IS学園の言霊少女(本編終了・外伝スタート) 作:ひきがやもとまち
時間軸的にはシャルロットの正体が露呈して、一夏が特記事項を持ち出した後にセレニアの部屋まで来たという設定。少し柔らかめな原作アンチとなっております。
次回作につなげられたらいいんですけどねー。
「・・・・・・・・・・・・・・・はぁ」
六月中旬の夜五時過ぎ。
寮の自室で一人本を読んでいた私は、突然の来訪客から突然にカミングアウトを聞かされて目をパチクリさせられました。
「・・・つまり、デュノア君ーー失礼。デュノアさんは男性ではなく実は女性で、家の事情から親に利用されIS学園に送られてきた。それが織斑さんにバレてしまったから自首するしかないところを校則に明記されている特記事項を使って切り抜ける策を思いついたから、私にもそれを補填してほしいと。ーーそういうことで宜しいですかね? 織斑さん」
「ああ、それで問題ない。とにかく俺はシャルルを助けたい。その為には入学してから猛勉強して暗記した俺の記憶だけだと心許ないんだ。確実にシャルルを助けるためには、どうしても法律関連に詳しい奴の助けがほしい。だから、協力してくれセレニア。この通りだ」
「それはまぁ・・・別に構わないんですけども・・・・・・」
ほっぺたをポリポリかきながら釈然とした思いを抱かざるを得ない私です。
引き受けるのはやぶさかではないとしても、それならそれで私からも疑問の一つぐらいは聞いてみたって罰は当たらないでしょうから訊いてみましょう。
「その前に一つだけお聞きしたいのですが・・・なぜ私の元へ? 校則について詳しく知りたいなら姉である織斑先生のところへ行った方が確実だったのでは?」
「え?」
「いや、ですから織斑先生ですよ。IS学園の警備主任なわけですから当然、校則にだってお詳しいでしょうし、国際色豊かな学園の校則に詳しいなら特記事項についても色々お知りのはず。聞いておいて損はない相手でしょう?」
「・・・??? なに言ってるんだお前? 千冬姉に相談したりなんかしたら一発でバレちまうじゃないか。親の会社を出し抜いてやろうって時に先生頼ってどうするつもりなんだ?」
「・・・逆にお聞きしたいのですが、なぜバカ正直にデュノアさんのことを全部白状されること前提で織斑先生への相談案を否決されたのか理由をお伺いしたいです・・・」
「いや、だってーー」
「別に特記事項について聞くだけなら相手が先生であろうと姉であろうと構いませんし、白状しなければならなくなったら即座に撤退すれば済む話ではないですか。
なにも一度相談を持ちかけたら最後まで全て語り尽くさなければならない義務があるわけでもないですし」
「「・・・・・・・・・」」
沈黙して(゜д゜)ポカーンと口を開けて間抜け面をさらすお二人。・・・この人たちって本質的に人を出し抜くとかの行為に向いてない気がするのは私だけでしょうか・・・?
「い、いや千冬姉はああ見えて鋭いところあるから俺の嘘に気づくかもしれないし・・・」
「だったら山田先生でも他の先生でもIS学院教員でさえあれば誰でも宜しかったではないですか。教師が生徒の疑問に答えるのは義務の範疇です。あまり一般生徒には知られていない特記事項であるなら尚の事。勉強熱心と言うことにして、「恥ずかしいから姉には内緒でお願いします」とでも言えば何とかなったのでは?」
「「・・・・・・・・・・・・」」
(゜д゜)ポカーンとした間抜け顔リターンズです。この時点で私の元に来た理由は推して知るべしと言ったところ。
要するに私のことを普段の調子から「頭いい奴」とか思いこんで「知識が必要なときは頭いい奴のところに行けばいい。ちょうど良いのがいるじゃん。セレニアだ」みたいなノリで来られたのでしょう。・・・私、出来杉クンじゃないんですけどね・・・。
「・・・それからデュノアさん」
「は、はい!?」
シャルル・デュノア君もとい、シャルロット・デュノアさんは私から声をかけられた途端ビクッとなって過剰に反応し、恐る恐ると言った体で私の方を上目遣いに見つめてこられます。・・・彼女の中で私は、どんなイメージ持たれてるんでしょう・・・多少ですが気になります。
「貴女も本気で正体バレたくなくて刑務所にも入れられたくなくて性別隠し通す気があるのなら、せめてシャワーの時ぐらい施錠を厳重にし、秘密保持に注力する努力をしなさい。
根本をたどれば貴女のお父上に問題があるとは言え、引き受けた以上は貴女にも一定の覚悟と決意があったはず。なあなあの適当にやって「バレたから仕方ないよね、自分には選ぶ権利がないから」は無責任にも程があります。
『自分は望んでここに来たわけではないから』と適当に嫌々やるくらいなら事の最初から警察に出頭していれば済んでいた話なのです。反省してください」
「う・・・ぐ・・・ご、ごめんなさい・・・」
素直なデュノアさんは殊勝に頭を下げられましたが、逆に織斑さんの方は私の言に激高して噛みついてこられました。シーソーみたいな方々ですね、あなた達って。存外ヒロイン勢の中で一番相性が良かったりするのでは?
