IS学園の言霊少女(本編終了・外伝スタート)   作:ひきがやもとまち

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思いついたので書いてみた言霊ISとFateとのコラボ作品です。
他の方の書かれていたアストルフォが主人公でありヒロインでもある作品に強く影響されてる感じで書きましたのでセレニアが普段よりかは士郎に優し目な設定です。


試作品「Fate Ward worid BREAKEI」

 この世界には運命と呼ばれるものが在るらしい。

 

 たとえば、創造主が定めた滅びの結末。たとえば、抗うことも許されない不可避の別れ。たとえば、真理に挑む者が必ず越えなければ至れない最強の試練。etc.etc.etc.・・・。

 

 実に様々な種類の運命が共存している世の中ではあるが、もし仮に運命と呼ばれるものが実在するとしたならば、其れは只一種類しか存在を許されてはいないのだろう。

 

 絶対に避けられぬ不可避の結末。抗うことさえ想定済みな神の描いた脚本。唯一無二の絶対的なこの世の真理。

 どれも他の類似品を完全否定する唯我独尊な代物であり、他者との共存も共栄も併存すらも許さない、自分こそが世界にひとつだけのオンリーワンを主張する暴君的な力学で成立しているのだから、一つでも実在してた場合には他のが存在させてもらえる事はないと思う。多分であるが。

 

 とは言え、これら絶対的な運命とやらが人々の目に見える形で現れる事態は、まずもってあり得ない。

 なにしろ真理だ。一般人が何の苦労もなく視れてしまったら有り難みも糞もありゃしない。と言って、相手には見えない絶対的で不変なルールを見えてる人間だけが語ったところで意味があるのは信じた奴だけ。見えてない人間にしてみたら「お前の理屈だ!押しつけるな!」で済む程度の代物なのである。

 

 たとえば絶体絶命のピンチを迎えて的の大ボスが「諦めろ、これが貴様の運命だ」と言ったところで、「俺は運命さえ越えていくぅぅぅっ!!」と気合い一発、根性だけで乗り越えられてしまった場合には『運命なんてこの世には無い』と言う理屈が成り立つ。

 それがたとえ、乗り越えられること前提で決められていた試練という名の逃れられない運命だったとしても、そうであると知りさえしなけりゃ運命なんて変えてしまえる物なのである。

 

 故に、こういう言い方をしたところで、完全否定することは誰にも出来ないだろう。

 運命とは人それぞれの解釈であると。

 

 絶対と信じる人もいれば、変えられると確信する者もいる。

 出会いの運命を信じて王子様を待つ女の子もいれば、必ずどこかで俺を待ってる宿敵を捜しに会いに行く漢の子だっているかもしれない。運命とは解釈した人の数だけ存在することを許されている創造性と物語性にあふれまくったメルヘンチックな代物なのだから・・・・・・。

 

 

 

 だから、こういう形での運命(Fate)も、あり得ないと言う程ではない。

 ただ単に偶然の続出と気まぐれの散発が積み重なった末に起きた『運命のいたずら』という解釈をしていい運命の形に過ぎないのだから。

 

 

 

 

「たまには難しい本を読んでみよう」

 

 その日、何の前触れもなく衛宮士郎はそう決断した。

 別に、誰かの犠牲や大きな事件が彼に影響を与えたと言う訳でもない。単なる気まぐれに過ぎない心理ではあるが、彼だけの気まぐれで起きる変化としては行き過ぎてもいる異常事態だ。

 当然、彼以外の人々にも複数の偶然が起きていて気まぐれを起こしまくっていった結実の末に出てきた答えが『たまには難しい本を読んでみよう』だったのである。

 

 まず最初に、その日の彼は疲れていた。

 前日のバイト先で想定外の大口注文が入り、臨時の人手が欲しくなったと頼まれて、頭に超が着くほどのお人好しである彼は承諾して奮起しまくった。臨時である故の特別報酬に引かれたからだけでは絶対にない。断じて違う。正義の味方は金で雇われない。

