IS学園の言霊少女(本編終了・外伝スタート) 作:ひきがやもとまち
「つまりーー」
私は口を付けていたオレンジジュースへと続くストローから唇を離し、奢ってくれた相手の女性の眼を見ながら確認のための質問をしました。
「私にも織斑さんと同じでIS学園への入学許可が下りた、と。そういう事ですか? 千冬お姉さん」
「そうだ」
相手の女性ーー鋭利な刃物のように冴え冴えとして美貌を持つ、冷たい眼差しの女性。一見すると抜き身の刃のような印象を与える和風美人さんですが、これで中々カワイいもの好きな所のある普通の女性らしさも備えている女子力の高さを、主な被害者である私は存じています。
・・・子供の頃から一体何度、朝目が覚めたらベッドの中に連れ込まれていたことか・・・。
昔の私だからこそ大して気にしなかった出来事ですが、今の私があれやられるとヤバいですキツいです。倫理観が大幅に崩れる可能盛大です自重しましょう、お互いに。
「一応、名目上は高校一年生になったばかりの女の子を一人自宅に残したまま、兄と姉が同じ学校の寮で暮らすというのは外聞が悪いからと言うことにしてあるが、普通に考えて保護なのだろうな、一夏のための」
「でしょうねー。今度は私が織斑さんにとっての、第二回モンド・グロッソ殺人事件における人質少年織斑さんになる訳にはいきませんからねー」
「・・・・・・そう言うことになるんだろうな、少なくとも連中としては」
やや不機嫌そうな沈黙を挟んでからムスっとした声で答えてきます。・・・まだ気にしてらしたんですね、あの事件のこと。無理もないことなんでしょうけども・・・。
なんと言って良いのか分からずに、私はただ黙って目の前のストローをチューチューしながら、『この世界』の方向性が変わったであろうと思しき事件について振り返りってました。
それは、この世界《インフィニット・ストラトス》の主人公、織斑一夏さんが主人公となる切っ掛けの事件であり、彼の姉である世界最強のIS操縦者であった織斑千冬さんが“元”世界最強として現役引退を決意させた事件でもあり、現代日本で死んだ男子高校生の少年が異世界TS転生を行い別人の少女として生まれ変わっていたことを思い出した事件であり、本来の少女の人格が記憶と共に一部破損し、私が織斑家で静養生活を送る傍ら居候生活も行い事実上の家族認定されることになる始まりの事件でもあったのです。
・・・・・・と、いけない。一番重要なことをご説明するのを失念しておりましたね、ごめんなさい。
ここは《インフィニット・ストラトス》という名前の作品世界。
そして、私の名前は異住セレニア。
現代日本で事故死して、この世界に転生させられてきた日英クォーターの元男子高校生。今さっき物語の舞台である『IS学園』1年生として入学が決定させられたばかりです。・・・『させられた』系、多くね?
ま、まぁとりあえず、死んでから生き返りましたがゾンビじゃないっス。あと、魔装少女にもなれないっス。
ただの貧弱で貧相な人間の少女です。身長低いけど胸だけはデカいロリ巨乳っス。
・・・・・・・・・そこ! 笑わんでいい! 人が場を和ませようと自己紹介にかこつけて恥を忍びコンプレックスを自白してんですから真面目に聞きなさい! まったくもう・・・ブツブツブツ・・・。
ーーコホン。
説明を再開しますが、《インフィニット・ストラトス》はISとも通称されていて、通常は女性しか動かすことができません。
IS学園はISを扱う少女たち《IS操縦者》の育成機関であり、開発国である日本に所在地がおかれてますけど、外国からの留学生や転校生も結構多いみたいです。
ISの形状は、露出度そのものは低いんですけど見た感じがエロすぎるISスーツという名のハイレグスーツを着た上から機械の脚甲を部分的に装着し、銃やら大砲やら刀剣類を美女・美少女たちに持たせてみたと言った感じですかね。
この姿を晒しながら世界中の人々が見ているテレビの前で戦い合い、世界1のIS操縦者を決めるスポーツ大会がモンド・グロッソ。
第1回目の優勝者が私の前でムスっとしている、居候先の家長さん織斑千冬。
そして、第2回目の優勝決定戦直前で誘拐されたのが彼女の弟である織斑一夏くん。彼女を救うために飛び出してって誘拐犯を根切りにしたのが(皆殺しです)彼女にとってのトラウマになってるらしく、以来ISには関わりつつも乗ろうとは一切なさっていません。
ちなみにですが、この時に織斑さんと一緒に遊んでいて一緒に浚われて一緒に助けられたのが私、異住セレニア“らしいです”。正直よく覚えていないんですけどね。
なにしろ私はこの時に受けた衝撃で記憶の一部が欠落し、その代わりとして前世の記憶が蘇ってきたという今風設定の転生者なので元の異住セレニアに関する記憶が大部分失われてたりするのですよ。
なので自分と織斑さんたちが元はどんな関係だったのか、なぜ一緒にモンド・グロッソを見に来ていたのかなど大体全部を忘れているというか知りません。私が経験したわけでもないので知りようがないからです。
