問題児と精霊使いが異世界から来るそうですよ?   作:白ウサギ@FGO

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第二十話

「わ、………!」

「きゃ………!」

「うわ………!」

 “境界門(アストラルゲート)”の準備が終わり、門を潜ると冷たい風が吹き抜ける。

 その風に悲鳴を上げる、耀と飛鳥と僕。

「す………凄い!なんて巨大な水樹………!?」

 それは僕も同感だ。レスティア達も、口々に感嘆の声を上げている。

「飛鳥、朔夜、下!水樹から流れた滝の先に、水晶の水路がある!」

 耀が歓声を上げて、僕と飛鳥の袖を引く。

(これは確かに黒ウサギが言ったとおりすごいな………)

「飛鳥、朔夜、上!」

 耀にそう言われ、上を見ると何十羽という角の生えた鳥が飛んでいた。

「角が生えた鳥………しかもあれ、鹿の角だ。聞いたことも見たこともない鳥だよ。やっぱり幻獣なのかな?黒ウサギは知ってる?」

「え?え、ええまあ………」

「ホント?何て言う幻獣なの?ちょっと見て来てもいい?」

 すごい興奮してるな、耀。黒ウサギも困ったようにしてるし。

 しばらくすると、旋風と共に懐かしい声が掛かった。

『友よ、待っていたぞ。ようこそ我が故郷へ』

 そう言って現れたのはのは“サウザンドアイズ”のグリフォンだった。

「久しぶり。此処が故郷だったんだ」

『ああ。収穫祭で行われるバザーには“サウザンドアイズ”も参加するらしい。私も護衛の戦車(チャリオット)を引いてやってきたのだ』

 見れば彼の背中には以前より立派な鋼の鞍と手綱が装備されている。

『“箱庭の貴族”と友の友よ。お前達も久しいな』

「YES!お久しぶりなのです!」

「久しぶり。あのとき以来だね」

「お、お久しぶり………でいいのかしら、ジン君?」

「き、きっと合っていますよ」

 言葉の分からない飛鳥とジンはその場の空気でお辞儀する。

 グリフォンは嘴を自分の背に向け、僕達に乗るよう促す。

『此処から街までは距離がある。南側は野生区画というものが設けられているからな。東や北よりも気を付けねばならん。もし良ければ、私の背で送っていこう』

「本当でございますか!?」

 それは助かるな。シムルグだと全員運べないし、結構離れてるなら歩くのも大変だろうし。

「ありがとう。よかったら、名前を聞いていい?」

『無論だ。私は騎手より“グリー”と呼ばれている。友もそう呼んでくれ』

「うん。私は耀で、それでコッチが朔夜と飛鳥とジン」

『分かった。友は耀で、友の友は朔夜と飛鳥とジンだな』

 グリーは翼を羽ばたかせて承諾する。その間に事情を説明された飛鳥とジンは、同じく頭を下げてグリーの背に跨がる。黒ウサギが乗ったあと、僕も頭を下げてグリーの背に跨がる。

 僕達がグリーに乗り込んでいると、耀が質問している。

「グリー。あの鹿の角が生えた鳥も、やっぱり幻獣?」

『………鹿の角が生えた幻獣?まさか、ペリュドンの奴らか?』

 ペリュドンって空にいる鳥の群れのことかな?

『彼奴らめ………収穫祭中は外門に近づくなとあれほど警告したというのに。よほど人間を殺したいと見える』

「………?食人種なの?」

『違う。ペリュドンは人間を殺すのだ』

「ああ。つまり殺人種か」

「YES。朔夜さんの言う通りなのですよ」

 僕の隣から黒ウサギが顔を出してそう言う。

「詳しくは知りませんが、元はアトランティス大陸という場所から来た外来種だと聞いております」

「………アトランティス大陸?それって、あの伝説の?」

「YES。そしてペリュドンは先天的に影に呪いを持ち、己の姿とは違った影を映すとか」

『その解呪方法が“人間を殺す”こと。――フン。何処の神が掛けた呪いかは知らんが、実に悪趣味だ。生存本能以外で“人を殺す”という理由を持たされた彼奴らは、典型的な“怪物(モンスター)”なのだろう。普段なら哀れな種と思い見逃すが、今は収穫祭がある。再三の警告に従わぬなら………耀には今晩、ペリュドンの串焼きを馳走することになるな』

