こうなったのも全て就活って奴のせいなんだ。
何だって、それは本当かい!?
おのれ就活。ゆ"る"さ"ん"!!
俺を囲む、四機のIS。
月が、その姿をハッキリと浮かび上がらせる。
ワインレッドが基調のIS。青竜刀が水面に映っている。
黒い鋼のIS。大口径キャノンが一門。あれは脅威だな。
青いドレスのようなIS。手持ち武器は無し。丸腰………いや、内蔵火器持ちか?
まるで刃を着ているかのような紅いIS。これは………近接戦闘用か?日本刀を両手持ち。近寄らせたくない。
思い返してみれば、既に落としたラファール・リヴァイブは、デュノア社のカタログに載ってるのと細部が違ったな。まずカラーリングからしてオレンジとか、派手だな。
これ、どういう部隊だ?同じ機体で揃えた方が、足並みも揃う。それに整備も容易い。共通点と言えば、全員ヘルメットしてて顔が分からないくらいか。
よく、分からない。
おいおい、これじゃあ俺が更に識る必要があるじゃないか。
────────ッ!
「墜ちろ!!」
黒い奴が、撃ってきた。
くそっ!考えさせちゃあ、くれないよな!
PLJ、起動。俺は消え去り、黒い奴の目の前に現れる。
「なあっ!?」
「遅い!」
右手でダガーを引き抜き、キャノンの砲身を切り飛ばす。長くて取り回しが悪かったろ?サービスだ!
間髪入れずに俺は相手を蹴り飛ばし、反動でその場を離れる。
直後、俺がいた場所に水柱が立つ。
「チッ、外した!」
ワインレッドの奴が舌打ちしている。何をした?ともかく、厄介な飛び道具を持っているらしい。足を止めない方が良さそうだな。左右のステップで間合いを乱しつつ、円を描いて周囲を回ってやると………ほら当たらない。水柱が次々立つばかり。どうやら衝撃波の類いを撃ってるようだが、練度が低い。あと操縦者の身長も低い。
「はあああああああっ!!」
っと、紅い奴が距離を詰めてきた。両手の日本刀が、交差するように横薙ぎに振るわれる。
咄嗟に後ろに飛びすさる。しかし、どうやら相手も凄腕らしく、右の剣撃が避けられない。こちとら四年の、更識の実戦仕込みだぞ!?くっそ、暗部舐めんな!ダガーを逆持ちにすると、刃の反対側にあるソードブレイカーで、相手の太刀を受ける。
「正統派の勝負じゃなくて悪いな、貰うぜ!」
「な、何だと!?」
力一杯、水面に拳を叩きつけるかのように腕を振るう。ベギンという音と共に、折れた刃が宙を舞う。
俺はそれを掴むと、
「そこのお前!妙なことすんな!」
青い奴を見据えつつ、背後に向けて投擲する。
ズガッ!金属を突き破る音がした。
命中。
空中を漂っていた
「な、何故!?死角を突いたというのに!?」
「ハイパーセンサー使うまでもない。海面でバレバレ」
残った機動兵器が火を吹くが、俺は空間転移して回避。閃光は虚しく宙を切る。
何だ、こいつら。得意レンジに持ち込ませなきゃ楽だぞ。このまま一気に攻め立てようか。
「つ、強い………」
「完全にあしらわれてるわね………」
「私の
「くっ、ならば連携して挑みましょう!」
相手もただでやられるつもりは無いってか。でもまあ、今までので分かった。無理だ。奴等に勝ち目は無い。
正直、俺に技量で負けてる時点で勝率下がってんのに、
何せ、レグルスの
ただ面倒なのは、使う度に武器が収納し直される。苦無を投げても紛失しなくて済むが、ダガーを一々抜刀し直さなきゃいけないのはめんどい。
それに、レグルスは無敵じゃない。実は、こいつエネルギーはあってもシールドを張れない。一発貰うだけで大ダメージな訳。チートは駄目だって束さんが言ってた。嘘だぜ絶対。
ともかく、こっちは危なくなったらすぐにPLJ使うからな。俺の転移空間を見切れるか?
