IS 月は出ているか?   作:ドロイデン

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Episode22.5 幕間 ①

 本音side

 

「なんか色々と凄かったね~かんちゃん」

 

 私はクロー君と別れてかんちゃんと一緒に家への帰路へ着いていた。

 

「そうだね……でも本音」

 

「ん~どうしたの~?」

 

「クロト君の渾名、どうしていつもみたいにゆったりしたのじゃなかったの?」

 

 私はそれを聞かれ少し動揺する。

 

「それは……クロー君は私を助けてくれたし、何となくゆったりしたのを着けても喜ばないかな~と」

 

「本音、嘘は良くないよ」

 

 かんちゃんの指摘に私は喉を詰まらせる。さすがは幼馴染みというべきか、やっぱりかんちゃんは私の考えを読むのは得意みたい。

 

「本音が渾名つけたら、相手が積極的に断らない限りずっと言い続けるから……私の経験論」

 

「あはは~……」

 

 流石にこれにはなにも言えない。

 

「でも半分くらいはホントだよ。クロー君が他の渾名を気に入らないと思ったのは本当だもん」

 

「ふ~ん…………あれ?半分は本当って事は……」

 

 かんちゃんがジトりとした目で睨んでくる。うん、下手に隠したらお姉ちゃんの刑になりそうだね。

 

「うん、私ね…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クロー君の事、好きになったのかもしれないんだ」

 

 私がそう言うと、かんちゃんはため息をついて「やっぱり」と呟く。

 

「本音…………意外と分かりやすいんだね」

 

「むぅ…………その言葉には少しだけ悪意を感じるんだよ~かんちゃん」

 

「常の行いを考えたらね。……それで、どこが好きになったの?」

 

 なんか、かんちゃんが刀奈様みたいな性格になってる気がするよ……そんなところは似なくていいのに。

 

「う~ん……どこがっていうか……いつの間にか気になってた……っていうか」

 

 これは本当だ。最初はクロー君がナンパから助けてもらったから……ただその事をお礼したかっただけだからかんちゃんと話して待ってただけ。それだけだった。

 

 でも改めてお礼を言って姿を注視すると、フランス人とは思えないぐらいに端正な顔に、頬に着いた切り傷の跡、けれど顔はどこか優しい表情で、あかの他人の私の事を覚えていてくれた。

 

 喫茶店に入っても、クロー君は優しい表情を崩さないでくれて、かんちゃんの機体についてあれこれとアドバイスをくれてた。整備士志望の私も聞いてて納得するような内容で、ホントに詳しいんだなって余計に思った。……まぁあの鼻血は予想外だったけどを

 

「ふーん、てことは本音、一目惚れしたの?」

 

「う~ん、そう言われるとそうなんだけど……でも何て言うか……かんちゃんに似てる風に思えたんだ」

 

「私に?」

 

 かんちゃんは不思議そうに首を傾げる。まぁこれは仕方ないのかもしれないけど。

 

「クロー君の目、普通に笑ってたけど……少しだけ何かに堪えてるような気がしたんだ」

 

「堪えてる?」

 

「うん、一人で抱えて、誰にも頼らない人の目をしてた。かんちゃんと同じくね」

 

 私の言葉にかんちゃんは少し目線をずらす。自覚はあるらしいけど、一応従者なんだから頼ってほしいんだよ?

 

「……話を戻すけど、クロー君が何かを堪えてるのは間違いないよ、だから私はね、クロー君の添え木になってあげたいんだ……」

 

「そっか…………」

 

「あ~あ、クロー君が来年IS学園に来てくれれば万々歳なんだけどね~。片想いで終わる人生なのかな~」

 

「大丈夫、明後日辺りに倉持技研に来るらしいから、その時にでもお話しすればいいと思う」

 

 そうだね~、と私が言うと同時に屋敷に着いた。

 

「クロト…………私、頑張るよ」

 

 その小さい決意を胸に、私は従者の職に切り替えた。

 

 

 

 

 ウサギside

 

「姉さん……」

 

 やぁやぁ皆、世界のどこでも這いよる天災こと篠ノ之束だよ~。今私は実の妹の箒ちゃんと久々に一緒に喫茶店に来ていた。

 

「ん~どうしたの~箒ちゃん」

 

 私はマスターの入れる紅茶を飲みながら聞き返す。コーヒーじゃないのは、私の格好がアリスだからね、察してほしい。

 

「姉さんはどうして、まともに戻ったんですか?」

 

「む、酷い言い種だね。確かにこの束さんは天災だからね。マトモじゃないって言われるのには慣れてるつもりだけど」

 

