それもデッカくて深い、特大の奴を」
「・・・どうしてそう思ったの? 私は確かに民間出身の国家代表候補ではあるけれど、同時にアメリカ正規軍の軍人でもあるのよ。
戦いに対する心構えなんて教練で散々に叩き込まれてーー」
「貴女がIS操縦者として反乱分子を処理しだしたのは『白騎士事件』の後から、つまり十年近くも前からです。
今の貴女は二十代前半の年齢なので、IS操縦者になったのは最低でも十代前半、どんなに遅くとも二十代からではないでしょう。そこから始めたのでは訓練期間の差で、代表候補にはなれませんからね。
今の貴女の地位と実力こそが、何よりも雄弁に貴女の歪められた過去と人格を物語っている」
「・・・」
「十代の思春期に衝撃的な体験をした子供の心が異常を来すのは、今の貴女が言ったとおりです。特に十代での殺人体験は重大な精神障害を負いかねません。
貴女の性格上、好き好んで人を殺すために軍隊入りした少女だったとは思えませんけれど、違うのですか?」
「・・・・・・」
「これは何も、貴女に限ったことではない。織斑先生も歴とした被害者の一人だ。
彼女が弟の織斑さんを誘拐されたことで怒りに駆られて誘拐犯たちを皆殺しにしてしまった時に、当時の彼女は一体いくつだったと思われます? 現在の織斑さんの年齢から逆算するとして地位身分はどうであれ、学生と呼ばれる年齢であったことは疑い有りません。
ISバトルというスポーツで世界一を目指して切磋琢磨していた純粋な学生がトップに立った途端、今まで憧れ目指し続けていた栄光によって自分は大量殺人を犯させられたのです。
精神疾患くらい負ったとしても、なんら不思議はありませんよ」
「・・・・・・」
「またこれは、織斑さんにも本来であれば該当します。
彼は幼い頃の記憶がないらしく、もっとも古く印象に残っていた記憶は誘拐された折りに自分を助け出してくれた、凛々しくて力強くて美しい正義のヒーロー織斑先生の姿だったんだそうです。
それまでの記憶がない彼にとって、その瞬間が新たなる人生の始まりになったのは想像に難くありません。何も知らない純粋無垢で無知な子供が、大量殺人を成した英雄に憧れてしまったのです。
普通の人々と同じようには考えず、普通の人々と同じように行動しなかったから歴史に名を残せた人物を英雄と呼ぶ・・・。
平凡で善良な一般人が見本にすれば間違いようもなく禄な結果を招かないのが、英雄と呼ばれる異常者たちです。そんな人でなしの異端者を、彼は長い間ずっと目指して追い続けてきた。
精神病に掛かっていないと見る方が余程難しいと言うものですよ」
「・・・・・・」
「この世界は歪です。いえ、この世界の少年少女たちの心が歪すぎるのです。
誰もが真っ当な幼年期を過ごせていない。誰もが幼い頃に大きな心の傷を負っている。
そんな人たちばかりが国家代表候補に選ばれてるんですよ?
この状況で私みたいなド素人に、どう接しろと?」
今度は最後まで結べて満足した私は、すっかり冷めてしまった紅茶を飲もうとカップに手を伸ばし、ナターシャさんの一言で再び動きを止められてしまいました。
「ーーじゃあ、貴女は?
平和な時代に生き、平和に死んでいったはずの貴女はどうなの? 異住・セレニア・ショート。
英雄と呼ばれる人物たちが異常者だと知りながら、それでも彼らに憧れて欠点までもを含めて崇敬している貴女は、一体どれほどの歪みを抱えているのかしら?
今の私には他の何よりも、それが知りたい」
ーーなんとなく事態の根幹に関わる質問の様な気がしたので、真剣に考えてみようとしたところ・・・・・・
ピピピピピピピッ!!!!
ーー緊急連絡用に渡されたモニター付き携帯電話が鳴り響きました。
『おいっ! 異住、緊急事態だ!