まぁ、そんなこんなで私は記憶喪失扱いされて療養生活を余儀なくされ、記憶を思い出しやすいよう縁の深い場所で生活してみるのがよいと言われて、今現在は織斑家に居候中。当たり前のように記憶は戻ってきてはおりません。知らないものは思い出せるわけないですからねー。
そんな風にして始まった私と《インフィニット・ストラトス》の関わり合いでしたが、どうやら1話目あたりの話がはじまった様ですね。思い出した記憶の中にアニメ版1話目で見たシーンが僅かながら残っています。
場合によっては他のことも都合にあわせて思い出せる設定なのでしょう。前世の記憶を失った転生者主人公という設定は便利ですよね、本当に。「思い・・・・・・出した!」とかのネタでね。
「ーー本音はどうあれ、政府という組織は建前を表だって無視することはできん。一夏の学園入学理由として保護を名目にあげている以上は、それなりの体裁を保つ必要性ぐらいはある。
『本人を家に一人置いたままだと、浚われる危険性があって危ないから隔離させていただきます』と政府所有の国立刑務所に強制監禁しておいて、そいつへの脅迫材料たりえてしまう家族には残留を許可するとか有り得んだろう。筋がどうこう以前に、危険性が少しも軽減できてない。
これで保護したなどと誇る奴がいたら、馬鹿か阿呆か無能の類だ。そう言う奴らは頭蓋に、45度の角度に打撃を入れて機能復旧させて然るべきだ。最悪、セーブデータが飛ぶかもしれんが、宜なるかなと割り切れば事足りる程度の相手だしな」
「・・・・・・・・・・・・・・・年齢(ぼそっ)」
「・・・・・・なんか言ったか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・別に(ちゅー、ちゅー)」
私は俄然キツさを増した千冬さんの視線から目を逸らし、転生先の肉体が元々持ってた固有スキル《表情筋が動きづらいから無表情》でポーカーフェイスを取り繕うまでもなく自然に保てます。
普段は不便でしかないスキルが役立つときがあるとは思いませんでしたが、こういう使い方もあるのですね。勉強になります。今後の生活に役立てましょう。
「ですが、よろしいのですか? 私は一応ながらIS適正ありますけど《Fランク》ですよ? 世界最低値しか持たないようなザコを倍率一万倍以上の国家を代表するエリートたちが集まってくる国立校に入れてしまって、他国の方々とかが悪感情を刺激されたりしませんかね?」
「問題ない。その程度の問題は・・・・・・一夏の入学時点で確定事項だ・・・」
「ああ・・・なるほど・・・・・・。ーーご愁傷様でしたね、千冬姉さん・・・」
「・・・・・・・・・・・・はぁ~・・・(疲れ切った様子の吐息)」
一ヶ月前とは別人のようにーーいえ、今さっきまで取り繕ってた間までとは別人のように窶れて疲れ切った素顔をさらす千冬姉さん。
よく見たらご自身が注文されたサラダには最初の一口目しか口を付けていません。二口目は口元まで運んでから説明を再開するためと称してお皿に戻してしまってます。
完全に疲れて帰ってきたばかりのサラリーマン状態な彼女ですが、この状態になるのも致し方のない事情があるのでしょうねぇ。なにしろ《世界最初の男性IS操縦者》を国立の国家エリート養成学校に入学させる訳ですから。
フィクションだとよく見られる現象として、世界で初めて発見された特殊例が超名門校に入学させられて無双する、と言うのがあります。
あれは一見、合理的なようにも見えますが、実の所そんなことは些かもない。
何故なら『世界で初めて発見された』存在は、その時点では希少価値の高い研究サンプルに過ぎないからです。
世界で初めて発見された珍獣を保護しただけの存在が、名門校にはいるために鎬を削り努力し続けライバルたちを踏み台にしながら難関を越えた先に待っていた栄光への門を、『珍しかったから』と言う理由だけでポッと出のパンダに横からかっさらわれた訳ですから問題なんて山の如しです。文字通り山積しちゃってますよ。扱い方に気をつけないと炎上案件間違いなしな爆弾物件です。
・・・・・・ここまでの横紙破りをした後でFランク一人を追加で入学させるぐらいは、些事であるに過ぎませんよねぇ確かに。
「上の連中には男尊女卑復活を掲げる勢力の台頭を事前に抑止するためには、先手を打って確保しておくのが一番だと説いて回った。
一部ながら議会に余喘を保っている男性議員たちには女性権利保護の名の下に守るべき国民を政府が害してしまわないよう、同胞として保護して欲しい旨を嘆願書に書いて提出した。
株式公開している大手IS企業には特色に合わせて新しい市場が開拓される可能性と、ライバル社に出遅れた場合の危険性をファックスで訴えかけまくった。
文部省と教育委には憲法で保証されている教育の平等性を盾に取り、昔のツテを伝って元世界最強ブリュンヒルデのコネも最大限利用しまくった。後それから・・・・・・」
「う、うわぁ・・・・・・」
想像を絶するハードワークでした。てゆーか、頭脳酷使労働でした。事件が起きてから一ヶ月近く家に帰ってこなかった裏側で、ここまでの事態に発展していたは!
