問題児と精霊使いが異世界から来るそうですよ?   作:白ウサギ@FGO

5 / 21
第四話

 僕達は廃墟を抜け、水樹を貯水池に設置するのを見に行く。

 そこにはすでに先客がいたらしくジンと子供達が水路を掃除していた。

「あ、みなさん!水路と貯水池の準備は調っています!」

「ご苦労様ですジン坊っちゃん♪皆も掃除を手伝っていましたか?」

 ワイワイと騒ぐ子供達が黒ウサギの元に群がる。

「黒ウサのねーちゃんお帰り!」

「眠たいけどお掃除手伝ったよー」

「ねえねえ、新しい人たちって誰!?」

「強いの!?カッコいい!?」

「YES!とても強くて可愛い人達ですよ!皆に紹介するから一列に並んでくださいね!」

 パチン、と黒ウサギが指を鳴らせば子供達は一糸乱れぬ動きで横一列に並ぶ。

(こんなに人がいるとは思わなかったな。やっていけるかな?)

 そんなことを考えていると、黒ウサギがコホン、と仰々しく咳き込んで僕達四人を紹介する。

「右から逆廻十六夜さん、久遠飛鳥さん、春日部耀さん、神代朔夜さんです。皆も知っている通り、コミュニティを支えるのは力のあるギフトプレイヤー達です。ギフトゲームに参加できない者達はギフトプレイヤーの私生活を支え、励まし、時に彼らの為に身を粉にして尽くさねばなりません」

「あら、別にそんなのは必要ないわよ?もっとフランクにしてくれても」

「駄目です。それでは組織は成り立ちません」

 飛鳥の申し出を、黒ウサギはこれ以上ない厳しい声色で断じる。

 今日1日の中で一番真剣な表情と声だった。

「コミュニティはプレイヤー達がギフトゲームに参加し、彼らのもたらす恩恵で初めて生活が成り立つのでございます。これは箱庭の世界で生きていく以上、避ける事が出来ない掟。子供のうちから甘やかせばこの子達の将来の為になりません」

「………そう」

 黒ウサギは有無を言わさない気迫で飛鳥を黙らせる。

「此処にいるのは子供達の年長組です。ゲームには出られないものの、見ての通り獣のギフトを持っている子もおりますから、何か用事を言い付ける時はこの子達を使ってくださいな。みんなも、それでいいですね?」

 

「「「「「よろしくお願いします!」」」」」

 

 キーン、と耳鳴りがするほどの大声で二十人前後の子供達が叫ぶ。

 それはまるで音波兵器のような感覚だった。

「ハハ、元気がいいじゃねえか」

「そ、そうね」

「………」

(帰りたくなってきた)

 ヤハハと笑うのは十六夜だけで、僕達三人はなんともいえない表情をしている。

「さて、自己紹介も終りましたし!それでは水樹を植えましょう!黒ウサギが台座に根を張らせるので、十六夜さんのギフトカードから出してくれますか?」

「あいよ」

 十六夜が水樹を植える準備をしていると、耀が石垣に立ちながら物珍しそうに辺りを見渡している。

「大きい貯水池だね。ちょっとした湖ぐらいあるよ」

『そやな。門を通ってからあっちこっちに水路があったけど、もしあれに全部水が通ったら壮観やろなあ。けど使ってたのは随分前の事なんちゃうんか?どうなんやウサ耳の姉ちゃん』

 黒ウサギは苗を抱えたままクルリと振り返る。

「はいな、最後に使ったのは三年前ですよ三毛猫さん。元々は龍の瞳を水珠に加工したギフトが貯水池の台座に設置してあったのですが、それも魔王に取り上げられてしまいました」

 十六夜はキラリと瞳を輝かせた。

「龍の瞳?何それカッコいい超欲しい。何処に行けば手に入る?」

「さて、何処でしょう。知っていても十六夜さんには教えません」

 そう言って黒ウサギははぐらかし、ジンが話を戻す。

「水路も時々は整備していたのですけど、あくまで最低限です。それにこの水樹じゃまだこの貯水池水路を全て埋めるのは不可能でしょう。ですから移住区の水路は遮断して本拠の屋敷と別館に直通している水路だけを開きます。此方は皆で川の水を汲んできたときに使っていたので問題ありません」