「「うおおおおおおっ!!」」
来たか。
黒と紅の二機のISが突っ込んでくる。紅いのはともかく、黒いのは………あ、
キャノンが火を吹き、砲弾が迫る。しかしこれは牽制。寧ろ避けようと動いたら当たるわ。で、本命は、
「チェストぉぉぉぉっ!!」
「あぶねっ!?」
こっちのサムライか!って、こいつ一刀流の方が強いぞ!?ダガーを太刀筋に差し込むのは無理だ!速すぎて俺がダガーを持ってかれる!幸い、間一髪避けることが出来たので、刀を振り切った隙を狙って蹴っ飛ばし、距離を取る。が、
「てぇぇぇぇえぃ!!」
一瞬足を止めたところに、振りかぶって投擲された青竜刀が迫る。そういうのは槍投げでやって貰えるかなぁ!?身を屈めてやり過ごすと、俺はお返しに苦無を投げ
「貰ったぞ!!」
「何!?」
思考が中断される。
黒い奴が、青竜刀を持って俺に肉薄していた。目の端には、紅い奴も映っている。
こいつら。
瞬時加速で挟んできたのか!!
しかも、青竜刀を投げたのは味方への武器のパス。
そして、俺は見た。
海面に映る月を貫いて、先のBTが海の中より現れて、俺に銃口を向けるのを。
「チェックメイト!!」
やられた。
黒と紅の太刀筋は、完璧に俺の逃げ場を無くしている。下からのBT。挙げ句に、ワインレッドの奴まで俺に狙いを定めている。
衝撃波が来る。それはだめ押しに俺を足止めするつもりか!
まあ、勿論PLJで逃げるけど。
お前ら、舐めんなよ。
人間は確かに、不測の事態には弱い。
だがな、同時にそんな時こそ、普段の習慣が生きる。
危なくなったら即時離脱。無茶はしない。
俺の姑息さが、逆に俺を生かす!
「ハッ!?二人とも避け──────」
ワインレッドの奴が叫ぶが、もう遅い。
俺が逃げたことで、衝撃波は何も捉えず突き進む。
否。捉えてしまった。
止めを焦り、飛び出し過ぎたBTを。
ひしゃげ、鉄屑となり、そして爆発する。
交差するように太刀を振るった二機のISに、BTの爆発が直撃する。
そして。
ああ、何て運の無いことか。
「な────」
先にダメージを受けていた黒いISのキャノンが、誘爆してしまう。
それが、引き金となり、
先程よりも、一際大きな爆発が起こる。
ISが、耐久の臨界を向かえた。
「ぐあぁぁぁぁぁぁっ!?」
叫んだのは、紅い方。
またも爆発に飲まれ、満身創痍だ。だが問題は、黒い方。
ぼちゃっ。
ISが爆散し、その衝撃と熱をその身で余さず受けてしまったら?
「 」
勿論、瀕死だ。いや、死んだか?
直前に脱出したらしいが、四肢がもげている。頭はヘルメットのお陰で辛うじて、といった所か。
ともかく、一人撃破。
そういや先に気絶した奴は………あっ、まだ浮いてる。そーいやまだ五分経ってないね。わりと激しく闘ってる気がしたのに。
だが、そろそろ決着付くかな。天秤が派手に傾いた。
「あ……あたしが………やった?あたしがやったの?あたしが……あたしが………こ、ころ」
「やめろ!違う、事故だ!自分を責めるな!」
「それ以上はいけません。わたくしも罪を背負います!ですから今は堪えて!」
ワインレッドの奴が、精神的に参っている。味方が墜ちたのは自分のせいだと思っている。無理もない。俺が避けなきゃ問題無かったんだろうがな。後は入射角が悪かった。
しかし、わりと仲間意識強い奴等だな。見た感じ、寄せ集めの傭兵集団って表現が相応しいのに。
「………やむを得ませんわね」
青いISの声のトーンが、下がる。
こいつ。何か覚悟しやがった。
「わたくしが行きます。お二方、援護を」
「なっ、O-6!?お前!」
「そうよ!だったらあたしが!」
何の相談だ?
