「シャル…………なのか?」
目の前の白亜の機体…………『ガンダムベルフェゴール』を纏った妹を見て、俺は驚きの声をあげた。それはシャルの姿もあったと思うけど、それ以上にその機体の姿が一番だったからだ。
ガンダムベルフェゴール…………『ガンダムX』の作品において、『Gジェネ』と呼ばれるゲームシリーズから初登場し、外伝にて猛威を振るったMSだ。
その能力は簡潔に言えば『ニュータイプを殺すためのニュータイプ専用機』、矛盾するようなコンセプトだが、それこそがこの機体の特徴だ。
作品内でニュータイプを異端視する勢力が、毒には毒を以て制するという意味で建造され、後の『ガンダムヴァサーゴ』、『ガンダムアシュタロン』の礎となったもの。
しかしこの世界に『ガンダム』という概念は存在しない。前に『ガンダム』についてネットで調べてみたが、それらしき情報は一切なかった。
(……こいつの情報を知ってる奴がいるのか?俺以外の『転生者』が?)
と、呆然と考えていた俺に、シャルの操るベルフェゴールが一気に接近してくる。
「く!!」
慌ててビームサーベルを抜き、迫りくるストライククローを弾き返す。アシュタロンの元になった機体なだけに、かなりのパワーで降られるそれは、正しく悪魔の名を関するに相応しいものだった。
実の妹を相手に銃口を向けるわけにもいかず、かといって下手に受け身に回れば此方が絶対的に不利だ。
「くそ!!シャル!!目を覚ませ!!」
俺が叫ぶ言葉に、シャルは一切反応しようとせず、その目は虚ろに何も見つめていなかった。
「……………………」
そして両手を構えると、再びクローを、今度は連続でぶつけてくる。パワーと殲滅を主体の機体に、強襲型のルナークでは相性が悪く、鍔迫り合いどころか弾くのが精一杯だった。
「シャル!!目を覚ませって!!俺はお前と戦いたくなんか!!」
再び声を掛けるが、やはり一向になんの反応もない。まるで洗脳されたかのよう――
(待てよ?洗脳…………確かベルフェゴールを操るためには…………)
と、一瞬見せた隙をシャルは見逃すことなく、今まで閉じていたクローを開いて、此方の腕を掴みこんだ。
「しまっ!!」
慌てて外そうともがくが、そのパワーに外れるわけもなく、ギリギリと嫌な音がなるだけだった。
「シャル!!気づけシャル!!」
目の前に近づいて大声をあげるも、シャルは一考に反応を示さない。それどころか胸部のリアクターを展開すらしてきて、ソニック・スマッシュ砲の銃口が目の前に肉薄していた。
「くそ!!シャル!!シャル!!俺だ!!クロトだ!!」
こんな砲撃を喰らってしまえば、いくらISといえど絶対防御なんて合ってないに等しい。慌てて叫ぶが、シャルの表情は一考に変わることがない。それどころか
「……………………スル」
「は?」
「敵ノ殲滅ヲ最優先トスル。敵ノ殲滅ヲ最優先トスル。敵ノ殲滅ヲ…………」
小さい声だが、ハッキリと聞こえたそれは、どう捉えてもベルフェゴールのリミッターが解除されてる事を示すに十分だった。
(くそ、このままじゃシャルを…………大事な妹を……)
その時だった。シャルの冑に妙なものが付いてるのに気づいたのは。
(これは……何かの……傷?)
その瞬間だった。俺は漸くベルフェゴールの唯一無二とも言える弱点に気づいたのは。
俺はブレストバルカンとショルダーバルカンを一斉に吹かし、銃口と冑に向けて一斉に発射した。
「…………!!」
まさかの毎に驚いたのか、シャルのベルフェゴールの腕が自然と剥がれ、少しずつ後退していく。そして
パキン!!
冑が突然割れて、それは崩れるように地面に落ちた。
「――敵ノ殲滅ヲ…………あれ?」
途端、シャルの虚ろだった目が光を取り戻し、まるで憑き物が落ちたようにいつものシャルに戻る。
「やっぱり…………その冑が弱点だった、か」
俺は痛む体を支えながら、そう呟いた。
ベルフェゴールはニュータイプ専用機、だが、開発した勢力はニュータイプを異端視し、尚且つ危険視もしていた。
それ故に、ベルフェゴールはニュータイプを乗せなくてもニュータイプと同じような働きを出来るシステム、所謂『Nシステム』を開発したのだ。
その名を関する通り、それは人間を洗脳し、擬似的なニュータイプとしての能力を使えるようにした代物だが、それ故に不完全な代物で、作中では使用者の細胞が死滅していくとい障害を起こしてしまったほど、強力且つ、ベルフェゴールを最凶最悪と言わしめるに相応しいそれになったのだ。
そして今回、Nシステムの媒介となった冑も例外ではあらず、破壊されれば洗脳も解けてニュータイプとしての力を使えなくなるというわけだった。
「私は……ク、クロト兄!!」
ISの状態のまま、シャルは慌てて此方の方に寄ってくる。
「大丈夫!!クロト兄!!」
「あ、あぁ、何とかな。シャルこそ、平気か?」
「もう!!わ、私の心配より自分の事を大事にしてよ!!」
シャルは憤慨したようにクローを肩に乗せ、腕の状態で抱き締める。
「ごめん……私……お兄ちゃんを…………」
今にも泣きそうな顔のシャルを見て、俺は左手だけを部分解除し、彼女の頭をそっと撫でる。
「バァカ。妹が兄貴に迷惑かけるのは当然なんだよ、ヘッポコシャル」
「ヘ、ヘッポコ!?」
「お前はいつも気負いすぎなんだよ。そんな調子だから、今回みたいにちょっとしたことで大変なことに繋がるんだよ」
「ひ、酷いよ、クロトn」
シャルが何かを言いたげだったが、それを胸に抱き締めることで言わせないようにする。
「も少し、俺のことも頼れよ。俺たちは大事な兄妹なんだからさ。
その言葉を聞いた途端、シャルは思いっきり俺の胸に顔を埋め、この空間いっぱいに響く声で鳴き始めるのだった。
(シャルにこんなことをしたやつらを……俺は絶対に許さない……!!)
俺は密かにそう誓い、今は彼女の事を大事に思うのだった。