ハーレム系かぁ。へぇー。
あっ、これベッドの上でハーレムする奴だ。
買おう。
買った。
「これからよろしくお願いします、紡さん!いやぁ、男一人だけかと思ったから助かりました!」
授業が終わるなり、織斑一夏は俺の元へとやって来た。はしゃぐなはしゃぐな、ステイステイ。お手。おすわり。ほら、回りに何か期待する視線があるのに気付かないのかお前は。
俺にとってお前は護衛対象であり始末対象なの。本来はあまり親交を深めることはまずいんだけど………。
「宜しく、織斑………いや、これは先生と被るな。一夏と呼んでもいいか?」
まぁ取り敢えず、織斑と仲良くなっとくことにした。一応、友人としてなら近くに居ても怪しまれないと考えたのもある。けれども、気苦労を一人で抱え込むのは辛い。精神の安寧のために、今回は束さんの工作に感謝し便乗しておこう。だがいつかし返す。天災絶対許さねぇ!
「勿論ですよ、紡さん。お互い頑張りましょう!」
「頑張るのはお前だ一夏。先生に殴られてたじゃんか。勉強しろよー」
まさか、渡された本を棄てるとはな。いい度胸だ。俺?あぁ、まぁ、………束さんの下に居れば、嫌でも覚えます。否、覚えさせられた。無理矢理。授業そのものには付いていけるけど、あの人の教えは理論優先で、社会事情は二の次どころか十の次くらいだった。という訳で、学ぶものが無いわけじゃない。暇じゃなくて助かる。
「それなんですけど………すいません!教えてください!何でもしますから!」
「ん?今何でもするって言ったよね?」
「限度はありますが」
「こやつめ、ハハハ」
「何やってんだ童貞共」
早速ふざけ始めたら、フィラメントが何か汚い物でも見るかのような視線を投げてきた。どどどどど童貞ちゃう………いや、童貞でした。
「親睦を深める為って奴だよ。フィラメント、クラスメイトとしてこれから宜しく頼むぜ」
かなり拒絶を含んだフィラメントの目を意に介さず、一夏は握手を求めて手を差し出す。伸びてきた手を僅かに眺めると、フィラメントはぷいとそっぽを向いた。
「………程々に付き合ってやるよ、
「たーげ………何だって?」
「ターゲットと言ったんだ。今は馴れ合うつもりはない。群れの構成員は互いに競争相手でしかない」
「そっか。じゃあその気になったら仲良くしてくれよ」
「………チッ」
………こいつ、堂々と一夏を
このフィラメントという少女、あまり他人を信頼していない節がある。と言うのも、こいつの特異体質のせいなのだ。
『
『便利なガキ、あるいは気持ち悪いガキとしか呼ばれてこなかった』
らしい。そのせいで子供扱いされるのが嫌だと言っていた。いやでも君、13歳だから。どーしよーもないから。
仕方無い、少しフォローしてやるか。
「許してやってくれ一夏。悪い奴じゃないが、何せ反抗期でな」
「ああ、なるほど」
「誰が反抗期だ、誰が!」
ポンと手を打つ一夏と対照的に、フィラメントは顔を真っ赤にして俺に噛みついてきた。あれ?お気に召さなかった?
「あー、悪かった。許してくれ、飴ちゃんやるから」
「いるか!バカ!包茎神!」
「おま………屋上に行こうぜ。キレちまったぜ、久し振りによ」
やる気だなお前。大人嘗めんなよこの野郎。珍しくはりきっちゃうぞ?
「いいけど、お前の給料がどうなっても知らないぞ?」
「フィラメント様どうかお慈悲を」
「変わり身早いな………」
懐を握られていたのを忘れていました。嗚呼、大人は金と上司には勝てないんですよ。万国共通です。
「仲良いですね」
「「どこがだよ!?」」
カラカラと笑う一夏に、俺達は同時に反応する。ほらやっぱし、と一夏は笑うが、俺はそうは思わない。めんどくせーのよこいつ。素直にならないし喧嘩腰だから。
「というか紡さん、子供と同レベルで争っちゃダメですよ?」
ビキッ、と俺とフィラメントが固まる。お?………言ってくれたな?
