「はぁ……疲れた」
試合後、ピットに戻った俺は機体を本音に預けて備え付けのベンチに腰を下ろしていた。
「おい、クロト」
と、いつのまにやって来たのかオータムが俺の前に現れて、とてもいい笑顔をしていた。
「オマエ、ダブルパッケージは基本的にやるなって言っておいたよな?というか自分で基本的にやらないって言ってたよな?」
「うぐ……」
その追求に俺は目を泳がせた。オータムはそれを見てため息と共に……『アリアドネ』のアームで頭をぶん殴った。ヤバイ、滅茶イタイ!!
「オマエは自分で言ったことも守れない屑なのか!?機体に異常なほど負荷が掛かるって分かってるんだろうが!!」
「分かってるって、でも相手の本気を引き出すにはこっちも掛け値なしの本気を出さないと」
「それでもだな!!」
ガミガミと怒るオータムに俺はただただ身を小さく頷く。シャルロットしかり楯無さんしかり、女性を怒らせたら普通に俺ら男は死ぬ。
「たく……時間もねぇからもう言わねぇがよ、あまりやり過ぎるとアタシがスコールやカルロスの旦那にどやされるんだからな」
「分かったって……それで、シャルロットの方は?」
「アイツなら反対側のピットに簪が一緒に居るから安心しろ。ただ、絶対スタジアム壊すなよ?」
俺はそれを言われて再び目を剃らす。シャルも俺も本気じゃないとはいえ、高火力高パワーなシャルの『ベルフェ』と、遠距離火力ばかりに重視した俺の『イノベイク』、つまり予想するまでもなくだ。
「おい、なんか答えろ」
「いや……ねぇ?」
「ねぇ?じゃないだろ……たく、一応シャルロットの方は競技用リミッタープラスさらにパワーの方面のリミッター付けてるんだよな?」
呆れつつ確認するオータムに俺は軽く頷く。
「競技用リミッターは父さんの認証プラス俺の許可認証が必要だから基本は外れないと思う。けどパワーリミッターの方は、やろうと思えばシャルの感応波で解除されちまうからな……」
「おいおい、そんなんで大丈夫なのか?」
「まぁ大丈夫でしょ、パワーリミッターはよっぽどシャルの精神がマイナスに傾くか、もしくはシャルが興奮でもしない限りは」
もっとも競技用リミッターのおかげでそこまで大惨事になることは無いだろうが、もしテロリストとかが来たら少なくともリミッターを付ける意味は皆無になる。
「さて本音、補給は終わった?」
「今ちょうど終わったよ~エネルギー、弾装共にオールオッケ~」
そう言われ機体の待機状態である時計を腕に巻き、機体を再び展開する。
「さて……それじゃあ行くか!!」
スタジアムに降り立った俺を、シャルロットは通常モードで待ち構えていた。
「遅いよクロト兄」
「悪いな、こっちは補給やらなんやらがあったからな」
悪びれもなくそういうと、シャルも仕方ないというように肩を下ろす。
「別にそういうのはどうでもいいよ。ただ、本気で殺り合おうね?兄さん」
「はぁ……何時からシャルはこんな戦闘狂になったんやら」
もう戦うときの発言が某蒼の魔導書のヤンデレ弟みたいな感じなってるのを遠い目で虚空を見る。まぁそれは別にどうでもいい。
互いに何も言わずにそれぞれの得物を抜く。俺はフラガラッハ二本を、シャルは漫画版ベルフェゴールが持っていた大剣に似た大型剣を取りだし、そして、
「「……!!」」
互いに無言で切り抜いた。ぶつかった衝撃波は観客用の防護シールドをも震わせ、最前列にいた生徒でさえ軽く仰け反った。
「ッラ!!」
「ハァ!!」
そして俺たちは切り結ぶ。二本の剣を自由自在に操る俺と、大剣でそれを器用に弾くシャル、お互いの手を知ってるが故に一進一退の攻防が続く。
「オラァ!!」
俺は二本の剣を上段から降り下ろす。シャルロットはそれを大剣の腹で防ごうとするが、一瞬でそれを止めて後へ下がる。空を切って好きが生まれた俺に横降りの大剣が迫るが、俺は両手の剣を捨て、バックスラスターを吹かせて避ける。
「危ないな~、今防いだら絶対にレールガン飛ばしてたでしょ?」
「ちっ、やっぱりバレたか……」
俺はライフルショーティーを抜きながら舌打ちする。シャルの言う通り、あの場面、もし防がれればレールガンを発射して大剣に皹でも入れようと思っていた。
「それやられたら修理が大変だからね、まぁもっとも、ここからは……」
そう言ってシャルは無言で剣を格納し、Vモードのバイザーと大型クローを展開させた。
「
「……当然だ」
俺は自然とライフルショーティーを握り直す。そうしなければ、恐らく一瞬で負ける。
「ハァ!!逝くよ!!」
「来い!!」
そう言って動いたシャルは接近しながら右腕のクローを振り上げる。当然反対の左腕は自身を守るシールドとして構えてる。