 ニヤリ、と大きな嘴で笑うグリー。

 グリーは翼を羽ばたかせて旋風を巻き起こし、大地を蹴った。

「わ、わわ、」

『やるな。全力の半分ほどしか速度は出していないが、二ヵ月足らずで私に付いてくるとは』

「う、うん。黒ウサギが飛行を手助けするギフトをくれたから」

「YES!耀さんのブーツには補助のため、風天のサンスクリットが刻まれております!」

 隣で声を上げる黒ウサギ。

 ……ジンと飛鳥と三毛猫、大変なことになってるな。

 とりあえずジンが落ちそうになっているので、命綱を手繰り寄せる。

 二人が落ちないよう、風絶障壁(ウィンドウォール)を使う。

「た、助かりました」

「ほんと、危なかったわ」

「二人に落ちられたら大変だからね」

 少し余裕が出来たのか、飛鳥が眼下の街を見る。

「わあ………掘られた崖を、樹の根が包み込むように伸びているのね」

「“アンダーウッド”の大樹は樹齢八千年とお聞きします。樹霊(コダマ)の棲み木としても有名で、今は二〇〇〇体の精霊が棲むとか」

『ああ。しかし十年前に一度、魔王との戦争に巻き込まれて大半の根がやられてしまった。今は多くのコミュニティの協力があって、ようやく景観を取り戻したのだ』

 魔王と聞いて、僕達は顔を見合わせた。

『今回の収穫祭は、復興記念を兼ねたものでもある。故に如何なる失敗も許されない。“アンダーウッド”が復活したことを、東や北にも広く伝えたいのだ』

 強い意思を込めて訴えるグリー。地下の宿舎に着いて僕達を下ろす。

『私はこれから、騎手と戦車(チャリオット)を引いてペリュドン共を追い払ってくる。このままでは参加者が襲われるかもしれんからな。耀達は“アンダーウッド”を楽しんで行ってくれ』

「うん、分かった。気を付けてね」

 言うや否や、グリーはその場を去っていく。

「………殺人種なんているんだね。もしも私があの幻獣からギフト貰ったら、どうなる?」

「分かりません。しかしペリュドンに関しては迂闊に仲良くならない方がよろしいでしょう。襲われる可能性も大きいですし、呪いを受ける可能性もございます。無理に近寄らないのが無難ですよ」

「………そう。分かった」

 そう言われた耀は、少し肩を落とす。

「耀、他にも幻獣はたくさんいると思うし、そんながっかりしなくてもいいと思うよ」

「うん、それもそうだね」

 耀は僕の言葉を聞いて少しだけ元気になる。僕達がそんな会話をしていると、宿舎の上から声が聞こえた。

「あー!誰かと思ったらお前、耀じゃん!何?お前らも収穫祭に、」

「アーシャ。そんな言葉遣いは教えていませんよ」

 上を見上げると、其処には耀と戦っていた少女――アーシャとカボチャ頭のジャックが窓から身を乗り出して手を振っていた。

「アーシャ………君も来てたんだ」

「まあねー。コッチにも色々と事情があって、サッと!」

 窓から飛び降りて僕達の前に現れるアーシャ。

「ところで、耀はもう出場するギフトゲームは決まってるの?」

「ううん、今着いたところ」

「なら“ヒッポカンプの騎手”には必ず出場しろよ。私も出るしね」

「………ひっぽ……何?」

 何それ?と耀が黒ウサギの方へ振り向く。僕も気になるし、一応聞いておこう。

 黒ウサギは口を開こうとして、ジンに説明役を譲る。

「ヒッポカンプとは別名“海馬(シーホース)”と呼ばれる幻獣で、タテガミの代わりに背ビレを持ち、蹄に水掻きを持つ馬です。半馬半魚と言っても間違いではありません。水上や水中を駆ける彼らの背に乗って行われるレースが“ヒッポカンプの騎手”というゲームかと思います」

