私にとってこれは処女作です。
あれ、なんか非Yじゃね?
刻は午前二時。三月の夜はまだ肌寒い。
微かに車の走行音が響く深き闇の中に、男はいた。
ここは公園。子供の時間はとうに過ぎた。今は、悪い大人が使う時間だ。
「いいこと?こっちの戦力はリヴァイヴ三機。あんた達は、適当なとこ爆破したら、後は適当に暴れなさい」
「作戦失敗の場合は?」
「自力で何とかしたら?」
「アッハイ」
男…後藤洋二は溜め息を吐いた。それは、その場の男達全員の総意を代表するようだった。
洋二はよく言えば、あるIS研究所の警備員。実態はただの傭兵だ。今回仰せつかったミッションは、『織斑一夏の誘拐』。世界で唯一、インフィニット・ストラトスを動かせる男。四月から、かのIS学園に入学………もとい、囲い込まれる。その前に、『貴重な検体』を『確保』しましょうってことだ。
メンバーは、研究所お抱えのIS操縦者三人に、自分達雇われの男が五人。これで織斑一夏の自宅を押さえようと言うのだ。生身の自分達が町の各所に爆破物を仕掛けて派手に陽動を行い、その隙にラファール・リヴァイヴ三機がかりで織斑一夏を捕らえる。いや、一般人相手に過剰だろ。
こうなったのも全部女尊男卑に染まりきった所長のせいなんだ、と思って我慢するしかない。他に食い扶持も無い。
(入学前だってのに、悪いな………だが、悪く思ってくれるな。俺だってお前に期待してるのは確かなんだよ………)
人生二十年。生まれてこの方、ろくな女に会った試しがない。だが織斑一夏、お前はそんな世界に風穴を空けてくれた。それこそ、悪目立ちし過ぎる程に。
悪いな。お前の未来は、きっとモルモット兼所長のサンドバックだ。
「時間よ、ほらキビキビ動きなさいよ!誰のお陰で食ってけると思ってんの?」
「上手くいったらボーナス出るって話よ?あ、私達にだけどねーー!」
「うっわー、流石所長、労基完全無視美味しいですーー!」
ああ、こいつらマジでちょっと黙っててくんねーかな。捨て駒になれって言われて喜ぶ奴はどんなドMなんだよ。俺は違うかんな。
とは思うが、動かざるを得ない。同僚の男達と視線を交わし合い、俺は銃のセーフティを
「そこまでだ」
声が、した。
「よくもまぁノコノコやって来たな」
男の、声だ。
「歓迎するぞ」
街頭の、上?
人影がある。
男が一人、腕を組んで立っている。
格好は………スーツ?会社員と何ら変わらない、黒のスーツに青のネクタイ。今にも商社に出社出来そうだ。深夜だが。
「あ?誰よアンタ、邪魔する気?男の癖に何が出来るってのよ?」
リーダー格の女が、ラファール・リヴァイヴのマシンガンを構える。苛立っている。男に見下されたからだろう。安いな。
対する男も余裕だ。鼻で笑い、返事もしない。
「何とか言ったらどうなの!?このクズ!!こっちはIS三機よ!」
「生身で勝てる相手じゃ無いですよー?ほら早く逃げるなり仲間呼ぶなりしたらどうです?」
リーダーに続いて、女達が騒ぎ立てる。大声出したらマズイとは思わないのか。あと、やっぱり男衆は戦力と見られてない。同僚を見回すと、目が合った一人が、何とも冴えない表情で首を竦めた。泣けるね。
さて、そんな俺達を見た街頭の上の男だが、
「………ふぁ」
欠伸してた。
心底不機嫌そうだ。
「あのなぁ………お前らのために張り込んでたせいでさぁ?俺見たい深夜アニメ録画する羽目になったんだよ。せっかく一話からリアルタイム皆勤賞だったのにさぁ。………いや、こうなったのも全部織斑一夏のせいか。めんどくせぇ」
こいつやる気ねぇ。
「あ、アニメ!?やっぱ男って下らないわね!!」
「ホントよホント、バカみたい!」
「それはもしかしてノイタミナ枠!?」
「えっ?」
「えっ?」
「………あっ、何でもないです」
おい、一人共感した奴がいたぞ。
「もしかする」
合ってたよ!
「まぁいい。どうせやることは一つ。ここでアンタらをシバく。それは変わらんからな」
男が語気を強める。一瞬緩んだ空気が、再び張り詰める。
男の姿が、黒く染まる。いや、全身に黒い鎧を纏ったのだ。夜の闇に、鋼の艶が浮かび上がる。
………鎧?
待て、どこから出した!?
ひょっとして、IS、じゃないか!?