「武装の問題ですわ。丸腰のISでは戦えない。わたくしにお任せ下さいな」
「………分かった、O-6」
「見捨てろって言うの!?仲間を!?アンタを!?」
ワインレッド………メット越しだが、あれは泣いている。
おいおい。分かりやすいが、その分怖いな。
あの青いの、学園に
「ごきげんよう、R-8。H-4、彼女を頼みます」
奴の姿が歪む。残像を残す速さ………瞬時加速!!マズイっ、見失っ─────
「わたくしと踊って頂けますかしら?」
「ぐあっ!?」
視界が歪むほどの強烈な衝撃が、俺を襲う。
こ、こいつっ!
俺を道連れにする気か!!
だが、PLJさえ使えば
ガクン!
「させないよ」
機体が重くなり、足が僅かに海に浸かる。
背後からの声。
振り向けば、先に落としたリヴァイヴのパイロットが、ピンの抜けた手榴弾を持ってしがみついている。
間に合わない────
ドウッ!!
一人の人間が塵となり、そして俺は身体を焼かれた。
ぐ、くそ…………例え対人兵器でも、シールドを張れないレグルスじゃ、効く………!
「D-9!わたくしも今行きますわ!」
視界を白く染め上げる光。
PLJを起動、逃げなければ────
《エラー発生。PLJ復旧まで200秒》
嘘だろ!?こんな時に!
ここで、終わる、のか?
いや、
いや、まだだ!
「だぁぁぁぁぁっ!!」
右腕のアンカーワイヤーを射出し、相手の腹部に命中させる。
「あぁぁぁぁぁぁっ!?」
絹を裂くような悲鳴が上がる。絶対防御をカットしていたらしい。そうまでして仲間を………。だが、今は罪悪感を殺そう。一瞬緩んだ拘束から抜け出し、全速力でその場を離脱する。
「く、や……し…………」
最期の言葉が僅かに聞こえると同時に爆発が起こり、風圧で俺は空中で揉まれることになる。しかし、ダメージ自体は無い。
申し訳ないけど、一緒には逝けない。
周囲に敵影無し。ハイパーセンサー、広域索敵開始。
見つけた。大分学園に近付かれたな。仕方がない、プライベート・チャネルで応援を頼もう。
「フィラメント、聞こえてるか?」
『勿論。で、どこで油売ってんだ早くしろ!二機程来ちゃってるじゃないか!』
「敵の自爆でPLJがやられた。そっちで回収してくれ。学園側からアタックする」
『………了解。とんだ相手だな』
通信が切れると、視界が変わる。懐かしき我が寮の部屋だ。あー、さっきぶり。
相棒が、ゾディアックからむすっとした顔を出してお出迎えしてくれた。反抗期の娘を持ってパパは辛いです。
いや、ふざけないと疲れるだけです。
「よう、フィラメント。悪いな、もっかい行ってくる」
「PLJヤバイんだろ。やれるの?」
「あと200秒で復旧する」
「そーですか。じゃあまた送るから、しっかりやること」
それだけ言って、ISの中に引っ込む。
レグルスが光に包まれる。飛ぶな。
「ツムグ」
「なんだ?」
「ちゃんと帰ってこい」
「………了解」
あーあ。
こりゃアイス買って帰んないとなぁ。
そして、寮の部屋は、また一人になる。
◇
夜空を飛ぶ。今日は星が綺麗だ。
「見えてきたな。あれが、IS学園か」
「そうね」
私達の眼下には、目標の場所がある。
「R-8、お前が頼りだ。正直私はもう戦力とは言えない」
「………心配いらないわ、H-4。アタシが守ったげる」
「………そうか」
もう、落ち着きを取り戻したか。なら、大丈夫そうだな。
今日は………嫌な日だ。最低だ。
友を失った。
L-10。D-9。O-6。
皆、良き者だった。
R-8。
今はもう、彼女しかいない。
私は、外れ者だった。部隊に馴染めないでいた。組織を信じられないでいた。だからこそ、同じような外れ者が居たことに、安堵した。それは五人とも同じだった。
だからこそ、今、命を散らす。
分かっていたのだ。今回の作戦が、私達を捨て駒にしていることくらい。
私達を餌に、織斑一夏を護る者を炙り出すことくらい。
だが、友を人質にされては、やる他無い。私達は、互いが護るべきものであり、そして互いの枷だった。
それでも、成功すれば、また私達は五人で笑える。いつか。やがていつか。それがいつかも分からないのに。
そしてやっぱり、その"いつか"は来なかった。恐らく、私の結末も………。
いや、今は忘れよう。
「援護を頼む」
「まっかせて!」
瞬時加速出来る程のエネルギーも残っていない。通常推力をもって、最速で空を駆ける。
R-8が、私にぴたりと付けてくる。
私が、私が織斑一夏を仕留めれば。そうすれば、R-8だけでも離脱出来る筈だ。幸い、彼女は殆ど無傷だ。まだ行けるはず。彼女だけは、帰れる────
ヴォンッ!!
