問題児と精霊使いが異世界から来るそうですよ?   作:白ウサギ@FGO

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第三話

 日が暮れた頃に黒ウサギ達と合流し、話を聞いた黒ウサギは案の定怒っていた。

「な、なんであの短時間に“フォレス・ガロ”のリーダーと接触してしかも喧嘩を売る状況になったのですか!?」「しかもゲームの日取りは明日!?」「それも敵のテリトリー内で戦うなんて!」「準備している時間もお金もありません!」「一体どういう心算があってのことです!」「聞いているのですか四人とも!!」

 

「「「「ムシャクシヤしてやった。後悔も反省もしていない!!」」」」

 

「黙らっしゃい!!!」

 そんな言い訳を聞き、激怒する黒ウサギ。

 それを見ていた十六夜が止めに入る。

「別にいいじゃねえか。見境なく選んで喧嘩売ったわけじゃないんだから許してやれよ」

「い、十六夜さんは面白ければいいと思っているかもしれませんけど、このゲームで得られるものは自己満足だけなんですよ?この“契約書類(ギアスロール)”を見てください」

「“参加者(プレイヤー)が勝利した場合、主催者(ホスト)は参加者の言及する全ての罪を認め、箱庭の法の下で正しい裁きを受けた後、コミュニティを解散する”―――まあ、確かに自己満足だ。時間をかければ立証できるものを、わざわざ取り逃がすリスクを背負ってまで短縮させるんだからな」

 ちなみに僕達のチップは“罪を黙認する”というものだ。それは今回に限ったことではなく、これ以降もずっと口を閉ざし続けるという意味である。

「でも時間さえかければ、彼らの罪は必ず暴かれます。だって肝心の子供達は………その、」

「そう。人質は既にこの世にいないわ。その点を責め立てれば必ず証拠は出るでしょう。だけどそれには少々時間がかかるのも事実。あの外道を裁くのにそんな時間をかけたくないの」

 ついでに僕も一言言う。

「黒ウサギ」

「なんですか?」

「僕はね、道徳云々よりも、あいつが僕達の活動範囲内にいることが許せないんだ。ここで逃がしたら、いつか僕達を襲ってくるかもしれないでしょ?」

「ま、まあ………逃がせば厄介かもしれませんけれど」

「僕もガルドを逃したくないと思っている。彼のような悪人は野放しにしちゃいけない」

 ジンも同調する姿勢を見せ、黒ウサギは諦めたように頷く。

「はぁ~……。仕方がない人達です。まあいいデス。腹立たしいのは黒ウサギも同じですし。“フォレス・ガロ”程度なら十六夜さんがいれば楽勝でしょう」

「何言ってんだよ。俺は参加しねえよ?」

「当たり前よ。貴方なんて参加させないわ」

「だ、駄目ですよ!御二人はコミュニティの仲間なんですからちゃんと協力しないと」

「そういうことじゃねえよ黒ウサギ」

 十六夜が真剣な顔で黒ウサギを右手で制する。

「いいか?この喧嘩は、コイツらが売った。そしてヤツらが買った。なのに俺が手を出すのは無粋だって言ってるんだよ」

「あら、分かっているじゃない」

「………。ああもう、好きにしてください」

 そう言って黒ウサギは肩を落とすのだった。

 

          *

 

 コホンと咳払いした黒ウサギは僕達に切り出してきた。

「そろそろ行きましょうか。本当は皆さんを歓迎する為に素敵なお店を予約して色々とセッティングしていたのですけれども………不慮の事故続きで、今日はお流れとなってしまいました。また後日、きちんと歓迎を」

