IS ~無限の成層圏に舞う機竜~   作:ロボ太君G。

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最初に言っておきますごめんなさい。一夏対鈴音の試合は次回に持ち越しになってしまいました。
本当に、申し訳ない。


第三章(2):強さの意味

Side 簪

 

「明日、鈴と試合することになったの?」

「そうなったな」

 

 鈴と三ヶ月ぶりに再開した日の夜。

 私は自室で影内君から明日、鈴と試合をすることになったということを聞いていた。

 

「そっか……でも、影内君だったら大丈夫そうな気がするけど」

 

 これは私自身の本音だった。

 別に鈴が弱いと言っているわけじゃない。むしろ、私が知っている代表候補生の中では強いほうの人だ。ただ、影内君が強すぎるだけ。

 

「さすがにそれはな……試合する以上は負ける気なんて無いが、それとこれとは別だ」

 

 しかも、ここまで強いにも関わらず驕っているような様子も無い。師匠と呼んでいる人よりも弱いからと言っていたけど、それでも影内君が強いことに変わりはないのではと思った。

 

「それに、俺にとって目指す場所はまだまだ遥か高みにあるんだ。

 油断なんてしていられないさ」

 

 その言葉を聞いて、思い出しました。

 彼の師だという、最弱を含む二つ名を持つ人のこと。

 

「……そういえば、この前も言ってたよね。

 その人と比べて自分はまだまだ弱いから、強くなったって思えないって」

「ああ」

 

 影内君が即答したのを聞いて、やはり間違いなんかじゃなかったと思うと同時に、やはり不思議に思う気持ちも鎌首をもたげてきました。

 

「その人は、大事な人と、理想のために戦ってるんだった……よね」

「ああ」

 

 だからこそ、聞きたかった。

 

「どうして……その人は、そんな事ができるの?

 やっぱり、その……1人で何でもできるくらい、強いから?」

 

 影内君がその人と比して自分の事を弱いって言っているくらいだし、それくらいには強いのだろうと。私はそう思いました。

 けれど、その言葉を聞いて影内君は私の方に向き直ると真剣な表情で語り始めた。

 

「確かに、あの人は強いよ。けど、その人の周りには信頼できる人が……命を預け合えるほどの仲間がいるんだ。

 あの人は決して一人じゃない。信頼し合える誰かと共に戦える……そういう、最弱なんだよ」

「誰かと共に戦う、最弱……」

 

 影内君はその瞳でどこか遠くを見つめながら、本当に大事そうにその話をしてくれました。

 でも、不意に少し表情を緩めると――

 

「俺も聞いて言いか?」

 

――私のほうを真っ直ぐに見ながら聞いてききました。

 緊張しましたが、私は頷きます。

 

「昨日も聞いたが。

 どうして、そこまでして強くなりたいんだ?」

 

 再び聞かれたその質問に、私は再度言葉を詰まらせました。

 でも、この人なら。淡い期待を抱きながら、意を決して口にしました。

 

「……お姉ちゃんに、追いつきたい」

「お姉ちゃんって……更識会長のことか?」

「うん……」

 

 尻すぼみになっていった私の言葉を、けれど影内君は真剣に聞いてくれていた。

 

「確かに国家代表ともなればそう簡単な事じゃないかもしれないが……だけど、簪だってそれなり以上には立場と実力もあるんだろう?」

「……どうして、そう思うの?」

 

 考えてみれば、私が日本の国家代表候補生だということを話した覚えはありません。本音あたりが話したのかなとも思いましたが、それだったら直接的に言ってきてもいいはず。

 

「先日の凰との会話の中で日中合同演習……だったか。それに参加してたって旨のことを言ってただろ。

 名前からして国家事業だろうし、企業代表(剣崎)代表候補生()が参加している中でそう何も無いのを参加させるものなのかと思ってな。

 それに、電車の時にISを使っていたが、あの時はもう遅い時間だったはずだ。貸し出されているだけの機体だったら戻されてるだろうから、あれは簪に支給された機体と考えた方が自然だ。

 そして、これらの推測が正しいならそれなりに立場ある人、例えば代表候補生とかじゃないかと思ってな」

 

 たったあれだけの会話とそれだけの事からこれだけのことを推測しているのには、素直に驚きました。

 

「えっと……一応、日本の代表候補生だけど……」

 

