「んじゃ、うちのクラスの代表は織斑春秋に決定だ。全員異論はねぇな?」
翌日、ホームルームでの担任の言葉に春秋は困惑していた。
「えっと……オータム先生、俺の聞き間違いですかね?俺ですか?」
「おう、ちゃんと聞こえてるようで何よりだ」
スコールのニヤニヤとした言葉に春秋は絶望の表情を浮かべた。対して俺は想定通りとほくそえんでいた。
「おいクロト!!なんでお前降りるんだよ!!」
「理由は大きく二つ、一つは俺がフリーデンの正規の開発者だから。本社での仕事が度々来る可能性があるし、クラス代表になったら時間が足りなくなる。」
半分は事実だ。一応俺はフリーデンのテストパイロットであり、正規のメカニックとして会社の方で登録されている。流石にこちらに仕事が回ることは然程無いだろうが、それでも大変になる可能性は否めない。
「第二に、お前俺とシャルロットに負けただろ?つまりこのクラスの専用機持ちで現在最弱なんだ。お前はそれでいいのか?」
「うぐ……それは」
これまた事実のため彼はたじろぐ。今現状の序列で言えば俺←シャルロット←春秋だ。もし春秋が代表にならなければ恐らく追い付けないだろう。
「それに何より……」
「何より?」
「兄弟対決になったら色々と稼げるだろ?」
「「「「た、確かに!!」」」」
女子達はまるで水を得た魚のように騒ぎだした。この学園にとって俺たちは、自分でいうのも何だがそれなりにイケメンだ。その中で対決……しかも兄弟対決となればオッズが跳ね上がること間違いなしだ。
「俺は賭け馬か!!」
「何を言ってる。ここじゃ俺たち男はだいたいそんなもんだぞ?」
「「「「然り!!」」」」
女子達の合唱に春秋は崩れ落ちた。……なんか少しだけ可哀想だしあとでアメでもあげるか。
「そんじゃ、クラス代表は決まりだ!!」
「「「はい!!」」」
放課後、部活見学も特に面白そうなのは無く、仕方なく自室に戻ると何故かシャルロットがそこにいた。
「ん?どうしたシャル」
「クロト兄……少し着いてきて」
シャルがそう言うので、荷物をすぐに置いて一緒に向かうと、そこは何故か食堂で、周りにはどういうわけか人だかりが多い。
「……なんだこれ?」
「クロト兄はこっち」
と、襟を掴まれて引っ張られてきたのは、何故か厨房内で、さらに一夏と楯無さんの二人も居た。
「お、クロトも来たのか」
「あぁ、二人もここに連れてこられたのか?」
「ええ、私は簪ちゃん、一夏くんはマドカちゃんに連れてこられたわ。というか……」
楯無はチラリとキッチンを見る。そこには大量の肉、野菜、魚介等がズラリと並んでいて、中には高級食材のヒラマスや地鶏などもある。
「これだけ見たら、まぁ内容は分かるけど」
「同じく」
「あぁ……まぁ、確かにそうだな」
というかここに連れてこられた時点でそれ以外無いだろう。俺達がそう確信してると、そこに織斑先生が姿を現した。
「揃ってるようだな。まぁここに呼び出した時点で分かっているだろうが、三人にはこれから料理対決をしてもらう」
「「「やっぱりか」」」
俺、一夏、楯無さんの三人はガックリと項垂れていた。いや、別にそれ自体は特に個人的にはなにもないし、別段OKなのだが……。
「まさかギャラリー全員分とか言いませんよね?」
「安心しろ。審査員は私と真耶とオータム、そしてここの料理長と副料理長の五人だけだ」
「それならまぁ……」
俺は何とか納得すると、一夏は何を考えたのか野菜の一部を眺め始めた。
「織斑、何をやっている」
「いや、材料の鮮度を確認しようと思って……」
「うちの学校は一応元々全寮制のお嬢様学校だからな、食材は全て新鮮なものだけだ」
「さ、流石IS学園……食材にまでこだわってるのか……」
「クロト君、結構今さらよ」
楯無さんの突っ込みがあったが、とりあえず無視する。
「それでお題は?千冬姉」