「一夏よ、今俺達双方を敵に回したのは気付いてるか?」
「おいツムグ、お前人体破壊な。私はスマホをハックする」
「合点」
「仲良いじゃねーか!?」
共通の敵が見つかった以上、俺達は即座に手を組む。お前の相手は一夏の後だ!フハハァ!と俺達が心中で互いの手の甲に爪を立てながら握手していた所で、近付いてくる新たな影が一つ。
「少し良いですか?」
「んあ?」
そこにいたのは黒髪ポニーテールの美少女。年不相応の魅惑のスタイルをお持ちの、
「おお、これはこれは篠ノ之嬢」
「その名で呼ぶのは止めて下さい。あの人を思い出すので」
「そいつは失敬。個人的に天災さんが好きだったもんで。で?どうかした?」
「一夏を借りても?」
「や、俺はいいんだが………」
箒嬢の言葉に、俺はちらと視線を隣の一夏にやる。
「うぉい!?何だこりゃ!?スマホの変換候補が全部『じぇっとあざらし』になってる!?」
「フッ………やり遂げた」
フィラメントの奴、どうやら本当にハックしやがったらしい。一夏が青ざめている横で、いい笑顔で汗を拭っている。そんなとこに使うなよ、電脳共感覚。
「いやいやいや!直してくれよ!な、この通り!」
「何だと?お前あざらし嫌いなのか!?あざらし可愛いダルルォ?」
「やめろォ!(建前)やめろォ!(本音)」
………………。
暫し、箒嬢と共にその光景を見つめていた。が、
「一夏、ちょっと来い」
「え?ちょ、おい、ほ、箒!?いや待て、待ってくれ!」
「分かった。来い」
「分かってねぇ!?放せ!あざらしが!俺のあざらしがぁぁぁぁぁ!!!」
無理矢理連れていかれた。
教室の隅で『織斑君はあざらしが好き』と女子達がコソコソ情報共有していたが、まあいいや。俺に害無いし。
さて………行ったな。
「フィラメント、首尾は?」
「
「やめて差し上げろ。居場所を追えるようにしようとは言ったが誰がそこまでやれと。プライバシーなんて無かった」
「そうもいかない。ここ、結構ザル警備だし」
「まあ、それはなぁ………」
セキュリティは確かに厳重だ。だが、ここは学校。人の出入りはあるし、そもそも警備員が弱い。IS常に展開しとけっての。学内だけでどんだけISあると思ってるんだ。
「それに、内部から、って可能性もゼロじゃない」
「どこも考えることは同じか………」
生徒に紛れて、刺客が現れるということも無きにしもあらず。いやぁ面倒。おっ、一夏の奴帰ってきた。箒嬢は………うん、機嫌良さそうだな。
「少年、青春してるか?」
「してませんよ。それよりフィラメント、あざらしをだなぁ」
「断る」
「えぇ………(困惑)」
何だ、さっきの蒸し返しか。しつこい男は嫌われるぞ一夏。ほら、今度は金髪美少女のお出ましだ。つかつかと一夏に歩み寄る。フィラメントと違ってずいぶんとメリハリのある身体をしていらっしゃる。イテッ、誰だ脇腹つねった奴!あ、フィラメントテメェ!そっぽ向いても分かるぞ!
「ちょっとよろしくて?」
「良くないッ!!」
「アッハイ」
うわー、一夏真剣なイケメンフェイスでバッサリ切りやがった。そこでものスッゴいイケメンオーラ使うなよ。何か集中線が見えたぞ。こう、強いられていそうな感じに。
「ぐずっ………お、おまえ…そんなにあざらし嫌なのか?」
「えっ!?いや、待て待て待て!マジ泣き!?」
余りの気迫にフィラメントが素に戻ってるわ。金髪美少女もたじろいでるじゃないか。仕方無い、俺が代わりに付き合ってやろう。
「えーっと……セルビア・モンテネグロさんだっけ?」
「誰ですのそれ!?わたくしはセシリア・オルコット!イギリス代表候補生ですわ!」
「おうスマン、人の名前覚えるの苦手なんだ。で?一体何のご用?」
「馬鹿にして………貴方みたいな大人………!!まあいいですわ、貴方に用はありません。織斑一夏には話があります」
あれ、嫌われたらしい。何がいけなかったというのか。おっさんが高校にいることか?いやそれはウサギ上司に言ってくれ。あ、だめか。あの人多分取り合わないな。
「しょーがねぇなぁ。一夏、レディがお待ちだぞー」
仕方無しに一夏の方を見ると、何とかフィラメントを宥めてスマホを元に戻してもらっていた。
「何です?」
「良くは知らんが、イギリス代表からラブコールだ」
「そう………(無関心)」
ガタッ!!