「あら、数㎞も向こうの川から水を運ぶ方法があるの?」

「はい。みんなと一緒にバケツを両手に持って運びました」

「半分くらいはコケて無くなっちゃうんだけどねー」

「黒ウサのねーちゃんが箱庭の外で水を汲んでいいなら、貯水池をいっぱいにしてくれるのになあ」

「………。そう。大変なのね」

(よく今まで生活してこれたな………)

 そんなふうに飛鳥達がしゃべっていると、準備が終わったようだ。

「それでは苗の紐を解いて根を張ります!十六夜さんは屋敷への水門を開けてください!」

「あいよ」

 黒ウサギが苗の紐を解くと、根を包んでいた布から大波のような水が溢れ返り、激流となって貯水池を埋めていった。

「ちょ、少しはマテやゴラァ!!流石に今日はこれ以上濡れたくねえぞオイ!」

 そう言って十六夜は慌てて石垣まで跳躍する。

 彼にとってはこれ以上濡れるのは嫌なのだろう。

「うわお!この子は想像以上に元気です♪」

「凄い!これなら生活以外にも水を使えるかも………!」

「なんだ、農作業でもするのか?」

「近いです。例えば水仙卵花などの水面に自生する花のギフトを繁殖させれば、ギフトゲームに参加せずともコミュニティの収入になります。これならみんなにも出来るし………」

「ふぅん?で、水仙卵花ってなんだ御チビ」

 え?とジンは半口を開いて驚いている。

「す、水仙卵花は別名・アクアフランと呼ばれ、浄水効能のある亜麻色の花の事です。薬湯に使われる事もあり、観賞用にも取引されています。確か噴水広場にもあったはず」

「ああ、あの卵っぽい蕾のことか?そんな高級品なら一個ぐらいとっとけばよかったな」

「な、何を言い出すのですか!水仙卵花は南区画や北区画でもギフトゲームのチップとしても使われるものですから、採ってしまえば犯罪です!」

「そうだよ、十六夜。盗みはあまりよくないよ」

「おいおい、細かい事を気にするなよ朔夜と御チビ」

 そう言われて言い返そうとするジン。

 十六夜は右手でそれを制し真剣な顔でジンに向き直る。

「黒ウサギにも言ったが、召喚された分の義理は返してやる。箱庭の世界は退屈せずに済みそうだからな。だがもし、義理を果たした時にこのコミュニティがつまらねえ事になっていたら………俺は躊躇いなくコミュニティを抜ける。いいな?」

「あれ?じゃあ僕のことは認めてくれてるの?」

「当たり前だろ?」

 そんなふうに言ってくる。そう言われると少し照れるな。

 それを聞いて、ジンは強く頷いて返す。

「僕らは“打倒魔王”を掲げたコミュニティです。何時までも黒ウサギに頼るつもりはありません。次のギフトゲームで………それを証明します」

「そうかい。期待してるぜ御チビ様」

 そう言って、十六夜はケラケラと笑うのだった。

 

          *

 

 屋敷に着いた頃には既に夜中になっていた。

 耀は屋敷を見上げ感嘆したように呟く。

「遠目から見てもかなり大きいけど………近づくと一層大きいね。何処に泊まればいい?」

「コミュニティの伝統では、ギフトゲームに参加できる者には序列を与え、上位から最上階に住む事になっております………けど、今は好きなところを使っていただいて結構でございますよ。移動も不便でしょうし」