「そうでしたね……では聞き直します。姉さんはどういうきっかけで、他人を信じられるようになったんですか?」

 

 なるほど、箒ちゃんの言い分は最もだ。確かに私はちーちゃんやいっくん、箒ちゃんといった知り合い関係にしか基本的に心を開かないし、他人を覚えるつもりもなかった。

 

「う~ん、そう言われると、原因というかきっかけは彼かな?」

 

「彼?誰ですそれは?」

 

「箒ちゃんと同い年のフランス人の男の子だよ。もう半年以上前になるのかな~」

 

 そう、それはクーくんが妹のシャルちゃんを助けに行ったあの日だった。

 

「その子ね、とある女性権利団体の奴等に妹を連れ去られてね……体一つで助けに向かったんだ」

 

「な!!それは自殺行為だ!!」

 

「私もそう言ったよ~、けど彼はね、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 いや、誓ってはいなかったな~、でもそう言う雰囲気はあったし、似たようなことは言ってたしね。

 

「その結果、彼は厳重な警備をなんとか破って妹の元に辿り着いた」

 

「…………妹は?」

 

「…………権利団体はその妹を精神制御して、それ専用の機体に乗せていた。彼は当然彼女の事を助けようとした。けど精神を犯されたうえにISに乗ってる。文字通りボロボロにされた」

 

 ホントは彼もISに乗ってたから肉体的には無事だったけど、多分精神はかなりボロボロになってても可笑しくなかったと思う。

 

「彼はボロボロになりながらも妹を助けようとした。結果として彼女は彼の力と自分の意思で精神制御を打ち勝って見せた。私もそれを見て鳥肌が立ったよ」

 

「人の意思が……機械すらをも上回った、ということですか?」

 

「そうだね。そう思うと、私も思い出したんだ……私がホントに作りたかったものと、守りたかったものを」

 

 そう言って私はいつもの笑みを浮かべる。

 

「私が作りたかったのは、宇宙を、この果ての無い宇宙の世界の先を見てみたかった。争いの無い、暗くて、けれどうっすらと光がある、あの空の向こうを……」

 

「そして守りたかったもの……それはね、ちーちゃんや箒ちゃん達、私が大切だと思った人達をできる限り守りたい。偽善と、悪魔って呼ばれても、目の前で大切なものを奪われるのはもう嫌だからね……」

 

「そうですか…………」

 

 そう言うと箒ちゃんは立ち上がり、後ろを向く。

 

「…………姉さん、姉さんはあの日を覚えていますか?」

 

「勿論、箒ちゃんといっくん、そしてあーくんを守ろうとしたあの日でしょ?不良連中がまだ子供だった三人に暴力を振って、私が身を呈して守ったあの日でしょ?」

 

 覚えてないわけがなかった。私の中で唯一守るためにプライドを捨てて三人を守ったのだ。そのときの背中の傷跡は、天災である私でも消せなかった。栄誉の負傷だった。

 

「そうです。……姉さんはあの日のあと、私に言ってくれましたよね……」

 

「『目の前で大切なものを守るためなら、自分の事を全て捨ててでも守り抜く。力を力で捩じ伏せるだけでは永遠に続く』……だったよね?合ってる自信無いけど」

 

「一言一句間違わずに言ってるので大丈夫です」

 

 そう言うと箒ちゃんは私の後ろに立つと、

 

「…………」

 

「ふぇ!?」

 

 いきなり抱きついてきた。え、どういうこと、流れがさっぱり分からないよ!!

 

「……私はあの時、その言葉の意味を理解できませんでした。守るためなら力は不可欠、力は使うためにあるのだと、今まで思っていました」

 

「箒ちゃん……」

 

「けどこの街に来てから、漸く姉さんがあの時言ってた言葉の意味が分かりました。力を力で抑えるだけでは、結局どこかで別の力が生まれる。そうならないための、正しい力が要るのだ、と」

 

 …………私は嬉しかった。私のせいで、箒ちゃんが好きだったいっくん別れるきっかけを作り、そのせいで荒んだ生活になったのは知っていた。箒ちゃんの好きだった剣道にすらそれが現れる程だった。

 

 けど箒ちゃんは、正しい答えを見つけてくれた。私が教えてあげられず、むしろ不正解を強要してしまったことを自分で気づき、直した。その事に喜ばないわけがない。

 

「箒ちゃん……私、少しだけ泣いても良いかな……」

 

「普段なら木刀で弾き飛ばすところですが……今日だけは」

 

 私は妹の胸の中で踞り、しばらく嗚咽した。悲しみではなく嬉しさのその滴は、まさしく私たちの関係を直してくれた証だと思えたから…………




本日のオマケはございません。申し訳ありませんです。
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