「いいわよ、無理しなくて。私達のコミュニティってそれはもう崖っぷちなんでしょう?」

「も、申し訳ございません皆さんを騙すのは気が引けたのですが………黒ウサギ達も必死だったのです」

「もういいわ。私は組織の水準なんてどうでもよかったもの。朔夜さんと春日部さんはどう?」

「僕は別に怒ってないよ。野宿じゃなければどこでもいいし」

「私も怒ってない。そもそもコミュニティがどうの、というのは別にどうでも………あ、けど」

「どうぞ気兼ねなく聞いてください。僕らに出来る事なら最低限の用意はさせてもらいます」

「そ、そんな大それた物じゃないよ。ただ私は………毎日三食お風呂付きの寝床があればいいな、と思っただけだから」

 ジンの表情が固まる。

 その表情を見て耀は慌てて取り消そうとしていたけど、先に黒ウサギが嬉々とした顔で木の苗を持ちあげる。

「それなら大丈夫です!十六夜さんがこんな大きな水樹の苗を手に入れてくれましたから!これで水を買う必要もなくなりますし、水路を復活させることもできます♪」

 一転して明るい表現に変わる。これには僕達も安心できる。

「私達の国では水が豊富だったから毎日のように入れたけど、場所が変われば文化も違うものね。今日は色々とあったし、お風呂には絶対入りたかったところよ」

「それには同意だぜ。あんな手荒い招待は二度と御免だ」

「あう………そ、それは黒ウサギの責任外の事ですよ………」

 僕達の責めるような視線を受けて怖じ気づく黒ウサギ。ジンも隣で苦笑する。

「あはは………それじゃあ今日はコミュニティへ帰る?」

「あ、ジン坊っちゃんは先にお帰りください。ギフトゲームが明日なら“サウザンドアイズ”に皆さんのギフト鑑定をお願いしないと。この水樹の事もありますし」

 僕達四人は首を傾げて聞き直す。

「“サウザンドアイズ”?コミュニティの名前か?」

「YES。“サウザンドアイズ”は特殊な“瞳”のギフトを持つ者達の郡体コミュニティです。幸いこの近くに支店がありますし」

「ギフトの鑑定というのは?」

「勿論、ギフトの秘めた力や起源などを鑑定する事デス。自分の力の正しい形を把握していた方が、引き出せる力はより大きくなります。皆さんも自分の力の出処は気になるでしょう?」

 同意を求める黒ウサギに僕以外の三人は複雑な表情で返す。思う事はそれぞれあるのだろうが、拒否する声はなく、僕達は“サウザンドアイズ”に向かう。

 道中、僕達四人は興味深そうに街並みを眺めていた。

 日が暮れて月と街灯ランプに照らされている並木道を、飛鳥が不思議そうに眺めて呟く。

「桜の木………ではないわよね?花弁の形が違うし、真夏になっても咲き続けているはずがないもの」

「いや、まだ初夏になったばかりだぞ。気合いの入った桜が残っていてもおかしくないだろ」

「………?今は秋だったと思うけど」

「今は春じゃなかったっけ?」

ん?っと話の噛み合わない僕達は顔を見合わせて首を傾げる。黒ウサギが笑って説明した。

「皆さんはそれぞれ違う世界から召喚されているのデス。元いた時間軸以外にも歴史や文化、生態系など所々違う箇所があるはずですよ」

「へぇ?パラレルワールドってやつか?」

「近いですね。正しくは立体交差平行世界論というものなのですけども………今からコレの説明を始めますと一日二日では説明しきれないので、またの機会ということに」

 曖昧に濁す黒ウサギ。どうやら店に着いたらしい。商店の旗には、蒼い生地に互いが向かい合う二人の女神像が記されている。あれが“サウザンドアイズ”の旗なのだろう。

 日が暮れて看板を下げる割烹着の女性店員に、黒ウサギは滑り込みでストップをかけようとして、

「まっ」

「待った無しです御客様。うちは時間外営業はやっていません」

 ………ストップをかける事も出来なかった。

 流石は超大手の商業コミュニティ。押し入る客の拒み方にも隙がない。

「なんて商売っ気の無い店なのかしら」

「ま、全くです閉店時間の五分前に客を締め出すなんて!」

「文句があるならどうぞ余所へ。あなた方は今後一切の出入りを禁じます。出禁です」

「出禁!?これだけで出禁とか御客様舐めすぎでございますよ!?」

 キャーキャー喚く黒ウサギに、店員は冷めたような眼と侮蔑を込めた声で対応する。

「なるほど、“箱庭の貴族”であるウサギの御客様を無下にするのは失礼ですね。中で入店許可を伺いますので、コミュニティの名前をよろしいでしょうか?」

「………う」

 一転して言葉に詰まる黒ウサギ。しかし十六夜は何の躊躇いもなく名乗る。

「俺達は“ノーネーム”ってコミュニティなんだが」

「ほほう。ではどこの“ノーネーム”様でしょう。よかったら旗印を確認させていただいてもよろしいでしょうか?」

 ぐ、っと黙りこむ黒ウサギ。

 すると、店内から誰かがこちらに向かって来る気配がしたので店の方を見ると、凄い勢いで走ってくる着物姿の少女がいた。

「その………あの…………私達に、旗はありま「危ない!黒ウサギ」へっ?」

 そう言って、黒ウサギを突き飛ばす。

「いぃぃぃやほおぉぉぉぉぉぉ!久しぶりだ黒ウサギイィィィィ!」

 そんなことを言って、突っ込んで来る少女。

 避ける暇もなく、鳩尾の辺りに激突する。

「ぐふっ」

 そのまま、少し離れた所に落ちる。

「ちょ、どいて………」

「黒ウサギではないが、今回はおぬしにするかの」

 そう言いながら、色んな場所をさわってくる。

 プチンッ

 そんな音が聞こえた気がした。

 次の瞬間、くっついていた少女は吹っ飛んでいった。

「朔夜にさわらないでください」

「朔夜から離れなさい」

「それ以上マスターを困らせるのは許しません」

 そう言って、少女を吹っ飛ばしたのは僕の契約精霊。

「えっと、その子達は?」

 そう聞いてくる飛鳥。

「えーっと、左からエスト、レスティア、オルトリンデだよ」

 そう言っていると、少女が戻ってくる。

「おんしら、初対面の美少女を吹っ飛ばすとはどういうことじゃ!」

「貴女の方こそ初対面の男性をさわりまくるとはどういうことかしら?」

 そうレスティアが言った途端、五人が固まる。

 そう言えばまだ、男だって言ってなかったな。

 そんなことを考えていると、

「だ、男性って誰のことですか?」

 そう聞く黒ウサギ。それに対して、

「朔夜のことに決まってるじゃない」

 そう言ったレスティア、次の瞬間。

「「「「「えぇぇぇぇぇぇ!!」」」」」

 そんな言葉が辺りに響き渡った。

 