「嘘でしょ………」
リーダーの声が、震えている。
男が、ISを装着した。
俺と同じ考えに行き着いたようだ。
俺達は誰一人として、動くことは出来なかった。
「な、何なのよ………」
俺達の総意を代弁するように、リーダーは言葉を絞り出す。
「あんた、一体何なのよッ!?」
声を張り上げた。奴を睨んだ。
俺達は、奴に完全に呑まれていた。
それが全てを分けた。
いや、今考えれば、それは言い訳にしかならない。
「お前達が、更に識る必要は無い」
次の瞬間、俺の意識は刈り取られた。
俺は奴から目を離しちゃいない。俺の視力は2.0だ。
だが奴は、俺の視界から忽然と消えた。
消えたと同時に、俺の身体は意識を手放した。
◇
話をしよう。
あれは今から四年前。
いや、四年と五ヶ月前だったか。
当時大学四年生だった俺は、就職活動真っ最中だった。
とにかく色んな会社を受けまくった記憶がある。
その中で、俺はある会社にて、風変わりな面接を受けることになった。
会場に着くなり、受付の人に
「血液採取しまーす」
って言われた。何でや!?健康診断書送ったやろ!?ま、まさか不備でもあったんですか!?と大慌てだったが、
「あ、いえ、これも選考の一環なんで」
と言われた。お宅の社員は吸血鬼か何か雇ってらっしゃるんでしょうか。案内されるままに、会場内に用意された採血室へと進む。
注射器二本分血を抜かれると、ようやく待ち合い室に通された。やれやれ、変な面接もあったもんだと胸を撫で下ろす。周囲の就活生も、俺と同じようなホッとした顔をしていた。
が、まだ変な面接は終わっていなかった。
「次、アキツキ………さん?いらっしゃいますかー?」
「アキツギです」
「あっ、すみません。秋津木さんどうぞー」
若い女性の社員に呼ばれて、俺は会議室へ行くようにと促される。
ノックは三回。ノックは三回。ノックは三回。
就活ハウツー本の知識を復唱しながら、俺は会議室のドアを三回ノックする。
「どうぞ」
「失礼します!」
俺は第一印象を良くしようと、声を張り上げつつ入室し、
「何ですかコレ」
試験官の前に置いてある、黒い球体に目が行った。掌に乗りそうなサイズの、金属球だ。
そして、中年男性の試験官は、その球体を指し示しつつ、
「うん。じゃあ早速だけど、コレ触って」
と言った。
「へ?」
「気持ちは判る。けどこれが試験でね。触って貰えるかな?」
俺氏、理解不能。どんな面接だ。
だが、触るだけでいいと言うなら、さっさと事を済ませてしまおう。きっとこれは世に聞く圧迫面接だ。混乱させて、その上で実力を測ろうという魂胆だ。負けるものか。
「失礼します」
右手を伸ばし、若干恐る恐るながらも球体に触れる。いや、だって静電気とかでビリっとする奴にも見えるからさぁ。
指先に、金属の冷たさが伝わってきた。
異変が起きたのは、その直後だ。
「?!」
よく分からない何かが、身体を駆け抜けた。本能的に、何かヤバイと感じた。
次の瞬間、視界がブレた。
それだけではない。何かに引っ張られるような、呼ばれているような。そして、何処かに引きずり込まれるような感覚に驚き、俺は目を瞑った。
俺はどうなるんだ?何なんだこの面接!?
この会社を受けたことを悔やんでいた俺は、突如床に落下した。時間にして僅か数秒のトリップだった。
痛い。目を瞑っていたから、受け身を取れずに尻から着地(落下というか激突)した。無様ね!
「何処だここ?」
恐る恐る目を開くと、そこは何かの研究施設。いや、多分あれを研究しているんだろう。
目の前には、13機のISが、主不在のままに、ハンガーに鎮座していた。
「ど、どうなってんの!?」
何故こんなところに、自分は面接会場にいたハズ!
現実に追い付けず狼狽する俺の背中に、声を投げる者がいた。
「それはね、君がIS適正よりも貴重な体質を持っているからだよ」
振り向けば、そこには女性が一人。ウサギの耳のような何かを装着し、服装もファンシー。見た目は色物だけど、間違いなく、美女と言える。
「きみ、いいからだしてるね!アサシンチームに入らないかい?」
「アイエエエ!?アサシン!?アサシンナンデ!?」
「拒否権なんてないよ?」
「アッハイ」
父さん、母さん。よくわからんけど就職先が決まった。
うん。アサシンとか秋津木家初の快挙じゃない?
