IS学園の言霊少女(本編終了・外伝スタート)   作:ひきがやもとまち

44 / 115
バケモノ書いてる途中ですが、どうしても書きたくなっちゃったのでこっちを優先して出させて頂きました!
前半はダークでシリアスな展開、後半は只のバカです。

注:サブタイトル詐欺により、戦闘シーンは一瞬たりともありません。


41話「事件発生前の総理官邸と、現代日本の殺戮者」

 首相官邸。

 テロリストに占拠される15分ほど前に交わされた日米首脳による非公式電話会談。

 

「・・・わたくしが聞き間違えた可能性もありますので、もう一度だけ同じ質問をさせていただきますわねトリューニヒト大統領。

 ーー今、なんとおっしゃいましたか?」

 

 先ほどから何度も同じ質問を繰り返している日本国総理の無能さを前に、米国大統領ヨブ・トリューニヒトは三千万人の有権者たちを魅了して止まない魅惑的で魅力的なさわやかすぎる笑顔でもって、無礼きわまる態度の質問にも懇切丁寧に対応してくれる。

 

『勿論ですよ小池総理。私はあなたの“その要望には”何度でも応じる心づもりでいますからね。聞かれさえすれば聞かれた数だけお答えいたしましょう』

 

 丁寧に、紳士的に、分を弁えて女性を立てる。『女尊男卑』時代に颯爽と現れたニューヒーロー、アメリカ全女性市民期待の星ヨブ・トリューニヒト!

 

 ・・・・・・過剰なまでの形容句が、今ではひどく寒々しい。

 こんな無能な男に一瞬でも気を許した自分が愚かだった。所詮、弁舌と美辞麗句だけが取り柄の詭弁家に非常時に対処する能力など求めるべくもない。最悪のタイミングで最悪の大統領が就任してしまったものだと、日本国総理小池首相は目の前の男を大統領の座につけた人を見る目のないアメリカの有権者達を心の底から憎悪した。

 

『在日米軍をはじめとして、日本に在留している全アメリカ国民の帰国を開始させます。むろん、今すぐにと言うわけではありませんがね。来年を目処において、本格的な帰国ラッシュを迎えることになるでしょう。

 そうなれば当然、多数の連絡貨客船が行き交いして日本のみなさんには多大な迷惑とご心労をおかけすることになると思われます。私にとって、それだけが唯一気がかりな点ですよ。まことに申し訳なく思っております』

「・・・・・・そんな些事なんて、どうでも宜しいですわ!」

 

 遂に総理は椅子を蹴って立ち上がり、周囲にいた何名かの政府要人達もまた重々しく首を縦に振っている。中には前世紀代から主要ポストに付き続けている相当に高齢な老人男性の姿もあった。

 

 まったく、この期に及んで何を寝ぼけたことを言っているのだこの男は。世界の現実が見えていないのか? それとも見ようとすらしていないのだろうか?

 

 ・・・・・・いいだろう、ならば現実を思い知らせてやる。無能な男と違って女性は優秀だ。この様な非常時にこそ肝が据わり、窮地を切り抜けられるのだということを事実として心に刻み込んでやろうと、小池総理は怒りのあまり逆に冷静さを取り戻して椅子に座り直すと、静かな口調で教え諭すように丁寧に語り聞かせ始めた。

 

「ーー宜しいですかトリューニヒト大統領。先週のことですが、韓国と北朝鮮が互いに軍を発して戦争状態に突入したとニュースで流れました。

 北朝鮮保有の専用機が韓国の首都ソウルを奇襲し、IS部隊に撃退されて退避していくのを追尾する形で韓国軍保有のISも北朝鮮の首都ピョンヤンを攻撃、複数の歴史的建造物が破壊されました。無論これは韓国側も同様です。

 ピョンヤンとソウルは目と鼻の先にあり、互いの持つISにとっては指呼の距離と呼んで差しさわりない。

 戦闘機を上回る機動性を持ち、対空レーダーには決して引っかからない完全ステルス性能を兼備したISによる奇襲を受け続けたのでは互いの首都に防御手段は存在しておりません。両国政府は首都機能をそれぞれ南北のもっとも遠い位置にある都市に移転し、放棄された旧首都の治安は完全に崩壊。取り残された市民達は次々と辺境部へ逃げ始めているそうですよ?

