IS ~無限の成層圏に舞う機竜~   作:ロボ太君G。

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最初に言っておきますごめんなさい。それなりに時間が空いたにもかかわらず今回短いです。
それと今回の話で分かる人には分かる程度の次章のネタバレ(?)が含まれます。

それと、オリISが今回の話で出てきますが、その性能については次章の最後にもう一基と一緒にまとめます。


第五章(9):新たなる風、潜む暴威

Side 一夏

 

「もうそろそろ始まりますね」

 

 フランスでの『(ネスト)』攻略戦から一週間、何時もの面々で揃ってテレビを見ていた。場所は生徒会室、更識会長が提供してくれた。なお、こちらが頼んだのではなく本人も興味のあったために誘われたというのが経緯であることをつけ足しておく。さらに追加するのであれば、簪には剣崎経由で伝えたことも追記しておく。

 

「どんな機体なんだろうね」

「さて……それは見てのお楽しみだな」

「楽しみだね~」

「一度は次世代機開発計画(イグニッション・プラン)から外された国家の作り上げた機体か……我がドイツの機体とどちらが優れているか」

「フッ……いくら進化したフランス製ISと言えど、私の偏光射撃(フレキシブル)の前ではひとたまりも……」

「セシリア、それ以上はやめなさい」

「さてさて……拝見させてもらいましょう」

 

 それぞれが口々に言いあいながら、テレビを見ていた。やがて、その画面が大きく移り変わる。

 

『それでは、只今より新型発表式典を開催します。司会進行は病気療養中のレイヴィング・デュノア社長に代わり、私、シルヴァーナ・デュノアが務めさせていただきます。

 まずは、上空をご覧ください』

 

 壇上へと立っているデュノア夫人がマイクを通して全体へと聞こえるようにアナウンスし、カメラマンを含めた其の場の全員が視線を上へと向けた。カメラマンはカメラを上に向けている。

 

  ――ヒイイィィィイイ!

 

 空気を切り裂いているような音が響き、何かが下りてくる。

 その正体は考えるまでもない、フランスの新型IS――。

 

『ご覧ください。

 これが、我が社が自信をもってお送りする最新鋭量産型第三世代IS、《イクス・ラファール》です!』

 

 

―――――――――

 

 

Side シャルロット

 

 始めは比較的ゆっくりと、存在感を誇示するように大きな音を立てながら降りていく。

 

『ご覧ください。

 これが、我が社が自信をもってお送りする最新鋭量産型第三世代IS、《イクス・ラファール》です!』

 

 母さんが会場に向けて宣言すると同時に、一気に加速。急降下していく。

 間もなく、空中に擬似標的が現れる。数は二。

 

「このくらいなら……!」

 

 ラファールから据え置きされた連装ショットガン『レイン・オブ・サタディ』を両手に呼び出し、銃撃。二つとも撃ち抜く。

 続けて至近距離に現れた標的に対しては、高速切替(ラピッド・スイッチ)で《レイン・オブ・サタディ》の片方を《ブレッド・スライサー》へと切り替えて切り裂き対応。

 

「余裕……!」

 

 呟きながら、さらに降下していく。

 その矢先に表れた標的は、左右に一つずつ。僕を挟むように両隣に配置されている。

 

  ガシャ!

 

 両腕の装甲に直接装備された新装備《ヴェントⅡ》を起動。三角形の頂点それぞれに55口径突撃銃(アサルトライフル)《ヴェント》の砲身を設置したようなそれは、そのまま三連装の《ヴェント》と言える装備となっている。

 片方ずつ片手で狙いをつけ、そのまま銃撃。速度を緩めることなく無問題で降下を続けていく。

 

「……ハハッ」

 

 思わず笑い声が零れる。それほどに、滑らかに、思い通りに動いていた。

 次の標的は四つ。私から見て後ろ側に二つ。降下していく方向に大形の物が一つ。遠方に複合装甲式の物が一つ。

 

  ガシャン!

