もっと、磨かなくては。腕を。
他の小説も書こうかなぁ………色々やってみたい。
活動報告
織斑一夏と接触、友好関係を構築。携帯端末への工作に成功。
篠ノ之箒との接触。織斑一夏への一方的な恋愛感情を確認。
イギリス代表候補生、セシリア・オルコットとの対立。
目立った敵対者、或いは任務遂行の障害は無し。
「何やってんだ?」
「ひゃっ!?織斑!?」
初日の授業が終わり、寮の自室にて。
ノートパソコンでの作業中に、背後から一夏に声を掛けられたフィラメントは、慌てて画面を閉じる。
束に送る活動報告を打ち込んでいたのだ。一夏に見られていいものではない。
「何見てんだ!人のパソコン覗き見とか、ノック無しで女子の部屋入るのと同じだぞ!このピーピング織斑!」
「わ、悪い!そんな気にするとは………」
椅子に座ったまま一夏に向き直ると、フィラメントは足で押し出すように蹴り飛ばす。悲しいかな、体格差・筋力差の関係で、びくともしていない。
初日から自分達の正体がバレては余りにお粗末。これから一夏の卒業まで付き合うのだ。フィラメント自身も不用心だったが、一夏は一夏でデリカシーが無かった。
「どこまで見た!?」
「いや、内容までは詳しく見てない!俺の名前があったのは見たが………もしかして日記か?」
日記。
ああ、確かにそう取れるかもしれない。割と見られたようだが、どうやら勘違いしているようだ。フィラメントは胸を撫で下ろす。ここは丁度良い、その勘違いに乗っからせて貰おう。
「そうだよ、日記だ。毎日付けてるんだよ。だから見んな」
「ごめんな」
「脳ミソもう一個付けとけ」
「無理だろ………」
一先ず、この場は乗りきった。
大体、今部屋に紡がいないことが問題なのだ。
フィラメントのISは、世にも珍しい二人乗りだ。故に、ペアである方が動きやすいだろうと判断され、寮の部屋も紡と同室なのだ。ルームメイトとの対面が終わった一夏は、紡に勉強を教わりに来ている。にも関わらず、当の本人は
『フィラメント、ヨロシク!』
『は!?どこ行くんだよ!?』
『デート!』
『ハァ!?』
と、一夏が来る前に出かけてしまった。帰ったらブッ飛ばそうと決意したのは言うまでもない。
気まずい。そもそも、フィラメントは一夏と仲良くなるつもりは毛ほども無い。
のだが。
「なぁフィラメント、お前今日の授業分かった?」
「あぁ………聞き飽きて眠くなる程にはな」
「マジでか!?な、なぁ、紡さんが来るまででいいから教えてくれよ!」
紡の代わりとでも言わんばかりに絡んでくる。他人との心理的距離が近すぎだった。初対面の相手でも、信頼して近寄っている節がある。勿論、相手が明確に害意がある場合は話は別だろうが。
恐らく一夏の中では、フィラメントは『紡さんの相棒』として好評価なのだろう。それだけで頭痛の種が増えた。
「断る。ツムグが帰ってくる時間も分からないし自室で待ってれば?」
「いや………俺が頼んだんだ。入れ違いになったら失礼だからな」
「察しろよ。帰れよ」
一夏は、クライアントの意向で護衛しなければならない存在。不必要な接触は避けたいのだ。
だが、初めて会う人間は基本的に疑い、信頼するまで一定距離には踏み込ませないフィラメントにとっては、そもそもからして鬱陶しい。
一夏が居ては何も出来ない。自分に割り当てられた部屋なのに居づらい。どうにかこいつを排除出来ないか、と考え始めた辺りでふと思った。
一夏のルームメイトは、誰だ?
