IS学園の言霊少女(本編終了・外伝スタート)   作:ひきがやもとまち

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久方ぶりの更新となります。
「亡国機業と米国軍の決戦、試作品を書いてみた」の続きです。
私なりにIS戦闘を真面目に書いてみたのですが・・・。書き終わってから思った事。

「あれ? ISバトル回なのに全然ISが活躍していない様な・・・?」

――所詮、私にとってバトル物は読む物なのだと思い知らされた回でした・・・。

注:血生臭い回です。ご注意を。


46話B「亡国機業本部VS米軍マイントイフェル艦隊・本戦」

 米海軍マイントイフェル艦隊と亡国機業本部『ヘルヘイムベース』との戦いは、亡国機業側から問答無用で発射された対艦ミサイルの雨による先制攻撃で幕を開けた。

 

「敵軍、ミサイル発射!」

「予定通りだ。落ち着いて迎撃せよ。十分に距離は取ってあるし、観測も怠っていない。友軍を信じて、自らの職責を果たせ。以上だ」

 

 米国艦隊旗艦の艦橋で初老の艦長は、落ち着いた声音で指示を出す。

 

 想定されていた選択肢の中では尤もポピュラーな手法だったので、肩書きでは参謀格でも実質司令官に等しいマイントイフェルが余計な差し出口を挟む必要すらなかった。

 

 なにしろ相手はテロリスト、まっとうな戦いなどしてくれるはずもなし。

 ましてや日本では民間人を人質に爆弾テロすら平然とやってのけた連中だ。不意打ちぐらいで驚く方がどうかしている。

 

 

 

 

米軍艦隊旗艦《テルアビブ》

 

「大佐、本国より入電。ペンタゴンを経由して日本のアメリカ大使館から連絡が入ったとの事であります。『総理官邸ニ火ノ手アリ』。以上です」

「そうか、これで前方の敵の中に彼女がいないことが確定したな。

 では、諸君。待たせたね。そろそろ始めるとしよう。

 『黄金作戦』を開始せよ」

「はっ! 黄金作戦開始! 第一陣は攻撃を開始せよ! 艦隊はこの海域に固定して別命あるまで待機だ。命令違反を犯して突出した奴は手柄を立てても銃殺してやるから覚悟しておけ! 分かったな!?」

 

 十年以上のブランクから新兵が多く、初陣で血気に逸り突出して無駄死にしないよう気を使った号令を付け加える艦長を好意的な視線で見つめながらマイントイフェルは、一言付け加えることを忘れない。

 

「艦長。すまないが、先鋒には降兵である各国IS操縦者と専用機持ちたちを主力として前に押し出してくれないか。『手柄を立てた者には米軍中尉ではなく、少佐の地位を用意してやる』と付け加えてな」

「はっ、それは構いませんが・・・よろしいのですか? 奴らは我が身かわいさのあまり、二束三文で祖国を売り飛ばした売国奴の寄せ集めです。忠誠心など期待できません。

 もし先鋒が敗れるようなことにでもなれば、全軍の士気にも関わりかねませんが、それでも?」

 

 一理ある。マイントイフェルは艦長の言に理があることを認めたが、そもそもの前提において間違った解釈をしている案だったので、提案自体は棄却した。

 

「問題ない。はじめから守るつもりもなく交わした口約束など、馬の前にぶら下がった人参と同じだ。敵に向かって突撃させて、敵の出方を見る。観測斑は索敵と情報解析を怠るなよ」

 

 貴公子的な風貌に似合わず人の悪いことを言ってのけた上官の言葉に、ブリッジクルーが残らず唖然とする中で彼は続けてこうも言う。

 

「奴らを前面に押し出した後、艦隊は砲撃準備を済ませて狙いを定める。敵基地と基地周辺に存在している米軍機以外すべての機体にたいしてだ。

 ・・・私の言っている言葉の意味が分かるな、艦長?」

 

 愕然とした表情で自分を振り仰ぐ部下に、マイントイフェルはごく普通の笑顔で応じる。

 

「時流を読んで敵に寝返るのは悪いことではない。自らの身を守るため祖国を売るのが裏切りだなどと私は思わない。裏切られたくなければ報いてやれば済む話だからな」

「では、何故・・・?」

「決まっているだろう? ーーこちらが欲っしてもいない商品を高値で売りつけにくる押し売りなど、椅子でも投げつけて追い返してやるのが礼儀と言うだけだ。

 我々は世界に対して守るべきマナーとも言うものを見せつけてやるだけだよ。気にすることはない。国家の重鎮として恩恵を受けてきた者が、窮地に陥ったからと言って祖国を売って安心を買おうなどとは虫が良いにも程がある。

