IS学園の言霊少女(本編終了・外伝スタート)   作:ひきがやもとまち

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少し久しぶりな気がする更新です。(体感時間でですけども)。
もうほとんどやる事残ってないシリーズですので後回しにしがちで申し訳ございません。

尚、サブタイトルは良いのが思いつかなかったので適当に決めちゃいました。ご了承くださいませ。


63話「覚悟を決めた大人たち。端っからキチガッてる若者たち」

「・・・かつて七つの海を支配した偉大なる大合衆国海軍が、まさか、ここまで落ちぶれていようとはな・・・」

 

 米国海軍の宿将デラーズ・エイノー“中将”は、艦隊旗艦ヒルアデブから自ら指揮する艦隊旗艦にまで戻る途中、艦隊総司令マイントイフェル“准将”から艦隊出向前に告げられた指示内容を思い出してしまい嘆息していた。

 

 

「今回の出征において貴官には、軍監の任務を引き受けていただきたい。

 この遠征は将来の官民融和政策の先駆けとなるべきものです。背広組から派遣されてきたと言う名目で旗艦に留め置き、足手まといになることなく生きて帰ってこれるだけの実力と運を有した特権階級からの人気も高い人物となると、あなた以外の候補など考えられない」

 

 それが企業との癒着に端を発した提案であることは誰の目にも明らかだったし、「単に体裁を整えるため」でしかない人事など政治家たちの間では国籍に関係なく行われることでもある。気にしていたら切りがない。

 なにより派遣される艦隊は米国艦隊であり、アメリカ海軍の軍人たちなのである。たとえ腐ったⅡ世どもの私兵集団に成り下がっていようと元は同じ釜の飯を食った仲である。同じアメリカ人であり、守るに値する人間たちの命がかかった遠征なのである。

 

“誰かが守ってやらなくてはならない。”

 そう思ったからこそ嫌々ながらも引き受けてやった軍監という役職だったが、まさか今の自分が置かれている状況まで計算に入れたものだったとは・・・。

 

「万策は尽きたかもはやこれまで」

 

 彼は覚悟を決めて、決断した。

 瀬戸際にある味方を救うためには、権道を用いざるを得ない、と。

 

 

「これより我が艦隊は全艦全速前進し、敵の首都を襲う。目標はここだ。急ぎ準備を整えさせろ」

 

 旗艦のブリッジに到着するなり下してきた命令に、参謀たちは困惑させられた。

 本来の彼が率いている米国海軍第8艦隊から選りすぐりの精鋭のみを選抜して随伴させてきてあるは言え、今の指令は彼らにとって理解の外にある内容だったから・・・

 

「し、しかし閣下。司令から我が艦隊に与えられた任務は殿であり、本体の撤退が完了するまで敵を足止めすることにあります。今の時点で攻勢防御というのも無理がありますし、なによりその場所はいささか・・・・・・」

 

 長年彼とともにある初老の参謀長が渋い顔で進言してくるのを片手をあげて静まらせ、その場にいる全員を落ち着かせてから彼は自分の意見と所感を開陳する。

 

「ああ、貴官の言いたいことはわかっている。だが、これ以外に我が軍全員を生きて故郷まで帰り着かせる手段が無い以上はやむを得ない」

 

 尊敬する上官の言葉に若い副官が眉をしかめる。

 

「・・・“我が軍全員”と申しますと、敵の包囲下におかれた味方までお救いになるつもりなのでありますか・・・?」

「当然だ。彼らもまた生き残っている米国海軍残存部隊。“可能な限り残兵を収容する”のは船乗りたちにとって国を問わない常識であるべきものだろう?」

「ですが・・・現実的に彼らを救うには我が艦隊の数が足りません。今は本来の半分以下しかの艦艇しか連れてきてはいないのです。そこのところはどうか、ご理解ください」

「わかっている。だからこそ『ここ』を攻撃箇所に指定しているのだからな」

『・・・・・・???』

 

 全員が頭上に?マークを浮かべるのも無理はない。何故なら、そのポイントにあるのは軍事施設ではない。真逆の避難民収容の巨大シェルターだったのだから。

 