「おい織斑。一応聞くが、部屋に戻りにくい理由でもあるのか?」
「えっ!?あ、あぁ………まぁ、ちょっとな」
歯切れが悪い反応を見て、察した。
個室じゃ、無いな。ルームメイトと何かあったと見る。
となると………女子と相部屋か。
「どうした、相部屋の相手に不満か?まさかあのイギリス代表候補生とでも一緒なのか?」
「いや、不満は無いんだ。相手は箒だよ。幼馴染みだったから、そこは助かってる」
「そこは、とは?」
「………部屋に行ったときさ、風呂上がりで裸の箒と出くわしちゃって。お互い忘れようと言う話にはなったんだが、やっぱ意識しちゃってさ………。ゴメン、時間潰しに来た」
やっと吐いた一夏に、フィラメントがジト目を投げた所に、
「話は聞いたぞリア充!!破ぜろ!!」
「紡さん!?」
紡、帰宅。何やら書類を手に持っている。しかし、折角の書類を今にも握り潰しそうな程に、その身体は震えていた。
「何だ羨ましいなぁ!俺だって、俺だってさぁ!女の子とそーいうイベントに遭ってみたいよ!だって男だもん!例えばカワイイ幼馴染みがいるとか、素敵お嬢様と出逢うとか、張り合った相手と喧嘩を通じて惹かれ合うとか!けどさぁ!そんなもの所詮夢でしか無いんだよ!中高大と全く色恋の無い学生生活を送り、卒業したらIS関係の仕事に着いちゃって忙しくて合コンも出来ず!仕事が軌道に乗ってきたと思ったら異動先がIS学園って何だよ!?一回り違う女子ばっかしかいないじゃないか!俺もう自制心働いちゃって春が訪れる気配無し!ドーテドーテー一生ドーテー(お経風)!!そうなる未来が待っている!そこに現れたお前と言う名の超新星!幼馴染みとラッキースケベ!?どこのアニメの主人公!?しかも入学初日にやってのける!俺は痺れた憧れたァ!お前の明日は何が待ってる?それは勿論女子が待ってる!オジサン待ってる女子は居ない!!あって金品ねだられる関係!!搾り取ったら美人局にクラスチェンジ!!俺は地獄で相手は天国!人生良いことありゃせんぜ!妬ましいぜ一夏よおぉぉぉぉい!」
「黙れ魔法使い予備軍」
「 」
バッサリ。
部屋の隅で体育座りを始めた紡を放置し、フィラメントは紡が持ち帰ってきた書類に目を通す。既に派手なシワが出来てしまった用紙を丁寧に広げつつ、フィラメントは呟く。
「おい、ツムグ。お前これ良く取ってきたな。一夏のためか?」
「………まあね~」
「へ?俺?」
「ああ。見てやれ」
手渡された用紙に書いてあったことを簡潔に言えば。
一週間分のアリーナ、及び訓練用IS『打鉄』の貸出許可。
実質、一夏の訓練の許可だった。
専用機持ちなら許可願いは必要ないが、一般生徒はそうはいかない。ISの貸出やアリーナの使用に制限がある。教師の許可が必要だ。
紡はそれを一週間、纏めて取ってきたのだ。書類の最後には、『織斑千冬』のサインと印鑑がしっかりと押してあった。
「紡さん!ありがとうございます!」
「お礼はクラス代表になってくれれば」
「何でですか………」
部屋の中央に置かれた卓袱台に、げんなりと突っ伏す。感謝の言葉を撤回したくなった。そんな一夏を見て紡は
「今ならフィラメントが可愛くお願いしてくれるぞ」
冗談で流そうとして
「あ"ァ!?」
「グホァ!」
鳩尾に頭突きを喰らってダウンした。
「…………今日は大天使フィラメントちゃんは売り切れらしい」
「売ってても買いません」
「フィラメント、お前女の魅力無いってよ」
「アリーナまで来いよ………お前のニューロンを殺す。ひとつ残らずだ」
「すげぇ行きたくねぇ」
この後滅茶苦茶一夏に勉強教えた。
◇
時は消灯時刻。健全な生徒は寝る時間。
「………で。どこ行ってたんだよ、ホントは」
「更識会長のとこだよ」
そして、訳アリ生徒が動き出す時間だ。
既に一夏は帰った。今、部屋に居るのは俺とフィラメントのみ。
俺が会長の所に行ったのは他でもない。
「早速だが、仕事だってよ。あと二時間後に
「もっと早く言え」
「会長指定の時間が今だったんだ。勘弁してくれ。ほれ、データ」