          *

 

 ようやく落ち着き、レスティア達を戻した後、僕達は少女に連れられ少女の私室に来ていた。

「生憎と店は閉めてしまったのでな。私の私室で勘弁してくれ」

 そう言うと、白夜叉は大きく背伸びをしてから僕達に向き直り話しはじめた。

「もう一度自己紹介しておこうかの。私は四桁の門、三三四五外門に本拠を構えている“サウザンドアイズ”幹部の白夜叉だ。この黒ウサギとは少々縁があってな。コミュニティが崩壊してからもちょくちょく手を貸してやっている器の大きな美少女と認識しておいてくれ」

「はいはい、お世話になっております本当に」

 投げやりな言葉で受け流す黒ウサギ。その隣で耀が小首を傾げて問う。

「その外門、って何?」

「箱庭の階層を示す外壁にある門ですよ。数字が若いほど都市の中心部に近く、同時に強大な力を持つ者達がすんでいるのです」

 黒ウサギが描く上空から見た箱庭の図は、外門によって幾重もの階層に分かれている。

 その図を見た僕達は口を揃えて、

「………超巨大タマネギ?」

「いえ、超巨大バームクーヘンではないかしら?」

「そうだな。どちらかといえばバームクーヘンだ」

「僕的には木の年輪かな」

 そう言う僕達を見て、ガクリと肩を落とす黒ウサギ。

 対照的に、白夜叉は呵々と哄笑を上げて二度三度と頷いた。

「ふふ、ワシもバームクーヘンに一票じゃな。バームクーヘンに例えるなら今いる七桁の外門はバームクーヘンの一番薄い皮の部分に当たるな。更に説明するなら、東西南北の四つの区切りの東側にあたり、外門のすぐ外は“世界の果て”と向かい合う場所になる。あそこにはコミュニティに所属していないものの、強力なギフトを持ったもの達が棲んでおるぞ―――その水樹の持ち主などな」

 白夜叉は薄く笑って黒ウサギの持つ水樹の苗に視線を向ける。

「して、一体誰が、どのようなゲームで勝ったのだ?知恵比べか?勇気を試したのか?」

「いえいえ。この水樹は十六夜さんがここに来る前に、蛇神様を素手で叩きのめしてきたのですよ」

 自慢げに黒ウサギが言うと、白夜叉は声を上げて驚いた。

「なんと!?クリアではなく直接的に倒したとな!?ではその童は神格持ちの神童か?」

「いえ、黒ウサギはそう思えません。神格なら一目見れば分かるはずですし」

「む、それもそうか。しかし神格を倒すには同じ神格を持つか、互いの種族によほど崩れたパワーバランスがある時だけのはず。種族の力でいうなら蛇と人ではドングリの背比べだぞ」

「白夜叉様はあの蛇神様とお知り合いだったのですか?」

「知り合いも何も、アレに神格を与えたのはこの私だぞ。もう何百年も前の話だがの」

 白夜叉っていくつなんだろ?僕達と同じくらいだろうか。

 そんなことを考えていると、十六夜が物騒に瞳を光らせて問いただす。

「へえ?じゃあオマエはあのヘビよりも強いのか?」

「ふふん、当然だ。私は東側の“階層支配者(フロアマスター)”だぞ。この東側の四桁以下にあるコミュニティでは並ぶ者がいない、最強の主催者(ホスト)なのだからの」

「そう………ふふ。ではつまり、貴女のゲームをクリア出来れば、私達のコミュニティは東側で最強のコミュニティという事になるのかしら?」

「無論、そうなるのう」

「そりゃ景気のいい話だ。探す手間が省けた」

 僕以外の三人は剥き出しの闘争心を視線に込めて白夜叉を見る。

「抜け目ない童達だ。依頼していきながら、私にギフトゲームで挑むと?」

「え?ちょ、ちょっと御三人様!?」

 慌てる黒ウサギを右手で制す白夜叉。

「よいよ黒ウサギ。私も遊び相手には常に飢えている」

「ノリがいいわね。そういうの好きよ」

「ふふ、そうか。―――しかし、ゲームの前に一つ確認しておく事がある」

「なんだ?」

 

「おんしらが望むのは“挑戦”か―――もしくは“決闘”か?」

 