 

 ISドーム。

 事故とは言え、『白騎士事件』で世界各国から数百発のミサイルを撃ち込まれた日本人の心に刻み込まれた恐怖心は拭い難いものがあり、『ISを戦争目的で使用しない』IS条約締結程度では消し去ることなど不可能なのは自明の理であったから、政府には『たとえ再び核ミサイルが撃ち込まれたとしても、IS操縦者が造反して町に住む人たちを襲いだしたとしても絶対安全な逃げ場所』を作って安心させてやる必要性がIS社会構築のためにも最優先で実行しなければならなかった過去が存在する。

 

 だから政府はシェルターを作った。『作って見せてやった』、次の時代への町づくりに不安など持ったまま取り組んで欲しくなかったが故に。ただ、其れだけの為に・・・。

 

 こうして急ピッチで建設が進められ、ISがもたらしてくれた新技術によって従来とは比較にならない早さと強度、安定性などを両立させた地下にある巨大な核・ISシェルター『ISドーム』が完成する。

 

 ーー外観と目に見えるところだけ計画書通りに作られた、艦砲数発の直撃で崩壊してしまうハリボテとしか思えないデカいだけの代物を、市民を安心させるために。ただ其れだけのために・・・・・・。

 

 

「ISドームには現在、『絶対安全』と言う枕詞を信じたか否かに関わらず、数百万近い避難民が待避しているはずです。・・・もっとも、公開されている設備のほぼすべてが電子ロックで動かす類の最新機器ばかりですので、東京各所が機能麻痺して動けなくなっている現状においては地下キャンプ場程度の機能しか保持できておりませんが・・・」

 

 副参謀長が応じる。彼は日本政府から「ISドームは避難場所であり、地下で秘密裏にIS製造などしていない」と主張する日本の招きに応じて派遣された調査団の一員を姉に持つため、この手のことでは誰よりも情報通になれる男だったから。

 

「だが、広さだけはある。数字上のスペックでは、全東京市民を収容したとしてもまだ余りあると大言したほどにだ。仮に話半分だとしても別にかまわん。民間人を虐殺する趣味など私にはない」

「では、いったい何故・・・?」

「攻撃しようとしてみせること、それ自体にに意味があるのだ。敵は自分たちのせいで民間人を撃たれるわけにはいくまい。必ずや攻撃を中止し一時後退し再編を図るだろう。そうした後に残兵を収容して帰路へと付けば、我らの前にいる敵も後ろから背中に狙いを定めている味方も撃つことができなくなり両軍ともにこれ以上の被害は出さずにすむ結果で終われる」

 

 沈黙が降りた。勇将として名高いエイノー提督の口から出たとは思えない発言だったから。

 

「み、民間人を人質にとり、我々の盾になさるおつもりなのですか・・・?」

「奴らの方が先に人質を取ってきたのだ! 苦情を言われる筋合いのことではない!」

 

 怒鳴ってから提督は冷静さを取り戻してから謝罪した上で「これ以外に我らが生き延びれる道はないのだ・・・」と呟いたことにより再び幕僚たちに不思議顔をさせてしまった。

 

「わからぬのか? 派遣艦隊司令であらせられるマイントイフェル准将閣下だよ。奴は今回の件を利用して、私を抹殺する腹積もりだったのだ」

「し、しかし閣下。確かにマイントイフェル閣下はナチスト的思考法の持ち主であるとは言え、筋が通らぬ事をひどく嫌っておられる人物だとも耳にしております。タダ飯ぐらいのⅡ世ならいざ知らず、国家に対する忠勤で知られている閣下にたいしまで暗殺などという卑劣な手段を用いてくるとは思えませんが・・・」

「ふん、どうだかな。私は議長やトリューニヒトといった巧言令色と権謀術数しか取り柄のない口だけの男は嫌いだと常々悪態を付いてきた高級軍人なのだぞ? そのような男が、現在では絶対的に近い権力者の地位にある人物に厚遇してもらったと言う事例は寡聞にして聞いたことがない。

 無論、私だけが例外であるべき理由があるなら別だが・・・あるのかね?」

「・・・・・・・・・」

「そう言うことだ。我々にはもう後がない。前に進むしか道はないのであれば、包囲の仲から脱出するために前へと出て、前から脱出路を手に入れるまで! 全艦出撃! 大至急だ!」

『はっ! 了解しました!!』

「私は確かに『白騎士事件』の折に成すことなく敗れ去った無能者だ。ーーしかし!