「そう。そこにある別館は使っていいの?」

「ああ、あれは子供達の館ですよ。本来は別の用途があるのですが、警備の問題でみんな此処に住んでます。飛鳥さんが一二〇人の子供と一緒の館でよければ」

「遠慮するわ」

 そう言って、飛鳥は即答した。

 取り敢えず、コミュニティや箱庭に関する質問よりも『今はともかく風呂に入りたい』という強い要望の下、黒ウサギは湯殿の準備を進める。

 しばらく使われていなかった大浴場を見た黒ウサギは真っ青になり、

「一刻ほどお待ち下さい!すぐに綺麗にいたしますから!」

 と叫んで掃除に取り掛かった。それはもう凄惨な事になっていたのだろう。

 僕達はそれぞれに宛がわれた部屋を一通り物色し、来賓用の貴賓室に集まっていた。

『お嬢………ワシも風呂に入らなアカンか?』

「駄目だよ。ちゃんと三毛猫もお風呂に入らないと」

「そうだよ。猫でも風呂には入った方がいい」

 僕の言葉に三人と一匹が視線を向けてくる。

「僕、変なこと言った?」

「朔夜も三毛猫の言葉が分かるの?」

「ううん。これは僕の精霊に通訳してもらってるだけだから」

「もしかして猫の精霊もいるのかしら?」

「うん。出そうか?」

 そう言うと、三人は頷く

「スカーレット」

 そう言って、目の前に赤い毛並みの猫を呼び出す

「色んな精霊と契約してるのね」

「後、一体いるけどね」

 そんな会話をしていると廊下から黒ウサギの声が聞こえてくる。

「ゆ、湯殿の用意ができました!女性様方からどうぞ!」

「ありがと。先に入らせてもらうわよ、十六夜君、朔夜君」

「俺は二番風呂が好きな男だから特に問題ねえよ」

「僕も問題ないよ」

 女性3人は真っ直ぐに大浴場に向かう。

 十六夜と二人きりになり、暫く寛いだ後、

「さてと―――今のうちに、外の奴らと話しをつけておくか。朔夜も来るか?」

「うん。僕も一緒に行くよ」

 

          *

 

 館を出た僕達は、コミュニティの子供達が眠る別館の前で立っていた。

「おーい………そろそろ決めてくれねぇと、俺達が風呂に入れねえだろうが」

 そう言って、十六夜は面倒くさそうな顔をしながら話す。

「ここを襲うのか?襲わねえのか?やるならいい加減に覚悟決めてかかってこいよ」

 そう言って、十六夜は石を幾つか拾い、木陰に向かって投擲した。

「よっ!」

 ズドガァン!と爆発音が辺りの木々を吹き飛ばし、同時に現れた人影を空中高く蹴散らせる。

(十六夜って何者なんだろう?本当に人間なんだろうか)