「よう。追い付いたぜ」
─────────。
黒い、全身装甲のIS。現れたり消えたりと、忍者のような奴。だが、こいつが現れたと言うことは──────
「アンタ…………アンタはぁぁぁぁぁ!!」
R-8の怒りが、空気を震わす。
獣のように吼えながら、彼女は素手で突撃する。鬼神の如き気迫で、敵目掛けて襲いかかった。
「行きなさい!行ってぇぇぇぇ!!」
私の手元から、カチャカチャと音がする。刀を握る手が、震えているのだ。
L-10。O-6。D-9。
すまない。私は、皆の仇を討てない。
「うあぁぁぁぁぁぁッ!!」
目頭が熱い。頭がミシミシと痛む。堪えろ!堪えろ!振り向いてはいけない!
距離が離れ、R-8の砲撃音が薄れゆく中、私はただ真っ直ぐに、IS学園の寮に飛ぶ。
見えた。
あれが、あれが織斑一夏の部屋!刀を握り潰さんとするほど力が籠る。
「う、うわぁぁぁぁぁ!!な、何これ!?ちくしょぉぉぁおぉぉおおおお!」
「!?」
絶叫が。
あ、R-8………!
でも、でも私は止まってはいけない!私は、私は!友の無念を!!
「やらせねぇぞお前!!」
黒いISが、眼前に現れる。その肩を掴む、R-8。良かった、まだ生きてるんだな!?
う、ん?
R-8?
IS、だけ?
脱け、殻?
え?
「う。」
分かった。
分かってしまった。
人の直感は、どうしてこうも残酷なのだ。
分かって、しまった……。
R-8は、もう、いないのだと。
「よくもぉおぉおおおおおおおおっ!!」
「ぐ!?」
私は勢いを全く殺さず、眼前の憎い敵に体当たりする。ダガーがぶつかりヘルメットが割れたが、構わない。私を上回る体躯を持つ相手を弾き飛ばし、遂に寮に肉薄する。
しかし、ここでエネルギーが尽きた。まだだ。ここで終われない!私はISの日本刀を生身で持ち、慣性に任せてISスーツのままベランダに向かって落ちる。
「届けぇぇぇぇぇぇッ!!」
手がかかる。掴んだ。
力を振り絞り、身体を持ち上げる。これで、遂に!遂に!私は、私達は─────
「な!?何だお前は!?」
「ハッ!?」
目が合ってしまった。
本当に偶々だった。いや、私達が、騒ぎ過ぎたのかもしれない。
話には聞いていた。
偶々、ベランダに、出てきたのだ。
「
ッ!!
ちからが、ぬける。
いたい。
せなかが。
あふれる。
なにが?
こぼれる。
なにが?
てが、はなれる。
おちる。
なぜ。
………あ。
くろいやつ。
そうか。
まにあわなかっ
ぷつん。
◇
IS学園の朝は、早い。
「─────────────」
少女は、剣道場で黙々と竹刀を振るっていた。
それは力強く、また美しい。
朝日の中に、汗が光る。
端から見れば、彼女の直向きさに胸を打たれる者が多いことだろう。
しかし、彼女は、修練のために汗を流していたのでは無かった。
(昨日のことは、何だったのだろうか)
瞳が見据えるものは無い。
いや、心の中にはあるのかも知れない。
篠ノ之箒は竹刀を振るう。
それは、昨日の夜のことを忘れたかったから。
『
不意に目を醒まして見た、あの光景を。
自分と全く同じ顔をした少女が、闇に消えていったことを。
篠ノ之箒は竹刀を振るう。
彼女を動かすものは、恐怖だったのかも知れない。
草津温泉エクストリーム