 開戦報道が流れる、『一ヶ月以上も前』の出来事です」

『それについては私も聞き及んではいますよ。

 かつては幾度となく軍事パレードが催された金日成広場も、今では飢えた野良犬さえ寄りつかない無人の荒野同然になって放置されているのだとか。なんでも国家的象徴だからと最優先で攻撃対象に指定されたそうですねぇ。

 まさに『強者共が夢の後。盛者必衰の理なり』と言ったところですか』

「・・・大統領、貴国にとっても笑い事ではないのでは? 私の記憶が確かであるならソウルには、数十万人規模の在韓アメリカ人が残留していたはずではなかったのですか?

 あなたは、彼らの安否や安全な国外脱出に尽力すべきお立場のはずでは?」

『ええ、勿論そうですとも。ちゃんとやっておりますからご安心ください』

「どうですかしらね? 開戦以降、アメリカ行きのフェリーも飛行機も一機だって見かけたという報告はあがってきてはおりませんけれど?」

 

 言い訳するな、口先だけの詭弁家め。

 目は口ほどに物を言うと言うが、今の彼女はまさにそれであった。明確な見下しと蔑みがテレビ電話の画面に映る秀麗な顔に向けられている。

 

 そんな彼女の形相を見て、彼がなにを思ったのかは知る由もない。分かるのは彼が最後の最後まで総理に対して礼儀を守り、礼儀正しくあしらい続けた。ただそれだけである。

 

『これは異な事を。外国に居住している人々を強制帰国させるためには何ヶ月もかかるのですよ? 到底、戦争状態に突入してからでは間に合いません。我が国の住人の避難は数年前より徐々にではありますが、始めていましたよ?』

「「「!!!???」」」」

 

 その場にいる全員が息を飲む音が、静かすぎて広すぎる総理官邸のホールに響きわたった。

 

 誰もが唖然とした表情で言葉の意味をはかりかね、隣にいる同僚に確認を求め合った。

 

 ーーこの男、今なんと言った?

 在韓アメリカ人の帰国を数年前から始めていたと、今そう言わなかっただろうか?

 それはつまりこの男は、今この時点で世界がこうなるであろう事を何年も前から予見していて、その内容を同盟国である我が日本国に一言たりとも教えようとはしてこなかった事を意味していた。

 

『それにしても愚かなことです。あれだけ互いの首都が近い韓国と北朝鮮が、ISを投入して全面戦争だなんて。どちらか片方がISを首都に向けて侵攻させた時点でこうなることは分かりそうなものですがね。

 せめて彼らは互いの首都近郊だけでもIS戦闘を禁止する戦時条約を締結しておくべきでした。そうしておけばお互いに首都を手放さざるを得ない事態にまでは立ち至らなかったでしょうに』

 

 他人事のように平然と語る男の顔に未知の恐怖を味わいながらも、小池首相は確認せずには済まされない質問をした。

 

 それはこの世界における最大のタブーであり、この男はそのタブーを今より遥か以前から破り続け、犯し続けてきたという事実の最終確認であった。

 

「トリューニヒト大統領・・・あなたは、あなたはまさかISを始めから兵器として見て捉え、戦力として運用することを前提とした、有事に際して対処できる戦時体制を構築していたと、そう仰っておられるのですか!?」

 

 悲鳴にも似た小池首相の質疑に対し応答の言葉は単純明快すぎて、いっそ尊重なほどであった。

 

 ヤーと、只一言。ドイツ語で了承の意。

 たったそれだけで日本政府の首脳陣の顔色は赤から青へ、そしてドス黒い絶望へと一瞬のうちに染色してしまった。

 

「アメリカはISを使って戦争するつもりだったというのか!」

『アメリカはISを使って戦争するつもりだったというのですよ』

 

