「一夏…………」
箒はまるで睨み付けるように此方を向いている。
「…………なぜ、私が彼女だと思う」
「…………俺は……いや、俺達三人はあの日も一緒だったからだ」
俺が真剣にそういうと、箒は探るような表情だったが、仕方ないというように肩を下ろした。
「…………案外、誰にもバレてないと思ってたんだけどね」
そういうと箒……いや、南沢泉理は自分の右手を出して、彼女の分身足る剣を召喚した。
鮮やかな桃色で、指を思わせる五本の刃、それを腕に嵌めている彼女は諦めたような表情で、その正体を現した。
流れるような漆黒のポニーテールは、剣と同じ桃色のツインテールへと代わり、身長も頭一つ下がって、さらに目も鋭さはあるが垂れ目気味に変わっていて、あの頃の彼女を引き伸ばした姿の少女が姿を現した。
「……この姿では久しぶりね、一夏。いったい何時から気付いていたの?」
「……そうだな、泉理。何時からと言われれば、あの窓からの飛び降りの時から、だな」
俺の知ってる限り、箒は真っ直ぐ過ぎてああいった突拍子のない行動を嫌う質があった。それは成長しても変わらないであろう、篠ノ之箒の本質だ。
「そっか……そんなに早くから気づいてたんだね」
「…………なぁ泉理、お前が箒に姿を変えてるのは……つまり」
「…………うん、一夏の思ってる通りで間違いないよ。最後に見たのは……私だったから」
「……!!……そっか」
俺は力なく体をへたらせ、悔しく笑う。それが意味するのは、悲しくも、仕方のない現実だったのだから。
「…………なぁ、箒の……
「…………笑ってたよ、何時も私達を支えてくれていた時みたいに……」
「…………そっか」
俺はそれだけ知ると、幼い頃の彼女を思いだし、涙を浮かべる。
「…………やっぱり、お前も能力者だったんだな」
「「!!」」
突然聞こえた声に、俺達二人はすぐにそれぞれの剣を構える。あり得ない、監視カメラは無かったけどここには俺と泉理の二人が着けた
そして姿を現したのは、意外な人物であった。しかしそいつも手には俺達と同じ剣を……端末を……
「クロト!?お前も……」
「その通りだよ一夏、そして……初めましてか久しぶりかは分からないが、君が南沢泉理で良いんだよな?」
「!!一夏、こいつ凄い危険かもしれない」
泉理が恐れるように下がる。正直俺も、こいつと戦って勝てるかと聞かれれば多分無理だと思う。それぐらいに強力な雰囲気を放っていた。
「クロト……泉理はお前とは会ったことは無いはずだ、なぜ知ってる?」
「……そうだな、少しだけ昔話をしてやろう。
昔、ある少年と少女が居ました。二人は知り合いどころか、顔も会わせたことの無い他人同士、しかし二人はある場所で出会ったのです。
当時、少年は友人だったもう一人の少女と一緒に病院を探索していました。薄暗く、灯りもない病院を二人は進み、そして見てしまったのです。拘束服を着させられ、人体実験されているその少女を。
少年たちは声が出なかった。そのこの世とはあり得ない光景に恐怖し、そして彼女から向けられた視線に怯え、二人は逃げ出しました。
一方彼女は、両親のカルト宗教に呑まれたせいで受けたこの地獄から逃げ出したいと願い続け、彼に気づいたとき言いました……助けて、と。しかしそれによって彼女の事に怯えてしまった彼は逃げてしまい、少女は一人で地獄を耐えていきました。
そして数週間後、二人にある転機が訪れました。突如として起こった謎の地震が、二人の住んでいた街を壊滅させたのです。
そして少年と少女は新たな力を手に入れました。少年はもう一人の少女……いえ、妄想の友人だった少女を現実へと呼び出し、少女は研究者から逃れるために他人の姿へと変わる能力を得ました。
そして二人は孤児として一緒に暮らし始め、正しく兄弟のように生活しましたとさ」
クロトの昔話を聞いていた俺達は戦慄を覚えた。その話の彼女は……ここにいる南沢泉理の事で間違いないだろうからだ。
だが、クロトの語りは終わらなかった。寧ろここからが本番とでも言いたいような目をしていた。
「しかしこの昔話には裏話がありました。
少年と少女が初めて出会ったその日、彼は一本の毛髪を落としてしまいました。
研究者は不審がりました。表だっては病院とはいえ研究する場所、しかも披検体である少女のいる場所の近くは無菌室のような場所、髪の毛など落ちてるはずもない。
そこで研究者はその髪の毛を調べてみました。するとどうでしょう、その髪の毛の主はその病院で『イマジナリーフレンド』という精神病を患う少年の者であり、何より、研究者が所属していた部署で『ギガロマニアックス』の適正が最大値に近いと、マークしていた人間だったのですから
そこで研究者は思い付きました。自分の手にはマークしていた少年の遺伝子細胞の詰まった髪の毛と、ギガロマニアックスの研究のための披検体である少女……その二人の細胞を使って、最高の『ギガロマニアックス』を産み出せるのでは、と」
そこでクロトは言葉をとめた。だが、俺達はその今までの台詞で全てを悟ってしまったのだ。
泉理も同じくなのか、かなり顔が青ざめていて見ただけでも大変なことになっている。
「まさか……クロトお前は……」
「クロト……確かにそれはこの世界での名前だ。けど、実際の名前は違う……」
「俺の本当の名前は『