「織斑先生……いや、今は一応プライベートの時間だから許そう。それでお題だが、食堂の新メニューに加えられる品、だそうだ」
「食堂の……」
「新メニュー……」
「これはまた大変なのを選んできたな……」
食堂の新メニュー、それはつまるところお手軽かつ短時間で作れるうえに、作りおきが楽な品ということになる。
「予め出汁等は用意されているから、そこは安心しろ。制限時間は一応二時間、それだけあれば五人分は作れるだろ?」
「当然!!」
「まぁ何とか……」
「即興か……少し厳しいか」
俺は少し頭を悩ませるが、まぁ何とかはなる。
「それでは……スタート!!」
次の瞬間、俺たちはそれぞれ食材のところまで移動した。
簪視点
「始まったね」
私がそう言うと、シャルとマドカは微笑んだあと睨みあった。というのも事は数十分前に遡る――
――数十分前
「「「一番料理が美味しいのは私のお兄ちゃん(お姉ちゃん)だ!!」」」
もう放課後のお約束となった女子会ならぬ妹会、そこで私たちは自分の兄(姉)の料理の凄さを語っていた。そんなときだった。
「だったら~、三人で料理対決したらどうかな~」
なんと本音がそんなことを言ってきたのだ。それに対して私たちは
「「「それだ!!」」」
餌を見つけた魚のように食い付いた。そしてそこからは早かった。マドカがお姉さん……織斑先生に頼み込んだ結果、なんとすぐに了承をもらい、シェフの方々も、新作に息詰まっていたらしくすぐに了承してもらえた。
――現在
「一兄さんの和食が一番!!」
「クロト兄のフレンチだ!!」
「お姉ちゃんの料理が最強……譲らない」
私達女の戦い(妹?)はメラメラと火花を散らしていた。と、その時
「「「完成!!」」」
なんと三人揃って完成した。しかもまだ一時間と半分しか経ってないのに
「いったい、どんなメニューかな……」
私たちはすぐに観客の最前列へと向かった。
クロト視点
「では、最初は一夏だ」
「おう!!俺の料理はこれだ!!」
そういって一夏がテーブルに置いたのは、
「これは……」
「お好み焼き……か?」
そう、なんと熱々のステーキプレートに乗せられたお好み焼きだった。しかも生地の上には特大の目玉焼きが置かれている。つまりは
「チーズ入り広島風お好み焼きだ」
「なるほど……そう言うので来たか」
お好み焼きも和食の一つ。男性は勿論、最近では女子でもよく食べる人がいるほどの人気メニュー。しかも日本のお祭りなどで見ないことは絶対ないとまで言えるソウルフードでもある。
「ふむ、目玉焼きは半熟、生地ももっちりとしていてふわふわしてる……これは山芋か?」
「はい。すりおろした山芋とジャガイモ、そして揚げ玉を入れることでふんわりもっちりした感触にしました」
一夏のその言葉に料理長と副料理長は驚きを隠せない。お好み焼きに山芋と揚げ玉はよく聞くが、まさかジャガイモを入れるとは思ってなかったのだろう。
「焼きそばもよく縮れてる。充分お店に出してもおかしくないレベルだ」
「あ、ありがとうございます」
「次は楯無」
呼ばれた楯無さんが審査員の前に出て品を出す。俺もそれを見た途端に仰天した。というのも
「ほう、あんかけ焼きそばか」
「これまた意外なメニューだな……」
あんかけ焼きそば……中華料理の一つで揚げた麺に五目あんかけをかけた定番のメニュー。中には五目だけでなく剥き海老などの海鮮メニューを使うものもある、アレンジに事欠かないメニューの一つだ。
「麺は結構固いが食べ安く細かく揚げてやがる……」
「でもあんかけと絡まって凄い美味しいです」
スコールと真耶先生はそれぞれ高評価をもらい、料理長達もコクりと頷きあっている。
「あんかけはシーフードを入れない定番の五目……」
「それだけにシンプル、故に美味しいです」
「ありがとうございます」
