IS学園の言霊少女(本編終了・外伝スタート)   作:ひきがやもとまち

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当初予定していた62話の内容に繋げ方が思いつかず書いた前回の61話でしたが、思いついたので正式に清書しました。こちらが正式な62話へと続く61話です。

前回の分には『ボツ案』と書き足しときますね。焦り過ぎてたとは言え駄文を出してしまって本気で申し訳ございませんでした。

注:本来の予定だとこの時点では二代目達が死んでなかったため、今話では殺してません。


真61話「ようやく思いついた、予定通りに次話へと繋げられそうな61話」

「貴官等は勇戦した。ーーただし、無益で無意味な勇戦だったと言うだけのことだ」

 

 這々の体で逃げ帰ってきた敗軍の将たちと面会したマイントイフェルが放った第一声に、二代目たちは顔を強ばらせた。

 

 ーーが、先日の一件で旗艦のブリッジ要員たちに苦手意識を持たされていたために自制するまでもなく手荒な行動に訴え出る気にはなれなかった。一度機先を制された経験は尾を引く。今の彼らには指揮官の背後に控えるブリッジ要員たちが彼の守り神というよりかは、魔王が配下の上級悪魔たちを率いているだけのような気がしてならなくなっていたのであった。

 

 そんな彼らの気持ちを忖度する気がマイントフイフェルには微塵もなく、手元にあった紙を机においてサラサラと流れるような筆跡で短い文章に認めてサインをする。持ち上げて、朗々とした口調で読み上げる。

 

「米国艦隊日本派遣軍司令官としての権限により、敗戦の咎によって諸君等を二階級降格するようペンタゴンに願い出るものとする」

『・・・・・・!!!』

 

 驚愕が彼らの脳裏に雷鳴となって轟き渡っていた。

 まさか彼がこれほど徹底的にやってくるとは想像もしていなかった。あろう事か自分たち名門の御曹司に対して二階級降格をするよう米国軍最高司令部に願い出るなどと言い出すとは・・・!!!

 

「ーー以上のことを私は、アメリカ本国に帰還後に上層部へと願い出る。異論はあるかね?」

 

 言い終えてから自分たちを眺め回すマイントイフェル。

 異論はあるし、反論もある。ただ怖くて口に出せないだけなのだ。

 しかし、無言の沈黙から相手にとってのより良い選択を彼が選んであげるのは、彼にとってのメリットが重なっているときだけであり、無能な部下を庇護してやるための無意味な行動に彼はなんのメリットも見いだし得なかった。

 

『・・・・・・・・・・・・』

「ふむ、異論反論はなし・・・か。よろしい、用意してやった部屋に戻って休みたまえ。

 本国に帰還後に開く予定の軍法会議まで決定と判決は待つものとするが、99パーセント以上の確率で有罪となるのは確実だ。思い残すことの無いように十分留意したまえよ、諸君」

『・・・・・・・・・・・・』

「なに、そう心配そうな顔はしなくてもいい。長く待たせて退屈させるつもりはない。明日には帰国の途について、一週間と待たずに軍法会議を開いてみせるから安心して先立つ準備を済ませてくれ」

 

 それを聞いた彼らは俯いていた思わず顔を上げて、司令官の顔を信じられないものでも見たかのように見つめていた。

 まるで「こいつはいったい、何を言っているのだ?」と、自分たちではなく相手の方にこそ間違いがあるに違いないと確信しているかのように。

 

「し、司令官閣下。今なんと・・・」

 

 一人の二代目が質問し、司令官はコーヒー片手に普通に答える。

 

「帰国する。撤退だ。既に勝負は付き、敗戦は決定した。我々は負けたのだ。大人しく敗北を認めて悄然としたまま敗者らしく無様に敗残の道を歩いてでも帰ろうではないかね」

「反対です! 我々は負けてなどいません! 明日の攻撃によって東京都を制圧し、日本を世界地図の表記から未来永劫消してしまえば良いだけです!」

 