 刹那、僕達の視界に爆発的な変化が起きた。

 様々な情景が脳裏で回転し始める。

 僕達が投げ出されたのは、白い雪原と凍る湖畔―――そして、水平に太陽が廻る世界だった。

「……なっ………!?」

 余りの異常さに、僕達は同時に息を呑んだ。

 唖然と立ち竦む僕達に、今一度、白夜叉は問いかける。

「今一度名乗り直し、問おうかの。私は“白き夜の魔王”―――太陽と白夜の精霊・白夜叉。おんしらが望むのは、試練への“挑戦”か?それとも対等な“決闘”か?」

「水平に廻る太陽と………そうか、白夜と夜叉。あの水平に廻る太陽やこの土地は、オマエを表現してるってことか」

「如何にも。この白夜の湖畔と雪原。永遠に世界を薄明に照らす太陽こそ、私がもつゲーム盤の一つだ」

「これだけ莫大な土地が、ただのゲーム盤………?」

「如何にも。して、おんしらの返答は?“挑戦”であるのならば、手慰み程度に遊んでやる。――だがしかし“決闘”を望むなら話は別。魔王として、命と誇りの限り闘おうではないか」

「……………っ」

 飛鳥と耀、そして自信家の十六夜でさえ即答できずに返事を躊躇った。

 かくゆう僕も彼女に勝てるか分からない。

(僕でも勝てるかな?)

 そう聞くと、返事が返ってくる。

『切り札を使えば可能だと思うわ。見た感じ、相手は炎のギフトを使うみたいだもの』

『でも、契約精霊にすれば心強いと思うわよ?』

 その言葉を聞いて、どうするか決める。

 しばしの静寂の後―――諦めたように笑う十六夜が、ゆっくりと挙手し、

「参った。やられたよ。降参だ、白夜叉」

「ふむ?それは決闘ではなく、試練を受けるという事かの?」

「ああ、これだけのゲーム盤を用意出来るんだからな。アンタには資格がある。―――いいぜ。今回は黙って試されてやるよ、魔王様」

 苦笑と共に吐き捨てるような物言いをする十六夜。

 それを見て白夜叉は堪え切れず高らかと笑い飛ばした。

「く、くく………して、他の童達も同じか?」

「………ええ。私も、試されてあげてもいいわ」

「右に同じ」

「僕は………決闘にする」

 その発言を聞いて、黒ウサギは

「な、何を言ってらっしゃるんですか、このお馬鹿様!?」

 そう言われた。それに対して白夜叉は、

「くく、ではお主は決闘ということでよいのじゃな?」

「うん」

「ならまずはお主からじゃの」

「うん。僕が負けたら君の言うことをなんでも一つだけ聞くよ。その代わり、僕の言ったことを一つだけ聞いてくれない?」

「ふむ。つまり、一回だけの命令権ということか?」

「うん」

「それではギフトゲームを始めるとしようかの」

 パンパンと白夜叉が拍手を打って現れた羊皮紙を手に取る

 

『ギフトゲーム名 “決闘”

 

 ・プレイヤー一覧 白夜叉

          神代 朔夜

 

 ・勝利条件 相手を戦闘不能にした場合

       相手がリタイアした場合

       相手が死亡した場合

 

 ・敗北条件 戦闘不能になった場合

       リタイアした場合

       死亡した場合

 

 宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します                         〝サウザンドアイズ〟印』

 

 羊皮紙を読み終え白夜叉の方を向く。

「先手はお主に譲ろう」

「だったら………」

 そう言い、エストとレスティアを呼ぶ。

 両手には二本の剣が現れた。

「ほう………」

「じゃあ、行くよ」

 そう言って白夜叉に向け死を呼ぶ雷閃(ヴォーパル・ブラスト)を放つ。

 それを余裕で躱される。

 そして、躱した方向に走りながら、白夜叉に向かって剣を降り下ろす。

「むっ」

 それもまた避けられる。

 流石、元とはいえ魔王。一筋縄ではいかなさそうだ。

 何度か剣を当てようとしているが、ほとんど当たらない。

(さて、どうしたものかな………)

「どうした?たったのそれだけか?」

「レスティア」

 そう言うと、片方の剣が消える。

「なに?」

 訝しげにする白夜叉。その少し離れた場所にレスティア場所にレスティアが現れる。

「っ」

 やはりすぐに気がついたようだ。

 だけど、

「逃がさないよ」

「何!?」

 そう言い、白夜叉のからだを捕まえる。

「レスティア!」

「ええ、わかっているわ」

 そう言って闇魔閃雷(ヘルブラスト)を放つ。

「くっ」

 そう言って白夜叉は炎で防ごうとする。だが、

「何だと!?」

 今度は本気で驚いているようだ。それはそうだろう、自分の出した炎が燃えているのだから。

「これで終わりだ」

 そう言い、僕共々レスティアの闇属性最強クラスの精霊魔術が直撃した。

 

          *

 