俺はライフルショーティーを乱射しつつ、スラスターを吹かせて後方へジグザグと避ける。大型シールドに阻まれ対したダメージは与えられないが、それでも時間稼ぎにはなる。
「もう!!弾幕煩い!!」
「へ!!近づかれたらこっちは終わりなんだ……!!」
俺が言いきる前にまさかクローをビットモードにして飛ばしてきやがった、しかも真正面で。流石に不意を突かれたせいで避けきれる訳がなく、俺はあえなく吹っ飛ばされ、SEは一気に800から600まで吹き飛んだ。
「油断大敵だよ、クロト兄」
「チィ!!そういや前もそれで吹っ飛ばされたっけな」
とりあえず立ち上がり、フィールドを確認する。
(シャルとの距離は約4メートル前後離れたスタジアム中央付近、俺が手放したフラガラッハはその後側に落ちてる。クローはシャルの両手の隣に浮遊してて、SEは俺が600、シャルは711……まだ何とかなる)
俺はガンバレルへとチェンジし、ビームサーベルを抜く。シャルも再び大剣を抜いて構える。
「逝け!!ガンバレル!!」
「行って!!ビット!!」
俺とシャルの遠隔兵器が宙を舞う。恐らくこの試合、このビットをすべて落とされた方に軍配が上がる。
「ぜりゃぁ!!」
「うぉぉぉぉ!!」
俺達は序盤同様に己の剣で切り合いに準じる。スピード早く切り抜ける俺のビームサーベルを、シャルは大剣の刃で切り結び、やがて再び鍔迫り合いへと移る。が、俺はそれを狙っていた。
「ぜりゃぁぁぁぁぁ!!」
俺は無理矢理ビームサーベルを気合いでシャルの剣へ押し込む。すると、やがて大剣は溶けるかのように斬れていくのだ。
「ッ!!」
これには驚いたシャルはすぐに剣を手放すが既に遅い。放した直後に大剣は真っ二つに両断され、そこで小さな熱爆発が起こった。当然俺にはダメージが入ったが、シャルは自らの得物を失ってしまった。
「クロト兄、もしかしなくても狙ってたよね?」
「?何をだ?」
「ビームで剣を切断すること、だからあの場面で押し込んできた」
正解だった。シャルの大剣は漫画の中にあったものの、いわばレプリカのようなものだ。当然ながら対ビームコーティングなんてものはこの世界にあるわけもなく、宇宙世紀のような赤熱化なんて、軍事利用が禁止されてるなかで作れるわけもない。俺はそこに漬け込んだ。
「まぁでも、クロト兄のガンバレルもそろそろ全部落ちる頃だし、こんなんじゃ勝つことにはならないよ?」
「――本当にそうなら、な」
シャルは怪訝な表情を浮かべるが、次の瞬間驚愕に変わった。
「……エネルギー総残量が……残り二桁!?どうして!!」
「そりゃそうだろ、なんせ」
すると、タイミングを見計らったようにシャルのクローが彼女の側に落ちてきた。そしてその装甲は、いやと言うほど凹んでいた。
「ガンバレルのレールガンを受け続けて、さらに落とすために、クロー攻撃じゃなくて態々ビーム使ってるんだからよ」
「!!」
そう、観客は見ていた。遠距離兵器のガンバレル四機が、シャルロットのクローを巧みに翻弄し、さらには持ち前のレールガンで度々攻撃を仕掛けていたのを。
「シャルロット、確かにお前の遠距離クロー捌きは卓越してる。瞬時にクローで攻撃するか、飛ばしてビットで攻撃するかすぐに決められるんだからよ」
けど、
「それでもシャルロット、お前は
そこにこそ付け狙う余地はあった。オートということはつまりAI操作、思考による手動操作ではなく自動操作だ。AIは倒すための最善の方法を取ろうとするが、結局のところ相手が規定のアルゴリズムに無い攻撃を仕掛けられた場合に、想定外の行動をしてしまう。今回のように。
「つまり、クロト兄の手のひらで踊らされたわけ……か」
「そういうことだ。それで、まだやるか?」
俺がそう聞くと、妹は無理といって降参した。
「じゃ、あとは頑張れよ。俺は辞退するけど」
「あ、ズルい!!」
オマケ二十四 働く本音
本音「えっと~ミサイルとかの弾薬と……SEのチャージ……それから」
虚「……本音が……働いてるですって?」
本音「ん?どうかしたのお姉ちゃん?」
虚「い、いえ、何でもない……」
生徒会質
楯無「あ、どうだった虚ちゃん、クロト君の様子は」
虚「え、ええ、まぁ充分な試合をしてますよ。……ところで本音がまともに整備の仕事をしてるんですが……しかも熱心に……いったいクロトという少年とどういう……」
楯無「え?虚ちゃん、本音とクロト君が半年前から付き合ってること知らないの?」
虚「……ソレッテドウイウコトデスカ?」
布仏虚17歳、妹に先を越され半年以上の交際歴を持つことに、暫く心が折れたそうな……。