 

 背部の可動式ウェポンラックに接続された装備をそれぞれ起動。内約は重機関砲《デザート・フォックス》二挺、ガトリング砲《ファランクスⅡ》一挺、試作長射程複合ライフル《オクスタン・ランチャー》をそれぞれ用意。背後の標的二つは《デザート・フォックス》は背部ウェポンラックを直接動かすことによって狙いをつけ、降下方向の標的も同様にして《ファランクスⅡ》を試用。遠方の標的は両手に握った《オクスタン・ランチャー》を用いて狙撃。

 

  ドドドドン!

 

 狙い通りに全ての標的をほぼ減速無しで破壊し、さらに降下していく。

 

  ガガガガン!

 

 さらに前方に表れた巨大標的から弾丸が放たれる。けれど、この程度の弾丸では問題にもならない。

 両肩の非固定浮遊部位(アンロック・ユニット)の外面を前に向け、内蔵された装備のうち一つ《ガーデン・カーテンⅡ》を起動。前方から襲い来る弾丸を全て防ぎきる。

 

  ギキキキィン!

 

 そのまま広げるようにして内側をむけ、内蔵されていたもう一つの装備を使用。名前は《スクエア・クレイモア》、チタン合金製のベアリング弾を至近距離から一斉発射するための装備。撃ち放った多量の弾丸は、標的を目的通りの蜂の巣どころか粉々にしていた。

 更に後ろからもう一つ出てきた巨大標的にも、同じように非固定浮遊部位の先端を向けていく。その動作は、《ラファール・リヴァイブ・カスタムⅡ》のころから慣れ親しんだもの。

 

「バンカー!」

 

 非固定浮遊部位に内蔵された《灰色の鱗殻(グレー・スケール)》を突き立てる。

 

  ドゴッ!

 

 口径は変わっていないけれど根元の炸薬部分が大型化した影響でリボルバー機構が非固定浮遊部位の内側から見えるほどに大型化してしまった影響で取り回しが幾分悪くなったけれど、それを補って余りある破壊力という名のリターンを実感しながら標的を破壊する。

 最後、着地のために機体を反転させながら軽く減速、柔らかく着地してみせる。

 

 最初のデモンストレーションは、大成功だった。

 

 

―――――――――

 

 

Side 一夏

 

 テレビの向こうから見せられていくその姿に、素直に感心していた。

 

「いい動きをする」

 

 降下しながらも的確に攻撃していき、最後には軟着地の披露。

 滑らかに行われた一連の動きは、相手がただの標的であったことを考慮してもなお性能の高さと搭乗者の腕前を実感させるものだった。

 

「フフ……確かに、自信作と言って何も恥じることが無いわね」

 

 会長が満足げな笑みを見せつつ口元を『お見事』と達筆な字が書かれた扇子を広げていた。どこから出しているんだろうか、あれ。

 

「全くその通りですね。

 如月さんが何時に無くやる気になっていたのも頷ける……」

 

 剣崎が感心したように、だがどこか疲れたような声音で呟いていた。

 

「……如月さん、何かあったの?」

 

 簪が恐る恐るといった具合に剣崎に聞いていた。一方、聞かれた剣崎は溜息を一つ吐いた後に何かを諦めたような感じで――

 

「……どうもこの新型が積んでいる第三世代兵装の中身をどうやってか一足先に知ったらしくてな。

 機体も込みで、是が非でも研究したいといっていたな。ついでに、今までエネルギー周りの問題で放置されていた幾つかの試作品も改めて開発するとか何とかで……」

 

――ここまで言い切った。

 この言葉に何とも言えない雰囲気になった周囲の様子を確認し、切り替えるために一つ咳払いをした剣崎が改めて言葉を紡ぎ始めた。

 

