IS 月は出ているか?   作:ドロイデン

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Episode24 救うために

「…………」

 

 俺は電話で指定された公園へとやってくる。まだ朝なうえに、あれから数十分しか経ってない為、やはり人通りは少ない。

 

「…………」

 

「お待たせ~クロくん」

 

 と、噴水の近くで待っていると、聞き覚えのあるゆったりした声が聞こえる。そこにいたのは、電話で呼び足した相手、布仏本音だった。が、簪の姿はない。

 

「簪は…………やっぱり無理だったか」

 

「うん……かんちゃん、あの機体を少しでも良くしようと頑張ってたから……奪われて凄いショックを受けてるみたい」

 

「そっか…………」

 

 本音の悲痛な声に、俺は何も言えなくなる。

 

「本音は……簪の友達なんだよな」

 

「友達だよ。あと幼馴染み」

 

「ならさ、今の簪……見ててどう思った?」

 

 俺は直接見れないし会いに行けない。行けば会社に迷惑を掛けるかもしれないし、今だって本音に無理を言って来てもらった。

 

「…………今まで見てたなかで最悪な状態だった。まるで心を奪われたみたいに無感情で、辛いのに泣きもしないでね。たっちゃんに『アレ』を言われたとき以上だと思う」

 

「…………そっか」

 

 仕方ないとは思う。もうすぐ完成するという自分の機体を、寸前で他人に奪われる。それはどんなに形容し難いものだろう。

 

「それにかんちゃん、クロくんと会うの少し楽しみにしてたんだよ」

 

「へ?そうなのか?」

 

 意外だと思い俺は聞き返す。

 

「かんちゃんがね、機体にちゃんとした意見をくれる人と初めて会えたからだと思う。かんちゃんがどんなに意見を言っても、他の人たちから一蹴されて、いつもそれで苦しんでた」

 

 本音のその言葉を示すかのように語尾がだんだん小さくなっていく。

 

「かんちゃん、時々言ってたんだ。ISは研究者の玩具じゃないって。乗る人と機体が本当に心を一つにすることで、自分の未来を開ける道具なんだって」

 

「…………まるで、コアと実際に話してるみたいな言い方だね」

 

「多分、『みたい』じゃないんだと思うよ」

 

 その言葉に、俺はまさかと目を開かせる。

 

「かんちゃん、偶に機体に触って変なことを言ってた」

 

「…………ちょっと待て、本音、そのときの事を覚えてるか?」

 

「うん、確か二週間ぐらい前だけど、かんちゃん、自分の機体になるはずだった『打鉄弐式』を自分の手で掃除してたんだよ。ISには自動修復と自動洗浄の機能があるから、そんなことしなくても良いんだよって、私が言ったんだ。そしたら」

 

 

 

『それでも、この娘は私と同じで寂しがりだから……少しでも一緒に居て、気持ちを解してあげないとって思って』

 

 

 

「私はそれを聞いたときはなんとも思わなかったけど、今思ってみたら、かんちゃんには自分の専用機の声が聞こえてたのかもしれないね」

 

「…………シャルと同じだ」

 

 俺は今のを聞いて、確信した。簪はシャルと同じ、自分のISコアと同調する事が出来るのだと。

 

 別にそれ自体は、二次移行した機体と熟練したパイロットにとっては至って普通の事だ。けど、シャルはまだ素人と同じぐらいの練度、簪は機体がまだほぼ未完成だった状態でそれを成してる。まるで、

 

「…………ニュータイプ」

 

 予想してないことはなかった。寧ろ俺という異分子(イレギュラー)が存在する以上、ニュータイプやSEED、Xラウンダーやイノベイターだって居ても仕方ない。けど、だがそれでも、その存在を認めるのは少しだけ嫌だった。

 

(まるで、あの時みたいに……)

 

「クロくん、なんか怖い目をしてるよ?」

 

 本音の言葉に、俺は苦笑いを浮かべる。

 

「まぁ俺の事は良いとして、、簪の機体はどうなるんだ?日本の最大手は倉持技研だったんだ。正直、他にISを組み立てあげられる程の技術を持ってるところは無いだろ?」

 

「かんちゃんはそこまでは何も言ってなかったけど、多分かんちゃんなら、訓練機を一つ貰って自己改修するんじゃないかな」

 

 さもありなんだと思う。実際、簪はほぼ一人でISを半年ぐらいで完成間際まで作り上げたほどだ。その技術力なら、現存機を改修するのも容易だろう。

 

「…………それで、何時まで俺らに黙って聞いてるつもりだ?」

 