 

 そうして疲れ切った身体を引き摺るようにして家に帰り着いた彼を待っていたのは、毎日朝と夜とに飯をたかりにくる虎教師からの「今日は中華を食べたい気分なの♪」と言う無茶ぶり。

 普段の彼なら諫めたかも知れないが、今まで手を出してこなかった中華というジャンルに誘惑を感じてしまい乗ってしまった。

 結果、さらに疲れ切った身体で翌日の学校まで登校。ドが着くほど真面目な彼は居眠りもせずに授業を聞いて(内容は半分以上抜けていたけど)学校が終わった後にはサボらず日課の魔術修練に勤しむつもりであったのだが。

 

「あんまり根を詰め過ぎても、成果なんかでやしない。努力した数がそのまま結果に現れるんだったらバイトなんかやってるお前が他の連中に勝てる訳ないんだから辞めた方が利口だ。

 一日も休まずに努力してペース落とすよりかは、一日中休んだ翌日から再び努力した方が効率いいし結果も出ると僕は思うけど?」

 

 と、親友であり悪友でもある間桐慎二が珍しく、ほんっとーーーに珍しく、数少ない友人にたいして(正しくは一人しかいないだが)身体に関する労りの言葉を投げかけてくれたことで彼のその後の運命は決定してしまったのだが、性格悪い拗らせすぎたツンデレキャラの間桐慎二が柄にもない労り台詞を口にしたのにも偶然という名の運命が介入していた。

 

 

 その日、間桐慎二は機嫌が良かったのだ。周りの目から見たら気持ち悪いほどに。

 彼が上機嫌だった理由は、近々はじまる大魔術儀式『聖杯戦争』に備えて召喚するサーヴァントたちについての知識を得るため神話関連の書籍を読みあさっていたことで詳しくなった知識量をひけらかす趣味と実益(相手を負かして一時的に劣等感を払拭する)を兼ねたカードゲーム『英雄史大戦』で久々に大連勝しまくれた事に由来する。

 

 財力に物を言わせたコインを積み上げての連コインで敵(プレイヤー)を蹂躙するのは彼の生まれた家に対する歪な感情を正当化してくれて気分がいい。

 

「やっぱりラウンズにジャック・ザ・リッパーは・・・有りだな(にやり)」

 

 ・・・なんか趣旨を忘れて変な方向へとシフトしてしまっていたが、本番開始日が近づけば正気に戻れるだろうし放っておいても良いだろう。

 

 

 次にクラスメイトを含む級友たちによる力添えも忘れてはいけない重要な要素だ。

 

 まず、クラスメイトの後藤劾以くん。前日に見た映画やドラマやマンガやアニメに影響受けまくって知識量まで豊富になれる彼の奇行には慣れっ子になっているクラスメイトの少年少女たちであったが、普段は優しくしても報いてくれない親友から『休んでいいよ』と言われて穏やかな気持ちになりながらゆったり気分で眺めていると色々別の解釈も成り立ってくるのだから人間とはつくづく現金な生き物なんだなーと、“あの”衛宮士郎がボンヤリ考えてた時点で異常すぎる事態を起こすのに貢献しまくっていたと断言できる彼であった。

 

 

 他にも普段は苦手意識を持ってる仲良し女子グループ三人が、後輩加えて四人になっているのを見ていて「違う誰かと違う目的もって行動をともにするのも楽しそうだな~」と、人になりたがってる機械に言わしめただけで彼女たちは歴史を変えたと言えるだろう。

 ・・・いやまぁ、彼女たちが気まぐれ起こすのが日常パターンなので今日だけ特別だったわけではぜんぜん無いのだが、それでも今まで影響受けなかった衛宮士郎に大きく影響を与えられた初の気まぐれなのだから彼女たちの平凡すぎる気まぐれだって、人を変える運命である。多分だが。