 マイントイフェルはコーヒーに口を付けたまま一言も発することなく発言者の顔を見つめ返す。

 

「討つべき敵を一人残らず殺し尽し、敵国の地をを軍靴で以て踏みにじり、勝利者以外の誰も立っていない状態を作りさえ出来れば犠牲の数など問題ではありますまい。

 そう。すべて勝ちさえすれば今までの敗北など帳消しに出来るのですかrーー」

「馬鹿かね? 貴官という無能者は」

「なっ!? なんです・・・・・・と・・・?」

 

 冷然と決めつけられて調子づいてた男の声が表情とともにひび割れる。マイントイフェルから見れば馬鹿馬鹿しい限りの反応に嘆息の一つも出されて当然の状況。その程度の軍事的常識すら持ち合わせてない、この世界の軍人たちは馬鹿で無能の極地だと彼は心の中で彼らの評価を確定させた。

 

「本来であれば日本などと言う弱小国は戦いを始める前から勝利していて然るべき相手だ。勝てて当然の相手と戦い多数の艦艇を損失し、その後に占領を完了させたところで敗北した事実は覆らんよ。これは戦争であって子供向けのテレビゲームではないからな」

 

 淡々と語る司令官の言葉は、彼らには全く理解できない非現実的な話にしか聞こえていなかった。

 所詮、彼らの世代は欠陥だらけの世界最高戦力ISを社会の中心に据えて構築されたIS社会で生きてきた『現実の戦争を教えられていない』若者たちである。

 

 兵器としての運用を条約で禁止しているために、世界最高戦力を敵国と戦わせないまま『有事の際には最強の矛となり楯と成りうる兵器』と錯覚させて誤認させて誤魔化さなければ社会の根本からして成り立たない。

 それ故に政治家たちは自分たちの振るえる最強兵器『教育』の刃を縦横無尽に振り回しまくった末に、戦争にISが投入された場合の活躍を騎士英雄物語じみた絵空事として語り、教えさせまくることで十年間のIS社会支配を可能としてきたのだから当然の結果と呼ぶべきだろう。

 

 が、しかし。現実の戦争とフィクションの戦争とを一緒くたにしてもらっては困る。

 結局のところ戦争とは巨大消費市場であり、失う物ばかりが巨大で得る物など殆どなく、勝っても負けても莫大な損失が残される事実に変わりないのだ。

 

 だったら一度の作戦で、出せる額に上限が設定されているのは当然であろう。銃弾一発撃つだけでも只では撃てないし、兵士一人を一日養うだけでも国民一人を一日養うのと同じだけ必要になる。壊すだけで死体の山しか生み出さない居候を何万人も養い続けられる金銭的余裕を持ってる国など世界中どこを見渡しても、存在しないし出来ないのだから。

 

 既に今日の時点で予定されていた予算の限界を大幅に超過してしまっている。「これ以上は鐚一文だって出せないし出させない」と簡明に記されている、欧州帝国軍人時代に欲しかったものだと心底思わされるほど勇敢な経済官僚殿から送られてきた有り難すぎる電報を手渡してやると彼らは一様に顔色を真っ青に変色させた。

 

 なまじ経済屋の名門に生まれているため現実的政戦両略よりも数値だけを見せてもらった方がダイレクトに伝わり理解しやすかったのである。

 そして彼らは今初めて理解する。自分たちが仕出かしてしまった途方もない額の経済的損失額を・・・!!!

 

「艦隊搭乗員たちの命と安全を守るべき司令官の職責から見ても、これ以上の侵攻作戦継続は無意味で有るばかりか有害であると判断せざるを得ない。もはや他に方法はないのだ。撤兵する。これは決定であり命令である」

『・・・・・・・・・』

 

 皆が一様に黙り込んで唇を堅く引き結ぶ。

 冷静さを取り戻した彼らになら現状の酷さが嫌でも理解できてしまっていた。

 

 自分たちとともに脱出に成功できたのは小型船舶と中型戦闘艦のみであり、それらでさえ艦そのものが無傷であっても弾が枯渇して撃つことが出来ない。砲撃不能な戦艦など、敵にとっては撃てば当たる巨大な射的の的だ。無駄死にする趣味は酔狂すぎる彼らにだってない。

 

 では、だからと言って他に選択肢があるというのか?

