IS学園の言霊少女(本編終了・外伝スタート) 作:ひきがやもとまち
ーー亡国機業本部『ヘルヘイムベース』。
『索敵班から報告がありました。北南西東、すべての方向より敵大編隊接近中。その数10000ないし、12000。対応を指示願います』
「迎撃せよ。切り札である虎の子の新型は高性能だが起動時間が短い。できれば余計な些事にエネルギーを浪費させたくはないところだ。
できうる限り通常のIS部隊で敵を誘導し、《デストロイヤ》に装備されている決戦兵器《ニーベルング砲》の射程ギリギリまで引き付けるのだ」
『了解。各IS部隊に指示を伝えます』
基地の周囲を取り囲むように配置された索敵用偽装使節からの報告にたいし、亡国機業幹部会の代表は席に座ったまま重々しく指示を返した。
その声は十分に抑制が利いており、追いつめられて自暴自棄に陥った者特有のヒステリーは陰すら見いだすことができない。
普段通りの指導者、50年以上の長きにわたり裏から世界を支配し続けてきた偉大な老人に敬意と畏怖を覚え、報告者は心底からの敬服を露わに通信を切った。
組織が掲げる秘密主義の都合上、索敵班からの通信には音声通話だけが用いられ、司令室を見下ろせる位置にあるマジックガラス張りのブース、観覧席とも言うべきVIPルームに顔を並べて鎮座している幹部会の面々が顔色を蒼白にしたまま必死になって感情を制御し、恐れているとバレないようにブルブル震えながら指示を下し続けていたことに最後の最後まで気づけぬままに・・・。
「・・・ですが、これで本当に守りきれるーーいえ、失礼しました。
本当に我々がヤツらに対して攻めに転じることは出来るのでしょうか? 新総帥。
現時点までで相当に追いつめられ、攻め寄せてきた敵の指揮官一人を拿捕した程度で好転できる戦局ではないと愚考いたしますがーー」
円卓に座していた老人は発言を最後まで言い終える権利を与えられなかった。
突如として一条のビーム光が迸り、彼の眉間を正確に撃ち抜いて永遠に沈黙させられてしまったからだ。
命を失って倒れゆく彼の死体を愕然としながら凝視し続ける彼らの頭上に、ソレは重々しく且つ、陽気で明るく心底楽しそうな声で言ってのけた。
『ここに敗北主義者は要らねぇ、あの世へ向かって逃げだしな。手伝ってやるからよぉ』
「「「・・・・・・」」」
機会音声のようにノイズ混じりの若い女の声に幹部会の面々は、真っ青な顔で震えながら沈黙することで新しい総帥の命令を受け入れた。
『それでいい』
満足げに声だけ頷きながら、固定されて動かぬ首を目だけ動かしモニターのひとつを見やる。
そこに映し出された無数のカトンボの群を眺めながら彼女は『顔のない顔で』ひとしきり笑って見せながら、
『いいね、いいね、いいなぁオイ。こりゃもう戦争だぜ。しかも、ものすっげぇ規模の大戦争だ。
世界を炎で燃やし尽くして余りあるほど、とんでもねぇ大火が拝めそうで嬉しい限りだぜ』
ヘラヘラ笑う様子を声だけで再現して見せながら、ソレは『赤くて巨大な』自分の手のひらを見下ろして感慨深そうに感嘆する。
『これはオレが求め続けた戦争だ。オレの一族が求め続けた悲願の炎だ。誰にも邪魔させたりなんかしねぇ。
ミューゼルの名を炎で彩れる最後の機会なんだ。お前らにも地獄までつき合ってもらうぞ? この光景を見るために長々と戦争ごっこし続けてきたんだもんなぁ、ええおい?』
「「「・・・・・・」」」
沈黙による答えの内容は『否定』。彼らは一度たりともこんなモノを見たいと思った事などない。
ただただ儲けたい、金がほしい、一度は手に入れて失った権力の座に返り咲きたい。そんな有り触れて平凡な小市民らしい小悪党な願いを抱いていたに過ぎない。口先だけで唱え続けていた「世界中を戦場に!」など、お題目も良いところだ。
彼らが望み求め続けたのは一貫して世俗的な地位と権力と、それに付随する巨万の富だけだった。
それ以外の物など要らない。戦争なんて知った事じゃない。やりたいヤツだけやっていればいいんだ、オレたち親の代から組織を受け継いだだけの三代目に戦争狂の悪夢を押しつけるな。
上辺だけで戦争を賛美し、実戦部隊に危険な役割を押しつけ続けたツケに彼らは今更ながら追いつめられていた。
出来立てで知識の乏しいクローン共をコントロールするため人間の脳をスキャンして基地のマザーコンピューターに同化させたIS操縦者の意識が基地を乗っ取り、炎のように紅い深紅の巨大ISの姿となって彼らの背中に銃口を突きつけながら亡国機業を戦争の業火で焼き払わんと気炎を上げる。
『これだ。これが見たかったんだ。この光景を見るためにオレはここまで来た、身体を捨て、恋人を死なせて自分も死なせてクローン共を捨て駒にして、ただただ炎で焼かれる世界を見たいがためだけにオレは今まで生きてきた。いや、死なずにきた。もう後には戻らねぇし、戻れねぇ。戻してやるつもりも更々ねぇ』