 敵を自らが設定した盤上まで引きずり出して一方的に攻撃して逃げだし、あたかも自分が最強であるかのように演出してリベンジマッチを挑む権利すら奪い去ったIS操縦者が如き卑怯者に、お前たちをさせたくないのだ。わかってくれ・・・」

『閣下・・・』

「あの時、敵のデータさえあれば勝てていた。あれは敵が奇襲などという卑劣な手段でもって勝利を盗んでいったのだ!・・・とは言うまい。事実がどうあれ、我々軍人はIS一機に敗れ去った。これが、これだけが歴史書に記された唯一無二の史実なのだからな」

『・・・・・・』

「だが、試合に負けた者であればこそ、勝負にまで負けることは許されんのだ。力で劣っているときこそ、心で負けるな! 心で勝て! 戦力差が当てにならないときにはこれしかない!」

『了解!!』

 

 

 

 覚悟を決めた米国海軍第8艦隊の面々だったが、このとき彼らの前と後ろにいる二人の指揮官は彼らと認識を共有することができなかった。

 

 

 

 

 

 背後で陣形を組み直し、堂々と撤退していく米国派遣艦隊旗艦ヒルアデブの旗艦ではマイントイフェルがエイノー提督の行動を見て、吐き捨てるようにつぶやいていた。

 

「愚かな・・・。そうまでして自分の部下を無理心中につき合わせる必要性など無かろうに・・・『意志の勝利』などと言う妄想に依存するから戦に敗れるのだ」

 

 ーーそれは無論、ベルリンの伍長然り、この世界での大日本帝国然り、デラーズ・エイノー中将然り。そして他の誰よりも、その手の連中の愚かさを見抜けなかった私自身も然り、だ。

 決死の覚悟など目の前に死が迫れば誰でもできる。それよりも手に入れた覚悟で何を成すかの方が遥かに重要だと言うのに・・・。

 

 心の中で付け足しながらマイントイフェル准将は、撤退する艦隊の最後衛に配置させた旗艦の艦橋からエイノー提督等の愚行をコーヒー片手に見物していた。

 

 

『指揮官たる者、部下たちにはまず範を示すべし。自らの正しさを主張する者が死を恐れていたのでは、実際に戦場に立つ兵士たちは誰も指揮官の言葉を信用しない。

 士気の上がらぬ軍隊では勝てない以上、勝率の点から見ても指揮官が危険を背負うのは重要である』

 

 其れが彼の価値観であり、行動基準であった。

 言ったからには実行するし、実行するからには成功させてみせる。そのために必要なら命もかけるし体も張ろう。撤退時に死ぬのが怖くて殿を努めない指揮官では復讐戦を挑むときに差し障りがある。

 

 何故なら「撃たれる覚悟、死ぬ覚悟、命の奪い合いをする覚悟の有無」を問うてもらえるのは指揮官の特権であり、兵士たちには覚悟の有無など関係ない。行けと命じられれば何処にでも赴かねばならない兵士たちにとって指揮官に求められるのは能力だけだ。それが高いか低いかだけが自分たちの生きて帰れる確率を上げてくれる条件なのだという事実を理解しているのが前線に立つ兵士というもの。

 身分差の激しい旧ドイツ帝国名門出身者としてマイントイフェルは、人の上に立つ者に必要となる素養を彼なりの理由で把握していたのである。

 

 

「閣下は提督の決断を支持なさいませんので?」

「するわけがない」

 

 副官からの質問に対し、マイントイフェルは簡明に一言で切って捨てる。

 

「覚悟など自分が好きにして構わない感情論なのだから、好きな時に決めれば良かろう?