「これでも倒せないか………」

 そう言った僕の目の前には体のあちこちがボロボロになった白夜叉が立っていた。

 僕自身も身体中怪我だらけでこれ以上は動けそうにない。

「いや、お主の勝ちだ。さっきの攻撃を受けて、一瞬でも気を失っていたからな」

 そう言う白夜叉。あまり納得は出来ないけどそう言うのなら。

「分かった。それじゃあ、僕の勝ちということで………」

 取り敢えずレスティアとエストを戻し、自分に対して治癒の魔術を使う。

 他の四人を見てみるとかなり驚いているみたいだ。

 黒ウサギが呟く。

「先ほどのギフトは………」

「あー、ギフトの説明は後でね。それで白夜叉、賞品のほうは他の三人のゲームが終わってからにしよう?」

「うむ、分かった」

 そんな会話をしていると、ようやく三人も復活したみたいだ。

 そのとき、遠くの方で甲高い叫び声が聞こえてきた。

「何、今の鳴き声。初めて聞いた」

「ふむ………あやつか。おんしら三人を試すのには打って付けかもしれんの」

 そう言って向こう岸にある山脈に、チョイチョイと手招きをする白夜叉。

 すると、鷲の翼と獅子の下半身持つ獣がこちらに滑空してくる。

「グリフォン………嘘、本物!?」

「フフン、如何にも。あやつこそ鳥の王にして獣の王。“力”“知恵”“勇気”の全てを備えた、ギフトゲームを代表する獣だ」

 白夜叉が手招きし、グリフォンが近くに降りる。

「さて、肝心の試練だがの。おんしら三人とこのグリフォンで“力”“知恵”“勇気”の何れかを比べ合い、背に跨がって湖畔を舞う事が出来ればクリア、という事にしようか」

 そう言った白夜叉がカードを取り出す。すると虚空から輝く羊皮紙が現れ、それに記述する。

 

『ギフトゲーム名“鷲獅子の手綱”

 

 ・プレイヤー一覧 逆廻 十六夜

          久遠 飛鳥

          春日部 耀

 

 ・クリア条件 グリフォンの背に跨がり、湖畔を舞う。

 ・クリア方法 “力”“知恵”“勇気”の何れかでグリ

        フォンに認められる。

 ・敗北条件 降参か、プレイヤーが上記の勝利条件を満

       たせなくなった場合。

 

 宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。

               “サウンドアイズ”印』

 

「私がやる」

 そう言ってピシ!と綺麗に挙手したのは耀だった。

『お、お嬢………大丈夫か?なんや獅子の旦那より遥かに怖そうやしデカイけど』

「大丈夫、問題ない」

「ふむ。自信があるようだが、コレは結構な難物だぞ?失敗すれば大怪我では済まんが」

「大丈夫、問題ない」

 そう言った耀の瞳は子供のようにキラキラと輝いていた。

 それを見た十六夜と飛鳥は、

「OK、先手は譲ってやる。失敗するなよ」

「気を付けてね、春日部さん」

「多分耀なら大丈夫だと思うけど、頑張ってね」

「うん。頑張る」

 耀はグリフォンの近くにより話しかける。

「え、えーと。初めまして、春日部耀です」

『!?』

 ビクンッ!!とグリフォンの肢体が跳ねた。どうやら耀のギフトは幻獣等にも効果があるようだ。

「ほう………あの娘、グリフォンと言葉を交わすか」

 白夜叉は感心したように扇を広げる。

 シムルグに言葉が分かるか聞いてみたところ、どうやら一応分かるみたいだ。

 耀は話を続ける。

「私を貴方の背に乗せ………誇りを賭けて勝負をしませんか?」

『………何………!?』

 耀は返事を待たず、話を続ける。

「貴方が飛んできたあの山脈。あそこを白夜の地平から時計回りに大きく迂回し、この湖畔を終着点と定めます。貴方は強靭な翼と四肢で空を駆け、湖畔までに私を振るい落とせれば勝ち。私が背に乗っていられたら私の勝ち。………どうかな?」

 耀は小首を傾げる。

 その発言を聞いてグリフォンは鼻を鳴らす。

『娘よ。お前は私に“誇りを賭けろ”と持ちかけた。お前の述べる通り、娘一人振るい落とせないならば、私の名誉は失墜するだろう。―――だがな娘。誇りの対価に、お前は何を賭す?』