 そんなことを考えていると、別館からジンが出てきて十六夜に問う。

「ど、どうしたんですか!?」

「侵入者みたい。例の“フォレス・ガロ”の連中じゃないかな?」

 空中からドサドサと落ちてくる黒い人影がこちらを見つめる。

「な、なんというデタラメな力………!蛇神を倒したというのは本当だったのか」

「ああ………これならガルド奴とのゲームに勝てるかもしれない………!」

 そんなことを侵入者達は言う。その視線には敵意らしきものは感じられない。それに気づいた十六夜は侵入者に近づく。

「おお?なんだお前ら、人間じゃねえのか?」

 侵入者の姿はそれぞれの一部が人ではなかった。

 それらを十六夜は興味深く見つめる。

「我々は人をベースにさまざまな“獣”のギフトを持つ者。しかしギフトの格が低いため、このような半端な変幻しかできないのだ」

「それで、君達は何か話をしたくて襲わなかったんでしょ?だったら、早く話してくれない?」

 僕がそう言うと侵入者は意を決するように頭を下げ、

「恥を忍んで頼む!我々の………いえ、魔王の傘下であるコミュニティ“フォレス・ガロ”を、完膚なきまでに叩きつぶしてはいただけないでしょうか!!」

「嫌だね」

「お断りします」

 僕達がそう言うと、侵入者は絶句してしまう。

「どうせお前らもガルドって奴に人質を取られている連中だろ?命令されてガキを拉致しに来たってところか?」

「は、はい。まさかそこまで御見通しだとは露知らず失礼な真似を………我々も人質を取られている身分、ガルドには逆らうこともできず」

「ああ、その人質な。もうこの世にいねえから。はい、この話題終了」

「―――――………なっ!?」

「十六夜さん!!」

 ジンが慌てて割って入る。

 それに対して十六夜は、

「隠す必要あるのかよ。朔夜達が明日のギフトゲームに勝ったら全部知れ渡る事だろ?」

「そ、それにしたって言い方というものがあるでしょう!!」

「ハッ、気を使えってことか?冗談きついぞ御チビ様。よく考えてみろよ。殺された人質を攫ってきたのは誰だ?他でもないコイツらだろうが」

 そう言う十六夜。確かに僕もそれには同意だ。

「悪党狩りってのはカッコいいけどな。同じ穴のムジナに頼まれてまでやらねえよ、俺は。朔夜もそうだろう?」

「うん。僕もだいたいそんな感じ」

「そ、それでは、本当に人質は」

「………はい。ガルドは人質を攫ったその日に殺していたそうです」

「そんな………!」

 侵入者は全員その場でうなだれる。

 そして十六夜はクルリと振り返り、まるで新しい悪戯を思いついた子供のような笑顔で侵入者の肩を叩く。

「お前達、“フォレス・ガロ”とガルドが憎いか?叩きつぶされて欲しいか?」「あ、当たり前だ!俺達がアイツのせいでどんな目にあってきたか………!」

「そうかそうか。でもお前達にはそれをするだけの力はないと?」

 ぐっと唇を噛みしめる男達。

(もしかして………)

 その辺りで十六夜が何をしようとしているのかだいたいわかった。

「ア、アイツはあれでも魔王の配下。ギフトの格も遥かに上だ。俺達がゲームを挑んでも勝てるはずがない!いや、万が一勝てても魔王に目を付けられたら」

「その“魔王”を倒す為のコミュニティがあるとしたら?」

 え?と十六夜と僕以外の全員が顔をあげる。十六夜はジンの肩を抱き寄せると、

「このジン坊ちゃんが、魔王を倒すためのコミュニティを作ると言っているんだ」

「なっ!?」

 侵入者とジンが驚愕した。

 十六夜の話を聞いて侵入者は困惑した表情を浮べている。

「魔王を倒すためのコミュニティ………?そ、それはいったい」

「言葉の通りさ。俺達は魔王のコミュニティ、その傘下も含め全てのコミュニティを魔王の脅威から守る。そして守られるコミュニティは口を揃えてこう言ってくれ。“押し売り・勧誘・魔王関係御断り。まずはジン=ラッセルの元に問い合わせください”」

「じょ、」

 冗談でしょう!?と言いかけたのジンの口を塞ぐ。

 僕がジンの口をふさいでいると十六夜は立ち上がって腕を広げる。

「人質の事は残念だった。だが安心していい。明日ジン=ラッセル率いるメンバーがお前達の仇を取ってくれる!その後の心配もしなくていいぞ!なぜなら俺達のジン=ラッセルが“魔王”を倒すために立ち上がったのだから!」

「おお………!」

 大仰な口調で語る十六夜を見る侵入者一同。

 ジンは僕の腕の中で必死にもがくが、動けないよう押さえつける。

「さあ、コミュニティに帰るんだ!そして仲間のコミュニティに言いふらせ!俺達のジン=ラッセルが“魔王”を倒してくれると!」

「わ、わかった!明日は頑張ってくれジン坊ちゃん!」

「ま………待っ………!」

 そう言って、あっという間に走り去る侵入者。

 腕を解かれたジンは茫然自失になって膝を折るのだった。

本拠の最上階・大広間に十六夜を引きずりこんだジンは、堪りかねて大声を上げた

 

          *

 