 卑怯なのはよい、恥知らずだろうと許容するのが軍事国家という存在だろう。だが、双方を持ち得た才色兼備の屑に報いる術を私は銃殺刑しか知らんのでね」

 

 心胆を震え上がらせられる彼らであったが、付き合いの長い副官だけは比較的早く復旧し、準備状況を報告する。

 

「全艦、主砲及び副砲の装填完了。発射準備よろし」

「弾頭の種類は?」

「ご命令通り、すべて対IS兵装のVT信管型に交換してあります。空に集るハエを撃ち落とすには最適の装備ですからね。

 バリアなどというSF兵器が実際の戦場では役に立たないと言う事実を、世界中に思い知らせてやりますよ」

「・・・燃えるなよ? 大尉」

 

 ISにお株を奪われた恨みを晴らそうとでもしているのか、いつになく戦意盛んな副官を軽くいさめつつもマイントイフェルの思考は、次の段階へと移動していた。

 

「さて、敵はこの餌にどう食いつくかな・・・?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『はっ、とうとう痺れを切らしやがったか。どうやら我慢比べは俺の勝ちみたいだな? お偉い米軍司令官殿?』

 

 亡国本部地下司令室では巨大モニターを眺めながら、レイン・ミューゼルの脳を移植された巨大ISが動かない口元にせせら笑いを浮かべていた。

 

『奴らの狙いはわかっていた。完全な包囲下におかれた敵の内部で不和を生じさせ、内側から切り崩すのが目的だったんだろうが・・・甘かったな。

 悪くない手だったが、こちらには俺がいることを知らなかったのがお前達の敗因さ』

 

 基地の制御コンピューターと一体化している今の彼女は、基地内に存在している全ての監視カメラ及びセキュリティシステムを自由に操作することができ、裏切り者を裏切る前に殺すぐらいは容易である。

 

 出来ることをやった。機械としては非常に正しい選択であり、的確な対処の甲斐あって亡国側からは今のところ裏切り者は出ていない。裏切ろうとして処分されたゴミ達がゴミ捨て場で燃やされただけである。

 

 正直、初撃のミサイル攻撃を無傷で防がれたのは痛かったが、突撃してくる敵IS部隊は最初の失敗を取り返すのに十分すぎる獲物だった。

 

『新型IS《ワイゲルト》のうち五機を使い、突出してくる敵IS部隊を撃滅する。残りは待機だ。

 威力は絶大だが試作型だからな。今んとこ使い捨てにするしかない新兵器なんざ一度に全機投入するのは賭け過ぎる』

 

 

 幹部会名義で出されたレインの命令に従い、亡国機業は残存していたISコアを早急に改修し、操縦者にはデータが十分に揃ったオータム・コピーとレイン・コピーの二人を乗せた副座式IS『ワイゲルト』を完成させ、此度の実戦に際し総数十機を投入していた。

 

 

 

 ワイゲルトは、長大すぎる巨大砲を装備することで本来スポーツ用でしかないISに、限界を遙かに超える火力を持たせた決戦兵器。

 砲身に使い捨ての巨大電磁カタパルトを用いることで発射までの時間を短縮し、なおかつ直撃さえすれば一撃で戦艦を轟沈しうる絶大な破壊力を有している。

 

 問題は使い捨ての砲身が巨大すぎることであり、これが原因でIS一機分が持つ容量限界を余裕でオーバーしてしまう。

 IS武装である以上、粒子化から物質化しての換装が可能なはずだがサイズ的に大きすぎて収まりきらず、二機を一つに合わせて双方のコアを合わせて三分の一増量することでようやく使用が可能になった。

 このため換装作業をするには一旦基地へと戻って補充用の物と交換しなければならなくなり、更には容量の大部分を費やしての実体化粒子化はエネルギーを激しく消耗してしまうため、そちらの補給も必要となってしまった。

 おまけに射程が長くはなくて、通常のIS武装の二倍程度が限界なのである。

 

 これらの理由から数をそろえられるまでの間ワイゲルトは、待ち伏せした上で十字砲火に使用する以外の用途を見いだされなかった代物だ。

 