千冬さん・・・弟のためなら世界をも敵に回す人だとは思ってましたけど、まさかここまでやるなんて・・・恐るべし、ブラコン魂! 私はここに弟を偏愛する実姉の危なすぎる愛の炎を見た!
「私は『理』と『利』を説いた。説きまくった。
下げたくもない頭を下げ、言いたくもないおべっかを言うたび笑顔を作り、社交辞令と美辞麗句と詭弁欺瞞嘘八百ハッタリ上等巧言令色で人を騙して騙して騙しまくった。
この一ヶ月間で、一生分の利害損得と感情論を使い果たしたんだ。
だからもう、今後は二度と我慢などせん・・・。死ぬまでずっと己の正義と信念を貫き通してやる・・・二度と曲げん。二度と逸れてやったりするものか。私の信じるところを全て体現してやる。
警備主任と併走したまま一夏のクラスの担任まで引き受けてやったんだ。確実に結果を出してやるから、独裁ぐらいは容認してもらうぞIS学園上層部めぇぇぇっ!!!」
「うわぁぁ・・・・・・」
もうこれ以上ないほど崩れまくった千冬さんの美人顔。もしくは阿修羅顔。お姉さん贔屓の織斑さんだったら関羽とか呂布とかを当てはめるのかもしれませんが、率直に言って董卓です。あの人、勧善懲悪好きで武力バカな所があるからなぁ~。司馬懿とか大嫌いそうですよね。
ちなみにですが、私の好みの武将というか軍師は賈駆です。
・・・・・・今はじめて分かったんですけど、私と織斑さんて兄弟みたいに育てられてなかったら相性最悪すぎてたんですね。気づきませんでした・・・。(家族)愛は盲目とはよく言ったものです(言うまでもなく言い訳している私です)。
「・・・言うまでもないが、これだけの事をやってしまった手前、私にはほとんどの事態に対して介入権など存在しなくなる。一夏が誰となにを仕出かそうとも尻拭いぐらいしかしてやれない。ーー言ってる意味は、分かるよな?」
「一応は・・・」
「無論、これだけやってやった一夏を学園に保護するだけで終わらす気は毛頭ない。ーーと言うか、特記事項二一条を盾にとって学生でいる間は守ってやれる環境を整えただけなのでな。これだけだと卒業以降はお先真っ暗なのだ。
IS学園はIS操縦者を国の金で育成する国家機関・・・いわゆる専門校だ。一般高校と違って潰しが利き辛い上にアイツ以外は女子しか入れてこなかった。
ハッキリ言おう。アイツにはもはやIS操縦者として大成する以外に卒業後の安定した就職先なんてものは存在していない。入学さえできれば生徒全員に就職まで世話してくれる藍越学園に残らせてやることさえ出来ていたら・・・!!!」
「ま、まぁ、あそこはあそこでチートでしたからね。女尊男卑のこの時代、男性であっても卒業後の進路に不自由しないなんて恵まれすぎな環境だったんですし、若いときの苦労は買ってでもしろとも言いますし・・・」
「タダで押しつけられた若い時分の苦労と、金と努力を払って入学できそうだった楽な人生を交換させられたんだぞっ! お前だったらどちらの道を弟に選んでもらいたい!?」
「い、いやまぁそのあの・・・・・・わ、私には兄代わりはいても弟はいないので分からない・・・でしょうかね~・・・?」
必死に目を逸らしまくる私と、血涙湛えながら睨みつけてくる千冬さん。