 そのような自己陶酔に浸っている暇があるなら敵将を称えて教えを請い、復讐戦の折には教えてもらったことの全てに自分の今までを足して戦った方が勝率は上がると言い言うものだ。違うかね?」

「仰られるとおりとは存じますが・・・夢も希望もヘッタクレもありませんな、本当に・・・」

「戦争に夢など見なくていい。どうせ見たところで悪夢だけだ。独裁者にとっての良い夢は、彼以外すべての人々にとっての悪夢であることだしな」

「ほんっとーに夢も希望もない職場だなぁ~・・・」

 

 いい加減、慣れてしまったらしい部下たちと、そんな部下たちの反応に慣れてしまったマイントフェル。良くも悪くも混沌としてるのは敵味方ともに同じであるようだ。

 

 

「もともと彼に期待していた役割通りの行動ではあるが・・・こうも掌の上で思った通りに踊られてしまうと些か興醒めもする。

 彼に与えた指令内容は敵の足止めだけだったのだから、その場から動かずに対空砲と艦砲射撃を乱発し続け、弾が切れたら降伏してくれても一向に構わなかったのだ。極端な話をしてしまうなら、攻撃ではなく防御に徹して、全艦海に沈むまで踏みとどまってさえいれば敵から救いの手が伸びていたことだろう。

 誇りなどと言う美辞麗句で飾りたてた虚栄心に身を委ねるから視野が狭まり、判断基準を見誤りやすくなるのだよ」

「その場合、彼の身柄はどうされますので?」

「それこそ政治の領分だ。私には口を差し挟む権利などない。ないが・・・強いて言うなら終戦後には捕虜交換で政治的取引材料となり、身柄を引き渡されて家族の待つ故郷へ帰れるのではないかな?

 戦後は名目上、この戦いにおける戦勝国日本に花を持たせてやる必要があるが、米国とて面子と言うものがある。何らかの茶番劇はして見せてやる必要性はあるのだから丁度良かったのかもしれん。今更いっても詮無きことではあるがな」

「それってもしかして議長の考え方なのでは・・・・・・?」

「よく知っているな。その通りだ。どちらに転んでも自分に利があるように細工するやり方なら、あの方に教えを請うといい。実に身になるアドバイスをしていただける」

「考えときます・・・・・・」

 

 見ている以外にやることのない殿艦の艦橋内で一番暇な司令官と、コーヒー容れてくるぐらいしかやることなくなってる副官との会話が一段落し、分艦隊の最後尾の艦がヒルアデブの主砲射程圏外に出たのを確認してからマイントイフェルは艦隊陣形の変更を指示するために席を立つ。

 せめて最期ぐらいは何か言って見送ってやろうと思ったのか、去りゆくエイノー艦隊の後ろ姿を一瞥し、少しだけ考えてからーー

 

「・・・卑怯者ほど敗北を飾り、犠牲を美化したがるものだ。

 戦場で敗死する者たちは間違っているから負けたのではない、悪だから殺されたのではない。首脳部が作戦指揮を間違えたから戦死させられただけなのだよ、提督。ヴァルハラにて英霊たちから兵学を学び直させてもらえると良いですな・・・」

 

 ーー結局『良い言葉』が思いつかなかったので、罵倒とともにアドバイスを送って手向けとした元ナチスOKRの人でなし軍人マイントフェル准将でありましたとさ。

 

 

 

 

 

 一方、IS学園臨時指揮所では。

 

「・・・敵の指揮官ーー前進してきた分艦隊の方ですがーー暴走しましたね。わざわざ自分たちの方から民間人虐殺未遂の汚名を被り、戦争犯罪人として皆殺しにされるための口実を敵に与えてくるなんて・・・」

「あなたとマイントイフェル准将の密約を知らなかっただけではなくて?」

 

 戦況報告を受けた私のつぶやきにナターシャ先生が即座に返してくれましたが、これには逆に私の方が直ぐにも反論を言い返しました。

 

「だとしてもです。仮に敵の目的が味方の撤退を支援して、包囲下にある友軍を救出することであったなら、提督ご自身の身柄を差し出されればよかった。それだけで私は手も足も出せなくなるわけですからね。

 そうでなくとも降伏さえしてくれたなら、それを条件として譲歩のひとつやふたつは簡単に引き出せたでしょうに・・・」

「・・・確かに、言われてみれば戦術レベルで負けたとは言え、戦略レベルでの勝利をはるか昔に収めている国の宿将が取るべき手段としては下策としか言いようのない愚行・・・一体、あの『ハゲタカ提督』にどんな心境の変化があったのやら」

 

 肩をすくめながら評するナターシャさんですけど、その仕草には残念に思う気持ちの方が強く出ている気がしてなりません。過去に何かあったんでしょうかね?