「おい、セレニア。それじゃあシャルロットが可哀想だ。悪いのは自分の子供だたからってだけで勝手な事情を押しつけて、娘を道具に使う父親の方だろうが。こいつは被害者なんだぜ?」
「それは分かっています」
「だったらーー」
「父親の犯した罪が子に及ぶのはナンセンス過ぎますけど、父親の言いなりになるしかなかったからと言って、スパイを引き受け実行してきたデュノアさんの犯した罪まで押しつけるわけには行かないでしょう?
親だから、子だからと言う理屈だけで責任の所在を押しつけ合うのは互いにフェアとは呼べません。親が犯したものも、子が犯した分も罪は罪。犯罪行為に他ならないのですからね」
「・・・・・・ぅ」
正義大好き、犯罪者はノーサンキューな典型的日本人思考を持つ織斑さんが顔をしかめられます。普段は理屈が嫌いな方ですけど、こういう類の正論には弱いあたり根っからの正義の味方タイプなんでしょうねー。
「まぁ、それらがなかったとしても異性と同室になった年頃の娘がシャワー浴びるときに鍵かけないのはどうなんだろうなとも思いますけど」
「・・・・・・(////////)」
あまりの恥ずかしさで赤面どころか、お顔が真っ赤なタコさんに茹で上がってしまわれたデュノアさんは置いとくとして、織斑さんの正義感には『自分が助けたい人以外が存在しない』矛盾点についてです。
今回にしたってそう。デュノアさんを助けたいという気持ちに嘘偽りはみじんも存在しない反面、どうにも真っ正直すぎて視野が狭まり自分の行為が正義と信じて突き進みすぎてしまい、最悪の未来が予測できていない。あるいは、考えてもいないのでしょう。
間違いを正すことだけで頭が一杯になり、正しさが正しく報われて終わる未来しかエンディングに用意していない。こう言うところは篠ノ之さんたち恋愛脳な方々と奇妙に一致してるんですよねー、この人たちって。
「それから織斑さん。どうにも勘違いしてらっしゃるように見受けられますが、デュノアさんのお父君であらせられるデュノア社長は、なにも自分一人のために娘であるシャルルさんをスパイに仕立て上げたわけではないと思いますよ?」
「は? なんでだよ、だってそいつは自分の会社を守るために娘を道具にして使い捨てようとしたんだぞ? それのどこが自分に為じゃないって言うんだ。自分の為じゃないならいったい誰のためだって言うつもりだよ」
「そりゃもちろん、デュノア社の社員さんたちと彼らのご家族たちすべての生活と未来の為ですよ。会社経営者として、大勢の命と人生を預かる組織の長として我が子と同等に考えなければならない事なんて他には存在しないでしょう?」
「「・・・・・・・・・」」
(゜д゜)ポカーンとしたサード。以下略です。
「か、家族まで・・・?」
「はい、当然でしょう? 世界第三位のシェアを誇る企業に勤めているという事は、順当に考えてその方が一家の収入源であり大黒柱であり稼ぎ頭です。
お給料も相当に良いのでしょうし、所得に応じて子供や家の将来設計を立てておくのは家族を養う者にとって基本中の基本。
稼ぎ頭が失業して収入が激減したら今までの生活も将来設計もすべてがオジャンになってしまいますので気を使うのは当然です」
至極当たり前の常識話をしているだけなのですが、どういう訳だか目の前に座るお二方の頭がフラフラされてきました。何故に?