亡国機業の工作員が京都に修学旅行中の藍越学園生徒たちが乗る列車に爆弾を仕掛けたらしい! 彼らを助けたければIS学園が保有している全ての専用機を渡すよう脅迫してきた! 至急、対策を協議せねばならん!
お前たちも早く学園に・・・・・・』
「了解しました。至急、京都へ敵を殲滅しに向かいます」
『なっ・・・!? バカか貴様は! そんなことをすれば彼らの命はない!
交渉で時間を稼ぎ、その合間に爆弾を解体し、もって亡国機業のISを殲滅ーー』
「再発を防ぐためにもテロリストには妥協しない。これは国際常識ですよ、織斑先生。
その程度のことも学ばずに国立学校の教員試験をお受けになられたのですか?」
『くっ・・・! だ、だがそれなら貴様等はどうするつもりだ!?
爆弾を解体し、生徒を救い、敵を倒す。これら全てを貴様等だけで解決できるとでも言うつもりなのか!? 付け上がるなよ小娘が!
貴様等はどこまで行っても只の学生で、未熟きわまる子供でしかないんだ! いい加減、それを自覚して自重しろ! 貴様一人で全てを背負えるなどと思い上がるな!』
「その程度のことは一番最初に通り過ぎた関門です。今更過ぎる。
それから民間人の救出と救助は、IS操縦者の業務に含まれていません。警察が管轄すべき事態です。ですから彼らに一任しますよ。私たちはIS操縦者らしく、敵と戦い殲滅することだけに注力させてもらいます。
私一人でできることは限られていますので、分担して事に当たりたいのです」
『ぐぬぬ・・・ああ言えばこういう奴めぇ・・・・・・!
ーーだが駄目だ! 貴様等には現状のまま待機を命ずる!
お前たちにはこの後にやってもらうことがあるーー』
「お断りします。私たちはとうに学園の制御から外れた存在です。あなた方に我々を守る力がない以上、あなた方の庇護下にいてあなた方の命令を受ける義務も必要も価値すらありません。
此処にいるのはあくまで更識会長の顔を立ててあげてるだけのこと。
なので、戦えない雑魚は引っ込んでいなさい」
多少は気が立っていたのか、私らしくもなく挑発セリフを口にしてしまいました。
織斑先生は一瞬、何を言われたのか分からずにポカンとしていましたが、やがて頭が理解に及んだらしく急激に美麗な顔を歪ませながら――、
『な・・・んだとぉ・・・!!!!』
今更過ぎる変化に内心呆れを感じますが、ここまで来たら毒を食らい尽くすといたしましょう。
言いたいことだけ言って、さっさと出撃させてもらいます。
「どれだけ強かろうとも、世界最強の肩書きを持とうとも。
戦えない戦士は一兵卒以下です。威嚇においてのみ価値を有している。
相手が実力行使に踏み切ってきた今になって、世界最強と言うだけでは何の役にもたちはしません。いい加減に時代の変化を、パラダイムシフトを理解しなさい」
『ぐ、ぬぅぅぅ・・・・・・』
「人を斬ることが出来ない名刀はナマクラ以下です。戦場で人を殺せない最強は最弱にも劣る。
足手まといは不要です。子供の心を持った大人の子守りはゴメンですよ」
ピッ。
なにか反論したそうな表情の織斑先生でしたが、流石にこれ以上は時間がもったいないので通信を切らせていただきました。電話は受ける側にとって便利な道具ですね。
「行くの? 日本政府もようやく軍のIS部隊を出撃させたみたいだけど?」
「どうせ民間人に当たるからどうだとか、国際世論がどうだとか、次の選挙がどうだとか喚いて、政府が攻撃許可を出すのはもっとずっと先です。放っておきなさい。
国の庇護が受けられないのであれば、国に従う意義はありません。
元より法とは、自主的に自分の意志で守り遵守すべきもの。
自分たちが禄に義務を果たしてすらいないのに、国民は法律を守って当たり前、ルールなのだから守るのが当然、部下は上司に従うのが現代社会のルールと言うもの・・・はっ、糞食らえですよ。
守らせるための努力、守ってもらうための努力を怠った政府の定めた法など、守るも守らないも個人の自由意思次第だというのにね」
「・・・・・・」
「国と法は、どちらも絶対者によって効果と価値を保証された、この世の理ではない。
主体的意志を持った個人が集まり、それぞれが過し易いよう、出来るだけ他人に迷惑をかけないよう、効率よく社会を運営できるよう考案された一つの方便に過ぎないのが国家です。
人類の始まりと共にあったわけでもないものが、未来永劫続くはずもありません。日本もアメリカも地球も人類だって、いつかは消えてなくなります。
国なんて人類の歴史を通して見た場合、ほんの一瞬で興って滅びるのが殆どなんですよ? なんで現代日本が今のままずっと続くと信じきれるんです?