「へ?」

 

 俺は今まで()()()()()()()()()()()()()()()の持ち主に向かって声をかける。

 

「…………あらら、やっぱり気づいてたのね~」

 

「そんな分かりやすいぐらいに気配を消してたら、否が応でも気づくぞ、しかも、その位置だと噴水の水が鏡の役割をしてくれるから見つけやすいたらありゃしねぇ」

 

「いや流体する水を鏡代わりなんて普通無理だから……って、ここの噴水って線じゃなくて幕なんだった……」

 

 かなり項垂れながら現れたのは、簪と同じ水色の髪にデザインが少し微妙な扇子を右手に持った、IS学園の制服を纏った変態こと、更識楯無がそこにいた。

 

「ちょっと地の文!!誰が変態よ!!」

 

「メタ発言は控えてください、シスコンさん」

 

「あら?妹を大事に思うことはいけないのかしら?」

 

「いえ、自分にも妹が居るのでわかりますけど?」

 

 俺たちはそう言うと互いに少し睨みあう。

 

「へぇ、でも私の簪ちゃんの方が可愛いわよ。おどおどしてて守ってあげたいって気持ちになるもん!!」

 

「いえいえ、うちのシャルの方が可愛いですよ。笑ったときなんか向日葵どころか太陽さえ跳ね返すほど輝いてますし!!」

 

(二人とも充分にシスコンだよね、これ?)

 

「「本音、シスコンの何が悪い!!」」

 

「認めちゃったよ!?ていうか勝手に心読んだよね!!」

 

 本音の突っ込みはいざ知らず、俺と楯無はにらみ合いを続ける。もうこれは意地と意地のぶつかり合い。どちらの妹が可愛いか、それが全てを物語っていた。

 

「簪ちゃんはお菓子作りが得意なんだから!!前に焼いてくれたカップケーキなんかもうお店に出してもおかしくなかったんだから!!」

 

「うちのシャルは服を着せたらなんでも似合うからな!!ワンピースどころか、前に来てたドレスなんか鼻血ものだったぞ!!」

 

「何よ!!」

 

「やるか!!」

 

「とりあえず、どっちもどっちだと思うよ~」←妹代表

 

「ぐは!!」

 

 まさかの本音の一言に楯無は吐血した。が、俺にはそんなものは効かん。

 

「ふ、楯無、どうやら自分の勝ちのようですね」

 

「クロくんも調子に乗らない方が良いよ~」

 

「ハイ、モウシワケアリマセン」

 

「まさかの片言とわね……」

 

 俺の片言ボイスに残念姉二号はひき攣った笑みを浮かべる。

 

「ちょっと待って!!なんで二号!?え、他に誰か居るわけ!?」

 

「世界最強さん」

 

「…………あ(察し」

 

 納得した表情を浮かべ、なるほどと頷いている。

 

「まぁ、とりあえずだ。簪はお前から見てどうなんだ?」

 

「急に真面目になったわね……、まぁなんていうか、今の簪ちゃんはあれね、静かに荒れてるって所かしら」

 

「荒れてるのに静かなのかよ……一番厄介なところじゃねぇか……」

 

 実際問題、荒れて暴れてたり、部屋の隅で泣いていた方がまだ対処のしようがある。けどこのパターンの場合、荒れているにはそうなのだろうが、それが相手に対して解りづらいという面を孕んでいる。

 

 そんな奴がどうなっていくか、それは『溜め込む』というのが一番の最適解だろう。あるはずだった物がない、それはかなりのストレスだ。特に自分が大切に築き上げ、作り上げ、心血を注いだものとなれば尚更だ。しかもそれを発散できないから溜まりに溜まり、ついには人格すら歪める事に成りかねない。

 

「となると、一番はさっさと簪の奴を安心させてやらねぇとな」

 

「安心って、いったいどうするつもりなの?」

 

「俺に出来ることをやるだけです。今はそれが、簪を救うこと」

 

 そうして俺は再び携帯を取り出してある人物に連絡を入れる。そして数分が経って返信されてくると、俺はそれを確認しニヤリと笑ってしまう。

 

「さて、楯無、俺を簪のところに案内してくれないか」

 

 一人の女の子を救うために




オマケ⑮ 動き出すもの②

???「おや、彼からメールが届きましたよ」

???「あぁ、例のお前とは別の『転生者』か?」

???「そうみたいですね。しかし、彼がこうもあっさりと気づくとは……」

???「そう言うな、俺たちは俺達が出来ることをするだけだ」

???「俺達、チーム『アスワン・ラー』に不可能は無いってな」
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