 ーーもし、これがアメリカの現議長か現大統領、もしくは今まさに敵として立ちはだかっている元ナチス将校の誰かの手元にあったならば効率的で有為な殺戮兵器として亡国機業を一方的に焼き払い、後の世の基本戦略の一つとして採用された未来があったかもしれない。

 

 しかし、現実としてワイゲルトは誰の目にも触れることなくヘルヘイム・ベースと共に業火へ飲み込まれ、研究者や開発者、設計図などと共に灰となって海の藻屑と化す運命にある。

 この事が今はまだ未知の未来にどう影響するのか? それは現代に生きる者達の知るところではないし、知ったことでもない。

 

 なぜなら未来についての不安に怯えるためには目前で銃口を構えている敵を撃ち殺し、敵の未来を奪うことで自分の未来を不安に思える権利を守り抜かねばならないのだから・・・・・・。

 

 

『こちらタイガーセクション、十二時の方向に敵機発見』

『・・・こちらアローセクションのアデーレよ。こっちでも見つけたわ。形状から見て、機種は打鉄みたいね。・・・それにしてはやけに大きいけれど・・・追加武装でも積んでいるのかしら?』

『なんにせよ、位置的に奴らを突破しなければ基地内へ突入することができない。前衛はアローセクションに任せてタイガーセクションは上空でバックアップを担いたい。宜しいか?』

『不確定要素が多いのが難点なのだれども・・・状況的に仕方がないわよね。贅沢を言っていられる余裕など私たちには微塵もないのだし、腹をくくりましょう。了解したわ。

 ・・・確認なのだけど、標的の撃墜記録は早い者勝ちで構わないのよね?』

 

 無線越しに相手が苦笑する気配を感じ、イスラエルの“元”国家代表にして世界順位第7位のIS操縦者アデーレ・イズマイールは思わず顔を赤らめた。あまりにも当然のことを聞いてしまったと自覚したからだ。

 

 実際、相手からの返信には十分すぎるほど皮肉と毒と、そして自嘲が混入されていた。

 

『早い者勝ちにしないと私たち全員、勝っても負けてもあの世行きなんだけど?』

 

 端的に自分たちの置かれている現実を指摘した後『タイガーセクションは上空で待機。味方には当てるなよ。・・・今はまだな?』と言い残して機体を急上昇させていく。

 

 彼女の言うとおりだとアデーレは思う。なにしろ今の時代に自分たちが帰りたい場所など、どこにも残ってはいないのだから・・・。

 

 

 彼女たちアメリカ空軍第一独立外人機兵大隊はモンド・グロッソ出場を予定されていた、もしくは参加経験すら持っている者達だけで構成された、生粋のIS操縦者による傭兵部隊だ。

 

 モンド・グロッソ優勝を目指して努力しながら敗北し、それでも諦めることなく曲がることもないまま努力し、尽力し克己してきた尊敬に値する“スポーツ選手”達であり、将来を約束されるほどの才能と実力と実績を持ちながら身勝手なエゴイスト三人の都合ではじまった戦争により運命を狂わされた被害者たちでもあった。

 

 

 彼女たちは長い間ずっとISバトルを、純粋なスポーツとして捉えていた。

 有事の際には兵士として戦場に駆り出される危険性があることを予め聞かされてはいたのだが、本当に戦争が起こるなどと思っていなかった。今の平和な日常がずっと続くと、これまで通りにやっていれば良いのだと、自分たちは互いに競い合いながら切磋琢磨し高見を目指せばそれで良いのだと、純粋にそう信じて今まで生きてきた生粋のスポーツ選手たち。

 

 

 

 ーーそんな彼女たちに対して出撃命令が出されたのは、先月のことである。

 世の中が乱れて戦争の危機が叫ばれる中、隣国でも内乱が発生している事を知ってはいたのだが、それでも自分たちが戦場に出ることなど無い。だってISは平和利用するために造られたスポーツ用品なのだから。

 殴りつければ人を殺せるバットを殺人用の凶器と罵る者がいないのと同様に、スポーツ用品で人を殺させる頭のおかしい人間などいない。いる訳がない。

 

 頑なに信じ続けた彼女たち個々人の元へ政府からのエージェントが訪れたとき、はじめて彼女たちは今が戦時下というなの非常時で、非常時にあって国家と国民を守るために敵を撃たなくてはならないのが自分たちIS操縦者に与えられた使命なのだと思い知らされた。