「社長ご自身には、娘さんが一人だけしかいないかもしれませんけど、外国人の家族であるなら大勢養ってる社員の方もおられるかもしれません。妊娠している新妻と結婚式を挙げたばかりの新入社員さんだっているかもしれませんし、生まれたばかりの我が子の将来を願いマイホームをローンで購入したばかりの方もおられるかもしれません。
あと、それからーー」
「ちょ、ちょっと待ってくれセレニア。いくら何でも話を大きくしすぎている気がするんだが・・・」
「そ、そうだよそうだよ! 一夏の言うとおりだよ!
僕たちは子供なんだし、子供の進退ぐらいで会社の人たち全員と、その家族にまで累が及ぶなんて事態はおきるはずないよ! ね? そうだよね一夏? そうだよね!?」
「う・・・。お、おう。そうだなシャル・・・はは、はははは、ハハハハハハハ・・・」
自分が子供だと認めたくない織斑さんに、すがるような無垢なる瞳で防御不可能なダメージを与えてくるデュノアさん。案外この人、悪女の素質有りなんでしょうか? つき合い方を再検討する余地ありそうです。
「なにを仰っているのですかデュノアさん? もともと貴女の証言がもとになって行われている議論だったでしょうに。『デュノア社は経営危機に陥っている』と。
違法を承知で他国にスパイを送り込むほどですから、てっきり貴女の言う『経営危機』とは会社が倒産するか売るしかないかの瀬戸際ぐらいになってるものだとばかり思ってたんですけど、違いましたか?」
「そ、それは・・・・・・そうなんだけど・・・・・・」
尻すぼみになっていくデュノアさん。そこで私の記憶巣が刺激され、一つの情報が思い出されました。
(・・・そう言えば、この方さきほどご自身のことを『愛人の子だった』と仰っておられましたね。そして現社長婦人から『泥棒猫の娘が!』と罵られた経験がおありだとも)
普通に考えるなら一流企業の社長に愛人がいること事態が大変な醜聞になりえるスキャンダルです。
国によっては愛人にするより堂々と自宅に抱え込んだ方が印象が良くなるぐらいに『愛人』と言う言葉の響きは宜しくない。ならば世間から隠れてヒッソリと暮らしていたと見るべきでしょう。
娘を養うために就職する際、堂々と使ってしまうには『世界第三位のシェアを誇るIS企業』と同姓なのは目立ってしまうことこの上ない。
ぜんぜん隠れて暮らせませんが、彼女は自分の名を名乗るときに姓で言い淀んだことが一度もない。これは離婚後も旧姓を使っていたと考えて良いのではないでしょうか?
だとしたら悪目立ちする姓を名乗りながらも就職できて暮らしていける土地・・・貧しい労働者たちが集っているフランス中部あたりに居を構えて母娘二人、貧しくとも心は豊かな生活を送ってきたからこその聖女じみた聖々と豊かな母性。そう表現すべきなのかもしれません。
しかしーーーー
「・・・・・・ご自身がお金の問題で苦労されてきたからと言って、自分の苦労を過剰に意識しすぎるのも持ち上げすぎるのも感心しませんよ? デュノアさん」
「ーーーっ!!!!」
急激すぎる激しい反応。・・・これは・・・当たりですか・・・。
「はぁ・・・・・・」
思わず吐息してしまいながら私は赤面してたまま俯いて顔を上げようとはしないデュノアさんから一度視線をはずし、心配顔の織斑さんへと体ごと向けなおしました。
「それはそうと織斑さん。先ほどは確認し忘れていたのですが、あなたは彼女に学園校則特記事項第二一条を用いることで窮状を打破するよう勧められたとお聞きしましたけど、確かでしょうか?」
「お、おう。そうだぜ。だってそれが今できる最善手だからな」
最善手。そう言って、自覚のない『無責任きわまる決定』を平然と行おうとしてしまうところに彼という人間が持つ歪さを改めて感じ取りながら、私は彼に話の続きを促しました。
「これは使えると思うんだ。だって、この学園にいれば少なくとも三年間は大丈夫って事だろ? それだけあれば何とかなる方法だって見つけられる。別に急ぐ必要ないだろ?」
「・・・・・・・・・」
「まぁ、それに何だ。もしダメだったとしても俺が何とかしてみせるさ」
『それだけあれば何とかなる』『なにかあっても何とかする』ーーです、か・・・。
「・・・・・・・・・・・・・・・『何とか』って、なんですか。『何とかなる』って、なんですか。
他人事だからと言って、あまりにも無責任すぎる放言だとは思われなかったのですか? 織斑さん・・・」
「せ、セレニア・・・?」
目を丸くして私の変貌ぶりを見つめてくるお二人。
ーーああ、でもダメです。耐えられそうにない。こう言うのは本当にダメなんですよ私には特に。
「何とかするもなにも、貴方になにが出来るできるというのですか織斑さん。あなたは所詮、現時点では『世界ではじめてIS適正が見つかった男性』でしかなく、縁故もあって世界中でも数少ない専用機を当てがってもらっただけの新入生に過ぎない身なのですよ?