「………そう。水を駆ける馬までいるんだ」

 耀は両手を胸の前で組む。僕も参加してみようかな、ちょっと気になるし。

「前夜祭で開かれるギフトゲームじゃ一番大きいものだし、絶対に出ろよ。私が作った新兵器で、今度こそ勝ってやるからな」

「分かった。検討しとく」

 パチン、と指を鳴らして自慢げに笑うアーシャ。

 ジャックはジンの前に近づき、礼儀正しくお辞儀をする。

「ヤホホ、お久しぶりですジン=ラッセル殿。何時かの魔王戦では御世話になりました」

「い、いえ。此方こそお久しぶりです」

「例のキャンドルスタンドですが、この収穫祭が終わり次第に届けさせていただきますヨ。その他生活用品一式も同じくです。………しかし“ウィル・オ・ウィスプ”製の物品を一式注文していただけるとは!いやはや、今後とも御贔屓にお願いしたいですな!」

 ヤホホホホホ!と陽気な声で笑い上げるジャック。

 飛鳥がそっと前に出て、ドレスの裾を上げながらお辞儀する。

「お久しぶりジャック。今日も賑やかそうで何よりよ」

「ヤホホ!それは勿論、賑やかさが売りなものですからね!飛鳥嬢もご健勝なようで何よりですよ。前回のゲームではディーンに不覚をとりましたが、何時かリベンジを――」

「え?」

 隣で聞いていたジンが疑問の声を上げる。僕もジャックの言葉を聞いて少し気になるところがあった。

「ねえジャック、それってどういう――」

「そ、そんなことよりもジャック!貴方はゲームに参加しないの?」

 僕がジャックの言葉について聞こうとしたところ、飛鳥に話をそらされた。

「ヤホホ。私は主催者がメイン活動なもので。ゲームの参加者、というのが苦手な性分なのですよ。今回の収穫祭も招待状が来たので足を運びましたが、目的は日用品の卸売りです」

「あら、それでは参加者はアーシャ一人だけなの?楽勝じゃない」

「うん」

「いやいや、一応楽勝だとしても油断はしちゃダメだよ。楽勝だとしても」

「おいッ!!」

 僕達の挑発にツインテールを逆立てるアーシャ。

 それを見てヤホホとカボチャ頭を揺らして笑うジャック。

 その後僕達“ノーネーム”一同は、“ウィル・オ・ウィスプ”と共に貴賓客が泊まる宿舎に入った。

「………凄いところだね」

「ええ。大自然というのかしら。北側は建造物が多いのに対して、南側は環境に適して過ごしているように思えるわ」

「YES!南側は箱庭の都市が建設された時、多くの豊穣神や地母神が訪れたと伝わっています。自然神の力が強い地域は、生態系が大きく変化しますから」

「そうなのね。でも、水路の水晶は北側の技術でしょう?似たようなものを誕生祭で見たわ」

 飛鳥の質問に黒ウサギはへ?と首とウサ耳を傾ける。

(そんなのあったっけ?)

『そういえばあった気がするわ』

(そうなんだ。ありがとう、レスティア)

「良く分かりましたねえ。飛鳥嬢の言う通り、あの水晶の水路は北側の技術ですよ。十年前の魔王襲撃から此処まで復興できたのは、その技術を持ち込んだ御方の功績だとか」

「そ、それは初耳でございます。一体何処の何方が……」

 黒ウサギの質問にジャックは顎っぽいところに手を当てて答える。

「実は“アンダーウッド”に宿る大精霊ですが………十年前に現れた魔王の傷跡が原因で、いまだに休眠状態にあるとか。そこで“龍角を持つ鷲獅子(ドラコ・グライフ)”のコミュニティが“アンダーウッド”との共存を条件に、守護と復興を手助けしているのです」

