IS学園の言霊少女(本編終了・外伝スタート)   作:ひきがやもとまち

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最近では戦争ばかり書いてるせいで頭がおかしくなってきてたらしく、正常に戻りたかったので連載当初に考えてた案を幾つか絡めて考えて書いてみた作品です。

当初に考えていた草案だとセレニアのIS学園入学理由が曖昧過ぎていたため織斑計画を絡めてみたのですが、そのせいでまた血生臭くなってしまいました・・・。
つくづく今の私の脳は戦争好きになっちゃってるみたいですね、ごめんなさい。

オリジナル機体の設定と出だしの雰囲気自体は悪くないと思いましたので、とりあえずは出しておきます。本調子に戻りましたら正式に当時の案を再生して投稿したいと思っております。


IS学園の言霊少女シリアス

 ーーカッ、カッ、カッと背後の黒板にチョークで文字を書き殴る音だけが教室中に響きわたっています。

 どう見ても萎縮している在来生徒のみなさん。隣の席の人と小声でヒソヒソ私語したり、なにやら意味ありげな視線を私の方に送ってくる方もいらっしゃるようでしたが事の原因である織斑千冬先生ご自身の口から

 

「状況を説明してやるから終わるまで黙っていれ。異論、反論は一切認めない。さもなくば帰れ」

 

 などと言って、いきなり聞く口を封じちゃいましたので誰もなんにも言い出せない状況に陥っちゃってるのがIS学園1年1組の現状です。

 ・・・いい歳して不良を格好良いと勘違いしている国連直轄組織の長のグラサン親父みたいなこと言い出さないでほしいんですけどね、いやマジで。

 

「よしーー書けたな。全員注目!」

 

 バンッ!と、黒板に右手を叩きつけて大きな音を立てビクッとなった皆さんの視線と視線を集めさせた先に踊っていたのは日本人としては長ったらしいけど、アルファベットで綴られた外国の人の名前よりかは短い氏名。

 

 

『異住セレニア・ショート』

 

 

 ーー私の名前でした。

 

 

「今日から皆とともに学ぶこいつの名だ。病院の検査入院が原因で入学手続きが遅れた結果、一日遅れの新入生と相成った。色々と勘ぐりたがるヤツもいるとは思うが、この際だからハッキリ言っておく。

 “私はそういう行為で劣等感をごまかそうとする人間が殺したいほど大嫌い”だ。その事実をふまえ、覚悟を持ってその手の下卑た行為には手を染めるように。以上だ。

 異住、分かったらお前もさっさと席に着け。授業を始めるぞ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい」

 

 思いっきり返答までに間を空けて意味深な目を向けることが“私たちの間では”苦情というか注意を促す行為として認識され成立しているのですが、ことこれらの件に関しましては私の警告はガン無視されるのが昔からの常でした。

 案の定、千冬さんは私の視線から目をそらして授業の準備を始められ、他の人からは見えない角度から右手を払って「しっ、しっ」と追い払う仕草をなされます。

 

 犬猫と同じような扱い方ですけど、これが彼女なりの気遣いであり優しさなのだということぐらいは理解できている私としましては何も言い返すわけにもいかず大人しく自分の席へと向かうしかないわけでして。

 しかも指定された先にある席もまた、旧知の間柄である“世界初の男性IS操縦者さん”の隣席とあっては私情持ち込みまくりの配慮をしていただいてる事実を思い知ることしかできなくなり、内心で盛大な溜め息を吐き出しながらも唯々諾々と従う以外になくなっちゃうんですよね・・・・・・いつもの事ではありますけども。

 

 

「どうも、はじめまして織斑さん。私の名は異住です。これからよろしーー」

「よろしくな、異住。なにか困ったことがあったら頼ってくれ。できる限り協力してやるからさ!」

「・・・・・・・・・」

 

 高けぇよ、テンションが。初対面の相手に食い気味な対応しすぎでしたし・・・まったくもう、この姉弟は。いい加減、手心ぐらいは覚えてくださいよ。これじゃあ大根とはいえ演技が台無しじゃないですか。なんのための茶番劇だったんですか、さっきからの諸々は。