 

 私の視線に気づいたのか、ナターシャさんは溜め息を付きながらも答えを教えてくれました。「昔に師事した恩師だったのだ」と。

 

 

「IS操縦者になって日が浅い頃には色々あってね。精神面も鍛え直さなきゃって思ったから短期間だけだけど軍学校に生徒として入学させてもらったことがあるのよ。その時のことを思い出しただけ。本当よ?」

「別に疑わなければいけないような内容でもなかった気がしますけど・・・その人が何か言っておられたので?」

「『覚悟と命を選ぶことの難しさ』について。指揮官というのは常に選択を迫られる者の事を指す言葉、敵か味方か、自国民か敵国人か、戦友か上官か。

 否やに関わらず選び続けなければならなくなった時には迷うな躊躇うな決断しろ。生きるか死ぬかの戦場で命を見限れない者は臆病な味方殺しでしかない・・・そう言う風に教え込まれたから今までの私は比較的簡単に人を殺してこれたのかもしれないわね。

 それが良いことなのか悪いことだったのかまでは、今の私に判断する資格も権利もありはしないから分からないのだけれど・・・」

 

 沈痛な面持ちで語られたナターシャさんの言葉に、私は思わず顔をしかめてしまいました。・・・無表情がデフォルトなんであんま変わりませんでしたけど。

 

「なんだかヒドく言い訳じみた言葉ですね、それ。

 殺したくない、死なせたくないと思っているなら、まずはその方法について模索し、狂うほど考えてみてから「無理だ。自分じゃどうしようもない」と答えを出し、誰かに応援を頼んでる時間もなくて、四方八方手を尽くしても絶対無理で、自分に出来ることと他人に出来ることを合わせても尚、拾うことの出来ない命だけを諦めれば良かったでしょうに」

 

 私の言葉に驚いた表情を浮かべられるナターシャさん。・・・って、あれ? 私なにか変なこと言いましたっけ? 階級にもよりますが、指揮官ってだいたいそう言う役職のことなのでは?

 

「一兵卒であるなら上官の命令は絶対です。ですが、上の言いなりになりたくないから出世して指揮官になったと言うなら、出来ることは出来る範囲でやるべきであり、出来る規模を広げていくためにも交友関係は築いておくべきでしょう。

 大きな事を成し遂げたいのであれば、多くの人の命を救いたいのであるならば、一人でも多くの命を拾ってやりたいたいと願うなら、その人がやるべき事は遙か以前から大量にあったはずです。

 それなのに、まるで押し付けられた義務だから仕方ないとでも言うかのように指揮官の覚悟だ、救う命を選べだなんだと言われましてもねぇー。

 罪悪感をごまかしたいのか、あるいは救えない命を見ているのが辛くなって耐えきれなくなったから選ぶことを他人にまで強制して『自分もこうするしかなかったんだ』と思いこみたいだけだったのか・・・他人事なんでどうでもいいですし関係もないですけど、実に無責任な言われように感じられますね。私も人のことをどうこう言う資格を失ってる身ですから説得力ないでしょうけども」

 

 長広舌を聞き終えたナターシャさんは微苦笑を浮かべられて、

 

「言う資格のない人が言った、説得力のない言葉にしてはイヤに辛辣だった気がするんだけれど?」

「資格がないし説得力も無い言葉である以上、後は聞く人がどう受け取るかだけの問題です。聞く価値のない言葉なのですから好きに使えばよろしいでしょうよ。

 別に私は自分にとって価値のある言葉を言ったからとて、聞いてくれた相手にまで価値を共有するよう求めるつもりは毛頭ありません。そう言うのは独裁者か金○先生だけで十分すぎます。