「じゃあ、“龍角を持つ鷲獅子”で復興を主導しているのが元北側出身者ってこと?」

「はい。おかげで十年という短い月日で、再活動の目途を立てられたと聞き及んでおります」

「そうなんだ。凄い人なんだね」

 黒ウサギは胸に手を当てジャックの言葉を聞いている。

 たぶん、自分たちの境遇と似ているから、思うところがあるんだろう。

「ヤホホ。我々は今より“主催者(ホスト)”にご挨拶に行きますが………どうです?此処で会ったのも何かの縁ですし、“ノーネーム”の皆さんもご一緒というのは」

「YES!ご一緒するのですよジン坊っちゃん!」

「そうだね。荷物を置いてきますから、少しだけ待っていてください」

 ヤホホ~と陽気に笑って承諾したジャックは、アーシャと共に外に出て待っててくれるそうだ。

 僕達は荷物を宿舎に置き、ジャックたちに連れられて収穫祭本陣へと足を運ぶのだった。

 

          *

 

 僕達は螺旋状に掘り進められた“アンダーウッド”の都市をぐるぐると回りながら登っていく。

 収穫祭というだけあって、色々な出店が並んでいた。

『朔夜、あれ食べたい』

 僕も食べたいし、買っておこうかな。

「………あ、黒ウサギ。あの出店で売ってる“白牛の焼きたてチーズ”って、」

「駄目ですよ。食べ歩きは“主催者”への挨拶が済んでから、」

「美味しいね」

「いつの間に買ってきたんですか!!?」

 あ、あれも美味しそうだな。

『朔夜、私にも買ってください』

 分かってるよ。

「―――――………匂う?」

「匂う!?」

「匂う!!?匂うって聞かれた!?そこは普通、『食べる?』って聞くはずなのに『匂う?』って聞いたよコイツ!!」

「うん。だって、もう食べちゃったし」

「しかも空っぽ!?」

「残り香かよ!!どんなシュールプレイ望んでるのお前!?」

 なんか飛鳥とアーシャが騒いでる。

 どうやら耀が食べてるものが羨ましかったみたいだ。

「二人ともそんなに食べたかったの?僕のでよかったらあげるけど」

「朔夜さんもいつの間に買ってきたんですか!!?」

「さっき耀と黒ウサギがしゃべってたとき。………はい」

 そう言いながら、僕は飛鳥とアーシャに渡す。

「ありがとう、朔夜君」

「どういたしまして」

 僕達が出店の食べ物を食べていると、ジャックがカボチャ頭を抱えて笑っていた。

「ヤホホホホホ!いやまったく、春日部嬢は面白いですねえ。賑やかな同士をお持ちで羨ましい限りですよ、ジン=ラッセル殿」

「はい。でも賑やかさでは“ウィル・オ・ウィスプ”の方が上だと思います」

「ヤホホホホホ!いやまったく恐れ入ります!」

 とりあえず、レスティアとエストが欲しがっていた料理を二人を呼んで渡す。

 僕達は、網目模様の根を上がって地表に出ると巨大な大樹が現れた。

 ………これ、登るの?