 兵員だけは大勢生き延びてはいるが、どいつもこいつも艦隊要員であって、船がなければ数ほどの活躍さえ期待できない。そして戦艦は殆ど敵陣深くに置いてけぼり。取り返すのにも船は必要不可欠だ。

 戦艦の沸き出す魔法の壷があるなら幾ら払ってでも買うが、残念きわまることに彼らキリスト教国家の住人たちにアラジンの魔法のランプは手に入っていなかった。

 

 

 万事休す・・・・・・いや、ちょっと待て。魔法の壷ではなくとも、戦艦の沸き出す魔法のアイテムを自分たちは持っているではないか!

 

 

「・・・一晩。一晩だけ時間をいただきたい。失った分に等しい数の船と物資をかき集めてご覧に入れる」

 

 一同のリーダー格であるムルタ・ジブリールが、覚悟を決めた表情で発言し、他の者たちも彼に続く。

 

 マイントイフェルは内心の喜びを無表情の仮面で覆い隠し、冷厳な声と言葉で問いただす。

 

「・・・貴官等が無法なる先制攻撃をしてくれたおかげで、今更我が国と我が軍に恥を上塗りできるほどの余分なスペースは残っていない。その点から見て、諸君等だけが独自の判断と決定を自己責任だけでやり遂げてみせるというなら、それを引き留める権限は私にもないがね」

「では、何卒。何卒よろしくお願いいたしたい。このまま帰れば我らに未来などなく、裁判の結果がどうあろうと破滅は免れられますまい。どうにかして面子だけでも保ちつつ帰国できるだけの手柄を立てる必要性があるのです」

 

 しばしの間見つめ合った両者だったが、やがてーー

 

「・・・・・・好きにしたまえ」

 

 マイントイフェルが仕方なさそうに折れてみせてやったことにより、戦局は最終段階にもつれ込むことが決定した。

 

 

 

 

「しかし彼ら、集めるとか言ってましたけど、戦艦なんてどこから手に入れるつもりなんでしょうね?」

「この国の近くには、飲ませて食わせて抱かせさえすれば、盗品だろうと何だろうと用意してくれる実利主義者たちの国があるよ」

「え・・・・・・・・・ああぁぁぁぁっ!?」

「そして、船を依頼する彼らは裏に通じている金持ちたちであり、彼の歴史有る大国は国庫に収めるべき金で蓄財に励み、平時には賄賂と不正が横行していたと言う。

 そんな国の役人たちに多額の袖の下を握らせて手配しまくるために一晩中かけずり回れば、質はともかく艦数だけならそれなりに揃えられるのではないかな?」

「き、今日よりも落ちた質の艦隊で挑んで勝てる相手なのですかね・・・?」

「彼らが勝とうが負けようが、アメリカの懐は痛まない。そして、敗北の責も覆らない。

 なに、いざとなったら今までに彼らがなした個人的悪行をマスコミにリークして国民たちに集団リンチで何人か殺させてしまえばいいだけだ。問題はないよ」

「き、汚い・・・政治の世界ってマジ汚いですよ司令官閣下・・・!!!」

「勝てば良いのだろう? 彼らの信念に殉じさせてやろうと言うだけだ。気にするな」

 

(もうヤダこの人・・・帰りたいよ~、おがあちゃ~ん・・・・・・(T_T))

(・・・・・・次が最後の敗北になるだろうな。一つの時代を終わらせるための戦だ。私もせいぜい派手に負けてやるとしようじゃないか。未来の勝利のために。ジーク・ハイル)

 

つづく


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