IS学園の言霊少女(本編終了・外伝スタート) 作:ひきがやもとまち
それから差別化の為に、セレニアの立ち位置を以前言ってた一夏の義理の妹設定にしてあります。
時間軸的には原作5巻の第二章近くです。
ラブコメをシリアスにしようとしたら、よく分からなくなった結果として生まれたダメな作品です。あくまでシリアス版を書くための試作品としてお読みください。
「ーーつっかれたー・・・」
猛特訓という名のイビりを終えて、織斑一夏は自分の部屋のベッドにダイブする。
ドスンと、一応の防音処置が成されているとは言っても民間人までもが通っている国立校である。特殊な事情を抱える一部の部屋を除きIS学園の壁は存外に音が外に漏れやすい。緊急時に備えての室内に誰かいないか声かけ用にと避難誘導が容易であるというのが表向きでの説明だ。
ーー尤も裏の事情はやや異なり、学園各所に潜伏させている日本政府側の密偵『更識』の構成員が監視しやすく、排除もしやすいと言うのが生徒たちには隠された真の理由であることは一部教員と、目端が利きすぎる極一部の生徒たちだけが共有している暗黙の了解であり、一夏たち純粋な一般生徒はたとえ代表候補生であろうと知る由もない。
「お疲れさまでした、義兄さん」
その超極少数派の一人がルームメイトであり“義兄”でもある一夏に小さな苦笑を浮かべながら、水で濡らしてレンジでチンした蒸しタオルを手渡してくれる。
「おう、サンキューなセレニア。・・・あ~・・・生き返るわー・・・」
蒸らしたタオルで疲れ切った顔を拭うと、まるで地獄から生き返ったかの様な暖かい心地が体を包み込んでくれた。溜まり溜まった疲れが一時的に緩和する。
なんと表現すべきなのか・・・ハッキリ言ってオッサン臭さが感じさせられる義兄の挙動に義妹であるセレニアは同情めいた感情を視線に乗せて、
「・・・災難でしたね?」
と、短いながらも慰めの言葉を発してくれたことに兄である一夏は強い感銘を覚えてしまい、自分が思っていたよりもずっと疲れていたのだという事実にようやく気付く。
「・・・ああ、そうだな。今日のはちょっと・・・いや、半端じゃなく疲れさせられた・・・」
肺を空にする程の勢いで盛大なため息をついて見せながら、織斑一夏は昨日から今日までに起きた出来事を一から順に思い出す。
ーー思えば朝から禄なことが起きてなかった気がする。
まず一日目の朝は、最近毎日行事と化してきている『朝の目覚めは全裸の自称夫から』イベントで幕を開け、その後お約束通りに箒たち幼馴染みーズが乱入してきてISを展開。乱闘騒ぎにまで発展してしまう。
授業では一組と二組のよる合同で行われ、これに関しては文句も問題も起きてない。セカンド幼馴染みの鈴に負けたのは確かに悔しく感じたが、敗北から学べた部分はいくつもある。一方的な敗けではあっても次の勝利へ続く敗北だったはずだと一夏は前向きに捉えられていた。
ーー問題はその後からだ。
食堂では美少女国粋主義者たちによる万国郷土料理自慢大会が催され、授業のために着替えをしていたロッカールームで謎の女生徒が出現し、結果的に授業時間までには大遅刻。
罰としてシャルロットから狙い撃ちされる、的役を仰せつけられる羽目にあう。
翌日。体育館にて全校集会が行われ、生徒会主催による学園祭についての説明が為されたのだが、どういう理屈か彼が学園祭で優勝したクラスの為に捧げられる景品扱いされてしまい、その後はもうお祭り騒ぎだ。
冷静さなど月の彼方にまで追放させそうな勢いでクラスの出し物が決まり、その後昨日あった謎の少女がIS学園生徒会長『更識楯無』であることが判明し、これも理由は不明だが学園最強を自認する彼女手ずからIS指導をしてあげると申し込まれて即座に拒絶。
受け入れる条件として勝負を挑まれたが、その勝負に一夏は完膚無きまでに敗北させられた。
気絶させられ回復した後、第三アリーナへと拉致されてから始まる猛特訓。
確かに為になってはいるし今までとは比べものに成らないくらいに急成長を遂げているのも確かだが、正直キツい。特訓そのものよりも他のクラスメイトや隣のクラスの代表候補たちによる言いがかりとしか思えない無茶振りが。
あれら全てを終えた頃には、時刻はすっかり夜も更けた深夜二時頃。一夏でなくても辛いと感じるのが当たり前のハードワークなのだが、彼女たちに遠慮容赦する気は微塵も見いだせない。