 

 もう少しこう・・・“心配している相手を特別扱いしない努力”というものをですね・・・

 

 

「ーーでは、授業を開始する」

 

 

 ・・・めっちゃ重々しい口調で狼みたいに目を光らせながら宣言されるIS学園最強教師にして元世界最強のIS操縦者でもある織斑先生。・・・本当に勘弁してください・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私の名前は異住セレニア・ショート。今日からIS学園に入学しました新入生です。

 ーーこれは先ほども申しましたね、失礼。

 

 ISとは《インフィニット・ストラトス》の略称であり、十数年前に起きた『白騎士事件』の折、日本に着弾が迫っていたミサイル数百発と戦艦駆逐艦巡洋艦空母戦闘機とを区別なく大量にぶった切ったり打ち落としたりしたけど、“一人の死者も出させはしなかった”人がまとう機会の鎧というか脚甲と小手を合わせたような形に今ではなってるパワード・スーツのお名前です。

 

 このISが登場してから世の中が変わり、それまでの男性優位社会から女性優遇の『女尊男卑』社会に変貌したのが“この世界の世界設定”みたいでしてね。

 

 私が通うことになったIS学園は、この世界を象徴するような場所であるらしく、IS操縦者の卵たちを一人前に育て上げることを目的とした国立の教育機関であるのだとか。

 

 

 ーーおっと、こちらについては申し上げておりませんでしたね、ご無礼を。では、あらためまして。

 私、これでも一応現代日本から生まれ変わってきた転生者で、元男子高校生“らしい”のです。

 ですからISの世界観について現地人が現時点で持ち得ない情報もいくつかは『原作知識』として与えられています。子供のくせに妙に形式ばった口調でお話しするのもこれらのバックボーンがあるからです。

 このため、小生意気なクソガキにしか見えないでしょうけど、どうかご自重いただけたなら幸いに存じます。なにぶん、前世はひねくれまくった屁理屈高校生“だったようです”のでね。

 

 

 “らしい”とか“だったようです”とか自分のことを他人事のように語ってしまってごめんなさい。どうにも実感が曖昧になってる物ですからつい・・・・・・ご無礼の段、平にご容赦を。

 

 実のところ私には記憶がいまいち曖昧な部分がありましてーーと言うわけではなくて、記憶はしっかり残ってます。

 自分のことも他のことも、してきたことも見てきたことも体験したこともされたことも含めて全部を、覚えきれる範囲までに限ってはちゃんと覚えておけてます。記憶の磨耗もありますけど、大部分は意識して残してあると確信できてます。

 

 

 ただ、自分がない。

 

 

 自分が自分であるのは確かなのに、どう言うわけだか自分の心と魂が自分の物であるという実感が持てなくて優先順位がいつも下がりがちになり、自分以外の方々の目には自棄的としか写りようがない人助け行為を繰り返してしまい事故や怪我で入院することが多いのが今までの私が生きてきた今生での人生です。

 

 リスクコントロールが出来ていないのではなくて、自分より相手の方が比重を重く感じてしまう。

 自分が自分だという実感が沸かないから命の重さが曖昧になり、何も感じられない自分は消えてしまっても大した問題はないように思えてしまい、怯えの感情を見せている赤の他人の方がまだしも生きる価値があるのではないか?

 

 そんな風に考えてしまった結果、交通事故から庇ったり、人が殴られそうになってるところに割って入ったり、非道だと感じた行為をする人には「殴りたければ殴ればいい」として面と向かって責任追及したりと言った子供の身には余る行為を乱発してしまう悪癖が今の私には条件反射のレベルで刷り込まれてしまい意識しても止められなくなってる現状にあるのです。

 

 これが原因で学園入学前の前日にも怪我を負ってしまい、軽傷であるにも関わらず検査入院させられるという大げさな事態を招いてしまったりもしました。まぁ、今までが今までなんで心配されすぎるのも仕方ないことなんでしょうけどねー。

 

 

 

 

 

 

織斑千冬の日記

 