「い、一夏にラブコールとはどういうことだ!?」
「どうどう箒嬢、ジョークですよジョーク。お呼びでない」
地獄耳のサムライガールめ………。何という抜刀速度だ。一体いつ木刀を抜いたんだ。というか何時も持ってんのかこの子。束さんの妹さんだから
「あ、貴方がた………何なんですの!?」
セシリア嬢がイライラし始めた所で予鈴が鳴った。ぷんすこしながら「覚えてらっしゃい!」とか言いながら席に戻る姿も様になっている。
さて、織斑先生が入ってから、すっかり教室は真面目モードに。素晴らしい統率力だ。俺も流石に
「秋津木、一発行くか?」
「御免被ります」
「織斑、一発行くぞ」
「勘弁してくれ千冬姉ぇ!?ア"ッーー!?」
どうやら似たようなことを考えていたらしい一夏が殴られた。あー良かった。一夏が前の方で良かった。一夏は犠牲になったのだ………。頭から煙を上げる一夏を他所に、織斑先生は教壇に戻る。
「ああそうだ。馬鹿共のせいで話が反れたついでに、クラス代表を決めるぞ」
悪かったっすね。
しかし、緊張感のあったムードは一転。一気に女子達のボルテージがMAXになる。
「はい!織斑君がいいと思います!」
「私も一票!」
「私も私も」
「一夏、お前も男だろう」
「俺もー」
「しれっと混じらないで下さい紡さん!」
一夏を推す流れが来たんで、俺も祭り上げようとしたら怒られた。ダメかね。しかし諦めんぞ。
「時に一夏よ、何故嫌なんだ。女の子達にここまで言わせたんだ。選択肢などあるまい」
「そーだそーだ!」
「ナイスぅ!(建前)ナイスぅ!(本音)」
「ありがとうございます!ありがとうございます!」
「鼻の下を伸ばすんじゃない!一夏!」
どうやら一年一組は一夏が代表で異存がないようで。援護射撃美味しいです。あと箒嬢の自己主張激しい。
「救いは無いんですか!?そ、そうだ、俺は紡さんを推しますよ!」
しかし一夏も諦めない。気持ちわかるわー。数の暴力って辛いもんね。だが一夏、今はダメだ。
「おっさんが代表のクラスってやじゃね?」
「言うほどの年ですか!?」
「心は爺様ですじゃ」
「知りませんよォ!?」
弄ると楽しいなぁ、一夏君。アッハッハッハ。では、俺の安全の犠牲になってくれ。君はいい奴だったよ。そう思えば、織斑先生の必殺チョーク弾も大したことはない。何、衝撃で軽く脳がシェイクされただけだ。吐ける。
「では、織斑と秋津木以外で候補はあるか?」
「うわーい、俺も受理されてたゾ♪」
吐いた。
流石は織斑先生。俺もきっちり候補にされてた。
「ざまぁ見やがれ!!」
「一夏ァ!俺とデュ↑エルだぁぁぁ!!」
「かかってこいやぁぁぁ!!」
「納得が行きませんわ!」
今まさに一夏と拳で語らんとしたら、バァン!と机を両手で叩く音がする。誰かと思えばセルビア・モンテネグロ嬢じゃないか。随分ご立腹だな。
「クラス代表は、クラス全員を背負って立つもの。それを、男で初めてISが動かせたと持ち上げられて舞い上がってる極東の猿か、成人にも関わらずヘラヘラと人の名前すら覚えられない人間の屑から選べと言うんですの!?」
「え?じゃあ先生。俺一夏から《セルビア》さんに推薦変更します」
イギリス代表、セシリア・オルコットの目が座る。
「どういうおつもり?あと、まだ覚えて下さりませんの?流石にそろそろ知能を疑いますわよ」
「ハッ、判んないのか。代表候補生サンこそ、脳ミソもう一個付けたら?」
「何ですって?」
答えたのは、俺ではない。
フィラメントだ。
「《名前で呼ばせてみろよ》、ツムグにさ」
「………………!!良いでしょう。この勝負、受けて立ちますわ!!」
瞳に闘志を宿す。良い目だ。綺麗だな。迷いの無い目ってのは憧れる。何せこっちは、流されて決まった人生。純粋に尊敬する。
だからこそ、大人って奴を見せてやらないとな。
俺達が火花を散らす中、織斑先生の小さな溜め息が溢れる。織斑先生ってば、幸せ逃げますよ?あ、原因俺らか。サーセン!
「仕方の無い奴等め………では一週間後だ!アリーナにて、クラス代表決定戦を行う!英気を養い、そして勝て!以上!」
授業に戻るぞ!と先生の鶴の一声で、空気が変わる。
俺は、フィラメントと目配せした。
ーーーー悪いな、相棒。
ーーーーいいさ。何か奢れよ。
拳と拳をぶつけ合い、勝利を誓う。
俺が代表になれば、フィラメントにも面倒が掛かる。
『『勝利して、辞退する。必ず』』
俺達の結束は、固い。
「あれ?俺巻き込まれてないですか?」
「私語は慎め織斑ァ!」
「うわらば!?」
(一夏!私は応援しているぞ、一夏!!)
アトミック八重歯