別段、続けるための特別な努力をしているわけでもないでしょうに・・・」
「国民は政治を政府に委ねて自分の仕事に埋没し、政治家は政治を仕事と捉えて地位と権限と袖の下の向上だけを志す・・・。残念ながら現在の民主主義国家はそうなってしまい易い。
民主主義とは高級レストランでテーブルに座り、ディナーを提供してくれるのを待つお客様になることを意味していません。
自分で木を切り、家を建て、自主自立を促すことを本義とする制度です。
デモクラシーが民衆支配を意味する古代ギリシャ語を語源としている事実をお忘れですか?」
「民衆自身による民衆の支配。古来より存在したこの思想を現在までに、完璧な形で実現できた国家は存在しません。
でも、だからと言って目指しちゃいけないものだとは思わない。ましてや、目指さなくていいものだとは断じて思わない」
「日本政府と日本国民が民主主義の理念と制度を貶めるというのなら、私は私の民主主義を貫き、国家と日本を見捨てます。他の誰でもない、私の信じる私個人の民主主義精神を守るためにです。
邪魔すると言うなら、勝手にすればいい。私も勝手にやるだけですから」
長話を聞き終えたナターシャさんは、額に手を当てて溜め息をつくと、
「はぁ・・・・・・参った。貴女、天性の気狂いね。
一体どういう頭の構造しているのか、理解できないわ・・・」
「褒められたと解釈しておきます。わざわざ好き好んでイヤな気持ちになる解釈をする必要はありませんから」
「そ。なら好きになさいな。それこそ、あなたの勝手と言うものよ。
ーーああ、でも一つだけ約束しなさい。
この件が終わったら、後でちゃんと篠ノ之さんとは話し合うこと。
いいですね? 分かりましたか? 異住・セレニア・ショートさん」
「・・・はぁい、わかりましたファイルス先生。
じゃあ、行ってきます」
「はい、行ってらっしゃい。
お土産は、亡国幹部の首だけで充分だから」
ーー怖っ!? 怖いですよファイルス先生!
せっかく良い雰囲気のまま出撃できると思ったのに、結局これですか私たちの出撃シーンは!!
神は死んだ! 所詮は弱者の妬みにより生み出された偶像崇拝に過ぎなかったのだ!
・・・って、私も相当頭やられてるみたいですね。落ち着こう。
「では、みなさん。出撃です。
戦闘準備を始めてください」
『うおおおおおおおおおおおおおおっ!!
クリーク! クリーク! クリーク!!
少佐!少佐殿!代行殿!大隊指揮官殿!
戦争の歓喜を無限に味わうために!
次の戦争のために!
次の次の戦争のために!
地獄を創るぞぉぉぉぉぉぉっ!!!!!』
ーーうおぉぉぉぉっい!?
ちょっとどころじゃなく、おかしなテンションになっちゃってるんですけどもぉ!?
どうしたの!? なにがあったの!?
・・・・・って、またお前の仕業か少佐ぁぁぁっ!!
酒で酔っておかしなテンションになってる原作キャラを率いて続く