機械が奏でるゾッとするほど悦しそうな愉悦の笑いに幹部会の面々はそろって恐怖し、自らの選んだ選択を心底から後悔して救いの手を探し求め視線を彷徨わせる。
しかし、彼らに救いは訪れない。あるいは救いの手を差し伸べてくれたかもしれない正義の剣士は居ないのだ。とうの昔に消え去った。
今残されているのは絞り滓とも言うべき妖怪だけである。
何もかもが手遅れだった。
彼らの命も、人を捨てて深紅のISとなった『レイン・ミューゼル』も、彼女を完成させるために必要なデータの礎となって失われた『フォルテ・サファイア』の献身もすべて、今この時に燃え上がらせる為焼べられ続けた薪となって無意味に使い尽くされ様としていた。
もう消せない。止まらないし、止められない。
一度火をつけてしまったからには、爆発するまで止めさせたりなんかしない。
ヘルヘイムベースが綺麗な花火となって燃え尽きる、巨大な何かが栄光と後悔を燃料として燃えたぎりながら地獄の底へと沈下していく煉獄を見たいがためだけに、今の自分はこうしてこうなって此処にいる。
『戦争は炎だ。炎は地獄で、地獄は今だ。
火は無限に燃やし、燃やされ続ける。燃え尽きるまで燃やし続けて、綺麗サッパリ燃え落ちる。
燃やすためにオレは愛欲の情と敗北の苦痛を越えて今、ここに立っている』
『見ろよ、敗滅が来るぜ。地獄の業火でオレたちを焼くために。
炎で焼かれる、死が訪れる!』
洋上に浮かぶ米国艦隊旗艦『ヒルアデブ』。
「参謀殿、敵司令部から返信がありました。
『汝は武人の心を弁えず、我死して名誉を全うするの道を知る。生きて汚辱に塗れるの道を知らず。この上は全軍を持って玉砕し、以て亡国機業の栄華を後世に残さん』
以上です」
「敵ながら見事な軍人精神ですな。これに応じるためにも我々はアメリカ軍人精神でもって正々堂々真っ正面から正面決戦をーー」
「・・・憲兵少尉、一つ頼まれてくれないか」
「はっ、何事でありますか大佐殿!」
「裏切り者だ。処分してくれたまえ」
「ハッ! 承知いたしました!」
「なっ!? ご、誤解であります大佐殿! 小官は決してその様な愚劣な真似は決して・・・い、いやだぁー! 死にたくない殺されたくない! お願いだから誰か助けーー」
パァンッ!
「決戦を前に内通者が発見できたのは誠に喜ばしい限りである。
諸君等は全身全霊でもって任務を全うし、以て祖国への献身を果たせ。
この世で最も憎むべきは無能と自己陶酔であり、分を弁えぬ猪突猛進である。私が指揮権を持つ軍にあってその様な低能は存在していること自体が許されざる罪悪なのだと覚えておきたまえ」
『・・・・・・・・・』
「勝つべくして勝つ。私の尊ぶ戦い方とはそういうものだ。
国民は国家にとって大切な資源であり、資産だ。それを無駄に浪費することは祖国にとって大いなる利敵行為である。その様な愚行を私は決して許容する気はない。
忘れず明記しておくように」
『・・・・・・・・・』
「玉砕は確かに美しい。軍人精神の極みとも呼ぶべき、愚考の極地だ。美しいだけで祖国には何一つもたらさない。戦争を個人の武功の場であるなどと勘違いした愚か者の所行だよ。意味など全くない。国家にとっては害悪ですらあると言える。
この様な愚物を生かし続けんとする世界の誤った選択を、私は断じて許可しない」
『・・・・・・・・・』
「世界は正しく在るべきだ。
功績は報われるべきであり、過ちは正されるべきであり、英雄には栄光を、無能には処罰を、低脳には冷遇を、責任を自覚できない責任者は絞首刑台へ送る。
それが本来世界の在るべき、正しき姿と言うものだよ」
『・・・・・・・・・』
「さて、諸君。そろそろ始めようではないかね、戦争を。いや、戦争のように盛大な火葬を。
過去の遺物にはそろそろ御退場願おう。
ーーあの世とやら言う、ゴミ捨て場にね・・・・・・」
『合衆国万歳! トリューニヒト大統領閣下万歳! ゴップ議長閣下万歳! マイントイフィル三軍参謀閣下万歳! 自由よ、永遠なれ!
友よ! 必ずや圧制者を打倒して屍の上に自由の星条旗を突き立てよう!
我ら今を戦う! 輝く未来をてにするために! 実りある栄華を手にするために!
我ら自由の民! 我ら永遠に征服せん!
全てはアメリカの利益と国益を手にする為だけに!!』
「結構。それでは諸君。散歩に行くぞ。
燃やされるためだけに存在する藁人形が、手ぐすね引いて我らを歓迎してくれている。存分に殺して手柄としたまえ。
敵を殺して自分が生き残りさえすれば、勇敢に戦って戦死せずとも英雄には成れるものさ。死んだ英雄は国が作るもので、生きている英雄は自ら成ってみせるものだからね。奮闘し、努力せよ」
『イエス・サー!! これより我が軍は攻撃を開始致します!!
祖国の敵を、殺し尽くせぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!!!!』
続く?