「命を賭けます」

 即答だった。その発言に黒ウサギと飛鳥から驚きの声が上がる。

「だ、駄目です!」

「か、春日部さん!?本気なの!?」

「貴方は誇りを賭ける。私は命を賭ける。もし転落して生きていても、私は貴方の晩御飯になります。………それじゃ駄目かな」

『………ふむ……』

 耀の提案に慌てる飛鳥と黒ウサギ。それを白夜叉と十六夜が制す。

「双方、下がらんか。これはあの娘から切り出した試練だぞ」

「ああ。無粋な事はやめとけ」

「そんな問題ではございません!!同士にこんな分の悪いゲームをさせるわけには―――」

「大丈夫だよ」

 耀がこちらを振り向きながら頷く。

 グリフォンはしばし考える仕草をした後、頭を下げて乗るように促した。

『乗るがいい、若き勇者よ。鷲獅子の疾走に耐えられるか、その身で試してみよ』

 耀は頷き、手綱を握って背に乗りこむ。そして、満足そうに囁く。

「始める前に一言だけ。………私、貴方の背中に跨がるのが夢の一つだったんだ」

『―――そうか』

 そう言い、前傾姿勢を取るや否や、大地を踏みぬくようにして空に飛び上がった。

 そして、グリフォンと耀が飛び去り少したった後、耀達が見えてきた。

 そして、耀の勝利が決定した瞬間―――耀の手から手綱が外れた。

『何!?』

「春日部さん!?」

 飛ばされる耀を助けに行こうとした黒ウサギの手を、十六夜が掴む。

「は、離し―――」

「待て!まだ終わってない!」

 そう言って、十六夜が黒ウサギを止める。

 ふわっと、耀の体が翻る。

 耀の体は湖畔に触れることなく飛翔した。

「………なっ」

 みんな絶句する。レスティア達も少なからず驚いているみたいだ。

 そんな耀に近寄ったのは、呆れたように笑う十六夜だった。

「やっぱりな。お前のギフトって他の生き物の特性を手に入れる類だったんだな」

 そう言われ、むっとしたような声音で耀が返す。

「………違う。これは友達になった証。けど、いつから知ってたの?」

「ただの推測。お前、黒ウサギと出会った時に“風上に立たれたら分かる”とか言ってたろ。そんな芸当はただの人間には出来ない。だから春日部のギフトは他種とコミュニケーションをとれるわけじゃなく、他種のギフトを何らかの形で手に入れたんじゃないか………と推察したんだが、それだけじゃなさそうだな。あの速度で耐えられる生物は地球上にいないだろうし?」

 そう言った十六夜の視線をフイっと避ける。その傍に駆け寄っていく三毛猫。

『お嬢!怪我はないか!?』

「うん、大丈夫。指がジンジンするのと服がパキパキになったぐらい」

 そんな会話をしている耀に、パチパチと拍手を送る白夜叉と、感嘆の眼差しで見つめるグリフォン。

『見事。お前が得たギフトは、私に勝利した証しとして使って欲しい』

「うん。大事にする」

「いやはや大したものだ。このゲームはおんしの勝利だの。………ところで、おんしの持つギフトだが。それは先天性か?」

「違う。父さんに貰った木彫りのおかげで話せるようになった」

「木彫り?」

首を傾げる白夜叉に三毛猫が説明する。

『お嬢の親父さんは彫刻家やっとります。親父さんの作品でワシらとお嬢は話せるんや』

「ほほう………彫刻家の父か。よかったらその木彫りというのを見せてくれんか?」

 頷いた耀はペンダントにしている木彫り細工を取り出し、白夜叉に渡す。

それを見て白夜叉は急に顔を顰める。

「複雑な模様ね。何か意味があるの?」

「意味はあるけど知らない。昔教えてもらったけど忘れた」

「………。これは」

 白夜叉だけでなく、十六夜と黒ウサギも神妙な顔をしている。

 黒ウサギは首を傾げて耀に問う。

「素材は楠の神木………?神格は残ってないようですが……この中心を目指す幾何学線……そして中心に円状の空白……もしかしてお父様の知り合いには生物学者がおられるのでは?」

「うん。私の母さんがそうだった」

「生物学者ってことは、やっぱりこの図形は系統樹を表してるのか白夜叉?」

「おそらくの………ならこの図形はこうで………この円状が収束するのは……いや、これは……これは、凄い!!本当に凄いぞ娘!!本当に人造ならばおんしの父は神代の大天才だ!まさか人の手で独自の系統樹を完成させ、しかもギフトとして確立させてしまうとは!これは正真正銘〝生命の目録〟と称して過言ではない名品だ!」

 興奮した声を上げる白夜叉。耀は不思議そうに首を傾げている。

「系統樹って、生物の発祥と進化の系譜とかを示すアレ?でも母さんの作った系統樹の図はもっと樹の形をしていたと思うけど」

「うむ、それはおんしの父が表現したいモノのセンスが成す業よ。この木彫りをわざわざ円形にしたのは生命の流転、輪廻を表現したもの。再生と滅び、輪廻を繰り返す生命の系譜が進化を遂げて進む円の中心、即ち世界の中心を目指して進む様を表現している。中心が空白なのは、流転する世界の中心だからか、生命の完成が未だに視えぬからか、生命の完成が未だに視えぬからか、それともこの作品そのものが未完成の作品だからか。―――うぬぬ、凄い。凄いぞ。久しく想像力が刺激されとるぞ!実にアーティスティックだ!おんしさえよければ私が買い取りたいぐらいだの!」

「ダメ」

 耀はあっさり断り白夜叉から取り上げる。

「で、これはどんな力を持ったギフトなんだ?」

「それは分からん。今分かっとるのは異種族と会話ができるのと、友になった種から特有のギフトを貰えるということぐらいだ。これ以上詳しく知りたいのなら店の鑑定士に頼むしかない。それも上層に住むものでなければ鑑定は不可能だろう」