今までにも「そろそろ疲れで死ぬんじゃないか?」と思えることが何度もあったが、なんとか今日まで無事生き延びられているし部屋まで自力で帰ってこれる程度には体力も残せるようにはなった。
が、しかし。
「別に、辛いのが辛くなくなる訳じゃないんだよな~・・・」
「限界値が上がっただけですからねぇ。受けるダメージ量が減るわけでもありませんし当然の結果なのでは?」
義妹の言うとおり、当然の結果として辛いものは辛いまま。疲れもダメージも一向に減る気配が見いだせない。
代表候補の専用機持ちどもは織斑先生から何度注意されてもISの無断使用と学内外での展開をやめようとしないし、攻撃に手心を加える気が全くない。
殺る気満々で実弾を撃ってくるクラスメイトというのはリアルだとこれほど恐ろしいモノだったんだなと実感し、五反田には後でそれとなく現実とフィクションの違いを教えといてやろうと、親切心から余計なお世話を焼こうと決意してしまう。
ここら辺が周囲から『唐変木・ズ・唐変木』と呼ばれる所以であり、義妹のセレニアからは『我が強すぎる』と不安視される一夏の欠点であった。
「義兄さん。少し真面目な話をさせてもらいますがね。・・・いい加減、箒さんたちにはハッキリとご自身の思いを打ち明けた方が宜しいかと思われますが?」
「??? なに言ってんだよ? 俺はいつだったアイツ等に嘘ついたことなんていないぜ? いつも思ったことを口にして伝えているのを見ているお前は知ってるはずだろ?」
「ええ、勿論。ですが、今私が問題にしている思いだけは義兄さんは只の一度も口にしたことがありません」
「そりゃいったい何だよ? 俺はアイツ等に隠してる気持ちなんて何にも・・・」
「『俺にはお前等が言ってることが時々意味不明になる。何に怒っているのか皆目見当がつかないし、訳が分からない理由で怒られても謝ることしかできない。側にいてくれることは嬉しいけど、理不尽な理由で撃たれるのも切りかかられるのも迷惑だ。やめてくれないか?』・・・これ言ったことありますか? 義兄さん」
「・・・・・・」
一夏は黙り込み、セレニアは答えを求めない。
ポットから注いだホットミルクをコップに入れて渡してからは、彼女自身も黙り込む。訪れるのは長い沈黙の時間。
義理の兄妹のどちらかが話しにくい話題を答えようかどうしようか迷っているときには必ず訪れてきた思考の時間だ。これを邪魔する気は聞いた方にも聞かれた方にも無い。
そして答えが来なければそれまでなのが、織斑家における下の兄妹たちの関係である。機会が訪れない限りは二度と聞かないし話題にも上らせない。答えに満足してもしなくても答えそのものその場での答えはそれまでとする暗黙の了解。
そう言う取り決めを二人の間で交わした事実は存在しない。
ただ、ひとつ屋根の下で共に暮らす癖の強い二人が自然に覚えた共存関係でのルールだ。これを守らなければ生活していくこと事態が不可能なほど二人の個性は懸け離れすぎたものだったから・・・。
「・・・そんなことを言えばアイツ等は傷つく。俺は男だ。女の子が傷つくところを見たくないし、傷つけるなんて事は絶対に許されちゃいけない事なんだ」
間を空けてから呟くそうに押し出した一夏の言葉にセレニアは同情なのか失望なのか判別しずらい色を、ただでさえ感情の変化がわかりにくい顔に浮かべて疲れたように嘆息する。
「それで、相手が何に怒っているかも分からないまま『相手を怒らせたことに対して謝る』という手法で誠意を示してきたのですか?」
「そうだ。だって実際分からないんだからな。それならせめて謝って慰めるのが男としての役割で、果たすべき義務だろう?」
はぁ、と。
今度は明確に失望したと分かるほど露骨に溜息をついて見せた義妹の態度を兄は訝しげな目で眺め回す。
「・・・義兄さん。申し訳ありませんが、この件に関して義兄さんの方に非があるとしか私には思えません。余りにもその・・・人の気持ちを蔑ろにしすぎている・・・」
思いも寄らぬ指摘を受けて一夏はうろたえた。
今までで一番“よく分からない”理由での罵倒だったからだが、それが丁寧な口調で悪意もなく放たれていたものであったことが彼を混乱させていたからだ。
余りにも・・・理解できない理不尽すぎる意見だったからーー。
「なんでだよ? 俺は相手を怒らせて傷つけてしまったんだぞ? 男として責任を取るために頭を下げるのが当然じゃないか」
「それは義兄さんにとってだけの都合でしょう?