「………黒ウサギ。この樹、何百mあるの?」

「“アンダーウッド”の水樹は全長500mと聞きます。境界壁の巨大さには及びませんが、御神木の中では大きな部類だと思います」

「ねえ、ジン。僕達が向かう場所ってどこ?」

「中ほどの位置ですね」

 250m………

「ねえ、飛んでいっていい?」

「………私も飛んでいきたい」

「春日部さん、朔夜君、いくらなんでも自由度が高すぎるわ」

 でもあれを登るのはちょっと………

「ヤホホ!お気持ちはわかりますが、団体行動を乱すものではありませんよ。それに本陣まではエレベーターがありますから、さほど時間はかかりません」

 エレベーター?と僕達は首を傾げる。

 ジャックの案内で太い幹まで来ると、木造のボックスがあった。

「このボックスに乗ってください。全員乗ったら扉を閉めて、傍にあるベルを二回鳴らしてください」

「わかった」

 そう言ってベルの縄を二回引いて鳴らす。

 すると上空で、水樹の瘤から水が流れ始めた。

「わっ………!?」

「上がり始めたわ!」

「ヤホホ!反対の空箱に注水して引き上げているのです。原始的な手段ですが、足で上がるよりはよほど速い」

 ジャックが言う通り、エレベーターはものの数分で移動し、通路に降り立つ。

 幹の通路を進むと、収穫祭の主催者である“龍角を持つ鷲獅子(ドラコ・グライフ)”の旗印が見えた。

「旗が一枚、二枚、三枚………七枚?七つのコミュニティが主催しているの?」

「残念ながらNOですね。“龍角を持つ鷲獅子(ドラコ・グライフ)”は六つのコミュニティが一つの連盟を組んでいると聞いております。中心の大きな旗は、連盟旗でございますね」

「連盟?何のために組むの?」

「はいな。用途は色々御座いますが………一番はやはり、魔王に対抗するためですね」

「つまり連盟加入コミュニティが魔王に襲われたら助太刀が可能ってこと?」

「YES!朔夜さんの言う通りです」

「………そう。助けに来てくれるんだ」

「まあ、絶対に可能かと言われればそうではありませんし、介入するか否かは連盟コミュニティが判断する事ですから。あまりに部が悪いと助けに来てくれないことも多いです。ちょっとした気休めですね」

 僕達がそんな会話をしていると、

「流出とは人聞きが悪いな、ジン=ラッセル殿」

 そんな声が背後から聞こえた。

 後ろを振り返ると、空から女性が現れる。

「サ、サラ様!」

「久しいなジン。会える日を待っていた。後ろの“箱庭の貴族”殿とは、初対面かな?」

 燃え盛る炎翼を消失させ、樹の幹に舞い降りる女性。

 サラと呼ばれた女性は僕達の顔を確認すると、受付の少女に笑いかける。

「受付ご苦労だな、キリノ。中には私がいるからお前は遊んで来い」

「え?で、でも私が此処を離れては挨拶に来られた参加者が、」

「私が中にいると言っただろう?それに前夜祭から参加するコミュニティは大方出そろった。受付を空けたところで誰も責めんよ。お前も他の幼子同様、少しくらい収穫祭を楽しんでこい」

「は、はい………」

 キリノと呼ばれた少女は表情を明るくさせ、僕達に一礼して収穫祭へ向かった。

「ようこそ、“ノーネーム”と“ウィル・オ・ウィスプ”。下層で噂の両コミュニティを招くことが出来て、私も鼻高々といったところだ」

「………噂?」

「ああ。しかも立ち話も何だ。皆、中に入れ。茶の一つも淹れよう」

 僕達はサラに招かれ、大樹の中に入っていった。

 

          *

 

 僕達は貴賓室に招かれ、席に座る。

「では改めて自己紹介させてもらおうか。私は“一本角”の頭首を務めるサラ=ドルトレイク。聞いた通り元“サラマンドラ”の一員でもある」

「じゃあ、地下都市にある水路は、」

「勿論私が作った。しかし勘違いしてくれるな。あの水晶や“アンダーウッド”で使われている技術は、私が独自に生み出したもの。盗み出したようなことを言うのは止めてくれ」

 それを聞いて、ホッとジンが胸を撫で下ろす。

「それでは、両コミュニティの代表者にも自己紹介を求めたいのだが………ジャック。彼女はやはり来ていないのか?」

「はい。ウィラは滅多なことでは領地から離れないので。此処は参謀である私から御挨拶を」

「そうか。北側の下層で最強と謳われる参加者(プレイヤー)を、是非とも招いてみたかったのだがな」

「北側最強?」

 僕の言葉を聞いて、アーシャが自慢そうに話す。

「当然、私達“ウィル・オ・ウィスプ”のリーダーの事さ」

「そう。“蒼炎の悪魔”、ウィラ=ザ=イグニファトゥス。生死の境界を行き来し、外界の扉にも干渉できる大悪魔。しかしその実態は余り知られていない。三年前に私が南側へ移籍して以降、突如として頭角を見せたと聞く。………噂によると“マスクウェルの魔王”を封印したという話まであるそうだが。もしも本当なら、六桁はおろか五桁最上位と言っても過言ではないな」

