「……しかしクロトよ、オマエ日本に行ってから色々と交遊関係増えてねぇか?」
突然飛行機の隣の席でそんなことをいうオータムに、俺は苦笑と共に首を傾げる。
「そうですか?」
「いやよ、なんでたった数日であの更識んとこの姉妹とその従者と仲良くなれるんだよ。普通なら天地ひっくり返ってもあり得ないからな」
「そうだよね~、クロト兄、いつの間にか可愛い女の子の友達作ってるしね~」
まるで底冷えするような、それでいてかなり重いトーンの妹の言葉は、室内環境最適な筈のファーストクラスの周りが文字通り凍りそうになってる。ていうかはっきり言って怖すぎる。
「えっと……シャルロットさん?俺が何か悪いことしましたか?」
「べっつに~、ただクロト兄は妹のボクじゃなくても、女の子なら誰でも優しくするんだね~って思ってる訳じゃないよ?それにあんなことになっちゃうしね~」
(なら口にするなよ……ていうか若干闇シャルモードに入ってるし)
というものの実際、帰りの飛行機の前に起こったそれを思い出すと仕方ないという他がないのだろうが……
数時間前
「さて、手続きも終わったし、皆準備は良いかな?」
父さんの言葉に、勝手に個人ロケットでどっかに行ってしまったウサギ以外の俺達は疲れた表情をしながら集まる。
「しっかし、あんまりにも拍子抜けだったな。アタシらが事件後に滞在してた数日間、今もフランスに戻るっていうのに日本政府は何もアクションを起こしてねぇとはな」
「そうね……幾ら何でも少しゆっくり過ぎるわね」
元幹部コンビの言う通り、あのコア強奪事件のあと、日本政府はこちらに文書によるお礼報告のみという、まぁどこにでもありそうな形だけを採ってきた。
それ自体に俺は特に何とも思わなかったが、残りの滞在してた最中も、公安やらが時偶こっちを尾行してるぐらいで、何にもアクションを起こしてこず、寧ろ気付いていたこっちが、夜一緒に個室の飲み屋で共に宴会騒ぎをしたほどだった。
後の話によると、日本政府は俺達フリーデン社の情報を元に、俺と同じ転生者『藤原総士』が所属する傭兵部隊、通称『アスワン・ラー』にコア回収を依頼、結果として傭兵にかなりの額を支払ったことによって、こちらをマークする人員も絞られてしまったらしい。やはり日本の懐事情は常に世辞面い物らしい。
「まぁまぁ、何にも無かったんだから良いんじゃないのかな?常に事件が周りにあるなんておかしいんだよ、うん」
「そう言うが、この中で一番事件に巻き込まれてる比率が高いシャルが言っても説得力皆無だぞ」
「ウグ!!……折角の出番なのにこんなのって……」
若干メタ発言な気がするが、それを気にしてたらやっていけないのでとりあえず無視……と、その時、スマホに電話が掛かってきた。
「?誰だ?」
確認してみると、そこにはあの扇子を持ったプチ悪女こと、更識楯無の名前が浮かんでいた。
「…………」
時間も時間なため電話を受けずに切ってしまおうとするが、再び彼女から電話が掛かってくる。どうやら出るまで掛け続ける腹積もりのようだ。
仕方なく、俺は親父に電話が来たことを話して少しその場から離れる。
「…………はい、なんですかシスコンさん?」
『開口早々酷い言葉ね。貴方だって充分にシスコンじゃない』
「否定はしませんよ。それより、態々こっちが飛行機に乗る搭乗手続きの前に電話を寄越すとか、いったい何を考えてるんです?」
『それはね……』
次の瞬間、この人がなんで掛けてきたのかが容易に分かった。
「クロくん!!」
その聞いたことのある言葉は、間違いなく彼女の知り合いにして、自分の友人。
『簪ちゃんと本音ちゃんがそっちに挨拶に行ったから、少しだけ足止めさせて貰ったわ』
あとはごゆっくり~、とふざけたボイスと共に電話は途切れ、後にはツー音のみが耳に入る。
「……そう言うことなら、メールとかLI○Eで良かったじゃないですかね……」
何とも定番なネタをと思いつつも、とりあえずここへ来た友人の方へ向かう。
「二人とも……」
「いきなりごめん……でも、挨拶ぐらいしたいと……思ったから……」
「もう、かんちゃん、クロくんは友達なんだから固くなっちゃダメだよ~」