俺は、会長から渡されたデータチップをフィラメントに渡す。
俺は更識暗部実動部隊所属、それも『会長直属の暗部』だ。
更識が何故『更識』か。それは、天才・篠ノ之束に『更に識ることを許された』存在であるからだ。え?元々日本政府と繋がりがあったはずだろって?それなんだよなぁ………。束さんは、
まあ、いいさ。どのみち俺が鉄砲玉であることだけは変わらない。
因みに地位としては、
束さん>更識会長>フィラメント≧俺
の順になっている。クッソ、俺ってば最底辺じゃないか。泣けるぜ。泣かせて。
心の中で涙を流し、心のハンカチで拭った俺は、窓を開ける。夜風が心地好い。
今夜、この風に消煙が混ざる。
「フィラメント、準備はいいか?」
「仕方無いな。………おいで、『
フィラメントを、山吹色の装甲が包む。
が、今回は、俺は乗らない。
「ハイパーセンサー起動………。目標を確認。ツムグ、五名様が所属不明ISでお越しだ」
「ゲッ、マジで!?」
チップから読み込んだ情報を元に、フィラメントが相手の位置を割り出す。学園後方に広がる海。機体を半ば海面下に沈めながら、ゆっくり、しかし確実に接近しているとのこと。
五対一かよ。辛いな。
仕方無い。負ける気はしないが、油断は出来ないな。
「座標固定完了………ツムグ、
「あいよ、りょーかい」
俺は、右手首のバンドを左手で握る。
この行為に意味は無いんだが……気合いを入れるって奴か?
「頼むぜ、相棒」
「帰りにコンビニでアイス買って来て」
「え?」
俺が聞き返した瞬間に、視界がぶれる。
世界が、光の粒子になる。
眩い光景が消えた時、
「え」
俺は海の上にいた。
しかも、敵集団の、真上。
「あのヤロォォォォォ!?!?」
早速気付かれた。そりゃハイパーセンサーがあればね。既に一機がこちらに銃を構えている。
悪態の一つ吐きたいが、もうどうしようもない。
もう、やるしかない。
「来い、『
俺の身体を、黒い装甲が覆う。
お前を纏うのは、入学式前以来か。そんなに久しぶりでもないな。
「PIC正常稼働。ハイパーセンサーにノイズ無し。PLJもオッケー。行くぞ、レグルス!」
重力に引かれて、自然落下していた俺は、文字通り消える。
現れる先は、敵集団の背後。
俺にいち早く銃を構えていた
右手からワイヤーアンカーを発射し、相手を捕縛。左手の甲から引き抜いた大型ダガーを、その背中に突き立てる。
「うっ、いつの間に!?」
相手は突然のダメージに慌てるが、もう遅い。立て続けにダガーを突き立て、シールドエネルギーを奪う。
僚機は手が出せない。俺が仲間に密着しているから、誤射しかねない。攻めあぐねる奴らを放置して、俺はラファールを蹴り飛ばす。
「あうっ、あ!?」
ワイヤーがピンと延びるまでラファールが離れた所で、俺はワイヤーを最高速で巻き取る。同時に左手をぐいと引き、相手を一気に引き寄せる。
「じゃあな」
両腰のアーマーに四本ずつ備えられた苦無を、両手の指で挟み、纏めて引き抜く。さながら肉食獣の爪だ。
俺はその即席の爪を、相手の心臓部目掛けて容赦なく突き出す。
スラスター全開。俺も全力。そして、ラファールを引き寄せる加速が加わる。
渾身の一撃が、ラファールを抉る。
当然死なない。絶対防御がある。
だが、それでいい。
「あっ………!?」
お前のISは、今、力尽きた。
「うっ、ああああああーーーっ!?」
鎧を失った女は、10m程吹き飛ばされると、海面に叩き付けられ、気を失った。身体が浮かび上がる。あ、良かった。仰向けだ。吐かせる前に殺さずに済む。
ふう、と一息。
この間、20秒にも満たず。
残った四機が俺を囲む。俺を脅威と認識したらしい。やる気だ。
漂う殺気。まだ帰れないな。
そして俺は思った。
(あーー、アイス何味買ってくりゃいいか聞いて無かったわ)
俺の、眠たい夜が幕を開ける。
「行くぞ、お前ら。常識の、更に先を識る覚悟はあるか?」
ダッシュスライディングジェットインパクト土下座