 

 

 それでも彼女たちの大半は事態を楽観的に捉えていた。特に年の若い代表候補達などは「自分たち子供に前線へ出ろなどと言い出す大人がいるはずがない。どうせ人里離れた国境警備に回されるだけだろう」と。

 

 ところが戦時下にある国と政府に少年法など守ってやれる余裕などどこにも存在しておらず、使える人材は最大限活用しなくては明日まで生き延びる権利すら失わされるのだからと彼女たちに最前線勤務を命じてきたのだ。

 報酬として戦車一輌で幾ら、戦闘機一機で幾ら、銭をやるから戦争をやれと言われ、自分たちの神聖なスポーツをビジネスだと決めつけられた彼女たちは激高し、連絡役のエージェントを含む随行員全てを皆殺しにしてしまった。

 

 ーーそれが全ての始まりで終わり。

 

 逃亡者である彼女たちに安息の地はない。現在は仮の身分として傭兵の地位に置いてもらっているが、それも永続的なものではない。

 いや、それどころか亡国機業が滅ぼされた後まで自分たちを生かしておいてくれる保証などどこにもないのだ。

 未来を手にする権利の代償として彼女たちには、敵の死体を山として積むことを要求されている。

 行くも地獄、退がるも地獄しか残っていないのが彼女たちだ。だからこそ、敵が何であれ恐れてなどいられない。撃たねば撃たれる、撃たなくては味方に殺される。そういう極限状態が彼女たちを死兵に変えさせていた。

 

 

 

 

『こちら副座のレインコピー1。ワイゲルト、全弾発射準備良し。いつでも撃てます』

「敵の位置は? 一発屋兵器の分、洒落で外す余裕など無いのだぞ?」

『半数が上昇して空中待機中。なれどワイゲルトの射程範囲内。問題なし』

 

 ヘルヘイムベースを守る防衛ラインの戦闘指揮所内では忙しなく男たちが動き回っている。時代の主役がISに移り変わろうとも戦場は男の職場である。

 IS操縦者以外で女性が軍務につく例は非常に希であり、政治的意味合いの濃い人事以外ではほとんどと言っていいほど例がない。

 だから最前線で実際に敵を撃つ役目を女性に取られようとも、最前線から離れるつもりなど彼らにはない。戦えないなら戦う者達を動かすことで戦闘に参加するまでだ。

 

 『白騎士事件』以降、軍縮の続いた世相の中で職を失い、テロリストへと身をやつした軍人崩れが多い亡国機業の男性幹部は非合法組織とは思えぬほどに規律のとれた秩序ある集団として機能していた。

 

『レンコピー2よりコマンドポストへ、オータムコピーが敵の臭いを嗅ぎ取ったと叫んでおりますが如何しましょう?』

「臭い? それは具体的にどういうモノなんだ?」

『よく分かりませんが、おそらく敵の気配や殺気といったモノを生前の彼女はその様に表現していたのではないかと』

「ちっ・・・つくづく個人戦闘でしか役に立たない野犬めが。脳だけになってまで俺たちに尻拭いをさせ続けるか!」

『ご指示を』

「構わん! どのみちワイゲルトの主砲発射時に焼ききれる使い捨てだ、限界まで酷使し続けて可能な限り情報収集に勤めさせろ! 解析・・・いや、解読はこちらで行うから気にせんでよい」

『了解、指示に従います』

「・・・あのアバズレめ、このクソ忙しいときにまで余計な手間をかけさせやがって!」

 

 指揮所内には、亡国機業の元主要メンバーにして専用機持ち亡きオータムへの不満と怒りが充満して反発心から結束へと急速に姿形を変えていく。

 死んだ人間の事などどうでも良い、奴の抜けた分を我々が補い地位を継承するまでのことだ。ISが絶対でなくなった今ならそれが可能だ。この戦闘で手柄を立てて、必ずや機業の幹部に出世してやる!