 

 

 この他にも規模の大小こそあれ、それぞれがそれぞれに気まぐれ起こして心穏やかになってる許容範囲いつもよりかは広めな士郎に影響与えまくった結果、最終的に行き着いたのが「たまには難しい本を読んでみよう」だった訳ではあるが、何故よりにもよって無数にある選択肢の中から難しい本を読むという一番彼にとっては縁遠い物を選んだかと言えば、ぶっちゃけ彼にも分かっていない。

 あまりにも短い時間で多くの影響を受けすぎたから混乱していたとしか言いようがない。もしもパラメーターに知力の項目があった場合には理由の一端を知ることが出来たかもしれないが(たとえばバカだったからとか)この世界の生物たちに設定されたパラメーターに知力は数値として現れるようには出来ていない。

 故に、原因不明。今後も明かされる予定はなし。真実を知りたければ己が身体の一部を捧げて心理の扉へ行ってみることをお勧めしておく。

 

 

 

 ーーまぁ、そんな感じで紆余曲折あって普段は読まない『難しい本』を探しに図書室へと足を運んできた彼ではあったのだが。

 

「む、難しい・・・」

 

 やはり普段はやらないことをいきなりこなすことは至難らしい。本棚の前に立って数十分間の間ウンウン唸り続けてる彼の姿は一種異様ではあったが、彼自身は真剣そのものの悩みである。なにしろーー

 

「・・・どれも全部難しそうで、どれが俺の読みたいと思える難しい本なのか見当もつかない・・・」

「・・・・・・なにを当たり前のことで数十分もの永きにわたり悩み続けていたのだ? 汝という男は・・・」

「うおわぁっ!?」

 

 背後から声をかけてきた、いつもはメガネで知的な軍師っぽい印象を与えるクラス違いの友人の少女『氷室鐘』が、呆れと失望のあまりにヌボーっとした無表情を浮かべながら彼の背後に立っていた。

 

「ひ、氷室!? いったい何時の間に・・・・・・」

「つい、ほんの今し方から。いつもは体を動かしてばかりで図書室などとは縁の無さそうな御仁が、三十分間にわたって本棚の前から動くことなくうんうん唸り続けているから、さぞや大きな苦悩を抱えているんだろうなと妄想していた私の貴重な三十分間という時間を耳をそろえて返すがよい衛宮士郎。さもなくば代わりとして金銭を請求することになるがよろしいか?」

「いやいやダメだよ! ダメに決まってるじゃん! 理不尽すぎるにも程があるだろ!」

「女子高生にとっての三十分間は大人の男の三十年の人生に匹敵する損失なのだと思い知るがよかろうよ」

「破格なんだな! 女子高生の時間の価値って! でも、少なくとも今の俺には払う金はないんだ!無い袖は振れないんだよ氷室鐘!」

 

 なんだかんだ言いつつも、三十分間の間にいくつかの本を読んでいてしっかり影響受けてたらしい衛宮士郎の大変珍しい屁理屈に、氷室鐘は希少価値を感じて矛を収めた。

 失われた三十分間の時間に釣り合う対価と呼べるか否かは微妙であったが、失われた物が戻ってくることはあり得ないので適当なところで手を打つかという現実的な物の考え方で加味した結果である。人間、許さないことの方が簡単であっても、許してしまった方が得は多いものである。現冬木市長の娘は損得勘定で思考が出来る少女であった。

 

「ふむ。ならば折角だし、汝には先行発売されたばかりの一般書店にはまだ並んでいない『難しそうな本』を提供しよう。大事に熟読するがよい」

「お、おう。サンキューな氷室。・・・でもいいのか? こんなのもらったところで俺は何にもお前に返せる宛なんかないんだけども・・・」

「なに、問題ない。汝がその本を読んで気に入りファンとなり読者数が増えれば、それ即ち私の好きな作品の売り上げが伸びて続編の執筆が期待でき、さらには映画化ドラマ化と夢が広がりまくリングな展開を妄想して楽しむ喜びが生まれると言うもの。