さ、さすがにこれは怖い・・・。軽くホラーです。なまじ相手が美人なだけに怖すぎますよ、貞子さんじゃないんですからやめましょうよマジで。
「・・・生徒の適正に合わせて先を考えれるカキリュラムと、多種多様な業界から集められてきた優秀な教師陣によって入学できた生徒たち全員に就職先を斡旋してやれる藍越と違い、うちの学校は結果重視だ。
換えの利きづらい人的資源だから最大限の安全保障がなされているが、それは逆にIS学園で治せない怪我ならどうしようもないことをも意味している。
利き腕が動かなくなったIS操縦者なんて指導官ぐらいしか就職先はないぞ絶対に・・・。整備やIS関連の法律なんかを勉強すればそっちの方にも道は開けるが、受験はおろかISに興味さえ持ってこなかったアイツにそれが可能だと本気で思えるのか? 無理だろうが、絶対に」
「そりゃまぁ・・・そうでしょうけどねぇ・・・」
「挙げ句、IS業界は成果主義。結果さえ出せるなら多少の人格的問題点は無視してもらえるが、結果を出せない無能にIS操縦者としての価値など誰一人として認めようなどとは言いださん。世界の第一産業にして、既存の兵器群に取って代わった国の軍事力を担うとはそう言う事を意味しているのだ。
そんな社会からドロップアウトした場合、男である一夏はその後どうなる? お前は賢い子だから分かるよな? セ・レ・ニ・ア?」
「た、多少なら・・・」
嘘です、ごめんなさい。本当は全部わかってます。わかってますけど『わかっています』って答えたら絶対面倒くさい厄介ごとを押しつけられちゃうだろう事も分かってしまっているから分かりたくないだけです。
IS学園の売りの一つは、『生徒全員が見目麗しい美少女』だと言うこと。これはIS社会である現代日本にとっては非常に大きい。具体的には卒業後に選べる選択肢の数的に。
IS操縦者育成校であるIS学園から巣立った生徒たちには、必然的に『国家を代表するエリートの一人』と言う経歴が付与されます。
そうなると、社の広告塔や広報担当。側に置くことでコネアピール、元IS操縦者を擁するIS企業として伯がつく等、様々な得点も付与される訳ですが、『ISを動かせる男』と言うだけで入学を許可されただけのIS適正Bランク程度の凡人にはモルモットかパンダとしての価値しか認められるはずもありません。
テレビCMに最近話題の女優さんと一緒に出演して、『男にも優しいIS社会。公明党です』とか笑顔で言わされてる彼の未来像が容易に想像できてしまいました。予想してたよりもキッツいですね、これ。
「冷暖房と床暖房完備の檻の中で愛でられながら過ごす、三食昼寝付き生活も待遇としては悪くないかのもしれんが・・・弟の将来設計を高校生の時点でパンダ一択に特定してしまったりしたら、私は自分たちを捨てた両親を否定する資格を一生失うってしまうのは確実だな」
「あは、あはは、あははははは・・・・・・はぁ・・・」
うん。もう作り笑いしか出来ないレベルの惨状。流石にこれは・・・初っぱなからヒドすぎる! 超ハードモードどころじゃねぇ!
《インフィニット・ストラトス》って、こんなに過酷なスタート地点だったんですか!? やべぇ! 超読みたくねぇ!