 

 やる気に満ちた彼らの耳朶を、オペレーターの悲鳴じみた叫び声が痛打する。

 

「敵一機、急速に接近中! ・・・これはまさか・・・自爆特攻です! こちらに真っ直ぐ突っ込んできます! ダメだ!間に合わない! だ、誰か助けてくれぇぇぇぇっ!!」

「なにっ!?」

 

 叫びと共に指揮官が前方を向いたとき、彼らは光に包まれて分子レベルまで肉体を消滅させられた。

 

 

 

 ヘルヘイムベース攻略戦における最初の犠牲が出たとき、既に戦場では第二第三の犠牲者が続出していた。

 

 機械の脳には予測不能な狂的な闘争心、それの起因するところは死への恐怖。

 確定している未来の死より、まだしも生き延びる可能性が高い道を選んだIS操縦者達による捨て身の特攻はワイゲルトを完全に無効化し本来の性能どころか原型機としての性能すら発揮できなくさせていた。

 

 なまじ大型なぶん小回りが利かず、取り付かれてしまうと一方的に翻弄されるしかないワイゲルトは前線にとってお荷物と化していた。

 

 

 

 それを見ていたレインは不愉快さを声に込めて非常な命令を下す。

 

『自爆させろ!』

 

 ぎょっとして幹部会の面々は新総帥の顔を凝視した。機械で再現されたモニターに浮かぶ顔は怒りに歪んではいても正気に見えたが、その命令内容は狂気の沙汰そのものだ。

 何故ならワイゲルトのメインパイロットは彼女自身のコピー、クローンとは言え生前の自分と同じ外観を持った姉妹なのだから。

 自分が勝つためなら親兄姉、子供でさえ犠牲の羊に添えられる彼らであったが、それ故にだからこそ自分自身を犠牲の羊にさせられることとを極端に恐れて嫌悪した。

 

 死にたくないから殺すのだ。他人を殺すことで自分が利益を得られるのならそれで良いと、そう思って生きてきた彼らにとって今のレインは理解の外にある存在だ。

 

 組織のために、勝利のために自らの分身さえ犠牲にできる狂った精神性はなにに由来するモノなのか・・・?

 

 裏社会を支配して世界を牛耳っているつもりになっていた彼らには分からない。半端な利己主義者でしかない彼らには、レインは元よりゴップもトリューニヒトもセレニアですら理解の及ばぬ化け物としか思えない。

 

 所詮、どこまで行っても彼らは常識人であり、固定概念に縛られた凡人なのだ。平時の人であり、平和な世でこそ有為な人材足り得る経済屋でしかない。

 

 初めから、経済という名の生産を担う彼らには、戦争という名の巨大消費市場は向いていなかったのだから・・・。

 

 

 

『なにをグズグズしている! このままだと味方に当たることを恐れた機銃座が一発も撃てないままに、基地内へと突入される! 今なら大地に偽装した外装だけの損耗で済むんだ! 急げ!』

「し、しかし新総帥。それでは各所に配置してある偽装砲台が敵に露見してしまう恐れが・・・」

 

 ずだーーーーーっん!!!!

 

 ・・・・・・ばたり。

 

 

『ド素人めが! 偽装はあくまで敵を誘引し、引きつけてから撃つために設置したものだ! 今の時点で最終防衛ラインを越えられそうになっているのに、いったい何を偽装して何のために隠しておくつもりなのだ!

 貴様等それでも『世界中を戦場にするために戦っている』などとほざいていた組織の大幹部か! 穀潰しの無能爺どもめが!!』

「「「「・・・・・・・・・」」」」

『急げ! 俺の計算では後三十秒がデッドラインだ! 一秒でも越えられたら基地の深層まで攻め込まれるぞ! 俺に殺される前に敵に殺されたくなかったら早くしろぉぉっ!』

「わ、分かりました。直ぐにでも・・・」

 

 いかにも老人らしくノロノロとした動きで命令を実行していく元上司達に、レインは苛立ちを抑えきれない。

 それでも彼女はIS操縦者だ。窮地に陥っても最善を尽くす義務まで投げ出すつもりはない。

 

『前方のワイゲルト全機を自爆させた後、偽装砲台及び機銃座を展開。弾幕を張らせて基地守備を担わせる。敵が混乱した隙をついて残存しているIS部隊を発進させろ!