 ーー今日、束のヤツが気を回してくれたのか、私のクラスにセレニア転校されてきた。何年も合っていないが、アイツはアイツで負い目を感じているという事なのだろう。

 無論、それは私も同じだ。時折、吐き気が我慢できなくなるほど自分で自分が憎たらしくて仕方なくなる。

 

 ・・・アイツと出会ってから十年近くになる。

 白騎士事件の残響、ISが産み落としてしまった社会の歪みの象徴、“あの忌まわしい計画の名残にして”生存している唯一無二の実験体。そして“失敗作”でもある銀髪の少女・・・。

 

 アイツの顔を見る度に自責の念で胸が張り裂けそうになる。頭がおかしくなるかと思えるほどだ。

 先日など転校手続きの書類審査を行った政府の役人から、

 

「この程度の適正値で学園へ入学させるのは、IS学園の品位と権威に傷を付けるだけではなくて?」

 

 ーーと告げられ、思わず発狂し殴り殺してしまいそうになった。

 まったく、奴らは何も分かっていない! いや、そもそもアイツら下っ端には何一つとして知らされてなどいないであろう事はわかるのだが、どうにも自分の中で収まりが付かないのだ。

 それは束のヤツも同様らしく、なにやら『面白い機体』を送ってくるとメールが届いていた。名義は日本のIS企業とされてはいたが、どうせ束の用意したダミー会社か研究所からの物だろう。アイツのことだから付随して妙な計画をも立てているのだろうが知ったことではない。

 セレニアの学園内での地位が上げられるのであれば何でもいい。利用してやるまでだ。

 

 

 ・・・・・・あれから十年近くか・・・早いものな気がするし、長すぎるほど苦しい日々だったようにも感じられる。

 

 見つけたときには即座に束の作った救命カプセルに放り込まなければ死亡は確実だった骸骨みたいな身体をした子供が、今や成長著しく大きくなり・・・・・・いやまぁ、背丈はあんまし伸びてはいないが、胸だけは大きく立派に育ってくれているのだし女としては成長している。嘘は付いていない。嘘じゃないから由としておこう、うむ。

 

 

 ーー一夏もそうだが、私はセレニアのことも守ってやらなければならない身だ。なにしろアイツは“私たちがやらかしてしまった”バカ騒ぎで一方的に被害を被った被害者なのだから。巻き込まれただけの一般人なのだから。私や一夏とは違うのだから。

 幸いなことに一夏は心も体も強く成長してくれた。アレなら遠からず私の助けや守りなど必要としなくなってくれると確信できる。信じられる。

 

 ーーだが、セレニアはダメだ。やはり“予測していたとおり”ダメだった。

 

 計画に無理が合りすぎたのだ。あんなもので上手くいくはずがない。あんな理論上の可能性を示されただけのオママゴトで“あの忌まわしい計画を再現すること”など出来るわけがない! なのに! 奴らは! 世間は! あの計画を知らされてない連中は!

 

 平然とあの計画は終わったものとして処理してしまっている!

 タバコの煙は本体さえ吸い殻に押しつけて鎮火してしまえば無意味で無価値な無害なる物に変化するものと思いこんでしまっている! 最低だ! 反吐がでる!

 あの計画は大本を潰したくらいで消滅してくれるほど小さな代物ではなかったのに!

 

 

 “人の手で完璧な人間を作り出す”狂気のプロジェクト。かつて私が全力を持って潰した計画。

 それは、関係者を含めて開発データを丸ごと消去しただけでは収まらず、ドイツに渡った分の事後処理のため一年近く一夏の元を離れる必要性があり、道中を含めた多くの場所で疑似的に再現しようとしている輩を見つけたときには研究所ごと木っ端みじんにしてやることで過ごした、有意義ではあったが不愉快極まる一年間であり、あの一夏を思わせるバカが側にいてくれなかったら私も相当に参っていたであろうほど酷い物だった。

 

 今ではドイツ軍少佐の階級を得たと聞くし、間違っても半端物が集まり訓練を施す目的で作られたIS学園に来ることなどあり得ないと思うが、もし万が一にも何かの間違いで来てしまったときには甘やかしてしまうかもしれないな・・・。最近の私って、子供に甘くなりすぎてるからなー・・・。自重しよう。