いや意味がわらかん。いやわからん。
何故だ。俺は佐良敷商事に面接に来たハズ。
それが、いつの間にかウサ耳美女の元で働くことに……。
オイシイ状況?なわけねーだろ。
「俺も想像力が足りなかったのか………」
「ちーちゃん以外に束さんの思考に付いてこれる人が居るなら、見てみたいもんだねー」
「束?」
「いぇーーす!私こそ世紀の天才にして世紀末の天災!篠ノ之束さんだよーー!」
は。
はい?
「………いつ酒飲んだっけ」
頭がリアルに痛くなってきた。
「のんのん。つむぐんよ、束さんホンモノだよ?」
「判りましたから、俺にウサ耳を装着させないで下さい」
まぁ、常識通じない人なんだろうけど。
冗談は通じそうだからいいけど。
因みに今さらっと渾名付けられたな。紡だから、つむぐんか。安直!!
「さてつむぐん。つむぐんにはアサシンをやってくれ!」
「自分の研究の為でしょうが!」
「そうでもあるがぁぁぁ!否!びしぃ!」
天才的天災、篠ノ之束は何かのヒーロー物の変身ポーズっぽい姿勢になる。口で効果音付けるんすか。そーすか。
「君にはアサシンになってやって欲しいことがあるんだよ!」
「はぁ。それは?」
それはね…………。
◇
「秋津木紡です。26歳、高校生二回目です」
俺は今、至上最大にキレている。
篠ノ之束の元で働いて早四年が経ち、今こそ我が望みを果たせと仰せつかった。故に俺は今、ここにいる。
そう、IS学園に………!!
しかも、生徒として!
(あ ン の ウ サ ギ 上 司 め ぇ ………)
因みに「ダイジョウV(ブイ)!」とか言われて送り出された。
今は、入学式が終わり自己紹介タイムである。いや、俺に限れば事故照会か?
しかし、俺と異なり、教室の空気は激アツだった。
「やった!男だ!よかったぁ!」
世界で唯一ISを動かせる男、織斑一夏がはしゃいでいるが、俺からすりゃどうでもいい。
「キャーアキツギサーン!!」
「大人の男よ!」
「これは織斑君総受けですな」
「買った」
一部、腐ってやがる。
めんどくせぇえぇぇえ。
あ、そうだ、言わなきゃならんことがある。
「先に言っておきますが、『俺はISを動かせません』」
教室が、凍った。
「えー、俺はそこのちっこいののISのサブパイロットなんで、そっち共々宜しくお願いします」
俺は教室の後ろの方の席を指差す。
皆が振り返り、彼女を見る。
「私の自己紹介のネタ取んないでよ、気が利かないなぁ。脳ミソもう一個付けたら?」
そこに座っていたのは、
「………小学生?」
織斑一夏が呟く。
そう、金髪を二つに結んだ少女だったのだ。
「オマエ………確かに私は13だが高校生だぞ」
「じゅっ………!?」
再びざわつく空気。織斑など唖然としている。だろうな。
こいつはフィラメント・テスタメント。束さんの所で働く上での、俺の相棒。
そして、更に言えば、こいつもまた俺の上司なのだ。フィラメントの上に束さんがいる。勘弁してくれ。
俺はざわつくクラスメイトを他所に、着席する。因みに席はフィラメントの右隣だ。
どうやらIS学園一年一組は、俺とフィラメントというイレギュラーを受け入れたらしい。徐々に騒ぎも落ち着き、自己紹介は進んで行く。俺はその大半を聞き流す。人の名前を覚えるのは苦手なんだ。
いつしか俺の目には、出席簿で頭を殴られる織斑一夏の姿が映った。
織斑一夏、か。
束さんも、意味の分からないことを言うなぁ。
「おい、ツムグ」
ボーッとしていると、フィラメントにつつかれた。
「しっかりしろよ。やることは今までとそう変わらないんだ。ターゲットが近くなっただけ」
「んー?まあ、分かっちゃいるが………」
意味が、まだ分からない。
束さんの言うことは、俺にはな。
人となりは理解したし、話してて飽きない人でもある。
けれど、あの人の思考の地平に至るには、俺では到底及ばない。
俺がやるべきことは。
『つむぐんにやってもらいたいのはね?』
俺たちがやるべきことは。
初めて逢った時に一瞬見せた、真面目な顔の束さんが、脳裏に浮かぶ。
『いっくんを護り、いっくんを……………殺して欲しいの』
うーん、よくワカンネ。
取り敢えず俺は、スマホアプリに逃げた。
数秒と経たずに、俺の眉間に出席簿が刺さったのは、想像に難くないだろう。
そんな訳で、秋津木紡、26歳。
高校生、始めました。
こうなったのも全部、篠ノ之束って奴のせいなんだ!
ゆ"る"さ"ん"!!
じえっとあざらし