いつもの調子の二人にとりあえず安心し、俺達は近くのベンチに腰を掛ける。途中シャルやオータム等の視線が突き刺さったが、とりあえず今は無視しよう。
「……ありがとな、態々挨拶に来てくれて」
「ううん、お礼を言うのは私の方、クロトくんが頑張ってくれたから、私の機体は戻ってきた」
本当にありがとう、と恥ずかしそうに言う彼女を見て、俺は最初に会ったときのように鼻血が出そうになるが、そこは気合で我慢した。うん、凄い可愛い。
「別に俺はなにもしてないよ。俺はただ自分達の情報網で日本政府に助言しただけだし」
「そんなことない。そういうことができるだけで凄いよ……私には、そんな取り柄なんて無いし」
そう言いながら簪は俯いてしまう。が、
「はい、ダウト」
「あう!!」
俺は軽く手刀を彼女の頭にポンと叩く。
「簪には俺にはない取り柄があるだろ。俺は技術者だけどよ、はっきり言ってまだまだ素人に毛が生えた程度だけどさ、簪は同い年なのに、ISのOSのプログラム、一人でほとんど完成させたんだろ?」
「なんで知って……本音!?」
「アハハ……」
まさか従者から話されていたとは思ってもみなかった簪は、唯でさえ赤くなった顔をさらに赤くして、まるでぬいぐるみのような本音の頬を引っ張り摘まむ。
「
「ダメ、人のことを勝手に喋ったから、これはお仕置きだよ」
「ハハハ」
この何気ない雰囲気が愛おしく、俺は二人のことを見守りたいと思った。
「そういや……簪の専用機はどうなるんだ?」
と、俺は思い出したように聞くと、当の本人はまるで絶望したかのように縮こまってしまった。
「……」ズーン
「……もしかして、開発放棄になったのか?」
「……」コクコク
まぁあり得ない話じゃない。何せ戻ってきたとはいえ奪取されてしまった機体だ。俺ならそういった機体は色々と問題になりそうだから、後のために開発を中止してもおかしくはない。
「でも簪は日本の代表候補生なんだろ?専用機がないってのは……」
「……大丈夫、自分で造るから」
は?と言い返したくなったが、ここで俺は原作を思い出した。確かに簪なら半分は造れるだろうし、何より経緯が本来より時期が早い。そこをかんまみれば可能と言えばそうなのだが、
「……はぁ、簪って理論派だと思ってたけど、時々抜けてるよな」
「む、どういうこと?」
「あのな、お前は代表候補生で、俺はフリーデンの技術者、しかも俺達は友人だ」
「……?ちょっと意味が……」
首を傾げてくる簪に、焦れったくなって頭を掻き毟る。
「だ~か~ら~!!俺がお前の専用機を、一から造ってやるって言ってんの!!」
「…………え?」
彼女はあり得ないとでもいうような顔にジト目という、少しだけ失礼極まりないそれを向けてきた。
「専用機は何も自国の会社の機体を使わなければならないなんてルールはない。何せ日本の元代表候補生の……山田真耶さんだっけ?あの人の専用機も『ラファール・リヴァイブ』のカスタムだしな」
「で、でも……専用機はかなりの額の費用が掛かるし……それに……いくら友人でも頼ってばっかりじゃ……」
「…………本音」「ラジャー!!」
「へ?ムヘ!!」
マイナス発言連発の簪に、俺と本音は揃って手刀と頬引っ張りを敢行する。あ、簪のほっぺって少しモチッとしてる。気持ちいい……
「簪、マイナス発言禁止。なんでも後ろ暗く考えてると、自分自身に嘘を着くだけの人間になっちまうぞ」
「そうだよかんちゃん、かんちゃんは少し私とか、皆に頼った方が良いんだよ~」
「で、でも」
「でもじゃねぇよ。良いか簪、人ってのは自力だけじゃ全てを出来るわけがないんだよ。皆、誰かに頼って、頼られて、支え合って生きてるんだよ」
俺はそう言って頬から手を放し、その手で彼女の頭をくしゃくしゃになで回す。
「お前が何に怯えてるのか、何をそこまで自分を卑下するのかは知らねぇよ。けどさ、お前は一人じゃないだろ?」
「クロトくん…………うん」
そう言って見上げてきた彼女の顔は、今まで見た笑顔のなかで一番のものだった。
簪が恥ずかしがってお手洗いに向かったあと、俺と本音は和やかに談笑していた。
「本音は凄いな、あの簪といつも一緒なんだろ?」