 

 

 ーー本場日本ほどではなかったが、やはり一度根付いた計画の悪影響は根を絶ってもなお残響として人々の記憶に残るらしい。

 

 

 『プロジェクト・モザイク』。

 その残照は当時の日本とドイツにおいて半ば都市伝説化し、各地で模倣犯どもを生み出すと言う最悪の結果を招いてしまっていた。束から話を聞かされた私は、それを潰して回りたいと言う個人的願望とも相まってドイツへ来訪。

 軍隊に協力することで私も協力を得やすくなり、効率よく各地のカルト教団やら自称魔術結社やら「国家のために!」とかほざいていたキチガイ政治屋どもを次々と檻の中へ叩き込んでいくことに精励した。

 

 ーーまったく! どうしてああいう奴らは「人類の未来のためだ」「科学に犠牲は付き物だ」「私はすべて国家のために!」と言い訳しなければ人も殺せない臆病者の分際で自分より弱い者たちを一方的に殺したがるのだ! 反吐がでる!

 

 そんなに殺して悦しみたいなら貴様等自身を殺すがいい! それが真の意味で「人類と国家のため」になる! 死にたくないなら人の命を奪おうとするな! 気色が悪い!

 

 

 ・・・だが、それでも奴らは所詮、カルト集団の域を出る者ではなかった。『白騎士事件』で見せた束の圧倒的な力に心奪われ「恐怖の大王タバネ様!」などと叫んで変な御神体を祀って崇めたてるキチガイ共に過ぎない。

 「戦争放棄」と「女尊男卑の台頭による男尊女卑の衰退」により暴力を寄る辺にしていた一部男共が己の加虐心を満たすための口実に使っていただけで、本当の意味でトチ狂ったキチガイ科学者たちが混じっていたケースはほとんど見られなかった。

 

 だからこそ私も束も油断していた。人の心の醜さなど、私たちが誰よりも知悉し把握しているものだと思い上がり警戒心をゆるめていた。

 

 だが、居たのだ。人間たちの中には本当にどうしようもないほど狂った連中が。

 経過に寄らず、手段もめちゃくちゃで順序さえも適切でなくとも『結果的に正しい答えに行き着くこと』が出来てしまうキチガイ共が。

 

 

 それは、日本で進められていた計画とドイツのプロジェクト推進者たちからあぶれた食み出し集団があつまって計画していた新プロジェクトで、『天然の祖体である束が発見されたことで凍結された、完全なる人間を人の手で生み出す計画』を『束の作り出した最強の存在ISに、脆弱な肉体しか持たないがエネルギー補給が可能で自立進化する生命体「人間」を組み込みISの力を持った完全なる人間ーー『超人』を作り出そう』という最低最悪すぎるほどに頭のイカレたプロジェクトで、「順序と順番が完全に逆転しながらも結果的に正しい答えに至ってしまっている」と、束に歯ぎしりしながら悔しがらせた狂気の産物である。

 

 

 当初、彼らは凍結された計画を元に人造人間を作り出してコアとするつもりでいたようだったが、データが足りず施設も閉鎖されていたので別の場所から既存のものを用立ててきた。

 

 優秀なIS操縦者たちの遺伝子を使ってクローンを作り出していたのである。

 

 ーーだが、これは計画当初から失敗に終わるのが分かり切っていた計画でもあった。「願望器であるISと同調させるには、身体よりも心の方が重要だから」と束が言っていた通り、出来上がったクローンたちは最高でもCランクまでしかIS適正を有しない失敗作ばかりであり、おまけに当時の技術限界から寿命が短く半年も持たないまま肉体限界を迎えて廃棄処分されて行っていたらしい。つくづく反吐がでる連中だった。

 

 

 そうして疑似生命による完全なる人間への到達をあきらめた彼らは、次の計画に移る。私的には、これこそ真に最悪とよぶべき計画なのだが、奴らにとっては「妥協案」だったらしいのだから本当に人の心というのは腐ることに限界はないのだと実感させられる。今後は今までよりも更に厳しい精進を私と一夏に施さなければ。