 どのみち父の伝手でタダで譲られただけの物でしかない以上、得られる利益が金銭的なものである必要性はあるまい。タダで得られる精神的利益も偶には良し、だ」

 

 大人びた口調で微妙に意地汚いのか綺麗なのか判断しづらい理屈を並べ立てながら、譲られてきた本を裏返してタイトルを見た士郎は声に出して読んでみる。

 

「言霊少女シリーズ・・・? 聞いたこと無いタイトルなんだけど・・・」

「先日発表されたばかりだからな。今とは異なる地球世界で活躍する英雄の物語であるそうだ。言葉だけで敵の人格壊して別人のように変貌させてしまう主人公の変人ぶりは必見だぞ?」

「・・・どんな世界観のストーリーなんだ、この物語・・・・・・」

 

 英雄って、そんな人たちだったっけ? 養父の就いてた仕事の関係で普通の高校生よりかは神話関係に詳しい士郎だが、そんなトンデモ英雄の活躍する物語など聞いたこともない。

 

 が、逆に言えば未知だ。知らないし聞いたこともないトンデモ英雄ストーリーと聞けば男の子として興味も湧く。

 

「んじゃ、家に帰って読んでみるよ。ありがとな」

「それではな、衛宮史郎。お買い上げの際には是非にも市長直々に建設計画を指揮してできた百貨店でお願いする」

「セールス文句か」

 

 気分良く、機嫌も良いなかで衛宮士郎はニヤリと笑って感謝を述べてから家路に就く。

 

 その日の夜に遭遇することになる彼の人生を変えた運命が、今その手にある本一冊で一変してしまうことなど知る由もなく。

 

 

 

 

 結論から先に述べると衛宮士郎は自宅に戻った後で、いつもの日課としている修練をサボることなくこなした。

 疲れ切った身体で動いたために汗みずくとなってしまったが、今日のこれはあくまで『日課としてこなした』程度の難度に留めおいた。

 

 当初は完全に休憩と読書に費やすつもりしかなかった彼だが、しばらくボンヤリしている内に日課としてやってることを完全に放棄して休みに当てるのは意外にストレスになるのだという趣旨の内容を、適当につけたらやってた健康関係のテレビ番組で言ってたので参考にしてみたのである。

 

 そのお陰で適度に疲れて、余裕ある心地良い疲労感に包まれながら気持ちよく本を読めて没入することが出来、結果的にであるが死にかけた。

 

 生まれて初めて腹筋が壊れるほど笑わされまくった。爆笑である。床を転げ回りながらゲラゲラと馬鹿笑いしつづけて、お隣さんとの距離が一定間隔で開いている旧家風の屋敷でなかったら間違いなく通報されていたことだろう。そう言う意味において彼のLackは実は非常に高いのかもしれなかった。

 

 言霊少女シリーズに出てくる人間たちは自由だった。自由すぎなんじゃないかってぐらいに好き放題やりまくっていた。互いに異なる正義と悪を主張している味方同士が平然と主人公を中心にバカらしい日常を送れているところなど現実感なさすぎてるに何故か受け入れやすく感じられた。

 

 いつか自分の理想を「バカバカしい」と笑いながら語り合える仲間たちが得られたらどんなに良いだろうかと、一人で孤独に正義の味方への道を貫きながら生きてきた彼でさえそう思えるほど異なるもの同士がぶつかり合わない味方同士の奇妙な絆絵巻。

 

 戦記物であるはずなのに終始笑わされっぱなしのまま始まって終わった本を腹の上に置いたまま、彼は自宅にある土蔵の中で眠りに就いた。笑い疲れて部屋まで戻る気力が残っていなかったのである。