「どういうつもりですか!?」

「“打倒魔王”が“打倒全ての魔王とその関係者”になっただけだろ。“魔王にお困りの方、ジン=ラッセルまでご連絡ください”―――キャッチフレーズはこんなところか?」

「全然笑えませんし笑い事じゃありません!魔王の力はこのコミュニティの入口を見て理解できたでしょう!?」

「勿論。あんな面白そうな力を持った奴とゲームで戦えるなんて最高じゃねえか」

 大広間に備え付けられた長いすに座った十六夜は、背もたれに踏ん反りかえるようにもたれかかる。

「お、面白そう?では十六夜さんは自分の趣味の為にコミュニティを滅亡に追いやるつもりですか?」

「違うよ、ジン。これはコミュニティの発展に必要不可欠なことだよ」

 そう言うと、ジンがこちらを見る。

 十六夜は僕の言葉に頷き、普段通りの軽薄な笑みを浮かべ、

「ああ、朔夜のいう通りだ。先に確認したいんだがな。御チビは俺達を呼び出して、どうやって魔王と戦うつもりだったんだ?あの廃墟を作った奴や、白夜叉みたいな力を持つのが“魔王”なんだろ?」

 そう言われジンは黙りこむ。

「まず……水源を確保するつもりでした。新しい人材と作戦を的確に組めば、水神クラスは無理でも水を確保する方法はありましたから。けどそれに関しては十六夜さんが想像以上の成果を上げてくれたので素直に感謝しています」

「おう、感謝しつくせ」

 ケラケラと笑う十六夜を無視してジンは続ける。

「ギフトゲームを堅実にクリアしていけばコミュニティは必ず強くなります。たとえ力のない同士が呼び出されたとしても、力を合わせればコミュニティは大きくできます。ましてやこれだけ才有る方々が揃えば………どんなギフトゲームにも対抗できたはず」

「期待一杯、胸一杯だったわけか」

「それなのに………それなのに、十六夜さんは自分の娯楽の為だけにコミュニティを危機に晒し陥れるような真似をした!!魔王を倒すためのコミュニティなんて馬鹿げた宣誓が流布されたら最後、魔王とのゲームは不可避になるんですよ!?そのことを本当に貴方は分かっているのですか!?」

 そう叫ぶと同時に壁を強く叩く。

 それを見る十六夜は侮蔑するような目を向ける。

 これは僕も呆れた。

「呆れた奴だ。そんな机上の空論で再建がどうの、誇りがどうのと言っていたのかよ。失望したぜ御チビ」

「な、」

「ギフトゲームに参加して力を付ける?そんなもんは大前提だ。俺が聞いているのは魔王にどうやって勝つかだ」

「だ、だからギフトゲームに参加して力を付けて」

「それじゃあ僕からも質問だけど、前のコミュニティは力を付けていなかったの?」

「そ………それは」

「俺も聞くが、前のコミュニティが大きくなったのはギフトゲームだけだったのか?」

「………。いえ」

「俺達には名前も旗印も無い。コミュニティを象徴出来る物が何一つないわけだ。これじゃコミュニティの存在は口コミでも広まりようがない。だからこそ俺達を呼んだんだろ?」

「……………」

「今のままじゃ物を売買するときに、無記名でサインするのと大して変わらねえ。“サウザンドアイズ”が“ノーネーム”を客として扱わなかったのは当然だろうよ。“ノーネーム”ってのは所詮、名前の無いその他大勢でしかない。だから信用すると危険なんだ。そのハンディキャップを背負ったまま、お前は先代のコミュニティを超えなきゃいけないんだぜ?」

「先代を……超える………!?」

 言い返す事が出来ないジンに、呆れたように十六夜は言う。

「その様子だと、ホントに何も考えてなかったんだなオマエ」

「……………っ」

 ジンは顔を上げない。

 十六夜はジンの肩を力強く握りしめ、悪戯っぽく笑い、

「名も旗もないとなると―――他にはもう、リーダーの名前を売り込むしかないよな?」

 ハッとジンは顔を上げる。

 ようやく十六夜の意図が分かったようだ。

「僕を担ぎあげて………コミュニティの存在をアピールするということですか?」

「ああ、悪くない手だろ?」

「た、確かに………それは有効な手段です。リーダーがコミュニティの顔役になってコミュニティの存在をアピールすれば………名と旗に匹敵する信用を得られるかも」

「けどそれだけじゃ足りねえ。噂を大きく広めるにはインパクトが足りない。だからジン=ラッセルという少年が“打倒魔王”を掲げ、一味に一度でも勝利したという事実があれば―――それは必ず波紋になって広がるはず。そしてそれに反応するのは魔王だけじゃない」