 言論と思想の自由が認められてる国だと言うなら、その価値を個人個人で決めることぐらいは許可されて当然だと私は常々思っておりますよ」

「・・・ほんっと、あなたが偶に羨ましくて仕方がなくなってくるわよ、こういう仕事に就いているとね・・・」

 

 彼女の言葉に私はどう答えようか考えていたところ、待ち続けていた連絡が届きましたのでモニターを繋ぎました。

 

「こちらIS学園のセレニアです。首尾はどうでしたか? ボーデヴィッヒさん」

『完璧ですお母様! 包囲した敵艦の艦長さんとかが自爆しようって言い出してたところを背後から近づいて行ってAICで動けなくして、部下さんたちには「こいつを殺されたくなければ全員、倉庫の中まで駆け足!」って言い続けてたらお船を無傷のまま制圧できました! いま倉庫の中に睡眠ガスを流し込んでる最中です!』

「良くできましたね、ボーデヴィッヒさん。偉い偉い。帰ってきたときには抱っこしてあげますからね~」

『やったーっ! だったらラウラ、もう少しがんばってから帰りますです!』

「はい、よろしくお願いしますね。言うまでもありませんが、帰ってくるときには持ってきていた予備の催眠ガスボンベはちゃんと処理してくるんですよ?」

『はいです! 一席の艦に一本づつ、時限信管でセットしてから帰ってくるです! いきなり流れ出すまでの時間はラウラの脱出から3分後! セットする場所は艦の一番上の部屋! ガスが逃げ場のない下へ下へと降りていくように! です!』

「はい、良くできましたー。ボーデヴィッヒさんは頭のいい良い子ですね。私は良い子な娘が大好きなので嬉しいですよ」

『えへへ~(テレテレ)それじゃあ、もうちょっとだけ頑張ったら帰りますです! 帰ったらお母様の作ったハンバーグが食べたいので用意しておいてくれると嬉しいです! 行ってきますです!』

「あ、ちょっとボーデヴィッヒさん。ハンバーグ作るには材料が足りなーー行っちゃいましたか。やれやれ、子供に手を汚させないと言うのも大変なものですね」

「・・・悪魔ね、あなた。子供をだまして人殺しをさせずに戦争を終わらせようとしている悪魔がいるわ・・・」

「どうとなりとお好きにどうぞ。なんと呼ばれようと人が勝手に付けてる名前に興味ありませんのでね。それよりもーー」

 

 私はヘッドセットを手にして耳に当て、この戦い最後にして最初の流血劇。血のカスケードの開幕を主演男優にお伝えします。

 

 

「ボーデヴィッヒさんのおかげで彼らの要求する人質はいなくなりました。今や彼らは民間人を虐殺しようとしている単なる軍服を着た野盗の群です。犯罪者として遇してください。判定基準はあなたにお任せしますよ、織斑さん」

 

 

『ガボゴボガボ(生身のまま水中に潜んでたから聞き取りづらい。IS展開』

 

 

「任務了解、作戦名オペレーション37564を開始する。

 ーー死ぬぜぇ・・・。この俺が切ると決めた奴らは一人残らず皆殺しにされちまうぜぇぇぇっ!!」

 

つづく

 

 

 

補足説明:

 作戦名オペレーション37564。

 

 3=ミ 7=ナ 5=ゴ 6=ロ 4=シ。

 

 繋げて並べると「作戦名はミナゴロシ」お後味がよろしくないようで。




宣伝文:

言霊初期の雰囲気で半オリジナルストーリーの「IS学園『寮』の言霊少女」を少し前から連載しております。良ければ見てやってくださいませ。

謝罪と説明:
「そう言うのは独裁者か金○先生だけで十分すぎます。」について。

自分の言葉を理解してもらおうと必死になりすぎるあまり行き過ぎてしまう点がセレニア的教育方針から合わないと言う意味です。別に金○先生は「ヒットラーの尻尾」だとか言うつもりまではありませんのでね?
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