 そんなに強いのか………白夜叉とどっちが強いんだろ?少し気になるな。

「さて、それで収穫祭の方はどうだ?楽しんでもらえているだろうか?」

「はい。まだ着いたばかりで多くは見ていませんが、前夜祭にも関わらず活気と賑わいがあっていいと思います」

「それは何より。ギフトゲームが始まるのは三日目以降だが、それまでにバザーや市場も開かれる。南側の開放的な空気を少しでも楽しんでくれたらうれしい」

「ええ。そのつもりよ」

 飛鳥が笑顔で答える。

 耀は、瞳を輝かせてサラの頭上の角を見ている。

「どうした?私の角が気になるか?」

「………うん。凄く、立派な角。サンドラみたいに付け角じゃないんだね」

「ああ。コレは自前の龍角だ」

「だけどサラは“一本角”のコミュニティだよね?二本あるのにいいの?」

「確かに、我々“龍角を持つ鷲獅子(ドラコ・グライフ)”の一員は身体的な特徴でコミュニティを作っている。しかし、頭に着く数字は無視しても構わない事になっている。そうでなければ、四枚の翼がある種などは何処にも所属できないだろ?」

「………あ、そっか」

「後は各コミュニティの役割に応じて分けられるかな。“一本角”“五爪”は戦闘、“二翼”“四本足”“三本の尾”は運搬、“六本傷”は農業・商業全般。これらを総じて“龍角を持つ鷲獅子”連盟と呼ぶ」

 別に全てのコミュニティが戦う訳じゃないのか………

「ん?それじゃあ、“六本傷”は何を指してるの?」

「“龍角を持つ鷲獅子”のモチーフである鷲獅子が負っていた傷と言われている。コミュニティの組分けとしては………まあ、全種を受け入れているのではないか?商才や農業の知識というのは、普通に生きているだけでは手に入らないものだからな」

「ふーん」

「収穫祭でも“六本傷”の旗を多く見かけることになるだろう。今回は南側特有の動植物をかなりの数仕入れたと聞いた。後ほど見に行くといい」

「南側特有の植物って例えば………ラビットイーターとか、」

「まだその話を引っ張るのですか!?そんな愉快に恐ろしい植物が在」

「在るぞ」

「在るんですか!?」

 在るんだ。もしかして十六夜が頼んだとか?

「それなら、ブラックラビットイーターは?」

「朔夜さんも、何で黒ウサギをダイレクトに狙うのですか!?」

「在るぞ」

「在るんですか!??ど、何処のお馬鹿様が、そんな対兎型最恐プラントを!!?」

「何処の馬鹿と言われても………発注書なら此処にあるが、」

 パシッ!とサラの机から発注書を奪い取る黒ウサギ。僕もそれを隣から覗く。

 そこには、こう書かれていた。

『対黒ウサギ型プラント:ブラック★ラビットイーター。八〇本の触手で対象を淫靡に改造す

 

 グシャ!

 

「―――――――――…………フフ。名前を確かめずとも、こんなお馬鹿な犯人は世界で一人シカイナイノデスヨ」

 ガクリと項垂れ、しくしくと哀しみの涙を流す黒ウサギ。

 やっぱり十六夜の仕業か………

「………サラ様。収穫祭に招待していただき、誠にありがとうございます。我々は今から向かわねばならない場所が出来たので、これにて失礼いたします」

「そ、そうか。ラビットイーターなら最下層の展示会場にあるはずだ」

「ありがとうございます。それでは、また後日です!」

 そう言って黒ウサギは、僕達四人を摑んで一目散に駆けていった。

 

          *

 