 私がそう答えると、影内君は少し驚いたような顔になりました。

 正直なところ、私にとっては影内君がやっている事のほうで驚く事が多いので色々と複雑ですが。

 

「それだけの立場が得られるほどの実力はあるんだろう? 弱いわけでは無いだろうに」

「……でも、それじゃ足らない。お姉ちゃんに追いつけない。

 それに……さっき影内君が言った電車の時だって、私は結局何も……」

 

 私が言ったことに、むしろ影内君は意外そうな顔をして、次いで言い聞かせるように話しました。

 

「お前が言ったその電車の時。俺は、お前が結構いい判断を下していたと思うが」

「え……?」

 

 意外だった。あの時は完全に影内君に助けられていたから。

 

「だってそうだろう。

 あの時、俺があの場に行くまではお前が戦っていたわけだが、そのおかげであの化け物たちはその場に止まった。気を失った運転手さんの方に行く事も無く、他のどこか、例えば都市部なんかの人口密集地帯に逃れることも無くな。

 つまり、お前は被害を広げないっていう重要な事を成し遂げているわけだ」

 

 だけど、あの状態から仮に私だけで戦ったとしても勝てたかどうかは怪しい……どころか、多分やられていたと思う。そうなれば、被害は広がっていたことは確実だった。

 なのに、影内君はそんな私に意外なほどの評価を持っていました。

 

「それに、戦闘面でも結構良かったと思うぞ。

 確かに倒せてはいなかったし倒せるほどの火力があったかどうかは不安が残る面もあるが、お前はあの時、常に高度優勢は取っていただろ?」

「う、うん……」

「それは、あの化け物が飛べないと踏んだから。違うか?」

「そう、だけど……」

 

 でも、それは誰もが当たり前のように考えることではないのだろうか。あの化け物たちは飛べそうに無かったし、遠距離攻撃も持っているとは考えにくかった。私のその考えは、影内君の次の一言に否定されました。

 

「冷静になれば当たり前に思えることかもしれないけど、そもそも冷静に考えるって事が中々できることじゃないんだ。

 ましてや、自分の機体に大きなダメージを追わされたりした直後ならなおさら、な」

 

 意外なほど褒められて、私は嬉しさと驚きの二点で固まっていました。なのに、影内君はまだ続けるみたいで。

 

「そして、お前が引き付けていたおかげで助けが間に合った。あの時は結果的に俺だったが、他の人が来るにしても最低限持たせる必要はあったことに変わりは無い」

 

 本当に、影内君は私にとっては望外なほど、あの時の行動を評価してくれていた。

 

「えっと……その……ありがと」

「別に礼を言われるようなことじゃないだろ」

 

 影内君はそう言って笑っていたけど、こうも手放しに誉めてもらえたのなんて随分久しぶりの事だったから、本当に嬉しかった。

 私が日本代表候補生に選ばれた時も、お姉ちゃんがロシアの国家代表に選ばれたのと重なったために結局そっちに全部持っていかれることになった。別にその事を恨んでいたりとかは無いけど、寂しさと虚無感を感じたのは確かだった。

 だから、ほんの少しの懐かしさと一緒に心の底から嬉しく思っていた。

 

(……あれ?)

 

 そういえば、何で懐かしさを覚えたんだろう。そう思って記憶を手繰って――

 

『簪ちゃん、編み物上手ね』

 

――随分前に、お姉ちゃんに編み物を褒められた時の事が思い当たった。

 

(そう言えば、あの時以来褒めてもらった覚えがないな……)

 

 その事を思い出して、ようやく追いつきたい理由が分かった気がした。

 

(……ああ、そっか。

 私がお姉ちゃんに追い付きたかったのって)

 

 きっと、もう一度あの時のように褒めて欲しかったから。

 対暗部用暗部とか、国家代表と代表候補生とか、そういうんじゃなくて。

 

(きっと、もう一度。ただの姉妹のように、なりたかったんだ……)

 

 自分勝手な我儘なのかもしれないけど。それでも――。

 

「……ざし。簪。

 聞いてるか?」

 

 思考の中に入り浸っていた私を、影内君の呼びかけが現実に戻してくれた。

 

「影内君、その……お願いがあるんだけど、いいかな?」

「内容は?」

 

 影内君がどこか楽しそうな表情で返してくれた。

 その顔を見ながら、私は影内君に一つだけ確認した

 