 背後に回り込ませて機銃座と挟み撃ちにするんだ! バリアの有無以外で武装に変化はない! 当たる状況を作り出せれば通常兵器で十分勝てる相手だ! カトンボ共を生かして返すな! 総員にそう伝達しろ!いいか!?分かったな!?』

「り、了解・・・」

『フンッ!』

 

 鼻息荒くレインが鼻を鳴らした瞬間、モニターが白色と化して光に包まれるのが見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「爆発しました」

 

 見れば分かる事を律儀に報告してくれる副官に軽く目礼を返しつつ、マイントイフェルは予想していたとおりに動く自体に退屈を覚え始めていた。

 

「どうやら外人部隊による攻撃は失敗に終わったようですな。撤退許可を求めていますが、如何致しましょう?」

「無論、攻撃を続行させる。捨て駒のポーンに撤退などという選択肢があるはずがない。

 祖国を裏切って私の差し伸べた手を取った以上、あれらの命は私の物だ。生かすも捨てるも私次第。私の所有物をどう扱おうとも、私の勝手だろう?」

 

 冷然と言い捨てたマイントイフェルに通信手が怯えながらも、軍人としての職責を全うして報告をもたらす。

 

「撤退部隊の指揮官サラ・ヴァシュタール臨時中尉が、大佐との直接通話を求めておりますが・・・?」

「ふむ? よかろう。繋げてやれ」

「はっ!」

 

 何を思ったかマイントイフェルは鷹揚にうなずいて許可を出し、モニターの一つにタイガーセクションを率いていた隊長各サラ・ヴァシュタールの傷つき疲れ果てた顔が映し出される。

 

『・・・マイントイフェル! 貴様、我々を騙していたのだな!?』

「心外だな。私がいつ君たちとの約束を違えたと言うのかね?」

『現に今、我々の帰還を拒んでいるではないか! これが初めから私たちを捨て駒として使い捨てる腹積もりだった事を示す証拠でなくて何だというのだ!

 許さない! たとえ神が許しても、私はおまえを決して許しはしない!』

 

 激高し、自らの愛機を味方のーー否、味方だった艦隊の旗艦へと向きを変えて攻撃対象も変更する。

 かつての上官は、今や倒すべき怨敵。奴を殺すまでは決して死なぬと心に決めた彼女は断罪の言葉を言い終えると同時に特攻を仕掛けるーーはずだった。

 

『我々IS操縦者の誇りを、意地を、矜持を、勝利に必要な犠牲の羊として捧げさせた貴様を、私は許すことなど未来永劫この世の終わりに至るまで決してない!

 必ずおまえの喉笛を噛み千切って殺してやるからな! 卑怯者が生きる事を許す世界など地獄しかないのだと思い知るがいい!』

 

 言い終えたサラは、ブースターを全開にして突撃姿勢を取ろうとしたのだが、そこにもたらされたのはマイントイフェルによる彼らしい正論による罵倒の言葉。

 

「『勝てば望み通りの物を与えるし、負ければ全てを失う職場』最初に会ったとき、そう言って説明してやったつもりなのだが・・・これは私の記憶違いだったかね?」

 

 思わず立ち止まり、突撃を停止してしまうサラ。

 もとより清廉潔白が服を来て歩いている性格の彼女だ。こう言った正論と自らの失言問題にはとことん弱い。

 

 まして彼女は世界最強ブリュンヒルデに憧れて、国家代表を目指してきた女性だ。

 見習いの時分にたまたま日本を訪れる機会に恵まれ、気紛れから参拝してみた神社の境内で立ち聞きしてしまった彼女の言葉は今でも胸に焼き付いて離れない。

 

「重いだろう? それが人の命を絶つ武器の重さだ。この重さをふるうこと、それがどういう意味を持つのか考えろ。それが強さということだ」

 

 ーーあのときの言葉を信じているからこそ、彼女はやってもいない罪を被って祖国を出奔し、米軍の手に縋るしかなかった同胞を守るため、彼女らの手が極力汚れることのないようサポートしようと自らもまたマイントイフェルの誘いに乗ったのだ。

 

 ーー戦技にだって、道と呼ぶべき物があるはずなんだ! だって・・・そうじゃないと、余りに悲しくて救いが無いじゃないか! 誰かを救うための技で別の誰かが殺されるなんて、そんなのはおかしいよ!