そんな、ISを使えるようになった事以外には以前までと何ら変わらない普通の少年が『たった三年間』で、いったい何ができるようになると言うつもりなのですか」
「・・・・・・それは・・・・・・」
「それとも『今の自分は子供だから何もできないだけで、大人になりさえすれば今できないことは何でも出来るようになる。間違ってても正せるようになるのが正しい大人になることだ』ーーとでも思っておられるのですか? だとしたら大人に対して夢を見すぎです。
ハッキリ申し上げますが、無理ですし不可能です。子供時代の延長線上に大人という年代があるだけな以上、今からやろうと努力してないことは大人になったって出来るようにはなってません。大人とは、子供と違う別の生き物というわけではないのですから」
「・・・・・・・・・」
「仮に三年かけて必死に猛勉強し、法律関係の資格を取り、彼女を合法的に守り抜けるだけの未来を想定した上での発言だったら私もこのようなことを言ったりしません。
でも、先程の貴方の発言からは『何とかなること前提』で言ってただけの無責任ぶりしか感じられませんでした」
「・・・・・・・・・」
「自分が救いたいと思い、友達を救うことが出来ない自分の弱さを許すことが出来ないから、ただそれだけの手前勝手な理由で彼女の未来を良いものになると仮定した上での発言に何を感じろと言うのです? どんな重みがあると言われるのですか?」
「・・・・・・・・・」
「私は相手の未来に対して責任を負う気がないのに『お前のためだ』などと言って助言してくる人間を心底から軽蔑します。
相手を救うというのであれば、相手の人生に影響を与える発言をするというのであれば、最後まで付き合い抜く覚悟をしなさい。
全てを背負い込む覚悟が出来ないと言うなら、今すぐこの場で彼女の抱える諸問題から手を引かれることをお勧めさせていただきますよ。それが互いの為でもありますから」
「そんな・・・そんな勝手は許されない! 今の自分が弱くて何もできないからってだけで、困っている友達を見捨てるのが正しい選択な訳ないじゃねーか!」
「当たり前です。人を見捨てる選択が正しいだなんて、そんなトチ狂った理屈が成立するはずないじゃありませんか。どんな理由があったとしても人を見捨てるのは良くないことです」
「だったらーー!」
「ですが、結局最後には『お前自身が決めることだから』と突き放すぐらいなら、最初からそうしていた方がまだしも誠実です。少なくとも自分の言葉で下手な希望を与えるような不実は犯してませんから」
「!!!!」
「相手の人生に影響を与えるとはそう言うことです、織斑さん。理由などはどうでもいいですし、自分が出来なかったからと他人に自分の抱いていた夢を委ねるために助けるのだって悪くはないでしょう。
ーーですが、中途半端はダメです。半端に助けて、助けられる範囲までしか助けない。自分に依存させておきながら、自分に相手を守りきるための能力を養う努力をする気がない人間は、最終的には『泣いて馬謖を斬る』結果を招きます。
自分が助かるために嬉し涙を滂沱のように流しながら馬謖を斬る、最低最悪の人間に。すがる者のいない状態で救ってしまった相手には、そう言う相手について行くしかない心理状態になるものです」
「だからって・・・・・・だからって今目の前で泣いてる奴を見捨てるのは人として以前に男として最低だ!」
「救うことの出来ない自分の弱さを認めることの出来ない『女々しい男』よりかはマシでしょう?」
「くっ・・・!!」
悔しげに唇をかむ織斑さんには悪いと思いながらも、私は今回の件で彼になにかを守ってもらいたいとは決して思わない。
思いたくもないですし、その様な行為でデュノアさんの未来を救いうるとはどうしても思えなかったからです。
「ーー立ちなさい、デュノアさん」
「え?」
突然に声をかけられたせいか、彼女は惚けたように私を見つめ。次いで椅子から立ち上がった私を見上げる形で(゜д゜)ポカーンとーー以下省略。