「自分の強さを見つけるために、誰かに教えを乞う事もあるって、前に行ってたよね」

「ああ、俺もそうだったよ」

 

 その一言を聞いて、意を決すると口を開いた。

 

「私に、戦い方を教えてください」

 

 私の言葉に、影内君は少し考えると返事を返してくれました。

 

「じゃあ、こうしないか?」

 

 

―――――――――

 

 

Side 一夏

 

  コンコン

 

 簪との話が一段落すると、部屋のドアがノックされた。

 断りを入れて応対に出ると、そこには意外な人物がいた。

 

「山田教諭、こんな時間に何か御用でしょうか?」

 

 完全消灯には少し早いが、それでも教師が来るような時間ではないのは確かだろう。それこそ、問題行動でも起こしていない限りは。

 あるいは、心当たりが無いだけで気づかないうちに何か問題でも起こしてしまったのだろうか。そうであるなら甘んじて注意を受けるだけだが。

 だが、俺のそんな考えとは全く違う用件を話し始めた。

 

「え~とですね……織斑先生がすぐに教員室に来るように、と」

「俺に、すぐにですか?」

 

 念のために確認すると、山田教諭は肯定した。

 正直なところ、名前を聞いた時点で面倒な事になりそうだなとは思ったが、用件の内容が分からない以上は断るための言い訳があるわけでもなく。結局、行くことにした。

 同室の簪にも呼び出されたことを伝え、部屋を後にする。

 

(まったく……こんな時間に何の用だ)

 

 

 一年生寮の寮長室だと伝えられていたのでそこまで行くだけならそう時間もかからず、間も無く目的地(寮長室)に着いた。

 

  コンコン

 

「影内です」

「入れ」

 

 中から織斑教諭の返事が聞こえ、入るように促される。

 そのまま中へ入ると、こちらが口を開く前に織斑教諭が口を開いていた。

 

「明日、二組の凰と試合をするそうだな」

「はい。そうですが何か問題でも」

 

 その話題を持ち出した真意はとにかく、事実ではあるので肯定しておく。

 まさか、前回の試合前の二の舞になるとは思いたくないが――

 

「試しに白式を使ってみる気は無いか?」

 

――その考えは砕け散った。

 

「お前ほどの操縦技能ならば十分使いこなせるだろうし、性能的にも十分なものがある。加えて、製造元も信頼できるところだぞ」

「……前にも言いませんでしたか?

 俺にその機体を使う気はありませんよ。上の意向もありますしね」

「その上の意向も、ここにいる限りは絶対のものじゃない。

 お前が使うと言えばそれで済む話だ」

 

 おそらく特記事項の事を言っているのだろうが、それはここに在籍している間だけの話だ。

 

「卒業後が大変な事になりそうですね」

「何、白式の製造元にでも雇って貰えばいい」

 

 恐ろしく不確実な事を言い出している。そして、俺にとってメリットが何一つといっても言いほど存在しない。

 引く気が無いのは前回までと同様だが、今回は前回までと違って助けが入りそうにない。完全に時間の無駄になり始めたので、そろそろ消灯になることを言い訳にして早々に退散しようか、そう考えた時だった。

 

「そう嫌がる事も無いだろう。お前なら使いこなせる。

 なあ、()()

 

 確かにアスディーグで蓄えた高速戦闘と《消滅毒(アナイアレイト・ヴェノム)》での経験も込みにし、得意な二刀と蹴りを多用した連撃ではなく一撃必殺を中心とした戦い方に無理矢理変えれば、使()()()()()()()()()()()かもしれない。多大な労力と時間を割いてまでそうする理由もメリットも無いが。さらに言えば、織斑教諭はアスディーグの事を知らないはず。ハッキリ言って根拠が無さすぎる。

 だが、さっきの発言の中での最大の問題点は()()()()()()

 教師と生徒の間柄にしては随分と親しみのこもった、言い換えれば馴れ馴れしさすら感じるほどの口調と呼び名。

 まさかとは思ったが、それ以外に可能性も見つからない。

 

「……いきなり名前呼びになりましたが、誰かと勘違いしていませんか?」

「そう隠す事もないだろう。

 それとも……やはり、あの時の事を恨んでいるのか? なあ、一夏」

 