「そうだね~私は更識のメイドだから、かんちゃんとは同い年だから、馴れちゃったっていうのかな~」
本音の笑顔は、正しく太陽のようだったが、どこか作られたように感じてしまった。
「……なぁ、本音、本音は将来の夢ってあるか?」
「う~ん、私はメイドっていう職が確定してるからね。特に大きなものは無いかな~」
「……ホントにか?」
俺があえてそう聞くと、本音は笑顔を向けていたが段々表情が暗くなっていく。
「……ほんと、クロくんって人を見る目があるんだね」
「てことは、やっぱり無理してたのか?」
「そうだね~。ホントの事を言うとね、メイドっていう役が最初からあったから、他に何をして良いのか分からないんだ。勿論メイドとしての自分に不満は無いし、それに満足もしてる。
けど、けどね、なんだか最近は、その仕事にやりがいを持てないんだ。メイドの仕事が当たり前、まるで人じゃなくて、人の形をした機械に感じちゃう時があるんだ」
詰まる所、自分自身が何をしたいのか、その目標が見つからないという事か。
「特に……かんちゃんと一緒に渋谷地震に合ったときからね、時々他の人の声が聞こえるんだ。その人が何を思っているのか、文字通り本音が聞こえるときがね」
「……『アレ』の能力か」
俺は転生前の、
似たような物なら、『コードギアス』の『マオ』というキャラクターも、自分の
「ここ最近は特になんだ。楯無様やお姉ちゃん、他の使用人やメイドの声が、相手の目を直視したらすぐに分かっちゃうんだ。どうしてかクロくんやかんちゃんの声は聞こえないけどね」
「……だから、本音はいつも目を細めてるのか?」
「そうだよ。目を細めていれば、ある程度は聞こえなくなるし、コンタクトレンズを使えば、目を細めなくても同じ位の効果にはなる。いつもゆっくりした動きや言動をしてるのも、その事を相手にばれないようにするため」
まぁかんちゃんにはバレてるみたいなんだけどね。という彼女の言葉に、どこか自虐的な表情が見てとれた。
「……本音は、それで良いのか?」
「良いか悪いかっていう話じゃないよ。布仏の人間は個性はあっても、当主に服従する事が第一、そのためなら私は心を殺してでも」
「ふざけるな……」
俺の放った殺気を物ともせず、本音は表情を少しも変えない。
「本音、お前は勘違いしてるぞ。人間は個性もあれば、どうしたいって思う心もある。本心から支えてるならまだしも、自分の意思を大切にしなきゃならないんだ!!」
「それでも……私は布仏の人間だから……」
「だからじゃねぇよ!!お前は本当にそれで良いのかよ!!自分自身に嘘をついてばかりで、お前は本当に
その時、彼女の顔から一滴の滴が垂れた。その滴は頬を伝い、やがて床へと落ちていく。
「だったら……クロくんは私を受け入れてくれるの?」
「言ったろ、俺はお前の友達なんだよ。友達の秘密の一つや二つ、背負ってやるよ」
「私、何にも取り柄ないよ?」
「本音は周りを和ませてくれるだろ?それだけで充分に取り柄さ」
「足を引っ張っちゃうかもしれないよ?」
「それがどうした。そんぐらい幾らでもカバーしてやる」
言って言い返して、友達だからこそできるその言葉が、彼女にとっては一番大切なものだった。
「……クロくん」
「おう」
俺の返事と共に、彼女は自分の体を俺に差し出してきた。その顔は涙で歪んでいたが、それでもさっきの笑顔より輝いていた。
「クロくん、私の正直な言葉を言わせて」
「……おう」
「私ね、クロくんの事……大好きだよ」
「……!!……あぁ、俺もだよ、本音」
今、互いに闇を抱える二人が、本当の意味で交わることになった。
オマケ⑲ 見守るもの
簪「良かったね……本音」
楯無「あら、良いの簪ちゃん?」
簪「お姉ちゃん!!いつの間に!?」
楯無「そんなことよりも、簪ちゃんは自分の思い、伝えなくて良いの?」
簪「うん……本音のあんな綺麗な笑顔を見たら……横槍入れられないよ」
楯無「……そっか」
簪「……あのね、お姉ちゃん」
楯無「うん?」
簪「私……私ね……頑張るから!!お姉ちゃんに負けないくらい、勝てるように頑張るから!!」
楯無「!!……ふふ、そう、なら頑張りなさい。お姉ちゃんはそれなりに応援してあげるから」