 小説の登場人物たちに影響されて「なんかもう、どうでもいいかもしれないな~」と適当な気分になっていた感も否めないが、とにかく今宵の彼は久しぶりに思い切り笑い飛ばせて満足していた。

 普段は不機嫌そうな仏頂面が多い彼だが、今夜ばかりは笑顔のまま爆睡している。起きる気配など微塵も見いだせない。

 それこそ、自分の傍らに白い魔法陣が浮かび上がり光が土蔵の中に満ち始め、光の粒子が人の形を取っていき、史郎の右手に奇妙な文様の痣が浮かび上がっていく痛みを感じているはずなのに全然起きる気配がないわ笑顔のままだわで気楽でいい。

 

 

 

 ーーやがて、衛宮士郎の前に一人の少女が顕現する。

 妙にメカニカルなデザインの学生服を纏っている十代半ばほどの銀髪碧眼少女である。背は低く、胸は大きく、顔は美麗であれども茫洋としていて無表情。

 ボンヤリとした印象を持つ外国人の美少女が、爆睡中で腹丸出し状態にある衛宮士郎の傍らに出現したわけだが、それでも衛宮士郎は気がつかないし起きようともしない。

 

 ーー後日、死ぬほどの恥ずかしさでのたうち回ることになる最悪の出会いのシーンであった・・・・・・。

 

 

「サーヴァント、セイバー・・・って、あれ? キャスター? ・・・うん、どうやらダブルクラスとか言う訳わかんない意味不明クラスとして参上したみたいですが、異住セレニア・ショートといいます。以後、お見知り置きをマスター・・・って、寝てますし・・・」

 

 軽く嘆息しつつ後頭部をポリポリかきながら、少女はどうしたものかと考え込む。

 

 人類史において不滅の名声を得た者たちが死後に人類のカテゴリーから除外されて精霊に近い高位の存在にまで昇華されたのが彼女たち英霊であり、人類世界の守護者でもある英霊を生前の逸話ごとにクラス分けして人格諸共に分割することで現世に肉体を持った人間に近い形での再現を可能にしたのがサーヴァントであり、召喚したサーヴァント同士を殺し合わせて最後に勝ち残った一組の願いだけを叶えてくれる願望器『聖杯』を顕現させる大魔術儀式が『聖杯戦争』である。

 

 マスターである召喚者とともに聖杯戦争を勝ち残るため、自分よりも遙か格下の人類ごときの召喚に応じてやってきてやっただけのサーヴァントとしては、殴ってでも起こして詳しい内容を説明してから、自覚と覚悟と参戦意志の有無について確認するのが正しかったのかもしれない。

 

 だが、そもそもにおいて彼女は聖杯を求めていない。

 召喚された理由も彼女自身が強く望んだからではなくて、ただ単に士郎の叶えて欲しいと願った願望『自分の理想をバカみたいに笑いながら語り合える人間関係』を作れるかもしれない可能性“だけ”は持っているのが彼女だけしか居そうになかったからの『消去法で選ばれたせいで拒否権無かった』だけが召喚理由のハズレサーヴァントでしかない以上、やる気もなければ物理で殴りあえる自信なんて少しも持ってる訳がないのである。

 

 結果、『言葉の刃で敵を切りつけ』『魔術みたいに相手の心を変貌させれる』と言う逸話に基づき、最弱レベルの『本物の剣を振るえないセイバー』と『本当は魔術なんか使えないキャスター』と言うどうしようもない駄目サーヴァントとして顕現させざるを得なかっただけの、取るの足らない平行世界から呼び出されてきたクズ英霊。それが彼女のすべてだったりはする。

 

「ほら、マスター。こんなところで寝てると風邪引きますよ? お部屋に戻れますか?

 生前の五十倍の腕力有してますから抱えていくことは可能ですけど、してほしいのですか?