 最下層の展示会場に着くなり、黒ウサギは金剛杯を取りだし、稲妻でブラックラビットイーターを燃やした。

「なんか、勿体ないね」

「そうね。勿体ないわね」

「うん。勿体ない」

「お馬鹿言わないでください!こんな自然の摂理に反した怪植物は燃えて肥やしになるのが一番なので御座いますっ!」

 フン、と顔を背ける黒ウサギ。

「それでこれからどうする?僕としては、収穫祭を見て回りたいんだけど」

「そうね。私もそれに賛成よ」

「賛成」

「それじゃあ行こうか」

 僕がそう言って行こうとすると、飛鳥が待ったをかけた。

「ちょっと待って。こんな大人数でまわったら周りの人に迷惑がかかると思うの。朔夜君も精霊を呼ぼうと思ってるでしょ?だから、二手に分かれない?」

「僕は問題ないけど………どう分かれるの?」

「そうね………私と黒ウサギとジン君の三人で回るから、朔夜君は春日部さんとまわってくれないかしら?」

「別にいいよ。耀は問題ない?」

「うん。大丈夫」

「それじゃあ、また後で会いましょう」

「うん」

 そう言って飛鳥は黒ウサギ達を連れて歩いて行く。

「それじゃあ行こうか」

「うん」

 

          *

 

 飛鳥たちと別れた後、僕達はいろんな場所を見てまわった。

 バザーや市場を見て回り、いくつかのギフトゲームに参加登録をし終えた頃。

「そろそろ宿舎に戻る?」

「うん、いいよ。………あっ、ちょっと待って」

 そう言って僕はギフトカードからある物を取り出す。

「これは?」

「さっきバザーをまわってたときに耀が見てたからさ、よかったらと思って」

 そう言って僕が取り出したのは、水色のヘアピン。

「………いいの?」

「うん。それにもらってくれないと、僕が困るしね」

 そう言いながら、僕は耀にヘアピンを渡す。

「つけてもいい?」

「うん」

 耀は僕にそう言って、ヘアピンを髪につける。

「………どうかな?」

「うん。すごく似合ってると思うよ」

 僕がそう言うと、耀は照れたみたいで少し赤くなる。

『………』

『朔夜だし、しょうがないわね』

 ん?エストとレスティア、どうかした?

『何でもないです』

『何でもないわ。………はぁ』

 何故かため息をつかれた。どうしてだろ?

 

          *

 

 耀にプレゼントを渡した後、僕達は宿舎の談話室に集まっていた。

「前夜祭は思ったよりギフトゲームが少ないみたいだね」

「YES!本祭が始まるまではバザーや市場が主体となります。明日は民族舞踏を行うコミュニティも出てくるはずなのです。フフフ、楽しみですねー♪」

 そう言う黒ウサギはとても楽しそうだ。

「結構詳しいね。もしかして、黒ウサギって前々から“アンダーウッド”に行きたかったの?」

「え?ええと、そうですね。興味はありました。黒ウサギがお世話になっていた同士が、南側の生まれだったので」

「同士………?それって、」

「はい。魔王に連れ去られた仲間の一人で………幼かった黒ウサギを、コミュニティに招き入れてくれた方でした」

 黒ウサギの話に、僕達三人は驚愕したように顔を見合わせる。

 てっきり、“ノーネーム”が故郷だと思ってたけど違ったのか。

「黒ウサギの故郷は、東の上層に在ったと聞きます。何でも、“月の兎”の国だったとか。しかし絶大な力を持つ魔王に滅ぼされ、一族は散り散りに。頼る当てもなく放浪していた黒ウサギを招き入れてくれたのが、今の“ノーネーム”だったのです。黒ウサギを同士として受け入れてくれた恩を返すため………絶対に、“ノーネーム”の居場所を守るのです。そして耀さんや飛鳥さん、十六夜さんや朔夜さんみたいに素敵な同士が出来たと、皆に紹介するのですよ!」

 ムン、と両腕に力を入れて気合いを入れる黒ウサギ。

「そっか。ならその日を楽しみにしてるよ」

「………うん。私も楽しみにしてる」

「私もよ。………ところでその、黒ウサギの恩人というのはどんな人だったの?」

 飛鳥に問われ、黒ウサギの瞳が遠くなり、口元に笑みを浮かべる。

「―――彼女の名は、金糸雀様。我々のコミュニティで参謀を務めた方でした」

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