 

 

 奴らの第二計画の全容は『強力なエネルギー発生装置でありながら、消耗が激しく稼働時間が短いのが欠点でもあるISの心臓部ISコアを、人間の心臓と入れ替えることでエネルギーを自給自足させISの力を発揮できる人間に作り替えてしまおう』という先の計画以上にトチ狂った真の最低最悪底辺プロジェクトだった。

 

 

 さすがの束もここまで人が狂えるとは予想していなかったらしく、発見と対応が遅れ、気づいたときには実験体第1号の開発は完了してしまっていた。

 

 それを知った私は、施設内にいる全員を斬り殺すつもりで乗り込んでいったのだが、束がいらぬ気を回してくれたせいで全員が身柄を拘束されて気を失い、猿轡を噛まされた状態でお出迎えされるという怒りのぶつけようがない結果に終わり、私は舌打ちしながらも刀を鞘に収めてから束に「余計な気を使わんでいい」と書いたメールを送りつけてやった。

 

 まったく、あのバカ兎目は余計なまねを・・・・・・これで私はアイツに対して負い目ばかりを感じなければならなくなっているではないか。デカすぎる借りをどう返せばいいのだ? ・・・そのうち奴から「一回ぐらいの不法入国は見逃してよ、ちーちゃん♪」とかメールが来ないことを切に願うしかない。断りきれる自信がないから・・・。

 

 

 ーーこうして私たちは施設から実験の第一号体である少女を保護し、『セレニア』と名付けて私の家に匿い、束の情報操作とハッキングによって偽の戸籍を入手することにまで成功したのだが、一つだけ大きすぎる問題が残っていた。

 

 その後の束の調査により、私たちを模倣して造られた存在セレニアは、歪なまでに機能を限定されて私たちに近づけれるよう設計された開発母体であることが判明したのだ。

 アイツは文字通りの計画一号体、機能のテストとISコアとの適合が可能か否かを調べるためだけに造られていた試作品に過ぎなかったんだ!

 

 

 ーーセレニアには私たちの持つ機能の内、一つだけを再現するためにISコアが使えるかどうかが試されていた。

 

 その一つとは、『修復』。

 傷ついた身体を驚異的な速度で癒してくれる、人間が持つ自己修復機能を最大限以上にまで引き出してしまえる悪夢とよぶべき能力だ。

 

 これがもし、人の限界を超えた完全なる人間として生み出された存在が持っていたなら問題はない。少なくとも個体としての生命活動においてであるなら便利なだけで済んだだろうし、社会で生きていく上でもバレさえしなければ問題にはなるまい。“私たちと同じように”。

 

 だが、セレニアは所詮、私たちを模して造られた偽物でしかない。失敗作なのだ。肉体面での全てにおいて私たちに遠く及ばない普通の人間の身体で“完全なる人間の真似事”などしようものなら、どのようなリスクを負わされるか考えるまでもないことである。

 

 奴は確かに修復能力を有している。

 年がら年中怪我して帰ってきてるのに、それでも“ちゃんと生きて帰ってこれている”事実こそが、セレニアが疑似モザイクプロジェクトの半端な失敗作として完成していることの証なのだから、それについては間違いない。

 

 問題は機能に伴う副作用にある。身体の傷を治すために限界以上の力を有限の肉体から引き出すために心臓部になってるISコアは、セレニアの全身から傷を治すのに“必要でない”エネルギーをかき集めて補填させてしまおうとする。

 

 その結果、修復直後のセレニアの身体には様々な異常が見つかっている。

 筋力の低下にはじまり、ウィルス耐性の一時的な欠乏、記憶障害、悪いときには昏睡・・・これらの負担と修復機能の獲得とでは割に合わないにも程がある。

 

 

 おまけにセレニアには心臓をISコアに入れ替えて事により『別の人間の記憶』が埋め込まれ、元の人格との間で板挟み状態が生じ『自分が自分であるという認識』が持ちづらい心境に陥ってしまっているらしい。

 束が言うには「心臓移植手術をおこなった患者に希にみられる症状」らしいのだが、科学的根拠があるものではないから研究が進まず解決策も考案できていない様なのだ。役立たずめが!