「まあ、使えそうなものがあれば今度大規模改修される予定の《陽炎》にも搭載されるらしい。

 良さそうなものがあることを今は祈るだけだよ」

 

 多分な諦めの中にほんの僅かな期待を混ぜた台詞をその話題の締めとして、剣崎はそれ以上にその話題については話さなかった。

 一方、テレビからは先程派手な登場を果たしたシャルロットの駆る《イクス・ラファール》の搭載する第三世代兵装についての説明をデュノア夫人が話し始めている。

 

『この《イクス・ラファール》に搭載されているのは、世界初となる()()()()()()()()()()、《砂漠の呼び水(アモサージュ・デ・デザート)》です。

 その内約は、イメージ・インターフェイスを用いて供給量と供給対象をフレキシブルに調整する、大容量エネルギーコンデンサー。この装備最大の特徴は、使用負荷の低さです。従来の高性能高負荷であった第三世代兵装とは一線を画し、低負荷、高エネルギー効率を追求しています。

 直接的な攻撃能力こそありませんが、使用に特別な技能や能力を必要とせず、従来の第三世代機共通の欠点であった連続稼働時間の短さをほぼ払拭した第三世代兵装です』

 

 その説明に、一緒に見ていたIS搭乗者たちが思わずといった具合に感心していた。

 

「あえて直接的な戦闘性能を追求せず、それらを支える基礎的な性能や稼働時間の追及……《ラファール・リヴァイブ》の時点で各種武装が揃っていたデュノア社ならでは、と言ったところでしょうか」

「なるほどな……あくまで《ラファール・リヴァイブ》の後継機、つまりは量産機として求められているものを追求した、ということか」

「その武装の運用能力にしたところで、簡易のサブアームにもなるウェポンラックが搭載されたために大きく向上している。直接戦闘でもそれなり以上の脅威だろうな」

「しかも、あの装備……接続形式次第だと、他の第三世代兵装とも同時搭載とかもできそうだね……エネルギー問題が付きまとっていた第三世代機にとっては、もしかしたら光明になるのかな」

 

 口々に《イクス・ラファール》への興味を隠そうともしない様子で盛んに議論し合う様子に、俺はと言えば場違いにもどこか達成感にも似た感情を抱いていた。

 

(……フランスでの『(ネスト)』攻略戦。

 此方も此方の思惑があってやったことではあるが……存外、やった甲斐はあったな)

 

 この世界で行われた先日の大規模作戦の事を思いだし、どれだけの影響があったのかを改めて思い知る。

 

(……なるべく早く、幻神獣(アビス)の脅威の排除や装甲機竜(ドラグライド)を使っているだろう連中をどうにかするしかないか)

 

 心の中で任務に対する気持ちを新たにしつつ、発表式典の中継を見守っていた。

 

 

―――――――――

 

 

Side ウェイル

 

「新型ねぇ……うん、中々いいじゃないか」

 

 大量の培養ポッドの置かれた研究室の一角で、テレビから中継されているその映像を見ていた。

 

「うんうん、量産機としては必要不可欠な癖のなさと万能性。その二つを追求して行きついた形だねぇ。

 いや、実に面白い」

 

 中継を終え、下らない、世俗的な番組を垂れ流し始めたテレビを消し、それまで座っていた席を立った。

 

「やはり、明瞭な一つの目的に沿って最適化されたコンセプトに基づいた作品は良い。いや、素晴らしい!」

 

 知らず知らずのうちに上機嫌になり、歩調も軽くなっていく。

 

「やはり技術を、知識を、未知を求めるなら。そう、やはり一途でなければなぁ!」

 

 上機嫌にいま目をかけているとある培養ポッドの様子を見ようと脚を進めていく。

 今現在は協力関係である亡国企業(ファントム・タスク)の資金をふんだんに使って作りあげたこの地下研究所の使い心地は中々のもので、研究へとついつい没頭してしまっていた。

 