「ーー貴女はどうしたいのですか?」
「・・・え?」
先ほどと同じ返し。でも、答える前に一瞬の間が存在していたこと。これが一番大事で、一番違っている部分です。
「今回の件での当事者は貴女です、デュノアさん。この場に限らず学園全体を足したとしても貴女だけが当事者なのです。今現在発生している貴女の正体露呈にかんしての被害も収益も利益も貴女一人が被り、手に入れる権利を貴女だけが有しているのです。
私も織斑さんも貴女のくだした決断をサポートすることは出来たとしても、貴女の代わりにはなれません絶対に。母を亡くした貴女は既に天涯孤独の孤児なのですから・・・」
「・・・っ!!」
「お、おいセレニア! 今そのことを言うのはーー!」
織斑さんが先の怒りも忘れ、慌てたように叫び声をあげられましたが、これは必要な儀式です。止めるわけにはまいりません。
彼女の意志の欠如の原因ーーおそらくですがーー母の死を受け入れられていないと言う、居なくなって二度と帰らぬ者への依存心を乗り越えてもらうための第一歩として現実を認めさせることは避けては通れぬ道なのです。辛いから、可哀想だからと痛みから避けさせて甘えさせるだけでは依存の対象が母親から名義を変えるだけのこと。結局はその対象に母親を重ね見たまま死人とともに生きていく人生を送ることになる・・・そんなのは一度死んだものとして絶対に看過できるものではありません。
「・・・どうしたいも何もないよ、セレニア。僕にはそんなの選ぶ権利なんかないし、どうせ言ったところで望んだところで叶えられるはずがない。そうでしょう・・・?」
「そうかもしれませんね」
あっさりと私は首肯を返します。事実ですからね。『そんなことはない』なんて、何の力ももってはいない無力な子供が使うべき言葉じゃありません。私が言うべきなのは、もっと別のことです。
「ーー貴女の隣には今、誰がいますか?」
「え?」
再び同じ返し。今度は私も同じ事を彼女にします。先のと同じ問いを繰り返したのです。『貴女の隣には今、誰がいますか?』と。
「・・・・・・一夏」
「正解です。では、貴女の目の前には今、誰がいますか?」
「・・・・・・セレニア」
「それも正解です。では、貴女の後ろには今、誰がいますか?」
「・・・・・・・・・誰もいない」
「全問正解です。その通り、誰もいないのです。貴女と私と織斑さんの三人しかこの部屋にはおらず、貴女の自由を縛るお父様もIS企業デュノア社の面々も国家の重鎮たちさえ一人もいません。
貴女は今、何をどう願いどう言ったところで構わない絶対的な自由を手にできている」
「あっ!!」
驚きの声を上げられたのはデュノアさんではなくて織斑さん。気づいていただけたようで何よりですよ、本当に。
「わかりますかデュノアさん? 貴女が今、何かを願うこと、望むこと、望みや願いを私たちに言うことは誰も禁止していませんし、禁止することができません。こんな会話をしていることを知らないからです。知られてないことは、知らない人たちにとって存在しないことです。ならば後は貴女自身の意志だけが問題? 違いますか?」
「僕は・・・僕・・・は・・・・・・」
「なんでもいいのです。願いを口に出来さえすれば、どんなことだろうと構わない。『選ぶ権利がない』からと、あらゆる権利を放棄していた貴女の心に『そうじゃないかもしれないと願う権利』を信じさせることが出来ればそれでいい」
「願う・・・権利・・・・・・」
「お金で人は縛れます。力で国を縛れます。恐怖で人の心を支配しようとすることは可能でしょう。
ですが『人が自由を求めようとする権利』までは誰にも縛ることができません。史上最悪の独裁者でもです。だからこそ彼らは思想弾圧のために多額の予算を費やし続けるのですからね。
力の支配を覆すのはいつだって力ですけど、最初に独裁者に対して拳を振り上げるのはいつの時代、いつの世でも支配されてきた人々の圧制者に対する反逆の意志なのですから」
「自由と・・・・・・意志」