「え?白夜叉様でも鑑定出来ないのですか?今日は鑑定をお願いしたかったのですけど」

 ゲッ、と気まずそうな顔になる白夜叉。

「よ、よりにもよってギフト鑑定か。専門外どころか無関係もいいところなのだがの」

 困ったように髪を掻きあげ、僕達の顔を両手で包んで見つめてくる。

「どれどれ………ふむふむ………うむ、四人ともに素養が高いのは分かる。しかしこれではなんとも言えんな。おんしらは自分のギフトの力をどの程度把握している?」

「企業秘密」

「右に同じ」

「以下同文」

「ある程度」

「うおおおおおい?最後はともかく、仮にも対戦相手だったものにギフトを教えるのが怖いのは分かるが、それじゃ話しが進まんだろうに」

「別に鑑定なんていらねえよ。人に値札貼られるのは趣味じゃない」

 十六夜の発言に同意するように頷く二人。

 困ったように頭を掻く白夜叉は、突然妙案が浮かんだとばかりにニヤリと笑った。

「ふむ。何にせよ“主催者(ホスト)”として、星霊のはしくれとして、試練をクリアしたおんしらには“恩恵(ギフト)”を与えねばならん。ちょいと贅沢な代物だが、コミュニティ復興の前祝いとしては丁度良かろう」

 白夜叉がパンパンと拍手を打てば、目の前に光輝くカードが現れる。

 他の三人にもあるようだ。

 

 コバルトブルーのカードに逆廻十六夜

 ギフトネーム“正体不明(コード・アンノウン)

 ワインレッドのカードに久遠飛鳥

 ギフトネーム“威光”

 パールエメラルドのカードに春日部耀

 ギフトネーム“生命の目録(ゲノム・ツリー)

       “ノーフォーマー”

 ブラックのカードに神代朔夜

 ギフトネーム“精霊使い”

       “半精霊”

       “凍える焔華(フロスト・ブレイズ)

       “終焉の真紅(エンド・オブ・ヴァーミリオン)

       “テルミヌス・エスト”

       “レスティア・アッシュドール”

       “スカーレット/オルトリンデ”

       “フェンリル”

       “シムルグ”

       “ゲオルギウス”

 

「ギフトカード!」

「お中元?」

「お歳暮?」

「お年玉?」

「商品券?」

「ち、違います!というかなんで皆さんそんなに息が合ってるのです!?このギフトカードは顕現しているギフトを収納できる超高価なカードですよ!耀さんの“生命の目録”だって収容可能で、それも好きな時に顕現できるのですよ!」

「つまり素敵アイテムってことでオッケーか?」

「だからなんで適当に聞き流すんですか!あーもうそうです、超素敵アイテムなんです!」

 それにしても、契約精霊の名前も書かれるのか。

 そんなことを考えていると、

「そのギフトカードは、正式名称を“ラプラスの紙片”、即ち全知の一端だ。そこに刻まれるギフトネームとはおんしらの魂と繋がった“恩恵(ギフト)”の名称。鑑定は出来ずともそれを見れば大体のギフトの正体が分かるというもの」