さて、最後は俺なのだが、ここまで二回連続で麺を使った料理な訳なのだが、
「さて、最後はクロト」
「はいよ……」
俺も料理を乗せた皿を持って審査員の前に置く。そしてそれを見た料理長は目を見開いた。というのも、
「……スープパスタですか」
そう、俺も麺料理なのだ。しかもパスタの中でもマカロニを使ったトマトベースのスープパスタ。
「トマトスープのマカロニパスタです」
その言葉に審査員が全員が驚き、それぞれ口に入れる。
「このスープのベースはトマトとコンソメかい?」
「はい。さらに具材には賽の目にしたニンジンと、細かく刻んだパセリ、一口大に切ったベーコンを入れました」
「なるほど、さっきの二つが重たいメニューだった分、あっさりとしたスープメニューだから喉にすぐ通るな」
ありがとうございます、と頭を下げると、俺はとりあえず他の二人に並ぶ。
「さて審査だが……まさかここまで高レベルの品が出るとは思ってなかったな」
料理長の男性が溜まらずそう言ったのを聞いて俺達はそれぞれ肩を下ろす。そういって貰える分、どこかうれしい気分だ。
「それではまず織斑先生から、どの料理が一番か答えて貰おう」
「……少し癪だが、私は楯無の品だ」
その言葉に一夏が少しだけ驚いた。
「意外ですね、織斑先生なら一夏くんのを言うと思ってましたが?」
「まぁそう言いたいのだが、味はともかく食堂の新メニューとなるといささか重たいメニューだと考えた結果だ。逆にクロトのは軽すぎる、そう思うと楯無のが丁度良いと思えた」
詰まる所、女子生徒たちの食の量を考えた結果ということなのだろう。まぁそう言われれば納得はする。
「次は山田先生ですね」
「そうですね~、私はクロト君の品がよかったと思いますよ」
それを聞いた俺は少しだけ頬が緩む。経緯はどうあれ、認めて貰えるのはうれしいもんだ。
「山田先生、その理由を」
「そうですね、敢えて挙げるとするなら味ですかね。織斑君も更識さんのも美味しかったですが、二人とも味付けが少し濃かったので、女の子には……その」
これまた女子の食に関するといった感じなのだろう。まぁ女子の場合はダイエットに夢中になるからな。
「それじゃあオータム先生は?」
「んー、アタシは一夏だな」
なんとここでオータムが一夏に入れて、それぞれ一票入った事になる。
「オータムはあれか?量ですか?」
「そうだな。当然それもあるが、お好み焼きは量がありながらその実コストも安い、多分一皿の金額だけなら他の二つに比べてリーズナブルなはずだ」
オータムの言い分はつまり、料理のコストゆえだろう。幾らIS学園と言えど経費は有限、そう考えた故だろう。
「さて、最後は私と副料理長だが……副料理長はどう思ったかい?」
「……私はあんかけ焼きそばですね」
副料理長は迷わずにそう言った。
「メニューで見て、和食と洋食はそれなりにありますが、中華料理はそこまでバリエーションが少ないですから」
それについては何となくわかった。昨日も見たが、全体的にメニューが和食か洋食に片寄っている。中華料理は麻婆系とエビチリぐらいしかなかった。
「さて、最後は料理長ですけど……」
「ふむ……私はそうだな……」
料理長は少し頤に手を当てると考え始め、そして
「うん、私もあんかけ焼きそばだね」
この瞬間、俺と一夏を抜いて楯無さんが優勝となった。
「量もそれなりに充実してるし、何より栄養もしっかり採れる。何より美味しい」
料理長のその言葉に俺は少しだけ悔しくなる。まぁ一票入ったし、次は負けないと個人的に闘志を燃やすことにした。
オマケ二十五 勝敗
簪「私の勝ちだよ」
マドカ「グヌヌ……グヌヌ」
シャル「アハハ……アハハハハ」
簪「それじゃ、今日は二人の奢りね」
更識簪、勝負に勝ったうえに、マドカとシャルのお金でそれなりに高い天ぷら御膳(¥800)とおはぎ(¥300)を堪能するのだった。