 どことなく楽しげな表情で、心なしか懐かしそうに応対してくるアメリカの伊達男。

 が、今はその礼儀知らずな態度を悠々と批判していられる様な場合ではない。アメリカが戦争を想定していたとするならば、日本がその世界戦略の中でどのように位置づけられているのか。

 それをこそ知りたい。それ以外はどうでもいい。

 そんな風に短絡的で視野狭窄状態に陥っている彼ら彼女たちは、つい先ほど交わしていた会話内容すら思い出すことが出来なかった。

 

 彼は一番最初に伝えておいたはずだ。

 在日米軍を含む、全アメリカ国民の帰国を開始させると。

 

「トリューニヒト大統領! 今こそ日米安保が効果を発揮し、我が国とアメリカの絆と信頼が新しい世界でのモデルケースと成るべき事態です!

 どうか冷静に合理的に判断し、大局的な世界戦略でもって変化する事態に対処するよう切にお願い致します!

 決して視野狭窄に陥ることなく、短絡的で即物的な判断をなさいませぬよう、我ら日本政府閣僚一同、全身全霊を持って日米の絆を守り抜く所存でおりますのでどうか!何とぞーー」

『ふふふ・・・』

「・・・? 大統領閣下?」

 

 急に腹を抱えて笑い出したアメリカの国家主権者を前に、一同が唖然としていると、

 

『ああ、失礼。お見苦しいところをお見せしてしまって申し訳ない。

 余りにも面白いお話だったものですからつい』

「??? い、いえ、大統領閣下に楽しんでいただけたのであれば、我々としましても望外な幸福ではありますが・・・なにか我々はおかしな事でも言いましたでしょうか?」

 

 まったく身に覚えがない。そう顔の全面に太字で書いてある政府閣僚を前にしてトリューニヒトは笑い死にしそうになりながらも冷静で紳士的な対応を迫られるという、かなりの無理ゲーを強いられていた。

 おそらくは彼以外に出来る者はいないだろうが、彼としては是非とも自分以外にやってもらいたいクソゲーであった。

 

『いえいえ、あなた達の認識としては非常に正しい意見だったとは思いますよ?

 ただねぇーーもう少し貴国に住んでいる日本人の方々には、他者から見た自分の言動について気にして頂きたいものです。

 自分だけが信じている認識など、自分以外の人間にとってはゴミよりも価値の低い「赤の他人が大事にしているガラクタ」に過ぎないと言う事実について、もう少しだけでもね』

「・・・???

 それはいったいどういう・・・」

 

 どうやら言わなければ分からないらしい。

 彼らを見切ったトリューニヒトは、より直裁的な言葉と表現でもって相手に自分が持っている『日本政府の舵取りがどう見えているか』について語り始めてた。

 

『旧時代の昔から日本は、非核三原則を遵守してきました。それは我が国の原潜や空母を停泊したときだって変わりありません。

 徹底的に形式を守って、規則を可能な限り遵守しようとするあなたがた日本人は大変に素晴らしいと、心から賞賛させて頂きます』

「え、あ、いやその・・・ありがとうございます・・・?」

『ですが、その後がいけない。いけなくなってしまった。

 ここまで徹底してきた非核を放棄し、戦力として保有するなど許されることではない。神が許しても私が、アメリカ合衆国が許しません。

 ISなどという核ミサイルと同等の力を持った兵器の開発と、その操縦ノウハウを教えるIS学園設立を容認した時点で私は日本を安保違反を犯した国だと決めつけて、勝手に軽蔑し続けてきたのですよ?』

「「「!!!!!!」」」

『市街地全てを更地にできる戦略爆撃機を自衛隊に編入させ、世界でもっとも多く保有しているIS学園を国内に持ち、挙げ句の果てには自国が安保を無視しておきながら、アメリカにだけは履行を求めるのが当然の権利であり義務であろうと言いたげな顔をされていらっしゃる。

 日本人はいつから恥を知らぬ民族に成り下がっていたのですかな、小池総理?』

「ま、待ってくださいトリューニヒト大統領! それは何かの勘違いであり、誤解とすれ違いの降り積もった結果に過ぎません! 感情的な教条主義に陥るべきではありませんわ!