「そ、それは誰に?」

「同じく“打倒魔王”を胸に秘めた奴らに、だ」

 十六夜にそう言われ、ジンは胸を高鳴らせているみたいだ。

「僕の名前でコミュニティの存在を広める………」

「そう。今回の一件はチャンスだ。相手は魔王の傘下、しかも勝てるゲーム。被害者は数多のコミュニティ。ここでしっかり御チビの名前を売れば」

 少なくとも十六夜が言った通り、この付近ぐらいに波紋は広がるはずだ。

「まあ、ジンが懸念するように他の魔王を引き寄せる可能性は大きい。でも魔王を倒した前例もある。そうでしょ?」

 黒ウサギはこう説明していた。“魔王を倒せば魔王を隷属させられる”と。

 つまり、過去に魔王を倒した者がいて、同時に強力な駒を組織に入れられるチャンスということだ。

「今のコミュニティに足りないのはまず人材だ。俺並みとは贅沢言わないが、俺の足元並みは欲しい。けど伸るか反るかは御チビ次第。他にカッコいい作戦があるなら、協力は惜しまんぜ?」

 そう言って十六夜はニヤニヤと笑い、ジンはそれを見つめ直す。

「一つだけ条件があります。今度開かれる“サウザンドアイズ”のギフトゲームに、十六夜さん一人で参加してもらってもいいですか?」

「なんだ?俺の力を見せろってことか?」

「それもあります。ですが理由はもう一つあります。このゲームには僕らが取り戻さなければならない、もう一つの大事な物が出品される」

「もしかして昔の仲間?」

「はい。それもただの仲間ではありません。元・魔王だった仲間です」

 十六夜の瞳が光る。軽薄な笑みに凄みが増し、危険な香りのする雰囲気を漂わせ始めた。

「へぇ?元・魔王が昔の仲間か。コレの意味する事は多いぜ?」

「はい。お察しの通り、先代のコミュニティは魔王と戦って勝利した経験があります」

「そして魔王を隷属させたコミュニティさえ滅ぼせる―――仮称・超魔王とも呼べる素敵ネーミングな奴も存在している、と」

「そ、そんなネーミングで呼ばれてはいません。魔王にも力関係はありますし、十人十色です。白夜叉様も“主催者権限(ホストマスター)”を持っていますが、今はもう魔王とは呼ばれていません。魔王とはあくまで“主催者権限”を悪用する者達の事ですから」

 そういえば、まだジンに白夜叉と仮とはいえ契約したこと言ってなかったな。この話が終わったら言っとこう。

「ゲームの主催はその“サウザンドアイズ”の幹部の一人です。僕らを倒した魔王と何らかの取引をして仲間の所有権を手に入れたのでしょう。相手は商業コミュニティですし、金品で手を打てればよかったのですが………」

「貧乏は辛いってことか。とにかく俺はその元・魔王様の仲間を取り戻せばいいんだな?」

 ジンは頷いて返す。

「はい。それが出来れば対魔王の準備も可能になりますし、僕も十六夜さんの作戦を支持します。ですから黒ウサギにはまだ内密に………」

「あいよ」

「うん。分かった」

 十六夜が席を立ち、自室に戻る時、ふと閃いたように僕とジンに声をかける。

「明日のゲーム、負けるなよ」

「はい。ありがとうございます」

「うん。僕も頑張るよ」

「負けたら俺、コミュニティ。抜けるから」

「はい。………え?」

 そう言って、さっさと行ってしまう。

 呆然とするジンに僕は声をかけた。

「大丈夫だよ。負けなければいいんだし」

「はい。ありがとうございます」

「あ!それと、白夜叉仲間にしたから」

「はい?」

 そう言って、ジンの返事を待たずに部屋から出ていく。

 もう飛鳥達もお風呂から出てると思うし、僕もお風呂に入るかな。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。