『自分は相手を傷つけた責任を問らなきゃならない。だから謝る。何故ならそれが男というものだから』・・・これのどこに相手の気持ちが入っているんです?
始まりから終わりまで義兄さんの中だけで完結する感情だけで成り立っている様にしか思えませんが・・・?」
「・・・・・・」
義妹の言葉に義兄は答えない。
相手の言葉が図星を突いていたからではなく『それのどこが悪いのか分からなかった』から。
だって彼にとって男とは、そう言う存在なのだから。
書類上では同い年の背が低い妹から目を逸らして考え込む“フリをする”兄の姿に妹は肩をすくめながら、言っても無駄だと自分でも分かっている忠告を伝えるだけは伝えておく。
「義兄さんが千冬義姉さんに憧れて目指しているのは知っていますけど・・・義兄さんの思い描いている義姉さんは実在していませんよ? それは義兄さんが私と一緒に助けられたとき胸に抱いたイメージです。
本物の義姉さんは悩みながらも成長していってるのに、義兄さんの中にいる理想の義姉さんだけは今も変わらず誘拐事件の時のままだ。その時の義姉さんを目指すことで得られるモノも多々あるとは思いますが・・・これだけは覚えておいてください。
そのやり方では義兄さんが義姉さんに成れる日は決して来ることはありません。絶対にです。
これだけは忘れない方がいいでしょうね。もしも義兄さんが本物の義姉さんにも傷ついて欲しくないと願うのであればですが・・・」
返答はない。返事も来ない。
ただ一息で飲み干されたコップを妹の胸元に押しつけてくる兄と、受け取ってお代わりを入れに行く妹の二人による、血の繋がらない織斑兄妹の肖像がそこにあった。
やがて明日の特訓に備えて兄は眠り、妹はベランダから外を見て夜空を眺める。
ふと、上の階から声がかけられた気がして見上げてみると、そこには着ぐるみパジャマ姿の親友がブカブカの袖で手を振る姿があった。
「こんばんは、本音さん。夜も遅いのに元気そうですね」
「にゃははは~♪ セレりんは夜だから元気なさそうだねぇ~。また何かあった? またお話聞いてあげた方がい~い?」
「・・・そうですね。では少しだけ」
「うん、少しだけ~。深夜の学生寮で上と下のお茶会開始だぁ~♪」
余り大きな声は出さないようにね? と念を押してからセレニアは遠くを見つめながら出来る限り声量を落とした声で話し始めてグチり出す。
「・・・そもそもにおいて義兄さんの周りに集まる女性たちは昔からバランスが悪すぎるんですよ。あれじゃあ双方ともに壊れて行くばかりだ。傷の舐め合いで互いの時を止めてあげることに意味なんか無いはずなのに・・・」
「まぁ、おりむーは優しすぎるからね~。誰かを傷つけないように努力してるけど、それだと大半の女の子たちから見れば『ちょっと素敵な男の子』止まりなんだよねぇ~」
「でしょうね。
中学の時から義兄さんは距離が近い人ほど素直に好意を示して来なくて、逆に好意を言葉と態度で示してツンデレない人ほど物理的な距離が遠くて、近くに来てくれない。
心が弱くて、一人では立てない人ほど義兄さんの側に寄り添いたがる。
心が強くて自立心のある女性ほど、義兄さんへの想いが冷め易い。
まるで一時の夢に酔っているかのように、夢から覚めてしまえば義兄さんの事など歯牙にもかけなくなる。期間限定アイドルにも程がある扱いです」
クラスメイトの布仏本音はホワホワした笑顔でセレニアの言葉を受け止め、ただ微笑み続ける。
今はまだセレニアは耐えられることを知っているから、我慢できると信じているから聞き役に徹して何も言わない。
自分に求められてる役割が、今は聞き役だと熟知しているから聞く。
相手に自分の意志が伝わっていることを信じているから、セレニアもまた自分の考えだけを口にする。
付き合いの短い二人だが、暗黙の了解という点では兄よりもずっと良い信頼関係を築けていた。
「義兄さんの考える強さは、『負けないこと』です。
そのための努力は欠かさないのに、人が自分と同じ分だけ努力している可能性については無意識的に頭の中から削除してしまう。自分より優れた結果は見ても、その下に積み重なってる無数の努力からは目を逸らしてしまってます。
あれは『負けない』強さではありますが、内訳的に見たら『敗けを認められない弱さ』であり、『敗けを認めて糧とする強さ』ではない。
理想とする義姉さんのイメージに近いのが前者で、過去から今の理想に至るまでの義姉さんが後者です。
義兄さんは余りにも自分を助けてくれた義姉さんの面影に囚われすぎている。あれではもはや・・・呪いに等しい」
「義兄さんは過去から今を見ている。あの人の心は記憶と共にあの倉庫へ置き忘れられたままだ。いい加減、解放されても良い頃合いなのに、どうしてか今更になって過去の亡霊がざわめき初めてしまいました」
「束さん。
貴女、そんなに過去が懐かしいのですか? 今はそんなに嫌ですか? 貴女が帰りたいと願う場所はとっくに昔に貴女自身が壊してしまった後なのに、それでも戻りたいという願望を捨て切れませんか? 二度とは戻れない過去へ私たちを引き戻すためなら世界中全てを巻き込んでも平然としていられるのですか?