 そもそもIS学園を設立するよう求めてきたのは、あなた方アメリカではありませんか! それを今更になって責任問題のやり玉に使おうだなんてフェアではないじゃありませんの!」

『当然の外交手段ですよ小池総理。アメリカに限らず世界のあらゆる国々にとって条約とは、守ることで自分たちに利益があるから守ろうと努力するものなのです。

 守る価値のなくなった条約など、破るのに使えそうな道具を探して奔走するのが当たり前の代物なんですよ。

 アメリカにとって守らせる価値のあった日米安保は、今の時代に意味が損失していました。そこに降ってわいたIS騒動を利用してIS学園設立を要請し、時期が来たので都合良く切り捨てて条約も破綻させてしまおうというのが米国の狙いです。

 幸いにも設立と運営にかかる費用負担は、全額日本持ちで納得していただけましたからねぇ。

 作るのに1ドルも掛けていない他国の国立教育機関など、壊そうが利用しようが無くなろうがアメリカの腹は痛まない以上、対岸の火事に過ぎません。他人事なんですよ。どうなろうと私の知ったことではない。あなた方自身の力で日本を生き延びさせる手段を模索してみてください。

 それでは、良い年末を。Merry Christmas』

 

 

 

 

 ブツン。

 

 

 

 ガッシャアアアアアアアッン!!!!

 

 

 

「吾々は真に国を愛するIS操縦者の集団、憂国軍事会議である!

 吾々はきみたちを人質にとり、総理官邸を占領下におかせてもらう。

 この後我らは日本政府を指揮下に置き、日本軍と在日米軍を統合させて統合軍を結成。然る後に我らが祖国アメリカに正義を敷くための聖戦を宣言する!

 君たち腐敗しきった日本の政治家諸君には、正義のための人柱として見せしめの処刑に順次使わせていただくつもりでいる。

 正義のための貴い犠牲だ。名誉だろう? 喜べ!」

『・・・・・・・・・・・・』

 

 

 ダダダダダダダダダダダッ!!!!

 

 

 

『憂国軍事会議バンザァイ!』

 

「うむ、素直な態度で大変よろしい。

 では後ほど総理には日本国憲法に変わる憂国軍事会議の布告を発表してもらうつもりでいるから、原稿を全て丸暗記しておくように。

 言っておくが、一字一句間違いなくその通り言えなければ命はないぞ? 分かったか!?」

「はい!分かりました憂国軍事会議様!」

「口を開く前と後にビバ・アメリカをつけろーっ!」

「分かりましたビバ・アメリカ!

 分かりましたから銃口を押しつけないでくださいビバ・アメリカ!」

「よーし、これから吾々の時代がはじまる。

 エリートによるエリートのためのエリートが支配する正しい時代と世界のはじまりだ。

 さぁ、諸君! 盛大に開戦を祝う花火を打ち上げろぉ! 革命だぁぁぁぁ!!」

 

『USA! USA! USA! USA!』

 

 

 

 

 

「くっくっく・・・さぁ、どこからでも掛かってこい日本のIS操縦者ども。

 本当の戦いとはどういうものか、たっぷりと教えてあげようじゃないか。

 くくく、くははははは、ひーっはっはっはっは!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーん? なんか訳の分からん事を言ってる南蛮人の声を聞いた気がしたんだが・・・とりあえず日の本言葉しゃべってなかったから、殺してきても良いか?」

「あんたんとこって確か、他国から留学生招いてるはずじゃあ・・・」

「奴らも普段は日の本言葉でしゃべってるからな。だから殺さない。

 日の本言葉をしゃべれないのなら、大人しく首差し出して死ね」

「・・・・・・・・・・・・」

 

つづく




現代日本の殺戮者=妖怪首置いてけな織斑一夏でした。
殺意はあるが悪意はなし。ただ首貰いたいだけの少年です。なにソレ怖い・・・。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。