 いくら屋敷の住人に呼び出されたとは言え、許可も得てない内から勝手に家にあがるわけには行かないんですから早く起きて。・・・駄目ですね、やはり。いっこうに起きる気配が見いだせない・・・。仕方がありませんか・・・・・・」

 

 ため息をつき、『これも運命って事にしておくべき事柄なんでしょうねぇ・・・』と諦めたように独白してから士郎の前で女の子座りをし、彼の頭を自分の膝の上に載せて膝枕で彼の頭がコンクリート床にぶつからないようにしてあげる。

 

 そして自分が着ていた上着を脱ぐと腹の辺り一面に掛けてあげて、睡眠を必要としないサーヴァントらしくマスターが起きるまでの間サーヴァントらしく、マスターの世話をしながら過ごすことに当てた。

 

 

 

 こうして衛宮士郎は、些細な気まぐれを遠因として数多の人間たちの知られざる事情と都合で定められてたはずの未来を振り回されまくる『奇抜な運命』に引きずり込まれるが確約されてしまった。

 

 翌日の朝、目が覚めた瞬間に彼が最初に目にするのは今まで見たこともないほど綺麗な顔した外国人美少女の青くて深い双眸であり、豊かな胸と自分より低い身長を持つ少女に膝枕してもらいながら熟睡している自分自身の醜態でもあり、その次に続くのはたまぎる絶叫、全力土下座をぶち構す将来的には正義の味方、痴漢に出くわした女の子みたいな悲鳴に驚いて駆けつけてきた後輩少女のドス黒い怒りのオーラと、自分自身の生き方と夢と理想に対する想定外にも程がある奇妙な形での好評価(?)。

 

 

 何はともあれ、こうして衛宮士郎の運命は盛大に分岐しまくったのである。

 

 

 

 

英霊:異住セレニア・ショート

クラス:セイバー(偽)(もしくはキャスター(偽)でも可)による衛宮士郎とエミヤシロウへの評価。

 

 

「え? 苦しんでる人々を救うための魔法みたいな不思議な力として魔術を学んでいた・・・ですか? あの~、これ言っちゃうと不味いのかもじれませんが、人に知られてはいけない秘匿すべき力を使ってどのような人助けを想定された訓練を行ってこられたのでしょう? 普通に考えて秘匿すべき技術で大勢の人を救おうなんて考えたら、暗殺によるテロリズムくらいしか思いつかないんですけれども・・・?」

 

 

「正義の味方になりたい・・・ですか。良い夢です。壮大な理想であり目標です。是非とも諦めることなく挫折することもなく、まっすぐそれを見つめながら実現するための努力を続けてください。

 夢は完全に叶うことはあり得なくても、叶えるためにと努力して手に入れた力は必ず誰かを救う手助けとなります。それはきっとあなたの世界を救ってくれます。

 全世界すべてを救う大英雄にはなれなくても、自分の救える手が届く範囲すべての人々を守れる小世界の小英雄ぐらいにはきっとなれる可能性が芽生えてくれますから」

 

「夢は叶うと信じて努力すべき物であり、現実的に可能か否かは努力した自分の実力でできるかどうかの実行段階で気にすべき問題ですので、今はまだ考える必要性はありません。

 全力で努力して越えることのできない壁にぶち当たってから悩むべき問題点を、始める前から思い悩むなんてバカらしいだけだと私は思いますが?」

 

 

 

 

「サーヴァントが主を守り、聖杯を手にするため一番確実な手段を是とするのは当然の判断であり行動ですが、もともとの聖杯戦争そのものは魔術師同士による魔術儀式であって殺し合いを目的としたものではない。名誉を求めてと言うのは御三家以外のマスターを釣るための餌だと私は思ってますしね」

 

「ですので私たちサーヴァントは魔術師たち同士が本格的な殺し合いをしなくても済むように代理で呼び出されているだけの助っ人であり、主役はあくまで替えの聞かない魔術師さんたち。それが魔術師たちのよる魔術儀式としての聖杯戦争の正しき在り方だと私は予測いたします」

 