「今の時点ではパンダでしかない一夏の価値を向上させるには、何はなくとも専用機だ。
あれには個人データを登録することで操縦者の脳に直接データを送り込む機能がある。あれを使わせることさえ出来ればIS学園を受験するため時間と金をかけて他の生徒たちが学んできた基礎知識の大半が必要なくなる。
操縦者育成校だけあってIS操縦に必須となる知識の学習こそが一年時に習う座学の半分以上を占めている以上、これで得られるアドバンテージは膨大の一言。残りは法律関係と戦術等だからな、後で時間を手に入れてからゆっくりやらせよう。その時間を稼ぐためにも専用機は必要不可欠なのだ!」
「はぁ・・・」
「幸いなことに、昔の知り合いで使えるコネがあったので問い合わせてみたところ、ちょうどいい機体が手元にあるから送ってくれるとのことだ。
アイツはアイツで束や私に対して思うところが有りそうな奴だったから、思惑あっての行動なのだろうがな。それならそれで別にかまわん。
利用されているのであれば、こちらだけが利用している罪悪感を感じなくてすむ。ゲスというのは扱いやすい駒で助かるものだな」
「貴女本当に国立学校の教員なので?」
誰かを救うためなら悪人を犠牲にしても構わないなんて、私みたいな事言い出すようになっちゃいましたねこの人は。まったく、誰ですか? 千冬さんに悪影響与えた悪い人は? 反省してください、本当にまったくもう。
「一夏の価値を引き上げるには、とにもかくにもISバトルで勝たせることだ。
結果主義、成果主義。能力や努力量など二の次三の次等という腐った思想には反吐しか出ないが、この際は利用してIS社会における一夏の価値を向上させるのに有効活用するより他に道はない。
そうなると、お前がするべき役割はーー言わなくても分かってくれるよな?(バキボキ)」
・・・結局最後は力業で押し通すのが織斑姉弟。弟は姉に似る物なのでした・・・。
こうして私、転生者で半端な記憶喪失でIS適正ランクFのロリ巨乳少女、『異住セレニア』はIS学園1年1組への入学及び編入が決定されてしまったのでした。
『こう言う展開のルートも有り得てました。』
「今の時点ではパンダでしかない一夏の価値を向上させるには、何はなくとも専用機だ。
あれには個人データを登録することで操縦者の脳に直接データを送り込む機能がある。あれを使わせることさえ出来ればIS学園を受験するため時間と金をかけて他の生徒たちが学んできた基礎知識の大半が必要なくなる。
操縦者育成校だけあってIS操縦に必須となる知識の学習こそが一年時に習う座学の半分以上を占めている以上、これで得られるアドバンテージは膨大の一言。残りは法律関係と戦術等だからな、後で時間を手に入れてからゆっくりやらせよう。その時間を稼ぐためにも専用機は必要不可欠なのだ!」
「話は分かりましたけど・・・それって、どこでどうやって手に入れられるものなんです? 日本にあるISコアは、束さんが政府に送った分しかないはずですし、あの人自身は何処にいて何処に行ったのか今ではご家族すらも把握してません。
連絡先を知っている人がもし実在しているとしたら、今頃政府所有の特別監禁施設で尋問なり拷問なり受けさせられまくって無理矢理にでも自白させられてるでしょうしねぇ・・・」
適当な調子で答えてから、再びオレンジジュースを口にする私。
そして、その様子を見ながら『にっこり』と、普段は決して笑わない千冬さんが嗤う笑顔を見た瞬間、私は致命的な失策を犯していることに気がつかされたのです。
「ま、まさか千冬さん・・・貴女の目的は最初から・・・・・・っ!!!」
「・・・・・・そうだ、セレニア。私が今日お前を呼んだ一番の理由はこれだった。これだったんだよ」
ゆら~り、ゆら~り前進してくる千冬さんと、席を立ってジリジリと後ずさりを始めた私。周囲を見回してみると、店内にいたお客さんの全員がボンヤリとした無表情のまま食べ終わったお皿で食事を続けてたり、空になったコップで飲み物を飲み続けてたり、何度も何度も同じグラスを磨き続けるウェイターさんがいたりと、異様すぎる異空間が東京都のど真ん中に発生してしまっておりました! ゾンビパニックです! バイオハザートです! 助けてください、S.T.A.R.Sチーム! ・・・ただしアルバートだけは要らん。帰れ。
「この技は《傀儡掌》と言ってな。食らった相手を、一時的に自我のない傀儡にしてしまうと言う技だ。以前、とある最強の武道家の御老体に必死になって教えを請うて数年がかりで会得した技だ。本来なら己の私欲ごときに使ってよい技ではないのだが・・・」
「そうでしょうね! そうでしょうとも! 最悪、東京都全てが巻き添え食らって死者の軍勢に襲撃されかねませんもんね!」
てゆーか、居たのかこの世界にもセバス・チャン! 勝てる勝てない以前の問題なチート集団が出てくるんじゃねぇ! 世界の法則が乱れるだろうが!
「お前が束のお気に入りだったことを知らぬ者は、我が家にも篠ノ之家にもいない。
アイツと未だにコンタクトを取れる手段を保持しているのは、ほぼ間違いなく世界中を探し回っても二人だけ・・・お前と、私自身だけだ」
「ーーって、貴女も持ってるんだったら自分の使えばいいじゃないですか!