「しかし、その意味で言えばそもそもISであるのが、となってしまうか。

 何より、あれはとても()()()()()()

 

 そうして上機嫌で歩いている最中、ふと有る事実に気付いてしまった。

 ついぞ数か月前までは研究していた対象ではあるが、()()()()()()()が分かってからは急速に興味を失っていったものでもある。

 自分で自分の上機嫌に水を差してしまった事に僅かな苛立ちが募り、思わず舌打ちしかけたが思いとどまる。

 

「……いや、大元が大元とは言え、だ。

 あの機体を作りあげたものは純粋に作品を仕上げていったのだろうに。それを無視するのも良くないなぁ」

 

 最近、最も手間暇をかけてるある一つの巨大な水槽の様にさえ見える培養ポッドの上まで来ると、その中身を見下ろした。

 

「そうだ。

 彼らの作品がどこまでの物か、試してみるとしようじゃないか。ついでに、私の作品も試させてもらうとしよう。何処まで再現できたのか、仕上がりが気になる事だしねぇ……!」

 

 烏賊型幻神獣(アビス)《クラーケン》をひたすらに巨大にしたような体躯の巨獣が入った巨大培養ポッドの上で、抑えきれない笑みが零れる。

 

「ああ、楽しみだ。楽しみだなぁ。

 ク……ククッ…………ククッハハハハハハハハハ!!」

 

 楽しみで愉しみでたのしみでタノシミで、待ち遠しくて待ち遠しくて恋焦がれてさえしまう。一日千秋の思い、というこの世界の日本という国の諺は、まさしく正しく今の私の気持ちを明確かつ的確に表している。

 

「ああ……早く、見たいなぁ……♪」

 

 その時を待ち焦がれながらも、私は培養ポッドの中身の存在の完成度を上げるために手を加えていった。

 

 

―――――――――

 

 

Side ???

 

「新型ねぇ……。

 ま、こっちも別な意味での新型があっからいいけどよ」

 

 暇つぶしの意味もかねてフランスの新型発表式典をテレビ越しに見ていたが、今は大して興味も抱けないでいた。

 無論、其のうち事を交えることになるかも知れない以上はその戦力を把握しておくことが重要であることは理解しちゃいる。だが、それでも今の此方の戦力に敵う物とは思えないでいた。

 

「油断大敵、という言葉もあります。それに、物は使いよう、という言葉も。

 そのようでは、足元を掬われかねませんよ?」

 

 真後ろから丁寧な口調と礼儀正しい言葉遣いで、だからこそその異常性を強く感じさせる人間が声をかけてきた。だが、その態度はこの場所に限ってはある種の異常性を際立たせていた。そもそも、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 最近入ったばかりだが、こいつの異常性は二重の意味で際立っている。今見せた人間性でも、そして仕事における戦闘技能でも。

 俺自身も今迄に異常な人間やその所業を見てきたことは多々あるが、それでも際立っていると言えた。

 最近協力関係になった狂科学者(マッドサイエンティスト)といい、コイツが率いている六人組と言い、最近の組織はそういった人間がずいぶん増えたように感じる。

 

「ま、いいけどよ。

 しくじってくれるなよ、後始末が面倒なんだから」

 

 適当に軽く返したところ、それまでも浮かべていた笑い顔をより深めながら返答のために口を開いた。

 

「ご心配無く。

 なんだでしたら貴女達の仕事もして差し上げますよ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 笑顔の中に悪意を極限まで詰め込みながら、歪なまでに柔らかい口調で言い放った。

 その不安定さと極端なまでに歪んだ人間性に、薄ら寒いものを感じながらもやはり軽口を返しておく。そうでもしないと、どうにかなりそうだった。

 

「言ってくれるぜ。

 ――『棘刑(きょくけい)』のセルラさんよ」




余談ですが、シャルの第三世代兵装、構想当時に思い付いた物の中では一番マトモというか、地味なものになったんですよね……。

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