 

 

 ・・・これらの事情が重なった結果、私はセレニアを出来る限り危険からは遠ざけて生きていかせる予定でいたのだが、当の本人は親の心子知らずに人助けに邁進し自己犠牲しまくって帰ってくると言う一夏以上に頭の痛い少女に成長してしまい、一年間家を空けて自立を促してみたのも見た限りでは全くの無駄骨だったようである。本当に、育ての親としてはキツい・・・。

 

 

 せめて普通の学校に通わせられたらまだマシだと思っていたら、一夏が受験会場をアホな理由で間違ったことによりIS適正が見つけられたことで今までのIS概念が崩壊し、ついでとばかりにセレニアにも検査が施される可能性が出てきてしまった。

 

 こうなっては止むを得まいと、私は二人のIS学園入学手続きを申請し、受理された。一夏の方は束の伝手もあり倉持技研から《白式》を回してもらえる運びとなったが、問題はセレニアだ。

 アイツの性格上、学内での地位が低いままなのは非常にマズい。なんとか専用機を手配したいところではあったが、あいにくとアイツは適正を持たない少女にISコアを無理矢理埋め込んで適正を持たせてただけの出来合い品。

 おまけに合併症を起こしており専用機のコアでありながら適正値はEという、史上最低値を叩き出す偉業を成し遂げてしまっている。どこの企業も研究所も開発用にISコアをほしがり、引く手あまたの現状にあって『落ちこぼれ確定』の少女に貴重な専用機を用意してくれるはずもなし。

 

 どうしたものかと頭を抱えていたところに届いた束からのメール。それが先ほどの『面白い機体』の件である。

 

 

 

「ふふふ・・・あのバカもたまには良いことをするじゃないか。今度うまい物でも奢ってやるとしよう」

 

 

 ーー完全に学生気分に戻った心地で束からの新たなメールが届けられるのを、今や遅しと待ちわびている千冬の携帯が鳴り響き、ワンクッションも置くことなく画面を開いて文章を食い入るように読み進めていた千冬の表情が徐々に強ばっていく。

 

 最後まで読み終えたころ、千冬の表情は一夏の恐れる“ソレ”になっており、殺意すら滲ませた冷え冷えとした凶眼で一言だけつぶやく。

 

「アイツ・・・・・・・・・いつかコロス」

 

 

 

 からん、と音を立てて床に落ちた携帯の画面に書かれた文章は、この角度からだとこの部分だけ見ることが出来ていた。

 

 

 

『強行偵察及び情報分析型IS《三成》。紙装甲な上に固定武器はつけてないから適当にある既存兵器を乗っけといてー。

 敵の情報をみんなで共有するために自分の身の安全を無視しなきゃいけない機体だよ!

 一人は皆のため犠牲になり、皆は一人を犠牲にしたくないなら必死にチームワークを守ろうね♪

 レッツ献身、忠誠、自己犠牲! すべては他人のためにあり!!

 ぬぁ~んちゃって~♪』




訂正と謝罪:

『偵察機』と銘打ちましたが、現実に実在しているタイプの機体ではなくて『ザク・フリッパー』等の偵察用MSを連想して設定を考えたため既存の偵察機の概念とは異なる機体が『三成』となっています。紛らわしくしてしまい申し訳ございません。


基本的には数が揃えられず、戦争にも使えないISは単独での戦闘で勝利を得るための強さが求められているのが原作でのIS設定。
『三成』は単独では何も成せない役立たずな機体ですから一対一の試合などでは参加することそのものが不可能に近く、『個の強さ』が重要となる類のレースにも参加は難しいでしょう。

使い方が限定され過ぎてて操縦者自身がどう使うかが問われる機体、みたいな感じに設定されてる機体となっております。

また、今話におけるセレニアの虚弱体質設定は『織斑計画』がらみで付け足したものであり、本来の専用偵察機バージョン言霊ISでは存在していなかった設定です。
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