今の私には、義兄さんも義姉さんも束さんも箒さんもオルコットさんも鈴さんもデュノアさんもボーデヴィッヒさんも、誰一人として気持ちが理解することが出来なくなってしまいましたよ・・・?」
プルル。プルルルルル・・・がちゃッ。
『ハロハロー♪ 現在束さんは出かけておりまーす☆
ご用のある方は~、発信音の後に~、メッセージを入れといてくださーい♪
束さんの気が向いたときにでも連絡してあげるかもしれないよん☆』
・・・ピーーーーー。
メッセージを入れてください。
「束。一つ聞かせろ。お前がISを『完成させずに』世界へ解き放って回ったのは、自分の同類を集めるためなのか?
過去だけ見て、傷を舐め合い、未来を夢見るフリをすることで辛い現実から逃避する人間だけを選んで、心の傷を糧としながら進化する『出来損ない』を配って回った理由がそれだとしたら・・・私はお前を一生涯許さない。必ずこの手でお前という過去から決着をつけてやるから覚悟しておけ。以上だ」
ブツリ。
「・・・うふふ。そうだよ、ちーちゃん。束さんは天才なんだから、ISをもっと完全体な状態で完成させることぐらい訳はないのだー。
それなのに未完成の出来損ないを配ってあげたのはねー。ジャジャーン!
ISには漏れなくトラウマ鑑定装置が搭載されているからでしたー!
さっすがだねちーちゃん! お見事だよね! 感心するね! そんなちーちゃんの弟なんだから・・・いっくんは必ず私の理想の男の子になってくれる。束さんはそう信じているんだよ?」
「痛いと感じている傷を見ないで済むようにしてくれる。
見るよう促してくる存在を力付くで押さえつけて見なくても良い状況を作ってくれる。
過去に囚われている人ほど抜け出せなくなる。離れられなくなる。
恋って名前の脳内麻薬に汚染させてくれる、理想的で甘々な束さんの理想とする人生の伴侶♪
織斑一夏君!
ああ、楽しみだな楽しみだな! 早く私と一緒に無人島で暮らして欲しいな!
束さんと一緒に、覚めない永久の夢を見ようよ、いっくーーーっん☆」
「――束さんを受け入れなかった世界なんて束さんのいるべき世界じゃない。
束さんにはもっと相応しい世界があるんだ、そのはずなんだ。
その世界を完成させるために必要な最後のピースが十年越しに完成しそうなんだから、ちーちゃんにだって邪魔はさせないよ?
いっくんを壊した責任を取るために、束さんはいっくんとだけ生きてける理想的な楽園づくりに忙しすぎるのだー♪
だ・か・ら~♪ ほい、ポチっとな。亡国機業に情報提供かんりょーっと。これでもう安心。無理なく無駄なく理想的ないっくん育成計画の生け贄が自動的に供給されましたー☆」
「うっふっふ~♪ まだかなまだかなー? いっくんの、到達まだかな~?
世界なんて全部ぜーんぶ壊しちゃってもいいから、早く束さんに相応しい男性に調整されてねいっくん! 世界中の誰よりも、ア・イ・シ・テ・ル! きゃはぁっ☆」