「へえ?じゃあ俺のはレアケースなわけだ?」

 ん?と白夜叉が十六夜のギフトカードを覗き込む。

 それを見た白夜叉の表情の変化は劇的だった。

「………いや、そんな馬鹿な。“正体不明(コード・アンノウン)”だと…………?いいやありえん、全知である〝ラプラスの紙片〟がエラーを起こすはずなど」

「何にせよ、鑑定はできなかったってことだろ。俺的にはこの方がありがたいさ」

 そう言ってギフトカードを白夜叉から取り上げる。

 そして、十六夜のギフトについて色々と考察しているようだ。

「白夜叉」

「ん?なんじゃ?」

「僕の賞品なんだけど」

「そうじゃったな。それで、いったい何を命令する?」

「うん。僕の契約精霊になってよ」

「契約精霊?」

「うん。あ、別に今じゃなくても良いよ?コミュニティから出るのにも色々準備が必要だろうし」

「分かった。脱退したらおぬしの契約精霊になろう」

 白夜叉がそう言うと、ギフトカードに白夜叉(仮契約)と書かれていた。

「これでよいか?」

「うん。ありがとう」

「それであの時使ったギフトはいったい何だったんじゃ?」

「あの時って、白夜叉の炎を燃やしたやつ?」

「ああ」

「あれは、終焉の真紅(エンド・オブ・ヴァーミリオン)っていうギフトで一言で言うと炎を燃やす炎なんだ」

 そう言って、さっさと話を終わらせる。

 ギフトについて少し話した後、僕達は暖簾の下げられた店前に移動し、一礼した。

「今日はありがとう、また遊んでくれると嬉しい」

「あら、駄目よ春日部さん。次に挑戦するときは対等の条件で挑むのだもの」

「ああ。吐いた唾を飲み込むなんて、格好付かねえからな。次は渾身の大舞台で挑むぜ」

「一応今は仮とはいえ、僕の契約精霊なんだけど………」

「うむ。〝サウザンドアイズ〟を抜けたらすぐにおぬしのところに行って契約しよう。まあいくらこの状態とは言え、負けてしまったものは仕方が無いからの」

「うん。これからよろしくね」

「うむ。後、今さらだが一つだけ聞かせてくれ。おんしらは自分達のコミュニティがどういう状況にあるか、よく理解しているか?」

「ああ、名前とか旗の話か?それなら聞いたぜ」

「ならそれを取り戻す為に、“魔王”と戦わねばならんことも?」

「聞いてるわよ」

「………。では、おんしらは全てを承知の上で黒ウサギのコミュニティに加入するのだな?」

「そうよ。打倒魔王なんてカッコいいじゃない」

「“カッコいい”で済む話ではないのだがの………全く、若さゆえのものなのか。無謀というか、勇敢というか。まあ、魔王がどういうものかはコミュニティに帰ればわかるだろ。それでも魔王と戦う事を望むというなら止めんが………そこの娘二人。おんしらは確実に死ぬぞ」

 予言するように断言する白夜叉。

 二人は一瞬だけ言い返そうと言葉を探していたが魔王と同じく“主催者権限(ホストマスター)”を持つ白夜叉の助言は、物を言わさぬ威圧感がある。

「魔王の前に様々なギフトゲームに挑んで力を付けろ。そちらはともかく、おんしら二人の力では魔王のゲームを生き残れん。嵐に巻き込まれた虫が無様に弄ばれて死ぬ様は、いつ見ても悲しいものだ」

「………ご忠告ありがと。肝に銘じておくわ。次は貴方の本気のゲームに挑みに行くから、覚悟しておきなさい」

「うむ。小僧………いや、マスターの許可が下りればいつでも来い。………ただし、黒ウサギをチップに賭けてもらうがの」

「嫌です!」

 黒ウサギが即答で返す。それを聞きながらこちらに向き、

「では、色々と準備が終わったらそっちに行くからの………待っていてくれ」

「うん。ずっと待ってるよ」

 そう言って白夜叉を撫でると驚いた顔をする。

 癖で、他の契約精霊と同じようにしてしまったようだ。

「あっ、ごめん」

「いや、もう少しやってくれんか?」

 そう言われたので、もう少しだけ撫でる。すると、白夜叉は嬉しそうな顔をしていた。

 何故かレスティア達が不機嫌そうにし、エストが

『マスターは節操がありませんね』

 と言われた。

「じゃあね」

「ああ」

 そう言って、女性店員に見送られながら“サウザンドアイズ”を後にした。

 

          *

 

 白夜叉とのゲームを終え、僕達は“ノーネーム”の移住区画の門前に着いた。

「この中が我々のコミュニティでございます。しかし本拠の館は入口から更に歩かねばならないので御容赦ください。この近辺にはまだ戦いの名残がありますので………」

「戦いの名残?噂の魔王って素敵ネーミングな奴との戦いの名残か?」

「は、はい」

「ちょうどいいわ。箱庭最悪の天災が残した傷跡、見せてもらおうかしら」

 飛鳥は機嫌が悪そうに言う。プライドの高い彼女からしてみれば虫のように見下されたのが気に食わなかったのだろう。

 黒ウサギが躊躇いつつ門を開けると、乾ききった風が吹き抜けた。

「っ、これは………!?」

 街並みに刻まれた傷跡を見た飛鳥と耀は息を呑み、十六夜はスッと目を細める。

(ねえ、みんな。こんな風に出来る?)

 そう聞くと、返ってきた言葉は否定だった。

「………おい、黒ウサギ。魔王のギフトゲームがあったのは―――今から何百年前の話だ?」

「僅か三年前でございます」

「ハッ、そりゃ面白いな。いやはやマジで面白いぞ。この風化しきった街並みが三年前だと?………断言するぜ。どんな力がぶつかっても、こんな壊れ方はあり得ない。この木造の崩れ方なんて、膨大な時間をかけて自然崩壊したようにしか思えない」

 どうやったらこんな風に出来るんだろう?みんなも無理って言ってるし。

「ベランダのテーブルにティーセットがそのまま出てるわ。これじゃまるで、生活していた人間がふっと消えたみたいじゃない」

「………生き物の気配も全くない。整備されなくなった人家なのに獣が寄ってこないなんて」

 二人の感想は十六夜の声よりも遥かに重い。

 黒ウサギは廃墟から目を逸らし、朽ちた街路を進む。

「………魔王とのゲームはそれほどの未知の戦いだったのでございます。彼らがこの土地を取り上げなかったのは魔王としての力の誇示と、一種の見せしめでしょう。彼らは力を持つ人間が現れると遊び心でゲームを挑み、二度と逆らえないよう屈服させます。僅かに残った仲間達もみんな心を折られ………コミュニティから、箱庭から去って行きました」

 黒ウサギは感情を殺した瞳で風化した街を進む。飛鳥と耀も、複雑な表情で続く。

 流石に僕でも思わないことがないとは言えない。

 しかし十六夜だけは瞳を爛々と輝かせ、不敵に笑って呟いた。

「魔王―――か。ハッ、いいぜいいぜいいなオィ。想像以上に面白そうじゃねえか………!」

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