「が、だからと言って聖杯ほしくて呼び出しに応じたサーヴァントの意志をガン無視と言うのも良いとは到底言えません。

 できるならマスターとサーヴァントは互いの意志と遣り方とを伝えあって双方合意できる妥協点を見つけてから戦いに挑むべきだと思いますね。互いにとっての大切な想いが掛かった戦いとするなら、むしろ当然の事でしょう。

 一週間かそこらの短期間しか付き合わない相手だからと割り切りすぎるのは結果的にリスクを増すばかり。短い期間に命を預け合う濃密すぎる時間を共有するのですから、危険を避けるためにも腹の内は早めに割って話し合っておくことをお勧めさせて頂きますよ」

 

「たとえ今は弱く、何も成せない未熟非才な身だとしても、『自分が何もできない雑魚だと知った上で行う努力』は、何もできない現状の自分自身を否定し、壊して越えるために必要な最初の一歩目です。それを『どうせ何もできない未熟者のくせに』と罵倒するのは本末転倒と言うもの。

 自分が未熟であると知ることこそが上達するために必要な絶対条件なのに、その行為を否定して未熟者も何もあったもんじゃないでしょうに、バカバカしい」

 

「別段今の現状が未来永劫続く訳でもないんですから、変えようとする努力が短期間の間に実を結ぶ可能性もあり得なくはないのでは?

 たとえ実を結ばなくとも未熟者が出来ることが増えて選べる選択肢の幅が広がれば、戦術的には今より楽が出来るようになりますよ」

 

「それにまぁーーぶっちゃけ二週間かそこらの修行で目に見える変化って起き得ないのが一般常識ですからね。たかだか二日や三日修行したりしなかったりで変わるはずもないのですから、やりたい人にはやらせておけば宜しいんじゃないかと思います。

 今より悪くなりさえしなければ結果的に対局には影響を与えられません。負けても損にならない賭けは貴重な機会ですし、大いにやらせまくるべきだと私は思います」




*半端者英霊セレニアから見た士郎の『正義の味方感』。

 漠然としすぎていて具体的な形を成していない。守りたい、救いたいと言う気持ちが先走り過ぎていて、正義の敵である『悪』の存在を知覚していて『戦ってでも守りたい』思いは確固として存在しているが実際に敵と戦う事態までは想定しておらず『正義の味方に憧れる純粋無垢な子供の幼いユメ』の域を現時点では出ていない。他人にまで影響を及ぼす『目的』となるには彼の成長を待つ必要がある。――だって本物の精神病患者って、現代日本の精神医療だと治しようがないんですもん。By半端者英霊セレニア。

 要は『純白のシーツのような物』であり、いずれは一番側で使い続けた人の匂いと色に染まり切り、自分の意志だけでは二度と変われなくなってしまう存在。彼本人よりも染める対象にこそ在り方を依存してしまう主体性の無い『子供の正義感』。

 聖杯戦争に関わらなければ純粋に父親を尊敬して努力し続けるだけで一生を終えたであろう、有益とは呼べないが無害で無毒な若者になっていたんじゃないかと言う感じの評価。

 それ故にセレニアは現時点での士郎の夢には『夢』としての評価と印象しか与えておらず、夢に向かって努力している真っ直ぐすぎる少年として比較的高い評価を与えてさえいる。戦いに関わりさえしなければ壊れた心で真っ当に生きて行ったんじゃないのかなーと思えるほどに。

 人の事を思う反面、人一倍他人に影響されやすくて憧れた対象を盲信してしまいがちな、よく言えば今時珍しいくらいにひた向き過ぎる少年。悪く言えば黒く染まった後藤該以。
 セイバーが前回の戦いで失敗して聖杯に執着しすぎる怨霊状態にさえなっていなければ、たぶん良い方向の影響だけ受けてた気がする。
 そう言う意味での間の悪さは、やはりLackが低いのかもなーとも。

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