 

 子供の頃から抱き続けた思想を胸に戦場へ出た彼女だが、現実の戦争を指揮する男はどこまでも冷徹で冷静で感情論を不要と言い捨て平然としていられる元ナチス将校だった。

 

「自分に都合のいい約束を提示されたときには喜んで手を取り酒を酌み交わし、都合の悪くなった途端に約束の内容を無かったことにして一方的に相手を批判するか。・・・ふむ、君にはなかなか見所があるな。

 戦争指揮官として部下たちに人殺しを正当化させられる、殺戮遂行者としての才能がね」

『ち、違う! そうではない! 今のはその・・・言い間違えただけだ! 決して本心から出た言葉ではない!本当だ!』

「本音でなければ相手を非難した言葉は帳消しにしてもよいと言うのかね? それが君の言うIS操縦者としての誇りであり、意地であり、矜持と言うわけか。・・・すばらしい。実に私好みの美辞麗句だよ。形式論としては最高のお題目だ。

 それらを口に唱えるだけで凄惨な殺戮劇が、まるで舞台歌劇のように華やかさで着飾られる」

『そうじゃない、マイントイフェル! 聞いてくれ! 私はーー』

 

 それまで正常に画像を写していた画面がブラックアウトし、何も写さぬ平面に戻った。

 それを特に不思議がる者のいない中で、副官が尊敬し畏怖する上司に戦果の報告をする。

 

「造反したIS一機を撃墜。我が旗艦と交信するためISコアネットワークではなく、通常回線の電波を垂れ流してくれたおかげで楽に当てられましたよ」

「結構な事だな。私もわざわざ茶番に付き合ってやった甲斐があるというものだ。

 これで“見せしめ用の的”に当てられなければ私一人が恥をかいてしまうところだったよ。これは燃やされるために用意された藁人形に対して感謝を捧げるべきだろうな。

 ありがとう、サラ・ヴァシュタール嬢。君は実に使いでの良い道化だったよ。いずれヴァルハラで落ち合おう」

 

 感謝を込めてマイントイフェルは、自ら手に掛けさせた敵にたいして敬礼する。

 

 これが彼女と彼の致命的すぎる差だった。

 平時であれば間違いなく、織斑千冬の教えを守り抜いた鋼鉄の意志を持つサラに軍配が上がっただろうが、今は戦時下である。戦場という特殊な環境で正当性を説くほうがどうかしていると罵られる時間と場所なのだ。

 良くも悪くもサラ・ヴァシュタールは“まとも過ぎた”。

 人の命が捨て値で叩き売られる戦場にあって、正気に価値など無い。冷静に狂った狂気こそが戦場において最も強く、最も強い者こそが国と民と味方の兵を守り抜けるのだ。

 それがサラには受け入れなれなかった。彼女の国が先祖代々語り継いできた伝承に、そんな戦争は描かれていない。戦争とはもっと誇りや栄誉や神秘に彩られたものであるはずであり、それを体現したのが『白騎士事件』ではなかったのか?

 

 

 篠ノ之束の狂気によって始まった時代は、別の人間たちによる狂気によって終焉を迎えて新たなステージへと移行していく。

 

 

 戦いの第二幕が幕を開ける。最終章だ。フィナーレを飾ろう盛大に、赤い花束で。

 血塗れの、真っ赤な真っ赤な赤い赤い花束で。

 

 

「全艦主砲、目標へ照準。戦域より僅かでも外れた者はためらわずに撃て。逃亡兵だ。遠慮はいらん。なぁに、軍規を正すだけだよ。軍法違反に当たることはないさ」

「り、了解しました! これより前方から離脱をはかろうとする全ての“敵”を攻撃、撃破いたします! 総員に伝えーっ!」

 

 命令を伝達させていく部下たちを眺めながら、マイントイフェルの脳裏にあるのは別のこと。

 

 

「さて、国防委員長お気に入りの彼女は果たして、どこまで役に立つのかな・・・?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・まだなの? 早くしてくれないかしら。もうそろそろ限界なのだけど」

「ーーいいぞ」

「繋がりましたぁ!」

「よし、ごくろう。

 ーー私は実戦部隊《モノクローム・アバター》の隊長スコールよ。先ほどの爆発で通信回線の一部が破損したわ。緊急事態につき、私が臨時で指揮を執ります。

 ペンタゴンから奪取した最後の重要機密よ。エクスカリバーを失ったことで制宙権を損失している私たちに、敵は宇宙(そら)からEOS部隊を降下させて基地の制圧を目論んでいる。基地直上に姿を現した瞬間を仕止めなさい。

 そいつ等が敵の本命よ。ギリギリまで引き寄せてから全力で砲撃し、殲滅を狙え。敵本体さえ殲滅できれば敵艦隊は退却せざるを得ないのだから。

 偽装シャッター開放、照射角二○から三二。対空掃射砲《ニーベルング》発射用意!

 ーー撃て!!」

 

 

つづく

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