 酷く真剣な表情で紡がれたその一言に、確信した。

 

(……バレる、バレている。

 これは、面倒なことになった)

 

 正直なところ、バレるとは思わなかった。そこまでこの姉が関心を持っているとも思っていなかった。だが、蓋を開けてみればこれだ。

 つくづく、自分の迂闊さを呪いたくなる。

 

「失礼。俺は影内一夏という名前で、織斑という苗字ではないのですが」

「とぼけるな。お前が一夏だという事はもう確認している」

 

 適当に鎌をかけて確認してみたが、どうやら何かしらの確信があるらしい。言い逃れはできそうにない。

 

「……で、俺をこの時間に呼びつけたのはその確認のためか?」

「……ああ、そうだ。

 それ以外にも、いくつか言わなければならないことがあるが……」

 

 さて、何を言い出すのかと思って一応は聞くことにした。

 

「まず……二年前の、モンド・グロッソの時のことは、すまなかった。

 あの時、日本政府は自分達のイメージを守るために、私にお前が誘拐された事を伝えなかったんだ」

 

 まあ、薄々予想はできていた顛末だった。あの時の犯人たちが言っていた事が俺の記憶の通りならば特に。

 

「本当に、すまなかった……。

 だが、もう二度とあんな事にはしない。もう二度と、お前を危険な目になど合わせはしない。この最強の力の全てを使ってでも、守ってみせる。

 だから……!」

 

 その先に、何を言いたいのかは文脈を考えればわかった。

 だが、特に心の中で動くものがあったわけでもない。

 

「その言葉を聞いて、俺が言うべきことは今から言う事だけだ」

 

 俺の一言に織斑教諭が顔を上げる。その顔には、僅かな希望が滲んでいるように見えた。

 

「別に恨んではいないし、一時期まで養ってくれた事には感謝している。

 だが、()()()()だ。これ以上、仕事の邪魔はしないでいただきたい。()()()()

 

 なるべく刺激しないように言ったが、それが何か余計に刺激してしまったらしい。

 

「……なぜだ。なぜなんだ、一夏!?」

 

 半狂乱とまでは言わないが、それに近いのではないかとさえ思わせる形相で織斑教諭が両肩を掴もうとしながら問い詰めてきた。

 その手をバックステップして避けつつ、短く答える。

 

「まず、貴女が根本的に勘違いしているのでそこから。

 別に俺は強制されているわけでも嫌々やらされているわけでも無く、自分の意志で熟慮した上で今の立場にいます」

 

 そんな馬鹿な、とでも言いたげな目だったが気にすることも無い。

 

「ついでに、貴女は最強の力で守るなどと言っていましたが。

 それは、俺に手を出そうとする者がいたらその力で直接叩き潰すという意味ですか? あなたが一人で」

「そうだ」

 

 もうこの時点でマズイなと思った。孤高でいる事を是としているだけならとにかく、()()()()()()()()()()()()()()

 それに気づいているかどうかも怪しいが。

 

「次に、貴女がこれまで言ってきた事について。

 なぜに《白式》を使わせることにこだわったのですが?」

「……あれは、私が嘗て使ったIS《暮桜》のコンセプトを受け継いでいる機体だ。

 お前が使うISとして《白式》以上の機体は無いと。私はそう確信している」

 

 しかも嘗ての自分が何を思っていたのかにも気付いていない様子だ。

 

「試合で使うには強すぎて、けれど実戦で使うには脆すぎる。

 そんな機体を、誰が好き好んで使うとでも?」

「……!?」

 

 ここまで来るとここで何かを言っても効果が見込めない。だから、少し手を変える。

 もう今更だが、この名前に関することでいいだろう。

 

「では最後に、俺から一つ問題でも。

 今の俺の名前。影内。なんでそんな名前にしたんだと思います?」

「……何?」

「それが解けたら、話の続きにしましょう。

 大方、解けないとは思いますがね」

 

 それだけ言い、その部屋をあとにする。

 

(まあ、本当の字は『影打ち』なんだが)

 

 さっきの質問の答えは、実のところただの言葉遊びに過ぎなかったりする。それなりの意味もあるにはあるが。

 

(……嘗ての姉に会っても、特に何も感じないか。

 俺も、大概におかしい人間なのかもな)

 

 心の中で呟きながら、現在は簪と同室となっている部屋まで歩き始めた。

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