徐々に力が戻ってきた声音に私は『もう少しかな?』と辛目の採点をあたえました。
支配されるのが当たり前だった人たちに、いきなり自分の意志で「決めろ」だの「選べ」だのと言ったところで救い主の提案に従う以外に選択肢などないでしょうからね。
初歩的な詐欺の手口を女子高生相手におこなう理由もありませんし、柔らかめにゆっくりと行きましょう。
「願う心を持ってくれたなら、私と織斑さんは・・・まぁ、織斑さんはどうか知りませんけど、少なくとも私は全力で実現するためのお手伝いをする覚悟は完了しておりますよ?」
「おい!? ちょっと待て! なんで言い出しっぺの俺が除外されてる!? 俺も出来てるって手伝う覚悟ぐらい!」
「え~」
「『え~』って何だ、『え~』ってのは!? お前がさっき俺のこと全否定してきたから、てっきり俺のこと大嫌いなんだと解釈して黙って睨みつけてただけだろうがよ!」
「そうなんですか? 私としては織斑さんが方法論を間違えやすいのと、自分の得意分野にのみ特化して強くなれば何でも解決できるように思いこんでるみたいでしたから、別の方向性を示しただけのつもりでしたが?」
「分かりづれぇーって、お前の気遣い! もう少し俺にも伝わりやすく言葉を選びやがれ!」
「きゃー、タスケテー、織斑さんにオカサレルー」
「超棒読み!? この学園に来てから女子に初めてされたよ、その反応!!」
「・・・・・・ぷっ」
二人でジャレツいてたらデュノアさんが吹き出す音が聞こえてきました。
ーーふむ。これは・・・今日の目標は達成できたようですね。良かったです。
「ようやく調子が戻ってきたみたいですね、デュノアさん。今日はもう十分ですので、部屋にお帰りなさい」
「え?」
「正体バレたばかりで即座に対応を考えようとするから極論に走ってしまうのです。
『自分にはこれしか道がない』なんて、後から昔を思い出したとき床の上でのたうち回るほど恥ずかしい思いをする考え方ですからね。今はゆっくり眠って心を落ち着かせることが寛容ですよ?」
出来る限り優しい声音を意識して語り聞かせる私ですが、内心冷や汗でビッショリです。・・・あの黒歴史は恥ずかしかった・・・今でも死にたくなる思い出なんか他の人に味わってほしくありません。代償行為ですよ、代償行為。人助けの理由なんかこんなもんでもぜんぜん問題ないのです。助かるのは相手であって、自分が損するわけでもありませんのでね。
「よく考えて選びなさいデュノアさん。時間が少ないと言っても、別に今すぐ答えを出さなければ覆せない類の問題でもないのでしょう?」
「それは・・・そうかもしれないけど・・・・・・」
「焦らないでくださいデュノアさん。決断するときに焦ってしまった方が負けですからね。焦って出した答えに禄な結末は待っていません。
より良い答えに至れる選択肢はないかもしれませんが、あるかもしれない。悩む時間がある間は大いに悩み考えた方がいい。どのみち結果は大人たちが決めてしまう問題ですからね」
「でも・・・・・・」
言い淀みながらも上目遣いに私を見上げてきて、何かを言いたがっている・・・いいえ、『何かを聞きたがっている』のが丸分かりの子供らしい仕草に内心顔をほころばせながら(表の顔は動きません。顔面筋肉筋いい加減メドイ)黙って頷くことで相手に質問を促しました。
「それって・・・・・・ワガママって言うんじゃないのかな・・・・・・?」
“お母さんに負担をかけさせないよう我慢している子供”
そんな風に今の彼女と過去の彼女とを重ね見る思いに浸りながら、私は普段であれば決して言いそうにない言葉を今このときに限っては心底から覚悟を込めて断言してあげます。
この言葉を言ったことで何が起きようと、彼女に付き合い続けると。
それだけ『正しい』と確信できる言葉なのですからーー。
「ワガママを言えるのは大人にはない、子供だけの特権です。使える内に使っときなさい。いずれ必ず使えなくなるときがくる期間限定の権利なんですから」