なんで、無理矢理押し付けられただけの物でも、好意そのものには感謝しているから捨てられなかっただけでしかないボッチ思想の私にたかろうとしてるんですか! 人に頼る前に自分で何とかしろといつもご自身で言っておられたのをお忘れです(ドカゴンっ!)・・・かっ・・・」
年上美人に壁際まで追いつめられて、顔面のすぐ側を相手の右手の平が通り過ぎて背後の壁に叩きつけられると言う、所謂ひとつの壁ドン状態。
それも恋愛ムード一切なしの、ガチな脅迫ムード一色での壁ドンです。超うれしくねー。
「吐け、吐くんだセレニア。それがお前の宿命だ。運命だ。お前は私から束に情報をもたらし、義理の兄である一夏を騙し抜くことで救い続けるのだ。
救え、救うのだ。お前が救わなくてはならんのだ」
「・・・なんででしょうか? なぜ私が織斑さんをと言うか、織斑さんの輝かしいかもしれない将来を救うために尽力しなくてはいけないのでしょうか? 理由を説明してください。理由がなければ応じられませんが・・・」
「なんでもだ! お前が救わなければならないから、救わねばならんのだ!」
この妖怪もどき、自分の法度すら守る気ねぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!
「失敬な! 守る気ならある! 家族を守るためなら外道畜生に墜ちようとも、自分で居続ける意志と覚悟はこの一ヶ月で済ませてある!」
マジで何があったんですか、この一ヶ月ちょい!? 何が清廉潔白だった侍美女をここまで追いつめたのですか!?
「セレニア・・・いずれお前にも理解できる時がくる。きっと来るだろう・・・。
誰かの平和な人生を守るためには、他の誰かの犠牲が必要不可欠なのだと。
そしてそれは、絶対に自分の愛する家族であってはならないのだと。
私が綺麗事を捨て、お前たち以外の誰かが追い落とされて不幸になることで、私たち家族の幸せな将来が保たれるのなら、私にとってそれは歓迎すべき事なのだ」
「アンタそれ、日本の国立学校に勤める教員の言って言い言葉じゃねぇでしょうが、絶対に」
「お前にもいつかきっと分かる。お前がお前のお腹に子供を宿して、その子の温もり自分の中に感じた時にきっと分かる・・・。だから、とりあえず今は束に連絡する手段を教えろコラ。自分から絶縁宣言してしまった私からかけるのは恥ずかしすぎるだろうが。
武士とは恥を知るものなんだよ。だから恥ずかしいのはイヤなんだよ。それぐらい分かった上でお前から連絡するのだ。わかったな?」
ーー台無し! 今までの色々が全部台無し!
「四十秒で電話しろ! いいか? 数えるぞ? では・・・1・・・はい、終わり。今すぐかけるのだ。断ったら寝ている間に撮った、お前の恥ずかしい写真を一夏に見せるぞ」
「色々ツッコみたいんですけど答えが予想できて面倒くさいから、お約束の奴だけでも質問させていただきますね! 2から下の続きは!?」
「私が今までよりも多くの時間をクラス担任に割かなくてはいけなくなったから急きょ雇い入れた警備担当が言っていたのだ。『男は1さえ知っていれば生きていける』と。
だから私は一夏の生きる未来を守るため、1しか相手に待ち時間を与えないことにした。それで? 返答は?」
「その人雇って大丈夫な人ですか!? 本当の本当に大丈夫な人なんですか!? あと、そんな人を雇って大丈夫と言いきれるんでしたらIS学園自体が本当に大丈夫な学校機関なのですか!?」
「返答は?」
有無を言わさず、「うん」しか答えを許さない暴君家長の横暴によって、私の兄代わりである織斑一夏さんに、ISを発明した天災科学者篠ノ之束さんが送ってくれるよう手配してくれた専用機『白式』が届けれることが決められてしまいました。
本編予告というか、こういう風のを書けたらよいのになーと言う願望。(ぶっちゃけ、当初の予定のままだと他の人が書いてたセシリアのパクリになってしまいそうなので・・・)
「わたくしの名はセシリア・オルコット! 誇り高き英国貴族の血を引く末裔!
貴族! ノウブル! 人々の上に立ち、民草をより良く導く義務と責任の担い手!
今でこそ専用機持ちの代表候補に過ぎませんが、いずれ必ずわたくしがIS界の頂点に立ちます!
わたくしは資本主義の中で廃れきってしまったIS操縦者の誇りに再び明を灯す救世主メシアの再臨・・・否! わたくしがIS(IS社会における神)です!」